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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
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5<パンクロックからの華麗なる転身

「……あ~、恥ずかし……」


気持ちが通じ応えが返ってきた事実が嬉しいなんて、何十年ぶりだろう

喜びから笑みを抑えきれないなんてそれこそ学生以来だ

ルルムスが気を利かせて一人にしてくれて良かった

歳を重ねれば重ねるほど言葉も気持ちも通じなくなるものだから

今回は貴重な時間を過ごすことが出来たと言える


神殿を出る際、靴まで貸し出してもらって病衣姿でぽてぽてと街中を歩く

犯罪者崩れのアシュランが丸腰で外を歩くなんて今まで一度もなかった上

病衣姿とあって、余計に町の人々から注目されていた

向けられる視線が非常に痛いが塒に戻るまでの辛抱だ


昨夜のような襲撃は日中は無いと思っていいだろう

後ろ暗い事をしている連中の殆どは夜が活動時間だからな!

とはいえ一応警戒は怠らない

昼時でも薄暗い路地裏は念のため足早に通り過ぎて塒に戻る


先ずは室内の消毒だ

早速ルルムスの忠告に従って室内の清掃に取り掛かる

ドラゴンの唾液は危ないって身を以て知ったからなぁ

心当たりのある部分を掃除し終えると着ているものを全て洗い場へ放り込み

裸のまま洗濯を終えて自分も風呂へ入る

スッキリした所で体を乾かすもそこそこに下着を漁ってみた


「……」


見つけた下着らしきブツは変な形のヒモばかりで

まともに履けそうなものが


(一枚も無いんだが?)


俺が田崎実であった頃に慣れ親しんだ形の下着が一つも無い

アシュランの記憶を辿ってみるも、目の前にあるヒモを

当たり前のように身に付けている記憶しかない


「……」


心を無にして、一番マシそうなものを身に付ける

……うん、しっくりきて違和感を感じないのが逆に違和感全開だ

この時点でとっても嫌な予感がしているクローゼットに目を向ける


「開けたくないなぁ」


魔王が醸し出すみたいな禍々しい気配がするのは

多分気のせいではないだろう、意を決してクローゼットを開き

やはりというかアシュランの記憶と感覚で分かってはいたが

視界に飛び込んできた服の数々に盛大に顔を顰め、ため息を吐いた


「アシュランのファッションセンスよ……」


もう四十手前のオジサンなのに

十代が着てそうな弾けたファッションは流石にキツい

アシュランが現役冒険者をやってる関係で中年太りなど縁がなく

体つきも引き締まっておりそこそこに逞しいのは分かっているが

割れた腹筋を惜しげもなく見せる服とか背筋を自慢するような服とか

筋力十分な美脚を披露するボンレスハムみたいなズボンとか……

田崎実が混ざる前は当たり前のようにこのファッションの上に

非合法な経緯で入手した武器防具を身に付け武装していたが


無理、着れない


一番マシであろう黒のズボンもピッタリし過ぎてて妙なテカりが入ってるし

一番マシであろう黒の上着は胸元をバーン!と開けている

これが巨乳の女性であれば目の保養になっていただろうに

男の鍛え上げられた胸筋など見せびらかして誰が得をするというのか。


他のどの服も腹筋リスペクトなのか腰回りが丸見えなのが尚の事辛い

お腹が冷えちゃうだろうが!腹巻はどこだ!なんて突っ込んでも

ダサい認定されかねない物を持っている記憶はアシュランの中にはなかった


ジャンルでいえばパンクロックが近いか?色味も黒系統が多い

試しに一着、着てみたが……

前の性格のアシュランなら似合ってるんだろうけど

今の俺にはやっぱり色んな意味でキツいし恥ずかしい


選びに選んだ一番マシな上下を着込んでブーツを履き

現存の衣類をクローゼットへ放り込みできる限り着ずに済むように

務めよう、と封印する気持ちで扉を閉める


さて外出するか、と玄関へ向かおうとしたのだが

アシュランの体が習慣を覚えていたらしく無意識に洗面台へと足を向ける

鏡を見据えて「あれ、何しに来たんだっけ」と考えて

髪型のセットの為だと気が付いた


これまでの俺の髪型も普段から前髪も全部上げてビンビンに固めてたなぁ

今後はもうその必要も無い、下ろされたままの前髪を指先で払って

このままでもいいよな、と最後まで鏡に目を留めつつ玄関へ向かう

必要分のお金だけを持つ間に先ほどと同じ無意識の習慣が出たのか

気が付けば武器を腰回りに装備しようとしていた


(いやいやいや待て待て待て)


危ない事しに行くんじゃないんだから武器なんかいらないって

一般領民は武装なんかしてない

俺だって普段は持って行かなくても大丈夫だから。

アシュランが刃物持ち歩いてるだけでめっちゃ警戒されるんだから

せめて見た目だけでも無害でありたいんだよ


襲撃されたばかりなので丸腰になるのはそれなりに不安だが

昨夜あんなにも簡単に窮地に陥ってしまったのは瀕死の状態だったからだ

万全な今なら大抵の危機には素手でも十分対処できる

鍛えられている肉体が物語っている通り、アシュランはそれなりの実力者だ

低ランクの冒険者や戦闘素人の領民相手なら先ず負けることはない。

高ランクに徒党を組まれると厄介だが

領民の往来が多い日中のしかも街中なら囲い込まれる心配もない


というわけで、掌に収まる程度の使い捨てナイフを二本

ブーツの内側に仕込むだけに留めておく

身支度を整えてさぁ買い物だ!多めの金を持って町に繰り出す


先ずは衣食住の改善

高級志向のアシュランでは決して訪れないであろう古着を扱う店に着くとドアベルを鳴らして入店した


「いらっしゃー…… いっ!?」


店の奥で作業していたらしい若い女の子の店員が

営業スマイルで戸口に向かって振り返ったが

俺を認識した途端瞬時に凍り付き、すぐさま悲壮な顔つきになって

「帰ってくれ」「出てってくれ」と訴え始めるが


(すまん、こっちにも引けない事情があるんだ……!)


口よりモノを言いまくってる目とはあえて視線を合わさず

追い返さないでくださいお願いしますと念じながら

客として来ました!と全身で訴えるべく

陳列されている品物だけを視界に収める


(……)


嗚呼、わざわざ見て確認するまでもなく

店を出ていこうとしない俺に絶望してる気配が伝わってくる

ここの商品が今の俺にはどうしても必要なモノなんだ

買い物をさせてくれ、頼む……!!

詳しい記憶は思い出せないけどアシュランの服の好みからして無縁だったであろうこの店に迷惑をかけたことは無い筈だ、それでも出てけムードになっているという事はここの店員さんも多分アシュランの悪評を知ってるからよそよそしくなってるんだろうな

あんな見ず知らずの若い女の子にも嫌われてるのかぁ、俺……


(……)


暫く品物の物色を続けても追い出される気配はなかったので

とりあえず安堵したが……遠巻きながらめっちゃ手元見られてる

万引きしないよう監視されてるのが丸解りだ

何もしてない段階で俺が悪さすること大前提の扱い、辛い。

場に居合わせた他のお客さんは入店直後に俺から距離を取っていた

何人かは商品に隠れて息を潜めコチラを窺っている


平和な筈の古着屋だったのに俺が来店したばかりに

唐突にスニーキングミッションなんて発生させてほんとすみません


(AIはベリーイージーモードで対応しておくので

安心してお買い物を続けて下さい……)


めそり、と

目じりに浮いたしょっぱいのをそっと指先で払う

100%俺の所為でしんと静まり返った店内

歩く度にコツコツと上等な音を立てる靴底を恨めしく思いつつ

目についた服を上下合わせて何着か腕に引っ掛けて

備え付けの鏡で大雑把にだがサイズチェックを繰り返す

風呂で髪を洗ってからセットせずに下ろしっぱなしなので

地味な古着を体に当ててもさほど違和感はなかった……が、問題がひとつ


「丈が足りないな」


どれも袖が短かったり股下が短かったり。

では大きいサイズをと選べばウエストが余り過ぎたり裾が長すぎたり。

アシュランの体型は存外モデルばりに恵まれているらしい

俺からすれば平均ではない手足の長さの所為で

サイズの合う古着が見つけられない、というデメリットしかないのだが


なんて悶々と考えていたら、遠巻きにこちらを見ている店員にも

さっきの呟きが聞こえてしまったのだろう

真っ青な顔をして挙動不審になってるじゃないかうわあまたしても怖がらせてしまったそんなつもりはなかったんです気に入った商品が無いからって放火とかしませんからお願いだから落ち着いて……!

と、直接フォローしたいのをぐっと堪えて服探しに集中する

向こうがめっちゃオロオロしてるのに

つられて俺までアタフタしたら余計に焦らせてしまうだろうし。


すると暫くして挙動不審だった店員さんは売り場をウロウロし始めて

いくつかの服を手に、抜き足差し足で俺に近づいてきた


…… 死 角 か ら 。


あの、お嬢さん?

そんな「眠ってる猛獣を起こさないように~」みたいな行動とらないで。

現役冒険者やってる所為かアシュランは気配に鋭いみたいだから。

むしろこうやってこっそり近づかれる方が物凄く落ち着かない気分になる

他のお客さんが「嬢ちゃんやめときなって!」ってヒソヒソ声で言ってる


思いがけない場面で猛獣扱いを受け悲しみに溺れつつも

あえて気付かないフリをしていたら

俺が見ている棚の隣に素早い動作で古着の小山が築かれ

「えっ」と声に出しそうになりながら振り返れば

女の子店員が全力で俺から逃げ……距離を取る背中が見えた


(正しい行動だよお嬢さん、男はみんな狼だからね……ウフフ……)


実際に笑みを浮かべたら通報されそうなのでポーカーフェイスを貫く

小山を解体して見ればなるほど、袖丈の長い服ばかりが集められていた

わざわざ俺のサイズに合いそうな服を選んで持って来てくれたワケか

……うんうん、分かってるぞ!これは善意ではない!


(合う服を見つけてさっさと出てってくれって事だよな!!)


怪我の治療でルルムスが個室を提供してくれた際

間違った解釈をしてしまった時と同じ轍を踏みはしない。

それでもわざわざ選んでくれたことにありがとう、と声を掛けたいが

勇気を振り絞った店員が一般客に慰められる様子を見た所

一言でも声を掛けたら速攻で衛兵を呼ばれるヤツだと判断した


よし、大人しく自分の買い物に集中しよう


手足が長いと普通は羨ましがられるんだろうな。

生憎と肉体美に関心がなく肌を露出させる趣味もないので

恵まれた体型もしっかり覆い隠して

見た目的な意味での宝の持ち腐れになるのは決定事項だ


俺は隠すぞ、肌を、全力で。


こちとら四十手前だぞコンチクショー……と、そんなワケで

パンクロックスタイルから陰キャオタクスタイルに華麗に転身である


今の俺は体型の分かりにくい、袖丈も長めの余裕ある服装が好きだ

この際だから伊達眼鏡でもかけてやろうかと思いながら

店の至る所で山と積まれた古着を見やる

あれらの一着一着から自分に合ったサイズを探すのは骨が折れそうだ

安く良いものを見つけようと思ったら相応に苦労せねばならない

丁寧に時間を掛けて着回しができそうなものを選んで

最低でも一式は揃えなければ。

普段着として使うつもりだし防御力も性能も気にする必要はない


時間に余裕があればギルドに行って

真っ当な冒険者としての仕事をいくつか見繕っておくか


(あと、帰りにどこかの店に寄って夕飯の食材と……)


今日の予定を考えながら服を選んでいたら、気が付けば

夕方近くなり日が傾き始めていた。熱心に選んでいた事もあり

中々いい感じの普段着を三着分も見つけることが出来た

今回の来店一度きりで済ませようと思っていたのもあって

店内の品物全部を総浚いした気がする


ふ、と周囲を見回すと悲しいことに他のお客の姿は無かった

もしかしなくても俺の所為だろう、とんだ営業妨害をしてしまった

しかし店員は若干だが俺を見る目に警戒が失せている気がする

真剣に服を選ぶ姿が好意的に見えていたのなら有難いのだが。


会計を済ませる為に女の子の元へ向かえば


「いいものは……見つかりましたか?」


硬い口調ではあったが声をかけられた。

まさか相手から声をかけてもらえるとは思わず

呆けた表情のまま「うん」と頷き答えれば

女の子は信じられない物でも見た様に目を皿のようにし

次いでぎこちなく笑みを浮かべる


「良かった、です……あ、えっと

ずっと熱心に選んでいらっしゃったから」


なにこの子、優しい

子供故に悪名高いオジサン相手でも慣れが早いだけかもしれないけど。

小さい古着屋、この子ひとりで切り盛りしてるのだろうか?

いやいやそれは流石にないだろう

悪党が来店しているのに親が出てくる気配がないのが不自然なくらいだ

再度店内を見回してみるが、やはりこの子以外店員の姿はない

女の子は見た感じ十四・五歳かな、ほんとに大丈夫かこのお店


心配になりつつも会計を始める

値段も納得の低価格。昔のアシュランがどの店でも当たり前にしていた

無理に値切るようなことはせず、自分で補修できそうなほつれや汚れ

破れを指摘して適正範囲内で価格交渉もできた


実に有意義な買い物だった


話している内に最初はおどおどしていた店員とも徐々に打ち解け

その内自然に笑みを見せてくれるようになった

やっぱり優しく接してくれる人に丁寧に話し続けることは大事だな


早速店内の試着室を借りて着替えを済ませ

購入品と共に着ていた服も大袋に収める

それを腕に引っ提げて退店する際「ありがとうございました」と

声をかけてもらえたのが、大袈裟かもしれないが凄く嬉しかった

アシュランはどの店に行っても

「ありがとう」なんて言ってもらえてなかったからなぁ


店を出た時点で複数の視線を感じたがそれらの視線は

直ぐに興味を失ったように他へと逸らされ

俺はまるで一般人のような無関心の中へと紛れ込んだ


意図して変装したワケではないんだが

自分がアシュランだと認識されていない事にはすぐ気が付いた

周囲の当たり前みたいな無関心ぶり。

店に入る前までの注目度を経験していたので余計に周囲の目を騙している感が拭えず拙い事をしているような気分に駆られる


(でも、悪いことをしているワケじゃないんだから)


服装変えるぐらい大丈夫……だよな?いいよな?


気分は潜伏中の犯罪者


実際悪党なので的外れでもない所がめっちゃ辛い。

下唇を噛む。心臓痛い。

誰でもいいからその辺歩いてる人捕まえて「別に身を隠すために服装変えてるんじゃないです!!肌見せるのが嫌なだけなんです!!」ってめっちゃ言い訳したい。その辺の人に「その服装でも大丈夫だよ!イッツオーライ★」って言ってもらって心の底から安心したい


周囲の無関心ぶりを見ているだけで押し寄せてくる「そうじゃないんだ」感に(さいな)まれつつ歩き出す。早く他の用事も済ませて塒に戻ろう、と思いながら古着屋から数歩離れた所で

通りを挟んだ向かいの外壁に一人の男が壁に背を(もた)れかけさせて

こちらを睨みつけているのを見つけてしまった


直後物騒な気配まで肌で感じ取ってしまい

咄嗟に目を逸らすことが出来ず鋭い目とばっちり視線が合ってしまった

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