表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
54/145

54<聖なる星々の国~取り返しのつく兄弟関係~

「新聞!ニュースペーパー!瓦版!」


「なんなんだあの人」

「俺に聞くなよ」


エヴィル兄の部屋にお邪魔して一番に目を付けたのは

エスティール聖国で発行されている新聞!情報紙!

これだよこれ、喉から手が出るほど欲しかったんだ

真っ先に飛びついた俺は手にした情報紙を

うっかり天に掲げて喜びを体現してしまう


「後は三人で話し合え」


エヴィル兄弟とラピス嬢を部屋の中央に置かれているテーブルへと追いやり、傍のベッドに仰向けに寝転んで足を組むと新聞を読み始める

「丸投げかよ」と呟く不満が聞こえてきたがそもそも部外者の俺が話し合いに加わるなどおかしな話なので無視しておく

我関せずな俺の態度で不満を露に眉を顰めるのは

ラピス嬢ちゃんの力で鼻に治癒術をかけてもらっているエヴィル弟


「部屋の主人より主人みたいな態度してる……

っていうか牢屋で一晩謹慎じゃなかったのかよあの人」

「お前だって知ってるだろ

彼は連れを守ろうとしただけだから罰せられる方が間違ってる」

「だからって堂々とし過ぎだろ、タウィスの居室だぞ此処」

「そんな事よりも、プロキオン

ラピスに謝れ」

「……」


テーブル席で重苦しい空気が立ち込める中

寝心地の良いベッドで横になり新聞に目を走らせる俺は上機嫌だった

やっと世間の情報に触れることができる

出来る事ならセインツヴァイト領周辺の情報も欲しいが

ふたつも国を挟んでいる遠いこの地では情報の入手は難しいだろう

翼竜直行便でも二日かかるほどの距離だし


(ふむふむ)


紙面にデカデカと表記されているのは『世界の終わりの始まり』に関してだ

国が離れてても流石に終末に関する情報が早い

ここに置いてあるのは今日の分しかないが

聖女を戴く国である所為か第一の兆候から

事細かに世界情勢の変化が紙面に綴られている

第一の兆候について世界各国の見解や表明といった内容が続く中

気になる文章が目に留まった


正体不明の遺跡が世界各地で発見されてるらしい


終末の黙示録と関係があるかどうかはまだ不明だが

遺跡の出現は第一の兆候が始まって以降であるため

完全に無関係とは言い切れず、現在も因果関係を調査中とのこと

しかも冒険者や貧民層の人間しか受け入れない摩訶不思議な遺跡

騎士や国の関係者は足を踏み入れた瞬間

出入口の外に放り出される現象が発生している

それが理由で全ての調査が国からギルドに委託されており

とある国では遺跡から財宝が発見された事から冒険者や貧しい者たちが一獲千金の夢を見て遺跡攻略に乗り出している、という内容だった


「冒険者や貧しい人々が一獲千金の夢をみられるような遺跡……?」


なんだろうかこのフレーズ

確かこれと似たような話をどこかで聞いたような……?

はて、どこだったか

子細は思い出せないが妙に覚えがある、まぁいいか

思い出せないならそんなに重要でもなかったって事だ


(正体不明の遺跡かぁ、ダンジョンみたいでワクワクするな)


しかも国の関係者が入れないようになってる所為で国有化されず

日銭を稼ぐにも苦労している冒険者が夢を見られる

低所得者にとって非常に都合の良い遺跡じゃないか

これで冒険者稼業が潤えば貧しい人たちも少しは生きる楽しみも増えるだろう


俺も機会があれば一ヶ所ぐらい攻略してみたいな


もし終末の兆候に関わるのなら世界の終わりの始まりもそんなに悪くはないかもしれない、と一瞬思ったが続く紙面の内容に眉を顰める

『世界中で、人柱を利用した儀式が行われている』

聖国ではこれを忌まわしき行いとして批判している記事だ

思い出すのはセインツヴァイト領の町で見た

夥しい人々の骸を重ね築き上げられた塚


あのような、非人道的な事が世界中で行われているらしい

その儀式を扇動しているらしい古の王は魔王と呼ばれ

数日前に正式に復活が確認されたらしく人々は声高に討伐を望んでいるという

しかしある国では魔王が信仰され進んで魔王属国を謳う国もあり

そういう国は諸外国から批判の対象にされており

場合によっては戦争も止む無し、と書かれていた


世界的に戦争の気運が高まってるとか、あ~ヤダヤダ

俺の中の田崎の部分が「人間同士で争っても一文の得にもならないのに」と平和ボケよろしく他人事のように考えている

こんな調子じゃ目の前で戦争が起こっても対岸の火事だろうな、いいご身分だ


紙面に目を走らせ続けていると傍らでコトリと何かが置かれる音がしたので顔を向けてみれば、目が合ったラピス嬢ちゃんが

盆を胸に抱えて儚げに微笑みを浮かべた


「あの、お飲み物です

良かったらどうぞ」


「ありがとな、そうだ

これお前らで摘まめよ」


元々置かれていた新聞と入れ違いにサイドテーブルに放り投げたツマミの一部を嬢ちゃんに渡す。目の前に差し出され反射的に受け取ってしまった嬢ちゃんは指に触れた干し肉の一枚をじっと見つめて数度瞬きすると意を決した様子でぱくりと小さな口に肉の端を咥えて、物凄い勢いで目の色を変えた


「おっ……美味しいです!」


そりゃあ素人目でも栄養失調だと分かるほどに鶏ガラな見た目をしていれば

栄養価の高いモノは美味しかろう、余りにも純粋なリアクションを憐れに思ってしまった俺はこれも食えあれも食えと色々手渡して、慌てた嬢ちゃんはそれでも嬉しさを隠し切れない様子で「こんなに頂いて、本当にいいのですか?」と不安げな口調で尋ねる


「よし、決めた」


「え?」


「嬢ちゃんには俺が宮で滞在する間の世話をしてもらうぜ」


「えっ……」


嬢ちゃんの顔色が一気に暗転する

少し離れたテーブルでそれを聞いていたセイリオス青年も

慌てて席を立ち駆け寄ってきた


「あの!それはどういう意味ですか!」


雰囲気からして曲解されたことを察した俺は不快感に眉を顰めて訂正を入れる

こんにゃろ誰が幼女趣味だって?


「下らねェ勘違いすんな

世話っつってもプラム止めて期間限定で俺ら専属の使用人をやってもらうだけだ」


「そんな勝手は通せません

プラムの任命はタウィスの任命と同じくステラが行うもので

ステラの……イプシロネの意思に反して

役目を解く事はできない決まりなんです」


「あの女生徒は近くステラじゃなくなる

そうなったら今任命されてるプラムもタウィスも

任を解かれると宮の使用人から聞いたが、違うのか?」


「イプシロネがステラじゃなくなる?」

「それは本当の話か!?」


椅子に座ったまま話の成り行きを見守っていたエヴィル弟が

勢いよく立ち上がり声を荒げる

突然の横槍に一度口を閉じ、視線を向けながら肯定してやった


「事実だ、お前らも『導師』に会っただろう

俺たちがここへ来た目的は『破邪の能力を持つ聖女』を見つける為だ

聖女はイプシロネとかいう女生徒じゃない、他に居る


嬢ちゃんそこに座れ、食ってていいぞ」


手渡したツマミを盆に乗せたまま話を聞いていたラピス嬢ちゃんにベッド脇に座らせると食事するよう促す、嬢ちゃんは兎に角食え、隙あらば食え、その体に栄養を取り込め、そして太れ

女の子は多少ぽっちゃりしてた方が可愛いんだ、というのは

田崎がどこかの誰かから聞いた受け売りだ


そういえば、と思い当たる

アシュランの体で目覚めて今日(こんにち)まで

女性の好みなんて確認したことはなかったな

街中で行き交う女性を眺めてれば追々分かるだろう

少なくとも子供のベッドで寝転がりながら考える事ではないので

さっさと思考を切り替える


「で、お前らちゃんと話し合ったのか」


「信じらんねぇ……すぐそこで話してたのに聞いてなかったのかよ」

「内輪事に巻き込んでしまってすみませんでした」


「次に弟がオイタしたら学校の屋上から裸にして逆さ釣りしてやれ」


「いえ、そこまでは流石に……

うちの家門にも傷が付きますので」


「なら家の玄関ホールに裸で逆さ釣りしとけ」


「それも少々やり過ぎかと」


「なんだかんだで弟に甘いんだな、お兄ちゃんは」


「アシュランさんの提案は甘いとか厳しいという次元ではないです」


ジトリと避難がましい視線を向けられる

弟を殴り飛ばされてるからか眼差しに多少の敵意が含まれている

セイリオス青年のリアクションで、アシュランが実の弟のラクシャノスにやってたことが

どれほど常軌を逸していたかが証明されたな、分かってはいたが。

その所為であんな特殊性癖に……今更の後悔だが申し訳なくて仕方がない

何らかの形で償えたらいいのだが多分接触した時点で「俺即終了」だ

なんという分かり易い意味の四文字熟語だろう


「ラピス嬢ちゃんはもう大丈夫か」


話を振ると黙々と咀嚼していた嬢ちゃんが急いでモノを飲み込み姿勢を正して俺に向き直る。腸詰の燻製も気に入ったようで

先ほどからそればかり食べてるようだ

分かる。海苔とかあらびきウインナーとか手元にあると

ついおやつ感覚で手が出てしまうよな


「はい、プロキオンからは正式に謝罪して頂けました

アシュラン様、色々と助言して下さりありがとうございます」


「俺たちのお世話係も宜しく頼むぞ」


「それは……許可が出ましたら、是非」


干し物を片手に少しだけ不安そうな様子で笑みを浮かべる嬢ちゃんを

傍らで見ていたセイリオスは元気づけるかのように

そっと空いている方の手を握った


「セイ?」

「ラピス、無理はしないでくれよ」

「私は平気、それより手を放してもらってもいいかしら

片手だと食べ辛いの」

「、そうだな」


おっとこの雰囲気は、もしやセイリオス少年

ラピス嬢ちゃんに片思いなのか?

だとしたら今の反応を見る限りでは脈無しだな……というか、


「セイリオス、今朝町の外で他の女子庇ってただろ

その子と仲良さそうに腕を組んで山を下りてたと思うんだが

彼女じゃないのか?」


「彼女ではありません

アシュランさんが仰っている女の子はラピスの妹のスピカです

イプシロネの命令でカストルが危害を加えようとしていると分かったから助けにいっただけです、誤解を招くようなことは仰らないで下さい」


んん?今朝の女生徒が嬢ちゃんの妹?

嬢ちゃんの見た目はどう見ても十二・三の少女にしか見えないが

今朝の女生徒はセイリオスと同い年かそれに近い年齢に見えたんだが

それでも妹なのか?……もしかしてこの嬢ちゃん

見た目よりもうちょっと歳がいっているのだろうか

ならば尚の事栄養取らないと駄目だろ


「スピカはセイの事を好ましいと思っているの

仲良くしてあげてくれると私も嬉しい」

「ラピス、俺はスピカに好意は持ってないよ

君の妹だから時々話をしているだけで」

「でも、とても優しくていい子でしょう?」

「……そうだけど」


って複雑な苦笑いで曖昧な同意を返すあたり

セイリオスもスピカとやらの性悪さには気づいているらしい

姉が冷遇されてるのに自分だけはちゃっかり学園に通ってて見た目も年相応で学校生活を謳歌してるような妹がイイコなワケがない

なんならセイリオスに片思いしててラピス嬢ちゃんに嫉妬してる可能性すらある

何かしら含む所でもないと、冷遇された姉をそのままにはしておかないだろう

で、弟は弟で兄に含む所があり

兄が恋している女の子に当てつけでちょっかいを出してるイマココ状態


(ホンットこいつらの相関図複雑だな)


アヴィオールの説明を受けた時点で分かってはいたが

海外ドラマのシーズン二桁張りに関係性が入り乱れてて

いちいち把握していく気にすらなれない、青春し過ぎだろこいつら


「それじゃあ俺はそろそろお暇するぞ

嬢ちゃん、部屋まで送ってやるからついて来い」


「いえっラピスは自分が送ります」

「気を遣わないで、セイ

アシュラン様、私は一人でも部屋へ戻れますので」


「その外套をお前の部屋の前で返してもらいたいから言ってるんだ

ついでにクラウスの部屋も教えてくれ」


「そういう事なら私がラピスに上着を貸します

新しいタウィスの部屋も知っているので私に案内させて下さい」


必死か。

どんだけ俺を嬢ちゃんと行動させたくないんだこの青年

そんなに危険人物に見えるのか俺は?

教育上明らかによろしくない服装をしている自覚はあるけども


「あのな、タウィスの上着をプラムが着てるとバレたら

ただでさえ冷遇されてる嬢ちゃんが余計に困るだろうが

テメェは確執ありまくりな弟と今の内に大人しく腹割って話しとけ

分かり切ってる事をいちいち説明させるな」


「弟との問題なら解決しました」


「そーかァ?

アイツが事を起こした理由をちゃんと聞いたなら

あんな不満そうな顔はしてない筈だが」


「えっ……?」


俺の指摘にテーブル席へと振り返るセイリオスと目が合う前に

あさっての方向へ顔を向ける弟のプロキオン

そのリアクションが十二分に未解決を物語っている


「たった一人の大事な弟なんだろ

なし崩しにするな、後々取り返しのつかない事で後悔しない為にな」


人生の先輩からの有り難い忠告だ、とセイリオスの肩を叩いて立ち上がる

新聞を貰ってくぞ、と去りしなに声をかけて

ツマミを存分に頬張った口元に手を添え満足げにしているラピスを連れて部屋を出た

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ