表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
55/145

55<聖なる星々の国~地下独房で迎えた寒い朝~

ラピス嬢ちゃんは「にぼし」を殊の外気に入ったらしい


体が今一番必要な栄養素を知っているのだろう

持っていた干し魚の保存方法を伝えて酒以外の全てを渡し

部屋まで送り届け、扉の前でクラウスに宛がわれた部屋の場所を聞くと返してもらった外套を羽織ってお休みの挨拶を済ませてから目的の部屋へと向かう


例の女生徒の嫌がらせの一貫だろう

プラムの部屋は神殿の離れにある石造りの塔の上層階に位置していた

地上八階建てに相当する高さの円柱の塔

まるで古代文明に出てくる監視塔だ


タウィスの居室と対極の位置にあり、聖女の私室からも非常に遠い距離

作りは随分と真新しいわりに簡素で粗雑

部屋は六・七・八階に一部屋ずつで三部屋

五階から一階までは上るためだけの

設備の乏しい石造りの、雨風が吹き込む寒い螺旋階段

非常に手狭で水回りがない

水を汲むにも用を足すにも本館に向かわねばならない


ステラによるプラムへの嫌がらせの為だけに建てられた住居


この解釈は間違いないだろう

尋常でない移動距離、これを毎日往復させてるワケか

金持ちや権力者ってのは気に入らない人間の為にここまで出来るものなのか

吐き気を催すほどの嫌悪感を覚える

ステラもその親も、現状の劣悪さを許しているこの国も腐ってる


プラムの部屋のある通路から階段にさしかかり冷たい靴音を立てながら降りていると、階下から何かが一直線に近づいてくる気配を捕らえ

石壁に開けられた吹きさらしの窓に向かって反射的に身構えるが

広い庭が一望できる地上の暗がりから現れたのは見知った姿だった

風を纏いながら吹きさらしの窓を潜って俺の目の前に降り立つ

当たり前みたいに空中を飛ばれても今更驚かないが

なんでコイツがここに?


「クラウス」


「あしゅ、ねむい」


「開口一番にそれか……おーおー綺麗なべべ着てんなぁ」


クラウスは一見して分かるほど高価な服に身を包んでいた

夜着なのだろう装飾は見当たらなかったが

螺旋階段に差し込む僅かな星明りすらも反射している布地の様子から

この国での一級品であろう事が窺える


価値も高そうだな、売ればいくらになるだろうか……なんて

金勘定をし始めるのは筋金入りの悪党アシュランの所為だな

俺がやった服は……捨てられたか、嗚呼勿体ない


「ふく、ほかんしてる」


「でかした!」


片手はクラウスに握られてしまったので開いた方の手でガッツポーズする

ルルムスも見た目教皇みたいに清廉とした服を誂えてもらえてたし

クラウスもタウィスの権限が有効な内に

いくつか服を見繕ってもらってもいいかもしれない

何しろ竜族だしな!格好良くないと勿体ないだろう色々と!

俺では庶民感覚のファッションセンスしかないからこの際だ、大いに利用させてもらおう!クラウスがダサいと言われない為にも!!

服の無事が分かりテンションも上がる

結局コーデふたつとも俺の元に返ってくるワケか

これほど嬉しいことはない、そして出来る事なら完全武装を解いて早く着替えたい

この国なら武器携帯してなくてもいいんじゃないか?

聖女探す為に町を歩き回るだけなんだからラフな服装でもいいよな?

毎日髭を剃る面倒からも解放される

帰宅してそのままの姿でベッドダイヴできる

俺にとってはこの上ない最高の未来だ


「そうと決まれば俺は明日から早速オフモードだ

聖女探索にかこつけて服屋を回るぞ」


そして平和な服装をもっと増やしていくのだ

この半月俺は我慢し続けたからな

ご褒美にちょっとぐらい平和スタイルでいてもいいんじゃないかな?!


「いいとおもう」


「よっしゃ、お前はどうする

タウィスになったなら暫くは自由に動けなくなるだろ」


「だいじょぶ、やることはやる」


「……ちょっとだけ喋りが良くなったか?

自由時間が出来たら一緒に観光でもするか」


「うん」


「わざわざ俺を探してきてくれたんだろ

無事なようで安心した、部屋まで送ってやろうか」


「いらない、あしゅといっしょにねる」


「俺と?今日寝る場所は隊舎だぞ?

タウィスの部屋より寝心地よくないと思うぞ」


「きにしない」


「分かった、俺はまだやる事があるから

先に地下の隊舎に」


「いっしょにいる」


「……ふむ、年頃の近い見た目の奴がいた方がいいかもしれないな

じゃ、ついて来いよ」


クラウスと共に螺旋階段を下りてる最中窓の外に人影を見つけて

ナイスタイミングと思いながら足早に階下に降りて外へ出る

塔から出て来た所を目撃した人影は一瞬携帯していた剣に手を掛けたが

すぐに知り合いと分かり肩の力を抜いた


「アヴィオール」


「アシュランさん、何故ここに……プラムの塔から出てきましたよね?

一体なんの用事で」


「通りがかりにラピス嬢ちゃんと出くわしてな、送り届けたとこだ

お前に差し入れしたくて出て来たんだよ」


ツマミ関連は全部嬢ちゃんに渡してしまったので

残ってるのは酒だけだがまぁいいだろう、縄でぶら下げた瓶を手渡しておく


「寝酒にでもしてくれ」


「お心遣いありがとうございます

丁度見回りも終えた所なので隊舎までご一緒します」


「ん?隊舎に戻るのか

タウィスなら専用の部屋があるんじゃないのか?」


「一応警ら中の身ですから

部外者を独り歩きはさせられません……そちらの方は」


「連れのクラウスだ

今日のいざこざでタウィスに任命されちまった」


「君が例の……初めましてクラウス君、アヴィオール・セイフだ

イプシロネの部屋に呼ばれたと聞いたが何故ここに?」


ステラに呼ばれてたのかよ、しかも夜に。

何やらかそうとしてるのか丸解りで不快に表情が歪む

なるほどクラウスはそこから逃げてきたって事か


挨拶の為に差し出された手を握り返すことなく俺の背後に一歩身を隠すクラウス

イヤイヤ期の次は人見知りか?

フリッツたちと行動してた時も片時だって俺から離れ……

いや、夕飯の残しを食べに離れたから人に慣れてないって事はないと思うんだが

会って暫くは時間が必要とか?

とりあえず今のクラウスはアヴィオールと関わりたくないらしい


「悪ィな、あんまり人に慣れてなくてよ」


「構いません、イプシロネの手を振り払ったという話も聞きましたから

では先にクラウス君の部屋に送りましょう

いや、それともイプシロネに」


「その必要はない

コイツは俺と一緒に隊舎で寝泊まりさせてもらうぜ」


「それなら尚の事彼女の了承を得ないと」


「了承なんかしてもらえるはずないだろ

ステラが文句言ってたら知らぬ存ぜぬを通してくれりゃあいい

俺は本来牢屋で一泊だし

クラウスは一晩どっか行ってたとかなんとか適当に説明しておく

お前らに迷惑はかけねーよ」


アヴィオールに差し入れするという口実は叶ったし

タウィスの一部の現状も把握できた

そろそろ寝床に戻ってしっかり休息をとっておかないとな

明日からやらなきゃならんことも多いし!


と、意気込む俺の思考は

油断しきった服装でのんびりと街中を歩く事でいっぱいだった


……ヘソ出し胸出しボンレスふとももピチピチファッションから

一秒でも早く解放されたいんだよ俺は!


町で情報収集するにしても聖女に関してはルルムスが動いてるだろう

面倒をかけてしまわないように

事前に情報のすり合わせだけはしておかないとな。

ステラの許可なく行動する事に不安げな表情を浮かべるアヴィオールを連れて隊舎に戻ると開いているベッドを探そうとしてげんなりと肩を落とした


扉を開けた瞬間に鼻を突く酒と男の臭い

開いているベッドは軒並み酒に塗れていたり食べ物が散乱していたり

裸になった男がでかいイビキをかいて大の字で眠っていたりで

見渡した限り無事なベッドは一つもなかった

大部屋内の酷い惨状を前に

俺と同じく盛大に眉を顰めていたアヴィオールへ一言


「開いてる独房を一晩貸してくれ、金払うから」


「お金は要りません

リネン室から布団を二組持ってきますから通路で待っていて下さい」


こうして俺とクラウスは綺麗に清掃が済んでいた快適な独房へふかふかの布団を二組持ち込むことで安眠が確約された環境を手に入れることが出来た

天井付近の小さな通風孔から冷たい風が吹きこんでいたが

人の目が気にならない環境に身を置けたので、ここぞとばかりに持ち物の整理と金品の分別をある程度済ませてから布団に潜りこむ

風の音だけが微かに聞こえてくる、静かで穏やかな夜だった






……―――翌朝


「まさか本当に牢屋で一晩過ごしていらっしゃるとは」


「おはよ、ルルムス」


床に布団を敷いて寝ていた俺を立ったまま枕元に立ち

見下ろして声をかけてきたのはルルムスだった

聖装で整えられた胸元は通風孔から差し込む太陽の光で輝いている

キラキラと反射している真っ白な布地を眩しく感じて眉を顰めた

ルルムスが暗殺対象だったら速攻でターゲッティングされるような服だな


「朝から物騒な発想をしていますね

おはようございます、寝具は融通して頂けたようで”良かった”ですね」


「本当は隊舎のベッドが借りられる予定だったんだけどな

酒盛りでダメになったから急きょここを借りたんだ」


「隊舎で眠る予定だったのですか?」


「ああ、歓迎の宴会まで開いてもらえたぜ」


「なるほど

賓客として最低限の待遇はして頂けていたという事ですか

安堵しました、”これなら大丈夫”ですね」


「……お前今、なんか含みのある言い方しなかったか?」


「しましたよ、特にお教えする必要のない事なので説明は致しませんが」


「そこまで言ったら教えろよ気になるだろこのやろう」


「朝食が部屋に運ばれているので迎えにきました

独房内はそのままでいいとの事なので来てください」


「なんだよ、妙に急かしやがって

何かあるのか?」


「お話は食事の合間にでも」


「へいへい分かりもーした

クラウス、行くぞ」


うう寒い

先ほどまでぬくぬくと温まっていた布団から渋々出ると

傍らに置いていた外套を掴んで急いで肩を覆った

今の俺の服装は寝る前にゆるっとコーデに着替えており武装ひとつしていない

その所為で寒暖の差もモロに全身で感じてしまう状態だ


(くぉ~寒いっ!魔導具の装備なかったらこんなに厳しい寒さなのか

それとも朝だからか?凍死しなくて良かった)


寒い季節で朝の冷え込みも厳しい上に石造りの部屋とくれば

冷え込みも一層厳しい、にも関わらず

薄い夜着一枚で平然と立っているクラウスの人外っぷりに悟り顔を晒してしまう

ふと自分が被っていた布団を見れば、何故か掛布団が二枚も重なっており

敷布団も壁を作るように俺の側へ寄せられていた

通りで暖かい夜をぐっすりと過ごせたわけだ


「一緒に眠っていたんですか、アシュラン」


「知らん」


ルルムスが指摘するような事実に思い当たる点はない

ちらりとクラウスの足元を見ると物凄く汚れている足が目に入った

独房内だけで着くような汚れには見えない

どうやら俺が寝入った後に一人起き出して何かしていたようだが

昨夜「やることはやる」って言ってたからそれに関する事だろう

何はともあれ自発的に動く事は悪い事じゃない


じっと見つめてくるクラウスの頭をポンポンと軽く叩いて労ってやると

ルルムスと共に朝食が用意された部屋へと向かった


部屋に入るとメイド服の女性が五名ほど待機しており

夜着のクラウスの身支度を整えさせて頂きますと言って隣室へ消えて行った

よし、そうして少しでも多くの服を確保しておけよクラウス


「なんてみみっちい事を」


俺の思考にルルムスの批判が刺さる

豪勢な食事の並ぶ席に着いた俺は

多少の居心地の悪さを感じつつ唇を尖らせた


「なんだよ、服代がかかるなら後から払うって」


お前と同じようにクラウスにも必要だろ、アイツの為に似合う服が。

上流階級のファッションセンスならある程度信用できるし

クラウスを引き立たせる術も持っているだろう

ルルムスも含めて格好良い奴は相応に格好良い服装をするべきだ

じゃないと勿体ないし、損だろう色々と

ひと目で神職だと分かるルルムスの姿だって俺の服を貸した時より数百倍格好良く見えてるんだぞ?導師なんだから威厳だってある程度必要だろう


なんて思ってたら、ぎゅうっと眉を顰めたルルムスが

デカいため息をひとつ吐いて目の前の食事に手を付け始める

なんだよ、呆れてモノも言えねーってか?

仕方ないだろ、俺のファッションセンスは庶民寄りなんだ

教皇とか導師とか竜人とか、そういう特別な肩書持ってる見目の良い奴に相応しく世界に通用させるべきファッションスタイルをさせられるスキルもノウハウもセンスもないんだ、お前だって王様の服装コーディネートしろとか言われて出来るのか!?なんの知識もないのに!?できねーだろーがこの野郎!

なんて心の中で訴えてたらルルムスが

「参った」と言わんばかりに額に手を当てる


「分かりました

お気持ちはよく分かりましたから食べましょう」


「クラウスが来てからな」


「は?」


「先に食事始めてたら後から食べる奴が可哀想だろ」


「……その発想は、一体どこから」


「ん?だって、そうじゃねェか?

折角食卓囲んでんのに自分の分があったとしても他の奴が先に食べてたり食べ終わってたりすると寂しいって思うだろ?皆で食べたいって思うじゃねェか、普通」


「……普通」


「普通っつーか、まぁ一般的な感覚っつーか」


「一般的」


「い、一般的っつーか……俺はそう感じるっていうだけで

ルルムスが無理に合わせる必要はないんだぞ?」


「無理に……」


やべェ、なんか拙い事言ったのか俺。

暫しスプーンを握る手を止めたルルムスは手元に視線を落として

最終的にスプーンを置いて食器から手を放してしまった

イカン、なんか確実にルルムスの邪魔したっぽい


「あ、いや、ルルムスは先に食っててくれてもいいんだ

わざわざ俺らを呼びに来てくれたし、腹減ってるんだろ?

ホラ、飯も出来立てが一番旨いからな

スープぐらいは暖かい内に食べた方が料理人も喜ぶだろ」


「料理人が喜ぶ、ですか」


顔を上げたルルムスが朝の光が降り注ぐ窓を背に

真っ直ぐ俺を見て花が咲き誇らんばかりの柔和な微笑みを浮かべる

瞬間、


((ぐぉオ!目が、目がァ!!))


太陽の光のように放たれた教皇スマイルが見事両目にブっ刺さり

俺の頭の中でアシュランと田崎が七転八倒した

二人がユニゾンしたのはこれが初めてだ


「皆で食べた方が美味しいでしょうから、私も待ちましょう」


教皇然とした清らかな服装も相まって

これまで目にした教皇スマイルの中で断トツに殺傷力の高い笑顔だった

奴の笑みは時に神聖過ぎて、色んな意味で邪念を内包しまくっている内なる俺二名が瀕死の重傷を負うほどの威力だ

なんという恐ろしい凶器、今後は直視せぬよう十二分に警戒せねば

アシュランと田崎が浄化され過ぎて真人間になってしまう……って

真人間になるならむしろいい事なんじゃないか?

よし、これからも見逃すことなくルルムスの教皇スマイルを目撃していこう

決定的瞬間は見逃さんぞ


密着カメラマンに、俺はなる


そんな決意を胸に

両目に鋭利な光を深々と刺したまま努めて冷静な口調で問いかける

言い逃れはさせぬ、本当の事を言えルルムス!


「お前、実は『破邪』の能力持ってるだろ」


「何を仰ってるんですか藪から棒に」


「隠さなくていいぞ、聖女ルルムス」


「アホですか」


聖女だけが持つと言われている『破邪』の能力は

お前の今の笑みと同じ効果がある


絶対にだ!


そう確信して見据える俺の、鋭利な光が突き刺さったままの(まばゆ)い眼差しを真正面から受けたルルムスは……過去にも一度見た事のある、田崎の世界に居たチベットスナギツネと非常に酷似した表情を浮かべていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ