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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
52/145

52<聖なる星々の国~タウィスの事情、エヴィル兄弟~

長話をしている内に夕食の時間になった

夜は予想通り大部屋中央で宴会が開かれ

俺を輪に入れて集まった数は非番の衛兵と何故か使用人を含めて十数名

どうやら例の衛兵二名が参加者を募ったらしい

室内温度がぐっと上がるほど暑苦しい人口密度になってしまった


全員に酒が行き渡った所で乾杯の音頭と共に語られ始めたのは

多少脚色された俺とステラのやりとり

そしてそこからは怒涛の、ステラとその保護者への不平不満の叫び合い

からの俺への称賛という無限ループ


「聖なる力をお持ちのステラ様が現れてくれれば

あの忌々しい公女のご機嫌取りなんてせずに済むのになぁ」

「そもそも能力も無いのに聖女の席を埋めておく方が間違ってるんですよ」

「宮殿勤めになると信仰が薄れるって噂は本当だったぜ」

「あんなステラが居るって知りたくなかったァ~」


室内には一気に酒の臭いが充満する

空気だけで悪酔いしそうだ

それから半刻経ったが彼らの不平不満はまだまだ尽きそうにない

抑圧されまくってるにも程があるぞここの使用人と衛兵

上司への不満は全世界共通なのはよく分かったが

週末のサラリーマンでもここまで酷くはない

どんだけ嫌われてんだろうな、あのステラ

集まった者たちが口々に不満を口にする様子を見渡して

ふ、と過去の自分を思い出す


過去のアシュランの、領民からの嫌われっぷり


拠点にしていた町は炎に呑まれたが、他の町はまだ無事かもしれない

魔導袋の中にある盗品の返却先や例の魔王の封筒に関する一切が

俺の中でなんの区切りも決着もついていない

宙に浮いたままだ

誰かの助けになるのなら量産品に関しては迷わず使うが

そうでないなら持ち主を探して返す


その為にもいつかは古の王の配下となったらしい双子の手に落ちたあの国に……セインツヴァイト領に戻らなければならない

俺が償わねばならない罪の大半があの土地にある


ルルムスの目的は俺の目的でもある、だから


目の前で繰り広げられているように、今でもどこかで

誰かから憎まれ、恨まれている俺も行動で示していかなければ。

見てくれだけで性格の悪い女生徒は勘弁してほしいと思ったが目の前の連中の態度を見て少し考えが変わった。簡単に見限り切り捨てるのは誰にでも出来る、だが

あの女生徒だって切っ掛け次第では学び変わっていけるかもしれない


俺が変わる事が出来たのは

半ば強制的ともいえる別人の記憶と経験の流入現象が切っ掛けだった

どんな人が相手であれその人が誰かにとって大切な人なのであれば、俺の経験で役に立てる事があるのなら何かしてやるべきだろう


皆が盛り上がる中室内をぐるりと見渡す

そういえばアヴィオールは宴会が始まる前に夕方に見回りを代わってくれた先輩の本来のシフトを入れ替えて今日の深夜番に出たんだったか

酒を飲んでいる所為で多少気分が高揚してはいるが熱さましに夜の散歩がてらもうちょっとアヴィオールから話を聞いてみるのもいいかもしれない

宮殿の夜の雰囲気と警備の数も覚えておこう


丁度良い口実だと思った俺はまだ栓をしたままの酒瓶を一本と

ツマミを目についた分だけぶら下げて席を立つ

部屋を出るまで呼び止められずに済んだが、部屋を出た通路先の牢前で緊張を纏い警備にあたっていた衛兵には声をかけられてしまった


「どちらへ?」


「夕方世話になったアヴィオールが夕食を抜いて出てったからな

ちょっとした差し入れだ、仕事の邪魔はしねーから安心してくれ」


「彼の持ち場でしたら神殿の外回りです

アシュランさんはあくまで謹慎扱いなので

タウィスとステラには見つからないようにご注意ください」


「なんだ、入ってもいいのか?神殿区域」


「今代のステラの勝手な取り決めなど守っている者の方が珍しいですよ」


「なるほど」


宴会で散々飛び交った罵詈雑言によって語られたステラの暴挙

周りの大人たちにとっては所詮ままごとと同レベルというワケか

親が権力者だから大っぴらに諫められないだけで。

ここまで周囲に見下されているといっそ憐れに思えてくる

セインツヴァイト領に居た俺もきっと見ず知らずの誰かに

憐れまれるような、そういう扱いだったんだろうな


衛兵による助言のお陰で探し回る事無くアヴィオールが警らしている神殿の外回りまで来れた。昼間に歩き回っておいたお蔭で迷うことなく夜の散歩が楽しめる

とか言いながら実は

クラウスの事が心配だったから来たという理由が大半だ

タウィスは一人一人神殿内に居室を与えられているらしいから昼間に通った空き部屋のどこかに宛がわれてる筈だ。無事な様子を確認しておきたい

曲がり角に差し掛かった所で気配を感じて建物の影から庭を覗き込む


「ミラ」

「アルカイド……」


裏庭で男女の密会抱擁口付け現場に遭遇

急いで茂みに身を隠し気配を殺してから改めて裏庭の様子を窺った

アヴィオールに聞いた情報を照らし合わせると

女の子の方はラピス・シェアトと同じく聖女専属傍仕え(プラム)のミラ・サビク

遠目な上暗闇で人相までは分からないがお仕着せを着ており

想い人の前だからか巻き毛の髪は下ろされている


男の方はタウィス唯一のメガネ装着者、アルカイド・クルックス

昼間、聖女の取り巻きとして場にいた男の一人

クソガキの盗み疑惑を真っ先に軽蔑する発言をしていたインテリ風の青年

プラムとタウィスの道ならぬ恋、ロミオとジュリエットというヤツだな


「会いたかった、今日は酷い事されなかった?」

「大丈夫、新しいタウィスが入ったから暫くはそいつにご執心だ」

「じゃあ明日も会える?」

「勿論、それに今日は君の部屋に泊まれる」

「本当に!?嬉しい!」


何が悲しくて十代の子供の絡み現場に遭遇せねばならんのか

俺が場に居ても「若いねェ」っていうオッサン発言しかできない

庭は取り込み中につき通行止めなので別の方角に行くか

二人に気付かれぬよう場を離れ、神殿の外周に出ると高い壁に沿って歩く

余計に心配になるような話を聞いてしまったな

例の聖女が新入りタウィスにご執心だとよ


クラウス、大丈夫だろうか


このまま外を回ってクラウスの影が見えないようなら

内殿に忍び込んで様子を見てくるか

寒い時期だからか虫の声もなく肌寒い風が吹きつける

その風に乗って男二人の争う声が聞こえてきた

ったく、「タウィスの許されざる密会」の次はなんだ?

建物の影に身を潜めそっと声のする方を盗み見る


「自分がどれだけ非道な事をしようとしたか分かってるのか!」


「兄さんにとやかく言われたくないね!

聞いたよ、今朝はスピカと二人きりで出かけてたんだろう?

恋人同士みたいに腕組んで帰ってきたってな!

僕はひとり残された可哀想な彼女を慰めてただけさ」


「一方的に襲おうとしていたの間違いだろう!」


「彼女がそう言ったのかい、僕に襲われたって?

ははっ言うはずがないよ!アレは合意だったんだから!」


「プロキオン!!」


ああ、殴り合いが始まった

痛そうな音がここまで聞こえてきている

一方はセイリオス青年でもう一人は弟くんか

男兄弟の喧嘩はどこも派手だな

会話の内容から察するに女絡みか?

かァ~青春(ドラマ)してんなぁどいつもこいつも


「あの……昼間のお客様、ですか……?」


うおっ吃驚した!

背後への警戒を怠ったつもりはなかったが

相手の存在感自体が希薄すぎるせいか声をかけられるまで気付かなかった

飛び跳ねた心臓を落ち着かせて振り向けば

寝間着姿の少女が破かれた胸元を隠すように両手で掴んで

不思議そうに首を傾げこちらを見ている

昼間に初代聖女の居室で出会った時と変わらず

ボサボサの髪をしたみすぼらしい姿だ


「よォ、夜の散歩にしては物騒なナリしてんな」


「あ、これは……申し訳ありません」


「見てるだけで寒い、これでも羽織っとけ」


俺が身に付けていた外套を少女、ラピス・シェアトの頭から被せて全身をすっぽり覆ってやる。半分埋まった顔をぽこっと覗かせる姿が外套を被せた時のクラウスと重なってつい笑みが零れた


「あ、りがとうございます……あたたかいです、でも

アシュラン様の方が寒そうです」


「気にすんな、魔導装備だから大抵の寒さは凌げる

ところでお前、なんでこんなトコふらついてんだ?」


「あ、はい、えっと……その

友人が二人喧嘩しそうな雰囲気だったので気になって」


「服破れてたよな、襲われたのか」


「……きっと、彼にも事情があったんだと思います」


「事情があったなら襲われてもいいのか?お前は」


「友人の助けになれるのなら、私は構いません

それぐらいしかお役に立てませんから」


このお嬢ちゃん、自己犠牲の塊だな

明らかに虐げられてる見た目してるのに

現状に身を置き続けているのも感覚が麻痺してる所為か?


「そりゃあ間違ってるぞ

役に立つってそういう事じゃねェだろ」


「……分かりません、何が間違っているんでしょうか」


「相手が心から笑ってお前に有難うと感謝を伝えてくれる事をしたら

それが”役に立ってる”って事だ」


「……それが無ければ、役に立てていないという事ですか」


「そうだな、大半は”利用されてる”と判断すべきだ

代えの利く消耗品として」


「消、耗品」


ラピス少女はショックを受けた表情を見せて眉を潜め、俯く


「思い当たるならまだマシな方だ

自覚がないなら重症だと判断しなきゃならん所だが」


「……」


「道具扱いされてる事に気付けて

それを不当と感じるなら自分が変わる事だ

現状に甘んじても何も良くはならんぞ」


「……ぅぅ」


少女の呻き声が聞こえてきた

言葉を続ければとうとう石畳に雫が零れ落ち始める

鼻をすする音を聞きながら項垂れた頭を優しく撫でて

「お前はよく頑張ってるよ」と

少女の事を大して知りもしないのに有体な言葉で慰めた

少なくとも丁寧な仕事ぶりは知ってるからな


「ふえっ」


少女の泣き声が徐々に大きくなり始める

このままだと殴り合ってる二人にも聞こえてしまうな

静かにさせるべく少女を抱き上げて

震える背中をあやしてやる……事案発生とかではないぞ。


「よーしよしよし」


クラウスを褒めるのと同じようなモンだ

今だけ保父さんになったつもりでムツゴロウ節を利かせておこう


「ラピス!?」


とかやってたら結局青年二人にもバレた

殴り合いを止めてこちらの様子を見に来た二人が驚き俺と少女を見上げる

ぐすぐすとすすり泣く少女の姿に酷く狼狽した青年は「何があったのですか」と尋ね、弟の方は不快な表情で兄を睨みつけている

おや、泣いている少女よりも兄への不満が優先か、ということは

この少女に乱暴した理由もお兄さんへの当てつけって所か?


「何があったか、だって?

心当たりがあるんだろ弟君よ」


「は?オッサンに関係ないだろ」


「はいギルティ」


「ぐほっ!!」


身体強化をかけた拳で弟君の顔面にストレートパンチを叩きこむ

油断してくれていたからか綺麗に急所に入って

弟君はその場で仰向けに倒れ込んだ、意識はあるが起き上がれないらしい


「ぐっ……」

「ぷ、プロキオン」


突然の俺の行動に驚きながらも倒れ動かない弟を見下ろす兄と

同じく驚き涙を引っ込めたラピス少女は直ぐに俺に苦言した


「ぼ、暴力はいけません」


「これを期によく覚えておくといいぞ、お嬢ちゃん

男ってのは拳で語る生き物だ、殴らねェと伝わらねー事もあるんだよ」


「でも、痛いです」


「俺だって拳が痛い

お互い様だからそれでいいんだ」


泣き止んだ少女を下ろし、まだ仰向けに呻く弟君へ一歩踏み出す

そこへ咄嗟の行動だろう、兄のセイリオスが割り込んできた


「あの、これ以上は」


「非力な女子に乱暴狼藉を働いた

男の風上にも置けねェクズを一発で許すだと?冗談だろ」


「先ほど俺が十二分に殴っておきましたので、どうかご容赦を」


田崎の世界だったら強姦未遂で即少年院行きだぞ

内輪の私刑で済ませるなんざぬるい事この上ないな……って、

散々女性に酷いことしてきた俺が言うなって話なんだけどな!

自分で思う事全部が見事にブーメランしてて心がとても辛い


「セイ……プロキオンを叩いたの?」

「兄弟喧嘩をしただけだ、大した怪我はしてないから心配ないよ」


「俺の一撃以外はな」


しれっと言い放つ俺を二人はなんとも言えない表情で見つめる

なんとか自力で起き上がった弟の方が

鼻血を吹きながらも立ち上がり俺を睨みつけた


「無関係の奴が、首を突っ込むなよ……っ!」


「まだ分かんねェか、力で勝てない男相手に襲われる恐怖を味わわねェと理解できねェえのか?なら遠慮なくお前を蹂躙してやってもいいんだが」


まだフラついている弟君の肩を掴み真横の壁に押し付けて

またぐらを意図的に膝で押しつぶしながら至近距離で威圧してやる


「ひ、ぃ!」


目の前で引きつった悲鳴が上がり、膝がガクガクと震え始めた

おっと脅しすぎた

急いで身を離すが弟君は腰を抜かしたらしくその場にヘタり込んでしまう

ええ……?そんなに怖かったか?確かに俺はアシュランスタイルで凄むと悪人顔だがここまで怯えられたのは初めてだ


「ホラな、人ってのは真実恐怖すると声も出なくなるんだよ

今感じた恐怖を、お前はそこの嬢ちゃんにも与えたんだ

しっかり反省して、後でちゃんと謝るんだぞ」


真っ青になって震える弟君は歯をガチガチと鳴らしながらも微かに頷いた

よしっ、と頷いて兄とお嬢ちゃんの方を見れば

何故か二人も震えて怯えた様子で俺を見ている

ええ……?いや、だからそんなに怖かったのか?


「悪ィなお前らまで怖がらせて、セイリオスっつったか

お前の部屋まで案内しろ、ここじゃ落ち着いて話も出来ねェだろ」


「あ、で、では私は部屋に戻ります……」


「なんでだよ、一緒に来りゃいいだろ

嬢ちゃんが襲われた件、なんにも解決してねーぞ」


「プラムはタウィスの部屋に入る事を禁じられていますから」


「俺が許す、ついて来い」


「え!?あ、あの、でも」


「でももだってもねェ、セイリオス

このままだと風邪引くだろうがさっさと案内しやがれ」


「は、はい!こちらへどうぞ……」


ヘタりこんでいる弟君の襟首をつかんで引き摺りながらセイリオスに案内を促す

青年はちゃっかりと少女の手を握りつつ俺の言に唖然としながらも

言われるままに自室へと案内してくれた

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