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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
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56<聖なる星々の国~冒険者ギルドの立ち位置~

「これで登録完了です

ようこそ冒険者ギルドへ、アッシュさん」


冒険者ギルド聖国支部の受付嬢はまるでヒマワリの花のように暖かく

明るい笑顔で俺の登録手続きを担当してくれた

アシュランスタイルではなく前髪を下ろし、無精髭を生やして武具のひとつも身に付けていないゆるっとした服装をしている今の俺はアシュランという名前ではなくアッシュという名前で新たにギルドカードを発行してもらった

人当たりの良い受付嬢の名鑑はサーラ


「サーラさん、分かる範囲で教えてほしいんだが

魔王国と名前を変えた国について」


「はい」


「その国に冒険者の知り合いが居るんだが

今どうしてるか分かるか?」


「申し訳ありません、分かりかねます」


「活動しているかどうかだけでもいいんだ」


「その確認作業自体ができないんです

現在魔国とその属国になることを表明した国は国境が封鎖されてますから」


「……そうか」


領民やレストランと神殿の関係者……

フリッツたちが今どうしているのか知りたかった

特にフリッツはアヴァロッティでクーデターを起こす話をしていたから

十分な軍資金は既に渡し終えていたが

もしかしたら火に油を注いだ結果になっているかもしれない

王都自体が転覆してしまったので場合によっては領内だけの反乱では収まらないだろう、国一つを平定するには将を抑えるだけでは足りない

アヴァロッティで蜂起があっても王都から魔王勢力が派兵されてしまえば反乱軍などひと捻りで鎮圧されてしまう

そうなる前に他の国に亡命でもしてくれれば

生き残れる可能性もありそうなものだが


思いつめた俺の表情を見ていたサーラさんが視線だけで周囲を窺い

声を潜めて話しかけてきた


「確定的な情報ではないので気を落とさずに聞いてくださいね」


悲しそうな表情である程度は察したが、耳をそばだてるため受付カウンターにやや身を乗り出す。同じように顔を寄せてきたサーラさんが

周囲に聞こえないようこっそりと耳打ちしてくれた


「魔王国建国の声明が世界中に発信される数日前まで

殆どの国のギルドから定期報告は届いていたんです

アッシュさんのお知り合いがいらっしゃるというギルド支部はどこですか?

最後に受けた報告内容の大雑把な情報ぐらいならお伝え出来ると思います」


「魔国の領地だったセインツヴァイト公爵領とアヴァロッティ伯爵領だ」


「まぁ……アッシュさんが思いつめる理由、よく分かります

お調べしますので、少し待っていて下さい

ただ……希望は持たないで下さいね、どこの支部も酷い状況だったようなので」


席を立ったサーラさんの後姿を見送り、その背中が

奥の部屋に入り見えなくなった所で背後を振り返るとギルドホール内を見渡す

聖国の昼間のギルドホールは一見して平和な雰囲気

魔王出現の影響で世界規模の争いが各地で頻発しているが

この国の冒険者は普段通りにギルドの依頼手続きをしており

ホールの隅では新人がベテランに色々と教えてもらっている様子が窺える


ただ、ギルドを出入りしている冒険者の数が異様に少ない


張り出されている依頼もたった数枚で閑古鳥が鳴いていると思えるほどだ

ギルドで新たに『アッシュ』として新規登録するまで数日間があったが、その数日を使ってクラウスやルルムスと共にこの国を見て回った

魔国から離れたこの国は情報こそ物騒なもの続きだが

国民の暮らしは魔王の影響など微塵も感じさせず平和そのもの

多少の変化があるとすれば隣国から少しずつ難民が入り始めているぐらいか

それもこれから日を追う毎にどんどん増えていくだろう


(難民対策も今の内にしておかないと聖国も

魔国が齎す混乱に巻き込まれるんだろうな)


なにしろ『この国に聖女が匿われている』という情報は世界共通認識だ

魔王を戴く国が聖女の居る国を放置している筈がない、必ず侵略される

早急に軍備を整えて魔国の侵略を警戒しなければならない筈だが、この国の上部会にそういった動きは全く見受けられないとルルムスが言っていた


(いわ)く、

この国最大の勢力である神殿派閥が

聖女のもつ『破邪』の力が国に齎した恩恵を過信しており

魔国軍が攻めて来たとしても聖なる力に守られているこの国には一切被害は及ばない、という頭がお花畑な主張をしているらしい

ルルムスが、ギルドと協力し軍備と難民の受け入れ態勢を今の内に整えるべきだと何度となく進言しているが聖女ブランドと聖女ステイタスに取りつかれた重鎮どもがどこまで動いてくれる事やら。その上真の聖女探しについて国の上部会が非協力的だというのだからルルムスの機嫌だって悪くもなる


例のステラ、イプシロネという女生徒は

ステラとしての自分の地位と権限に固執しており

真の聖女に関する捜索に非協力的であるばかりか

妨害工作までし始めたらしい、全く以て救いようのない愚か者だ

真の聖女が見つかったら導師よりも早く確保しろというお達しまで出ている


神眼を持つルルムスには筒抜けの情報だが。


国の重鎮の一人である父親が娘の事を大変に溺愛しており

導師であるルルムスにまで「娘のタウィスにならないか」と

とんでもない提案という名の要求……という名の命令をしてきたらしい


あんな命令をされたというのにルルムスの笑顔は鉄壁だった

穏やかに躱し、ふわりと受け流し、丁寧に優しくお断りを入れた

口の軽すぎる使用人が、会議に同席できない俺とクラウスに時折成りきった様に実演しながら一部始終を教えてくれているので

上部会の情報は俺たちにも筒抜けだ

例の父親と娘のステラはさっさと更迭した方がいい、と

とっくの前に提案したが彼らは権力者であり

影響力も大きいので簡単にはいかないらしい

ルルムスが神眼を用いて秘密裏に事を進めているので

俺たちはヘタに関わらぬようにとだけ言われている


聖国は魔国に対しての危機感が全くなく、頼りにならない


その見解はギルド勢力も同じであったらしく

冒険者に対して早々に布告を出していた

掲示板にでかでかと張られた紙に書かれている内容は

簡単に言うと以下の通り


『 全ての冒険者に告ぐ、旅の準備を怠るな 』


魔国の位置から一番遠い聖国国境付近に大規模な専用宿場も設営されており冒険者の殆どがそこへ移住し始めている

家族がいる者は家族全員連れてそこへ移り住めるそうだ

田崎の知識でいう所の、災害時における仮設住居みたいなものか

冒険者の殆どが国境付近に集まりつつある

だから聖国の中心部にあるギルドにも関わらず閑古鳥が鳴いている


冒険者が出国した後の建物はそのまま難民受け入れキャンプにもなるだろう

聖国にとっては一切の出費無しで難民を放り込めるし悪い事ばかりではないが、国としては冒険者が居なくなることで生じる戦力低下の方が致命的だ

聖女一辺倒だった聖国の軍事力なんてあってないようなものだからな


布告を受けた冒険者は少しでも身軽になるべく持ち物を売り払い

市では田崎世界でいう所のフリーマーケットが連日開かれている

つまり、オブラートに包まれまくったギルドの言いたい事は


『 有事の際この国は頼りにならねーから

 各自全力で国を脱出して生き延びろ 』


って事だ。

こういう布告を大っぴらに出すという事は

これまでの経緯で魔王属国となった国々での

ギルド関係者の扱いが絶望的であったという証だろう

それほどまでに侵略に対するギルド側の対応が徹底され始めている

相応の数とデータがなければこうはならない筈だ


数とデータ


それほどまでにギルド側が被った被害が甚大だったという事の証明

一体どれだけの冒険者が国に重用されて命を落としたのだろうか

冒険者に出されている布告を知らない一般市民の、特に貧困層は

ここぞとばかりにフリマに出店されている安い品を買い漁っており

身の回りの生活環境の充実を図っている

冒険者の持ち物でも案外丈夫で長持ちする家具や道具は多いからな


水面下ではあるが、馬車や馬車を引く導技使いの人員確保も行われており

難民の数に比例して冒険者が少しずつではあるが国を出て行き始めていた

国から正式に戦力として協力要請が下る前に

ギルド側は出来る限り人員を逃がしておこうという腹積もりなのだろう


ギルドは既に聖国を信用していないわけだが

頭がお花畑の上部会がその事実にいつ気が付くんだろうな


ここまで来ているとギルドとの共闘も難しい

エスティール聖国は決して広い国ではないが、国民はそれなりに多い

もし本当に魔国が侵略の手を伸ばして来たらこの国は終わる

それこそ聖女の力とやらが一国を守れるほど絶大でなければ不可能な防衛だ


「お待たせしました」


セーラさんが戻って来た

ホールに向けていた顔を受付側へと戻し、テーブルに両肘を突く

席に着き居住まいを正したセーラさんは静かに呼吸を整えて話し始めた


「魔国領というだけあって、内容は惨いものばかりでした

それでもお聞きになりますか?」


「ああ、聞きたい」


「分かりました……

先ず、セインツヴァイト領ですが

おそらくギルド支部は壊滅したものと思われます」


知ってる、実際にこの目で見たからな


「避難者は」


「隣接する支部で赤煙が上がった事だけは確認されたそうですが

現時点で避難者の存在は確認されておりません、ギルド職員を含め

冒険者登録を行っている全員の安否が分からない状態です」


「他国で活動した形跡すらないのか」


「はい、あれば直ぐにでも他支部に情報が伝わる筈です

ギルド上層部も魔国と属国に居たギルド関係者に関する

情報収集には相当力を入れているので」


「アヴァロッティ伯爵領については」


「その領地は少しですが情報がありますよ

魔国建国の声明が出された直後ですが領内で反乱が起ったようです

アヴァロッティ支部のギルド長が反乱軍に加担したようで

すぐに領内を制圧したのですが、その後魔王軍が侵攻してきて

大規模な戦闘が行われたまでは分かったのですが

それ以降アヴァロッティ支部からは連絡が途絶えています」


そうか、やはりクーデターは起こったのか

そしておそらくだがベスカトーレ卿が最短迅速に反乱を成功させたのだろう

となればアヴァロッティ伯爵とその関係者はフリッツたちに捕らえられたはずだ

その後で俺の弟妹が差し向けた魔王軍と戦闘状態になった……という流れならばアヴァロッティ領にあった軍事力はほぼ消耗せずに残っていた筈

セインツヴァイト領の町は補給すらできない酷い有様だったから

魔王側が派兵したとしてもその行程で莫大な兵糧を確保しなければならない

となれば魔王軍の数はさほど多くない


クーデター直後と見越して派遣する兵の数を最小限にしていたなら

フリッツたちが最初の侵攻を防ぎきる可能性は高い

魔王国が建国されてからまだひと月しか経ってない、もしかしたら

フリッツたちはまだ生きているかも知れない


(だけど……それが分かった所でどうなるって言うんだ)


ルルムスに話したとしてなんの意味がある

戦争が起これば人ひとりの力ではどうすることもできない

その場に行って双方争いを止めろと叫んだ所で止まる筈がない


「アッシュさん、気を落とさないで下さい」


俯き黙り込んだ俺の肩に手が置かれ、耳元で囁かれる


「掲示板の布告はご覧になりましたよね?

この町の冒険者の半数が既に国境に向けて移動を始めています

アッシュさんもご家族を連れて移動を開始してください

我々ギルド職員は全ての冒険者を支えるべく行動しています

この国の方々には気づかれないように動いてくださいね」


「町の人たちは、助けられないのか」


「彼らはエスティール聖国の国民です

我々ギルドが守るべき冒険者ではありませんから、それに……」


一層辛そうな表情を見せたセーラさんは

今にも涙を零しそうな様子で顔を上げると真っ直ぐに俺を見据える


「国は冒険者を使い捨ての兵隊にしか見ていません

いつだって守るべきは自国民、自国兵

冒険者は肉壁としてしか扱われないんです

母国で暮らしてた私の家族もその所為で……!」


堪え切れなかったんだろう、ぽろぽろと涙を零し始めた彼女の

項垂れた頭を優しく撫でる


「……辛かったんだな、セーラさん

それでこうして一人でも多くの冒険者に避難するよう促してるのか」


「もう、私みたいに悲しい思いをする人を増やしたくないですから」


「あんたもちゃんと逃げなきゃ駄目だぞ

思い出して弔ってやれるのは、家族を愛してるあんただけなんだからな」


「はい」


「冒険者になったばかりの俺に

こんなにも貴重な情報を教えてくれて、ありがとな」


「どうしても放っておけなかったんです、アッシュさんの思いつめた顔が家族の身を案じていた私と同じに見えてしまって」


「お蔭で少し心の整理が付いたよ

俺も国境へ向かう、またどこかで会おう」


「はい、アッシュさんもお元気で」


席を立ち出口に向かいつつ互いに手を振って別れる

別人としてギルド登録し直してあわよくばギルド経由でセインツヴァイト周辺の情報を手に入れようと思ったがそれ以上に大収穫だった

ギルド勢力の立ち位置を知れたのは大きい

現状はこれ以上被害を出さない為に撤退という方法を取っているが

徹底的に国を捨てるという方針が取られている状況を鑑みるに

『冒険者をひと所に集める』という意図もあるのかもしれない

ギルドが信用できるのは同じギルド職員と冒険者だけだ

世界中に散らばっているので

”人数だけ”で言えば世界最大級の勢力だからな


最終的にどこへ集まろうとしているのか気になる所だが

それもまだ推測の域を出ない

こればかりはギルド上層部の会合にでも忍び込まない限り断定はできないな

今後巡る他の国でもギルドの動きには注意した方がいいだろう


それにしても、どうにも拭いきれない疑問がある。


これまで国に属してきていた筈のギルドが何故

これほどまでに思い切った方針を打ち出したのだろう

いくら国にコマとして利用される現状に辟易したとはいえ

場合によっては国家反逆罪に問われかねない思い切った対策だ

それを推していかなければならない、何か大きな切っ掛けでもあったのだろうか……と、そこまで考えた所でふと気が付いた



「……ダンジョン、か?」



”冒険者と一部の民草のみが利用できる遺跡”が世界各国に出現しているという情報を思い出す

国が介入できない、冒険者だけが利用できる摩訶不思議な遺跡

そこから出土する金銀財宝


「……」


い、いやいやいや!そんな、まさかな?まさかだよな?

……ないない!ナイナイ 絶 対 な い !

俺の脳裏に一瞬過ぎった怖ろしい未来予想図に対して必死に頭を振って否定する


近い将来ダンジョンを中心にした冒険者だけの都市が出来上がったり

それがギルド運営の国になっちゃったりするんじゃないか、なんて

今正にギルドの、冒険者の在り方に革命が起こっている……なんて


いやまさかそんな


……ないよな?

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