45<古の王と竜帝は導師と一緒にゆるキャン中
「へぇ~『対象の本質を視通す力』か
心を読むってだけでもスゲェのに鑑定までできるのはもっとスゲェな」
「鑑定ではありません
教皇になる者にのみ継承される秘中の秘であるため
詳細はお話しできませんが 断 じ て !
鑑定などという知識さえあれば誰でもできる様な能力ではありませんっ」
現在、俺たちは避難所にしていた洞穴を出発し
兎に角先ずは王都から離れた方が良いという事で
セインツヴァイトの更に外側の領地アヴァロッティ方面へ向かう事に。
情報収集は身の安全を確保してからだ
ムスっと不満そうに俺を睨むルルムスに肩を竦める
「俺の知識じゃそんなに珍しい能力じゃないな」
モノや人物の詳細を知る事ができる能力というのは
田崎の知識でいう『ゲーム』の
例えば『ポーション』を選択すると『体力を15%回復できる』とか
わざわざ鍛えたり取得する必要のないゲームシステムの標準仕様
「どう見えてるんだ?」
「詳しくお話しする事はできません」
「あー、でもその『鑑定』より『看破』って言ったか?
『心を読む』力の方が珍しいだろ」
「ですから鑑定ではありません!
知識を正してもらうためにこれだけはお教えしますが
教皇のみが持てる力は『完全看破』
私が生まれながらに持っている『看破』の上位互換です」
「上位互換、なのか?」
「そうですよ」
「うーん……」
顎に手を当てて唸る
説明を聞いた限りだとどうも心を読む能力の上位互換ではなく
別の能力だと思うんだよなぁ
ルルムスが教えてくれたそれは俗にいう
対象に付帯する説明文が見える
という事だと思う。もしくはそれとかなり酷似した力
この世界を約四十年生きているアシュランの知識は豊富なので
既に知っている物に今更説明文が付いても
元の知識の再確認にしかならない
過去のアシュランの性格だったら毒や汚物、異物が仕込まれた
料理の詳細を瞬時に識別できるという点で便利に思うだろうが
そういう利点の見出し方は自己中心的過ぎるし
そういう考えが浮かぶ事そのものが利己的な気がして嫌悪感を覚える
なんにしても俺には関係のない話だな
ルルムスが使う力なのだから
それこそ口を出すべきではないだろう
もっと大事な理由が他にもあるが
諸々の汎用性を考慮すると「心を読める」ほどの重要性は感じない
なんて思っていたらルルムスの眉間の溝が一層深くなった
「教皇として継承されるこの能力は希少という言葉では収まりません
心を読む力を持つ存在も確かに希ですが
世界中探せばあと何人かは出てくるでしょう、ですが
それに比べて教皇にのみ与えられるこの力は唯一無二です
どれだけの人が欲しがると思ってるんですか」
「なんでキレてんだ」
街道には兵士が巡回しており
反逆者として指名手配されているらしいルルムスは見つかり次第捕縛ないしは殺されてしまうらしいので、この国を出るまで通るルートは非常に険しい山脈一択だ
町の周辺で導力を使用すると探知魔導具に引っかかるおそれもあるということで
町を一定以上離れた魔窟領域に入るまでは通常歩行のみでチマチマ進む
魔窟領域に入ったら導力使って速歩進行
当たり前だが日々サバイバルである
「使用頻度で言うなら
俺としては荷物運びに重宝する魔導袋の方が」
「私の力が貴方が持っているその小汚い袋に劣ると言うんですか」
「使用頻度って前置きしただろ」
魔導袋に関してはルルムスが目覚めた時点で早々に説明しておいた
三つもあるので一つはルルムスに持ってもらっている
中身は悪い連中から巻き上げた、食料を含めた備蓄一式
私物が入った袋と建物丸ごと三棟入った袋は俺が持ち歩いている
「世界にただ一人の導師が持つ力をなんと心得ているのですか?
この能力があるからこそ世界中に散らばっている聖者を探し出し導く事が出来るのです、本来であれば誰にも知られてはならないよう秘匿すべき情報ですよ?それをわざわざ説明して差し上げているというのになんですかその大して凄くない珍しくもない魅力も感じない興味もないどうでもいいと言いたげな気のない態度は」
「そこまで言ってないのに」
「もういいです
この崇高な力の価値を解らない人になど活用してあげません
その辺の毒草とか誤って口にしたりすればいいんですよ」
イカン、ルルムスが完全に不貞腐れてしまった
心が読める能力は少し考えれば知られたら嫌がる人も多そうで
気持ち的にデリケートな問題にも発展しかねない
それと同じくこの世界の対象に付帯する説明文が読める事も
あまり珍しがって興味本位で関わる事じゃないと判断したからこそ無関心に振舞ったつもりだったんだが、どうやら対応を間違えたらしい
普通の人が持たない力を持つってのは
それだけで特異に見られるし相応の責任も生じてくる
……余計な気を回しすぎたか、素直に称賛しておけばよかったな
「人が欲しがるような力なら誰かに知られるのを避けるために
ここぞという時だけ使うのが正解だな」
普段使いはしない方がいいぞ、なんて
スネたルルムスの意向に沿った返事をしたつもりだったが
「こんなにも便利で有用な力を使い渋るなど本気で仰っているのですか?
魂の情報まで読み取れるのですよ?対象を囲むように光の御言葉が浮かび上がるのです、真実の神髄を常に垣間見られるというのに使わずに腐らせておくなどそれこそ神への冒涜だとは思わないのですか」
逆に態度を硬化させてしまったようだ
というかそこまで詳しく語っていいのか
「あの、ルルムスさん?
『教皇になる者にのみ継承される秘中の秘で
本来であれば誰にも知られてはならないよう秘匿すべき情報』なら
俺は今、聞いてはいけない事を聞いてしまった気がするんだが」
「貴方だからお話しているんですよ
言いふらすような方ではないと分かってますから」
「……そうか、俺だからか」
「あからさまに喜ばないで下さい気持ち悪い」
ずっと一緒にいる所為かルルムスの辛辣ぶりにも少し慣れた気がする
大切な秘密を俺にだけ話してくれたのは事実だから嬉しい事に変わりはない
これも一種の信頼ってやつか?徳の高い人間に言われると
俺の存在も肯定してくれてるみたいで嬉しさ三割増しだな
だからといって浮かれたりはしないぞ
上がったらそれ以上に落とされるのが人の世の常だ
特に俺の場合は。
「あしゅ、ごはんみつけた」
茂みをかき分ける音と共にまだまだ舌っ足らずな声が聞こえてくる
キャンプの準備をしている俺とルルムスから離れて
食材調達に向かったクラウスが帰ってきた
狩りができない俺とルルムスの代わりに
食材調達をかって出てくれた優しい子だ
その役割に立候補してくれた時
クラウスが竜人とはいえまだ子供である事に抵抗を覚えて
駄目だと首を振ろうとしたら
俺の肩をがしっと掴んできたルルムスが躊躇いなく賛成した
むしろ渋る俺の背中を押すように
「彼に任せればなんの問題もありません」と太鼓判を押していたな
心が読める者同士なにか会話でもしたのだろう
二人にしか分からない会話をされているかもしれないと思うと
話しに加われない俺は少し寂しいが、気を遣わせても悪いから
あまり寂しいと思わないように気を付けようと思う
クラウスは服を渡した時の俺の惜しみっぷりを覚えていたらしく
狩りの前に服を脱いで素っ裸でどこかへ走り去ったのには驚いた
初日の狩りから数日経った今では
盗賊の備蓄に含まれていた汚れてもいい襤褸を着るようにさせてはいるけどその内ちゃんとした狩り用の作業着を用意してやりたい
何事も格好から入るっていうのは意外と大事だったりするからな
風呂も入れず日々野宿はキツいよなぁと思っていたら
ルルムスが当たり前みたいに浄化導術を用いて俺たちの清潔を維持してくれた
飲み水に関しても導術一つで無害な飲料水を作ってくれる
生活に根差しすぎててルルムスが万能の神に思えたのは必然だ
導術使用代を月払いすべきだろうかと尋ねてみれば
白金貨がいくらあっても足りませんよと笑って断られた
「その代わり毎日美味しいものを食べさせてください
私はどうも料理の才能がないようでして」なんて困った顔で
言われてしまえば日々の食事にだって力が入るというものだ
狩りも、清潔維持に関しても役立たずな俺にとって
活躍できる数少ない役割だからな
聞けば、ルルムスも獲物の解体経験がなかった。
なので数日経った今の俺たち三人の役割は
狩猟担当クラウス、衛生担当ルルムス
食事担当俺、といった形で落ち着いている
見事な適材適所
曖昧知識ではあるが、クラウスと共に下処理方法を試行錯誤した初日以降
狩って即絞め、血と内臓を抜き解体までクラウス一人で
ぱっぱと出来るようになった
そう、”クラウス一人でぱっぱと”だ
なんといってもクラウスは竜人だからな
見た目では想像だにできないほど物凄いスペックを備えているらしい
魂の情報まで視通せるルルムス曰く
『 彼を殺せるのは古の王だけです 』
とのこと。
世界の終りの元凶だけがクラウスを抑え込めるんだとよ
どんだけ強いんだと思っていれば
滝裏避難所を出てサバイバルを開始した初日に思い知った
ものすごくデカい魔物を引き摺って帰ってきたのだ
全長約九メートル、トリケラトプスみたいな見た目のめちゃ怖い魔物
俺もルルムスもあんぐりと口を開けて呆けてしまった
あの時の衝撃的光景は今でも脳裏に焼き付いている
『世界の終わり』が始まった影響で世界中の魔物が活発に動き出している筈だとルルムスが言っていたが、竜人であるクラウスが傍にいるお蔭で
魔物に狙われずに済んでいるらしい
(クラウス様様だな)
しかし、以前フリッツたちと一緒に領境に向かった道中で
翼竜に襲撃された時の事を話せば
クラウスと暫し見つめ合ったルルムスが難しい顔をしながら教えてくれた
『 詳細は言いたがらないようですが、自分の所為だと仰ってますよ 』
そう言われて思い出したのは、翼竜が襲撃してくる直前
クラウスが申し訳なさそうに俺を見上げていた光景
そうか、それであの時あんな顔をしていたのかと納得しつつ
もう気にしてないぞという意味を込めて頭を撫でてやった
……で、
これまでの数日分の回想はこの辺にしておいて
今日クラウスが捕獲してきた獲物だがまたしても巨大な魔物だった
既に血と臓物と導力回路はクラウスがおいしく頂いた後らしく
残っているのは調理可能なお肉のみ。
それを俺の指示で皮剥ぎ輪切り角切りブツ切り削ぎ落しミンチにしてもらった上で残った皮と骨はクラウスのおやつとして小口切りにして袋に保管
ものすごい巨体の筈なんだけどな
どこで覚えて来たのか素手をナイフ代わりにして
豆腐みたいに切っていくんだから凄いものだ
ルルムスに”視て”確認してもらったが
解体中のクラウスは一切の導力を使っていなかった
つまり通常の腕力で既にバケモノ級
これに導力が備わったら誰も勝てないんじゃないか?
アレに勝てる古の王を倒しに行くなんてムリゲーだろ……
毎日精力的に狩りをしてきてくれるものだから
魔導袋の中に食料がどんどん溜まっていく
直ぐに調理できるよう下処理を済ませてあるし、別に構わないのだが
肉ばかりでは流石にと思っていた矢先に山菜も食べたくなったルルムスは鑑定……ではなく完全看破の能力を駆使して食べられそうな山菜を採ってきては能力で読み取った調理法を俺に教えてくれて食事に彩りも添えられるようになった。
調理法まで分かるのか
教皇のみに与えられる能力、正直ナメてたわ
なんて思ってたらルルムスが得意げな顔で鼻を鳴らし胸を張っていた
本日の昼食は魔物のステーキ山菜のサラダ添え
……多分五キロぐらいあるんじゃないかな
焼き加減の練習も兼ねていたので枚数を焼きすぎたけど
クラウスが残さず食べてくれるだろう
ルルムスが採って来てくれた木の実や種が
香辛料代わりになると分かったので
山菜の一部を潰してペースト状にしたものに
細かく砕いた実と種を混ぜて特製ソースを三種作り
一つは肉の油に混ぜてステーキにかけ
残り二つはそれぞれ風味を変えてサラダへ
調理を終えたので二人を呼び食事を始める
「今日はステーキですか
貴方が作り出す肉料理は種類豊富で飽きませんね
私が見たことも無い調理法も偶に見かけますし」
「あしゅ、おいしい」
「山ほどおかわりあるから好きなだけ食えよ」
「今回の魔物の肉はしつこくなくて山菜に合いますね
柔らかくて美味しいです」
「おう……ありがと、な」
褒められ慣れてないので返答がギクシャクしてしまう
美味しいと言われても人並みだからなぁ
料理人のニカが居ればこんなクオリティの料理は先ず出ないだろうし
ちゃんとした調理技術の高い人材が同行するようになったら
それ以外の事でルルムスを手伝えるようにならないとな
「あとどれぐらい進めば国境を越えられるでしょうか」
「関所を避けて山脈を超えるから行程も険しいし、天候にも左右される
隣国まではこの速度だと倍のひと月はかかると思っておいた方がいいな」
「国内にいる内はどの町に近づいても
すぐに憲兵が駆けつけると考えた方がいいでしょう
善良な領民が居たとしても私たちと関わっただけで
命の危険に晒されるでしょうし、最悪の場合は
町そのものを壊滅されかねません」
「避難者についても情報を探りたいし、ギルドや知り合いのレストラン連中
あとお前の……神殿のみんながどうしているのかも気になる
俺とクラウスだけ町に降りて情報収集するワケにはいかないのか?」
「絶対にダメです
アッシュ、貴方は実の弟妹に命を狙われているのですよ
私同様人相書き付きで指名手配されているかもしれません」
「人相書きなら大丈夫だと思うんだが」
「兎に角ダメです、この国を出るまで絶対に町には近づかないで下さい
いいですかアッシュ!絶対です!!絶対ですよ!!!」
「わ、分かった分かった!
分かったから顔圧をかけてくるな!」
「分ればよろしい」
テーブルの上に乗り出していた上半身を引き
椅子に座り直したルルムスの俺を見る目はやはり厳しい
そんなに睨まんでも絶対に町には下りないって……
……分かったってば
……分かったって言ってんだろ!
念を押すように見返していれば
やっとルルムスの厳しい目があさってに逸れる
目での会話ってそれが伝えられると分かると結構楽しいな
さて、話を戻すか。
「隣国といえば……
思ったんだが、この国が乗っ取られてからもう半月は経ってるし
場合によってはここと隣接する国もお前の身柄引き渡しを条件に
休戦か不可侵協定を結んでる可能性があるんじゃないか?」
「では決して同盟を結びそうにない国に向かうべきですね
幸いにも方角的に合っていますし
聖女が匿われているという話があるここから二つ隣の国
『エスティール聖国』へ向かいましょう」
「聖女かぁ……」
単語を聞いただけだとあまり良い印象は浮かばない
田崎がいろんなジャンルの小説を読み漁ってた所為か
ビッチ聖女とかメルヘン聖女とかなんちゃって聖女とか
異世界から召喚されしトラブルメーカー聖女とか
色々な設定の聖女を見た経験があるので
単語そのものが既に食傷過ぎて夢も希望も抱ける気がしない
ふと食事の手を止めて手元の皿に落としていた視線を上げる
右には可愛い系美少年、そして左には綺麗系美青年……
それらを前にお得感を感じる所か妙に寒々しい気分に駆られるのは
こいつらと一緒に居過ぎて美的感覚が麻痺しているからか?
女性一人でも加わってくれれば
また気の持ちようも変わってくるんだろうな
うん、こっそりと期待しておこう
家庭的で優しくて素直な女の子だったら凄く嬉しいなぁ
いやいや別にお嫁さんにとかは全く!これっぽっちも考えてないぞ!
野郎ばかりの生活に癒しは必須だろう?聖女と言ったってどうせ十代だろうし歳の差あるから俺はそもそもそういう対象にはなれないしなんだったらルルムスとかクラウスの仲人してやってもいいしなんだかんだでこいつらが幸せになれるなら全力で応援するし……でも……幼な妻かぁ……
想像するだけなら罪じゃないよな?
若いお嫁さんも憧れるなぁ、ほわわわ~ん、なんつって
「アッシュ」
「おう」
「鉄拳制裁じゃ済まされませんよ」
「想像して期待するぐらい許せよ」
「あしゅ」
「おう」
「ほわわわ~ん、てなに」
「効果音だ、ただの演出だから気にするな」
「ぶっふ!!」
クラウスとのやりとりにルルムスが盛大に噴き出した
物を飲み込もうとしたタイミングだったようで
教皇にあるまじき醜態を晒している
「アッシュ、ほわわーんって……!言いますか普通……ぐっふ!」
「ルルムス、肉が飛んで来たんだが?」
「す、すみませ……くっ!」
「いっそ盛大に笑ってくれ
ほれ、水」
何かがヤツのツボにはまったらしい
渡した水をあおり喉に詰まらせそうだった食べ物を飲み下すルルムスに
呆れた眼差しを向けながらふと疑問に思う
おかしいな、指名手配犯を連れて移動してる筈なのに
なんでこんなに緩みきった平和なキャンプしてるんだか。




