表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
49/145

49<聖なる星々の国~都合の良い使用人~

「話は長くなると思うので

お二人は適当に散策でもして待っていて下さい」


エスティール聖国へ来た目的は

国に匿われているという『聖女』に会い

古の王を討ち滅ぼすというルルムスの旅に同行してもらう為だ


俺とクラウスはあくまで付き添い

重要な会合の場に同席する権利はない


宮殿の計らいで装いを聖衣に改め

教皇然としたルルムスの薄く浮かべられた笑みは

戸の開閉を行う警備兵によって扉の向こう側へと消えた

そんなワケでゆるっとコーデのひとつが俺の手元に戻って来たのは有難い


「お連れの方は控室へご案内します」


「先に宮中を案内してくれ

場合によっては暫く滞在する事になりそうだからな」


「そうなのですか?」

「まだ分かりません」


傍使い同士が顔を見合わせ声を潜めて話し合う

いつ終わるか分からない話し合いの間

見知らぬ場所の見知らぬ部屋に缶詰など退屈に決まってるからな

暇つぶしついでに建物の間取りや配置を覚えておこう

ここで働いている者たちに対する人間観察もしておきたい


なんでそんな事をするのかって?

犯罪者脳のアシュランによる体に染みついた習性としか言いようがないな

窓を見て一番に考えてしまうのが


(あそこからなら木を伝って降りられそうだ)


とか


(あれなら侵入可能だな、いざという時の逃走経路にもなる)


とか、そういう目線でしかモノを見れなくなってる

俺にとっての窓は扉、調度品は武具、間取りは戦闘フィールド

職業病みたいなモンだな、健全な奴から言ったら立派な病気だ。

高価な調度品も芸術品もアシュランの目が肥えてる所為で

余程の代物でないと感心しないのも要因のひとつ

自分の事ながら呆れ果てる


「どっちでもいい、俺たちの散歩に付き合えよ」


「ですが、あの」


「勝手にウロつかれて変な場所に入り込まないよう

同行して見ておくのとそれを放置しておくのと、どっちがいい?」


「……同行させていただきます」


「よし、じゃあ行くかクラウス」


呼びかければ隣にいるクラウスが俺の手を握り頷く

今俺たちがいる場所は

国政の一切を取り仕切っている神官たちが暮らす”宮殿”だ

素行不良の学生たちは少し前にファミリアという学び舎に連行して

事情を説明し教師たちに引き渡しを終えてから学長の紹介で宮殿まで来た

ルルムスは元からそのつもりだったらしく

学舎からすぐに国の最高指導者に先触れを出し

終末に関わる事案故に全ての予定に優先して国の代表者がルルムスと面会する時間を設けてくれたわけだが、俺とクラウスは同行者という位置づけなので『導師』であるルルムスとの大事な会合に同席させることはできないと言われてしまった


ルルムスは最初こそ俺たちを同席させたかったようだが

何を思ったのかこの宮を見て回ってきて下さいと言い出し

結局別行動する事になった


ルルムスのあの含み方から察するに言葉の裏に別の意味があるのだろう

この国の現状を把握しておくのも悪い事ではない

幸いなことに情報収集はお手の物だ

折角国の中枢機関に居ることだし

できる限り見聞きして回った方がいいだろう


(場合によっては聖女を誘拐する事にもなるだろうしな)


なんて物騒な強硬手段を考慮してしまうのも元悪党だからか。


長い回廊を歩きながら

後ろを付いて来ていた使用人に向けて尋ねる


「聖女は今どうしてるんだ?」


聖女(ステラ)は今現在、学園にて修学中でございます」


「この国では聖女の事を”ステラ”と呼ぶのか」


「はい、この国独自の『星』に由来する呼び名です

ステラには『プラム』と呼ばれる専属の傍使えが数名と

『タウィス』という婿が複数人定められております」


「複数人?

この国は女性一人に対して複数の男と婚姻できる国なのか?」


「通常は単婚、一夫一婦制ですが

ステラという役職に就いている者のみ、後世の為

複数の優秀な男と婚姻を結んでもよいという決まりがございます

他国の方には受け入れがたいものかもしれませんが

わが国では定められた法なのです」


「ステラも複数いるのか?

神聖の泉とやらから現れるっていう話を聞いたが」


「私が知る限り聖女の選定が複数になった時期はなかったと記憶しております

泉から現れるという話は私も市井で聞いたことがありますが、ふふっ」


使用人はバカにしたように吹き出し、含み笑いした


「アレはただの噂に過ぎません

実際ステラはその時期ごとに優秀な血筋

家系や能力に相応しい者が上部会の話し合いで選定される仕組みで……

っと、今言った事は内密にお願いします

本当は他国の方にはお話ししてはいけない決まりなので」


この使用人駄目だな、口が軽すぎる

俺にとっては好都合だが。


「聖女様はこの国の象徴だ

印象が悪くなるのは避けたいよな」


「ご理解頂けて幸いです」


「じゃああの話もただの噂か

聖女は邪なるものを退けるっていう話」


「それは半分事実です

先々代のステラはその力を行使していたそうなので

『破邪』の力を持つ者はその時期ステラに定まっていた者を廃して

新たにステラとして据えられる事になります」


聖女特有の能力、『破邪』か……

ルルムスが導師特有の能力『完全看破』を継承したのと同じで

伝承において役割を持つ者のみが行使できる特殊能力がありそうだな

導師が完全看破、聖女が破邪

この流れだと英雄は魔王を殺すための能力とか持ってそうだな

特殊能力『魔王殺し』とか?なんかお酒の銘柄みたいだな


銘酒、魔王殺し


煮え滾る熱燗一口で急性アルコール中毒になるヤツだ


「先々代って事は先代と今代には破邪の能力が無かったのか」


「はい、なので名家のご令嬢がステラを務めております」


つまり世襲制とか階級制と同じで能力を持つ者が現れない時期は

コネや賄賂でどうとでもなる地位、という事か

この使用人の話を聞く限りではまともな選定は行われてなさそうだな

しかも複数の旦那を持てるときた

ハーレムとは逆バージョンだが、聖女に選ばれた女性の資質次第で

天国にも地獄にもなりそうな役職だな


結論から言うと極力クラウスを関わらせたくない


不意にクラウスと繋ぐ手に力が込められる

コイツは平凡な服を着てても

人外の美しさが溢れまくってる美男子だからな

肌と瞳の色の珍しさでステラに目を付けられたら

確実にタウィスに引き込まれる。そうなったら面倒極まりない

ひと気がない事を確認した使用人が俺たちの目の前に回り込み

顔を寄せ声を潜めてきた


「ここだけの話ですが

現在のステラは相当色狂いでして」


「ほほぅ」


「気に入った男をとっかえひっかえで毎夜寝所に連れ込んでいるんですよ

元々が高い地位のお家柄なのでタウィスに選ばれたら拒否できないらしくて、男に恋人や想い人が居てもお構いなしなものですから嫌々ステラを抱いているタウィスが居るという噂も多いのです」


「男の酒池肉林はよく聞く話だが

逆は珍しいな」


「そうでしょうそうでしょう、タウィスだって何人も居るんですよ!

しかも全員十代!ステラもまだ学生とはいえ

今から好き放題し過ぎですよ

もしこれで『破邪』の力を持つ真のステラが現れたりなんかしたら

今のタウィスも解体されてとんでもない修羅場になるというのに!」


……それはフラグか何かか?

物凄く嫌な予感がするんだが


「もうすぐ学園の卒業を控えているというのに

今から懐妊などしてしまえば外聞も悪いので周りの連中も

お諫めしてるんですけどねぇ、全く効果無しです」


「上の人間が無能だと下が苦労するよな」


「その通りですよ!しかもそのステラ……

イプシロネ・ファイフっていう生意気なガキなんですけどね?

親がこの国の重鎮なもんだから調子に乗って使用人まで顎で使いやがるんです

目の保養はあの豊満な体だけですね、頭に紙袋でも被せてやれば

心労も無くなるんですけどねぇ」


この使用人、相当鬱憤が溜まっているらしい

加えてゴシップ好きの噂好き

なんでこんな人間性の奴が国のお偉いさんに関われる役職についてるんだか。俺と同じように情報を引き出すための道具にされてる可能性もあるな


不意にクラウスが何かを否定するような素振りでプルプルと首を振った

「どうした」と問いかけてみるがそっぽを向いたままで反応がない

うーん、ルルムスが居てくれれば代弁してくれそうなんだが

本人が言いたがらないならそっとしておくか

気が逸れたことで使用人も少しばかりクールダウンしたようだ

後頭部に手を添えながら頭を下げてくる


「すみません、お客様に愚痴なんか言っちゃって

ここの者たちは自分を含めて

今のステラに相当不満を持っておりまして」


「そんな女が聖女じゃやってられない気持ちもよく分かる

タウィスにされた奴も可哀想だな

自分の意志を無視で婿にさせられるなんて

奴隷みたいなもんじゃないか」


「そうそうそうなんですよ!分かってくれますかご客人!

あ、ここが神殿と宮殿の境界です

これより先はステラの居住区域になるので

一部の神官とタウィス以外は立ち入り禁止なんですよ」


つまり神殿は聖女が好き放題できるエリアというワケか


「でもいっかな~、この時間ステラは不在ですし

不満を聞いていただけたお礼に特別少しだけご案内します」


……ホントに大丈夫かこの使用人

俺が何を促したわけでもないのに規制区域を案内って

俺にとって都合の良い力が働いてるような不気味さを感じる


その不安に同調するようにクラウスもしきりに頷いている


そうか、この異様さに同意してくれるか

都合がいい時に限って不測の事態ってのは起こるモンだ

一層周囲を警戒しておかねェと、と気を引き締めていたら

クラウスが俺を見上げて違う違うと言いたげに首を振っていた


分らん、言いたい事があるなら口で言え

『察してちゃん』は男女共通で面倒極まりないから早々に改めろ


内心で突き放した所為かクラウスがしょんぼりと項垂れた

ジェスチャーも一度二度なら付き合ってやるが

それ以上はイラっと来るので止めろ、何事にも限度ってモンがある


(……)


クラウスと繋いだ手の力が緩む


(……)


横を見ればバッチリと見下ろせる旋毛(つむじ)


(……)


あからさまに落ち込んでいる空気


(……)


あーもうちくしょー甘やかすのはよくねーってわかってるけどなァ!

開いた方の手で俯いている頭をわっしわっしと撫でまくっておいた

ようやっと顔を上げたクラウスが髪をボサボサに乱したまま

嬉しそうに笑みを浮かべて俺を見上げて来たのでまぁよしとしておこう


「では行きましょうか」


神殿内を探索するのも今しかなさそうなので使用人に促され付いていく

ステラの評判をよそに、神殿の内装や庭の手入れは大したものだった

流石は代々聖女を戴いてきた国だけはある

区画によって趣味趣向が異なるので、もしかしたら

代毎の聖女の好みがそれぞれに反映されているのかもしれないな


「あと案内できるお部屋は……ああ、あそこで最後ですね」


ぐるりと神殿を一周する間、数名の神官とすれ違ったが

同行している俺たちを見ても特に咎めだてされるようなことは無かった

聖女が居ない間は案外自由な行き来が許されているらしい

最後、と言われて案内された部屋の扉を開けると

目に入った光景は、それはもう見事な装飾で飾られていた


「凄いな、この部屋が一番俺の好みに合ってるかもしれない」


「それはお目が高い

この部屋は初代ステラ様の居室です

初代様はステラとしてのお力が一番強かったようで

一番長く在位し、民からも愛された人徳あるステラとして今も尚

国民から親しまれているのです

部屋の位置が非常に不便であるという理由から使われることはなくなりましたがこうして手入れだけはされており、当時の(おもむき)を今に残しております」


「当時の趣のまま、か

少し見て回ってもいいか?触れないように気を付ける」


「ええ、構いませんよ」


室内はとても広い、壁紙と天井は白と緑を基調に細やかな装飾が彩られており

開放的なテラスからは柔らかな日の光が差し込む

見ているだけで暖かくなるような植物に囲まれた光景が心を和ませてくれる

床は磨き上げられた真っ白な石のタイルだが、不思議と冷たさは感じない

ベージュのカーテンに白いレースが上品にあしらわれ

天蓋付きの寝台は濃い緑の掛布団にこげ茶のシーツ……まるで土の上で大きな葉を被って眠るような配色に遊び心が感じられる

備え付けの調度品も華美過ぎず地味過ぎず

視界に入れても主張し過ぎない控えめさが落ち着きの空間を演出している

書棚には本がぎっしりと詰まっていた

専門用語の多い難しい本から子供が読むような絵本まで多種多彩

ここで暮らしていた女性がどういった人柄だったのか窺い知れるというものだ


控えめで品があって、決して頭が悪いわけでもなく落ち着いた大人の女性

初代聖女はきっと、とても美しい人だったのだろうなと夢想する

十分に見て回り、そろそろお暇するかと書棚を離れて

テラスの前を通りがかった所で庭先から声が掛けられた


「どちら様ですか……?」


気配を感じなかったので物凄く驚いた、ぱっと庭の方を振り返れば

テラスの端で緑に囲まれ日の光に包まれている少女が一人

不安そうに両手を胸の前で組み、薄緑の大きな瞳に俺を映して立っていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ