44<終末の元凶たる古の王が三日で判明しました
双子の情報網どうなってんだ
領内の人間は全員双子の手先とでも思わないと駄目なのか?
そしてルルムスの証言のお陰で何故双子が
直々にフリッツを襲いに来たのか理由と経緯が判明した
兎に角これだけはなんとしてもルルムスに分かってもらいたい
「なぁルルムス、確かに俺は友人とか人との絆に飢えている
けどな、流石に恋人は……女性、が良い……出来る事なら、可能であれば、こんな俺でも望んでいいのなら、是非女性でお願いしたい」
「突けば倒れそうな弱弱しい意思表明止めてくれませんか?
恋人になるとか友達になるとか声をかけられたら誰彼構わず
冗談抜きで簡単に拐されそうで心配になるので」
俺だって流石に誰彼構わずなんてことはない
恋人なんて望める様な立場ではないからな
これまでの所業を振り返れば
俺が幸せになろうとするなんて被害者は絶対に許さない
例えば、子供の命が理不尽に奪われたとして
奪った側の加害者はのうのうと生きて人生をエンジョイしている
そんなの命を奪われた子供の親からしたら必殺仕事人に頼みたくなる案件だろ
永遠に苦しみ生きろと呪いたくなるだろ
被害者にとって大なり小なり心に負った傷ってのは
生涯付き合っていかなくちゃならない不幸だ
忘れたくても忘れられないものなんだよ
ちょっとした事を切っ掛けに何度だって血を流す
田崎が混ざったお蔭でアシュランの事を客観的かつ被害者目線からも見ている部分があるので、この視点と思考がある限り俺はきっと
本当の意味で幸せになろうとは思えない
「……多分恋人は作らねーよ
そんな資格ねェからな、俺には」
「アッシュ、それは」
「それと、恋人の話は事実無根である事を踏まえた上でもう一度言うが
俺は今”ぼっち”じゃねェ」
「どういう意味ですか」
少し前から後ろでごそごそと動く音が聞こえていたから
クラウスが目覚めたことは察していた
ベッドから降りて俺の元に歩み寄ってくる様子が衝立の向こう側に見える
ふふふ、俺が子育てをしてるなんて知ったらルルムスも驚くだろうな
「紹介する、俺が今面倒見てる子供だ」
「あしゅ?」
「こっち来い、クラウス」
目を擦る手に照明の魔導具を持ち
衝立の向こう側から姿を見せると必然、二人の目が合う
同時に驚いたように見開かれるルルムスの眼
完全に凍り付く程驚いてもらえたので俺は非常に満足だ
「こいつはクラウスって言ってな
冒険者の依頼に同行した時にドラゴンの卵を」
「アッシュ」
「うん?」
説明しかけて呼びかけられたので一旦言葉を切ってルルムスを見やると
頭痛でもするのか頭を抱えたルルムスが酷い顔色で俺に目を向けた
クラウスが照明の魔導具を持っているお蔭で表情がハッキリと窺える
「貴方という人は……全く、本当に、ああもう……」
「ルルムス、まだ病み上がりなんだから無理するなよ?
もう話すのは止めとこう、今日はもう寝た方がいい
あーっと、少しでも何か腹に入れとくか
野菜スープなら直ぐに温めて持ってこれるぞ」
「では、スープを一杯お願いします」
「すぐ用意するからな、安静にしてろよ」
俺の代わりにクラウスを椅子に座らせて
ルルムスを看ているようお願いしておく
衝立の向こう側に移動した俺は急いで鍋を温め
ルルムス用のコップを探す作業に入った
*****
「古の王の守護者たる竜帝が何故こんな所に、しかも
よりにもよってアッシュと共に……いえ、一緒にいる理由は分かりますが
私が言いたいのは何故こんなにも早く行動を共にしているのかという事で
まだ”第一”の兆候が始まったばかりだというのに
”第六”に顕現する筈の貴方が何故、今、ここに存在しているんですか?」
一段と低くひそめられた私の声は
衝立の向こう側で調理し始めたアシュランには届かない
椅子に座らされた体制のままじっと見据える竜帝の眼差しには敵意こそ含まれていないが、明らかにアシュランを守るような態度を取っている
継承の義によって得た新たな能力は『完全看破』
つまり、対象の全てを見通す事のできる眼を手に入れたのである
歴代の教皇に脈々と受け継がれてきた特殊能力であったが
生まれながらに下位互換の『看破』を持っていた為
幼少より他者の心を読み取る能力に長けていた私は
これまでのどの教皇よりもその能力を使いこなしていた
よって今の眼にはアシュランや竜帝の状態や能力が全て視えている
本人さえも知らない魂の持つ情報まで、何もかも全てだ
この洞穴で最初にアシュランを見て、我が目を疑った
完全看破の能力によって視えたアシュランの情報が
余りにも信じられないようなものであったからだ
「……」
問いかけに、竜帝からの返答はない
ただ、人外の証たる金眼は真っ直ぐに私を映している
危害を加えたら許さない、と語っている
「心配しなくとも、私はアッシュの友人です
彼を傷つけるようなことはしません」
再会した彼を『視て』知ってしまった事実、それは
ア シ ュ ラ ン が 古 の 王 本 人 で あ っ た 事 。
一体いつから”そう”だったのか
突然人が変わったように振舞い始めたのは何か関係があるのだろうか
魂の情報は決して誤魔化すことはできない
導師継承の三日後に終末の黙示録の元凶たる
古の王を見つけてしまうなど一体誰が想像できる?
歴代の導師の中で
この不測の事態に正しい選択と行動ができる者が何人いるというのか
対処法の指南本があるなら悪魔に魂を売ってでも欲しいぐらいだ
到底受け入れられない事実に何度も我が目を疑い
頭を抱え苦悩するもアシュランの素直過ぎる態度に毒気を抜かれ
半ば考えることを放棄したに近い状態となり……
「正直暫く答えが出せないとは思いますが」
命を救われ四日間つきっきりで看病されてしまったというのに
その恩を仇で返す事などできなかった
例えそれが立場に背く事になろうとも、どうしても実行には移せなかった
だから必死に理由を探して、そして見つけた
「少なくとも……
古の王を殺すのは、導師たる私の役目ではありません」
導師は聖者を然るべき場所へと導くだけ
(ずるい解釈かも知れないが)
「救いたい」と心から望んだ存在がアシュランなのだ
(私は、その意志を貫きたい)
導師が古の王であるアシュランにそれを望んだのは
もしかしたら偶然ではなかったのかもしれないとさえ思えてくる
「それに……今のアッシュならきっと
もしかしたら別の道が拓けそうな気がするのです」
『完全看破』の能力によって視通したアシュランの魂に刻まれた情報には在り得ない事に、三つの名前と三つの称号があるように見えた
三つの内、理解できた名前はひとつだけ
「アースラム=セインツヴァイト」という知っている名前だ
もう二つは見たことのない文字で記されている
称号の項目については三つの内二つは理解する事が出来た
『 古王 』 と 『 贄 』 だ
それぞれの単語の意味は分かるが関係性がまるで分からない
一体どういう事だろうか、古の王が贄になるなどあり得るのか
完全看破は対象の全てを視る事のできる能力
なのに表記された文字が読めないのは、理解とは別物と判断するべきだろう
称号と名前が三つずつあるだけでも規格外だというのに
彼の持つ情報は通常の人間に比べて余りにも膨大だった
その詳細も三分の二は読めない文字で記されている
アシュランの魂の情報の殆どが謎に包まれている
ここで私はある仮説を立てた
『理解できない情報は、まだ定まっていないからではないか』
もしかしたら、古の王を世界の終わりなど引き起こさない
良い王に導く事のできる可能性があるのではないか、と。
(楽観のし過ぎだろう事は解っている、だが)
その可能性があるのなら縋りたい
なにより”導く”のは導師の称号を継承した己の役目だ
アシュランの、己を心配する姿を見た段階で
敵対するという選択肢の一切を排除した
同時に、アシュランが古の王である事実は
誰にも気づかれてはならない事だと強く心に留め
常に意識しておくよう心がけることにした
「スープ持ってきたぞ、熱いから気を付けろよ」
「子供に諭すような事仰らなくても大丈夫ですよ」
取っ手付きのマグを渡され、指先が温められる
洞穴の中は少し寒く感じられたので丁度良い暖が取れた
心配性の気があるのか私がマグを受け取っても
アシュランの手は暫く離れず
「四日も寝てたんだぞ、思うように体が動くと思ったら大間違いだ」
言いながらそっと手が離れて行った
こういう所が妙に紳士的なんですよねこの人は
沸き上がった気恥ずかしさを隠すようについキツイ台詞で返してしまう
私の悪癖だ
「なるほど、アッシュのくせに一理ありますね」
「台詞に棘生やさないと死ぬ病気にでもかかってんのか」
「非常に理不尽な目に遭っているので暫くは大目に見て下さい」
「……そう、だな」
町や神殿の惨状を思い出し
私が近しい同僚たちを失くしてしまった事実に気付き
真剣な様子で視線を落とすアシュランに内心で慌てる
「いえ、そうではなくてですね
町や国の惨状は関係なく、概ね貴方の所為なので安心して下さい」
「余計に安心する要素無くなったわ
なんだよ俺の所為って、介抱と看病しかしてない筈なんだが?」
「はい、そうですね
非常に理不尽ですからご安心を」
「理不尽を被ってるの俺の方だよな?
お前の言い分の方がよっぽど理不尽だよな?」
「美味しいですね、この野菜スープ」
「あ、おぅ、お粗末様です……っていやいやおかしいよな?
なに話逸らそうとしてんだ
俺の所為ってのが一体なんなのか説明しろ!
っていうか似たようなやり取り前にもあったよな?」
「細かい事気にしてるとハゲますよ
生え際薄くなってませんか」
「嘘だろすごくデリケートな問題に切り込んできやがったぞお前
全国津々浦々老若男女問わず気にする人が多い繊細で壊れやすい共感度ナンバーワンな禁句にも等しい日頃の悩みをお前は!!」
「それはそれは、申し訳ありません
私フサフサなもので」
「……はぁ、分かったよ
もう聞かねーよ……」
「ご理解頂けて幸いです」
「お蔭さんで凄いダメージ受けたわ」と呟くアシュランは
気を取り直したようにもうひとつ椅子を引っ張って来て腰掛ける
「この国が魔王の手に落ちたのは分かった
お前の役目を手伝う事も了承する……だが
俺には厄介な制約があってな、この領から出られないんだ」
「それについては問題ありません」
私の返答に目を丸くするアシュラン
詳しく彼を視通して分かった事がある
結構前にアシュランに刻まれた制約紋は解除され掻き消えていた
当然、解除を行ったのは彼の傍らにいる竜帝だ
本人に伝えても良いだろうかと思い竜帝に目配せをする
竜帝には私と同じ『看破』の能力が備わっているから
ある程度対象の心を読むことが出来るはずだ
私と目を合わせた竜帝はじっと私と見つめ合う
真剣な顔で見合っているので
アシュランには睨み合っているように見えたのだろう
「はっけよいのこった」とか言うべき?などとよくわからない事を呟いた
竜帝の心は表情同様に沈黙を貫いているが
拒否の気配がないので告げてもいいかと判断する
「アッシュ、貴方に刻まれている制約紋でしたら
随分前にクラウスが解除していたようです」
「……初耳なんだが?マジか?」
そろりと脇腹の服をずらして確認したアシュランは
なんの紋様もない肌を見て暫し絶句し……竜帝を見て、私を見て
再び自分の脇腹を見て先ほどとは違う音調で「マジか」と呟く
「あー、有難いやらあっけないやら
もしかしてこれフリッツたちと領境超えられた可能性あったんじゃねェの?
いや、それだとルルムスとはこうして会えなかったから
今のタイミングで知れたのは結果オーライって事だな
っていうかお前ら目で会話できるのか?
見つめ合ってただけだよな?眼だけで相撲とってたのか?」
アシュランは心の声もそうだが態度言動を改めて以降
たまによく分からない単語を織り交ぜて話してくる
会話していればそれがどういう意味なのかいずれ分かるだろうと踏んで
あえて聞き返さずにおいているが
如何せん今の彼の心の内はいつも大宴会のように騒がしい
心を入れ替える前まではこんなことは無かったのだが。
視るも一苦労読むも一苦労というヤツだ
「彼には他者の心を読む能力が備わっていますね
私にも似たような力が備わっているのである程度は
精神感応で意思伝達する事が可能なようです」
「えっルルムスにも?」
「ええ、彼と同じ力ではありませんが」
「なんか恥ずかしいな、親しき中にも礼儀ありだぞルルムス
勝手に俺の心の声聞いたりなんかしたらスケベ!って言うからな」
「その場合は高確率で貴方が変人扱いされるのでお勧めはしませんよ」
「俺の頭の中凄く五月蠅いぞ?」
「存じております
最低限の配慮はしておりますから、お気遣いなく」
「あ~クラウスに続きルルムスもかよ
益々変な事考えないように気を付けとかないとな」
ペチペチとコメカミを軽く叩きながら神妙な顔をするアシュランに苦笑いする
(私も、これに関してだけは相変わらず臆病だな)
ルルムスには過去、友人や知り合いの大半に能力が知れ渡った所為で
独りぼっちになってしまった時期があった
その過去を繰り返したくなくて今日までずっと
一番身近にいた教皇にすら言えずにいた秘密だったが
普通は心が読めるなどと言ってしまえば皆嫌がって寄り付かなくなるのに
アシュランは全く拒絶する素振りがない、気味悪がったりもしない
先ほどのようにほんの少し恥ずかしがっただけだ
これは非常に稀有な反応だと言える
今も、看破を駆使して感じたアシュランの心情は
信じ許容する、暖かな感覚のみ
完全看破によりアシュランがクラウスの心を読む能力に気付いていたと分かったからこそ、ついでとばかりになんて事ない雰囲気を装って己の能力も暴露した
しかも「彼と同じ力ではない」と半分の嘘を織り交ぜて予防線を張ってまで。
そんな私を竜帝は卑怯者だと罵るだろうか
少し気まずい気持ちでちらりと視線を向けたが、竜帝は渡されたマグに入ったスープを飲み干し自分でおかわりを注ぎに席を立ってしまった
私の心の葛藤に関わる気は無いらしい
最初の睨み合い以降彼の心が全く見えなくなった
お互いが看破の能力を持つ者同士だと
心を読まれないよう防御する術もあるようだ
竜帝は既にその技術を身に付けており私はスタートラインに立ったばかり
彼から盗み取れる技術があるのなら積極的に挑んでいこう
アシュランが私に友好的である限り
竜帝が牙を剥く事はないだろうから。




