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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
43/145

43<この国一週間も前に滅んでたの、知ってた?

寝覚めは大変に健やか、かつ気持ちのいいものだった

酷い光景を見た後だったが幸いにも悪夢に魘されることは無く

起き上がった俺は一瞬ここがどこであるかも忘れるほど

心地よく寝ぼけていた


傍らで俺の顔を覗き込んでいたクラウスを見つける

おお、初日と比べると常識範囲内の距離感だ


「おはようクラウス」


「おあよ、あしゅ」


「悪ィ、かなり寝てたみたいだ

変わった事は無かったか」


「とりつかまえた、やいた」


ワオ、ワイルドゥ☆

寝起きで目の前に鳥の丸焼きを突きつけられるとは思いもよらなんだ

血抜きもモツ抜きもせず羽すら抜いてないまま焼いたらしい

既に冷めてはいたが鼻先に突きつけられているので酷い臭いだ

連日に渡って悪臭の嗅ぎっ通しは勘弁してほしい


心地の良い眠気が吹っ飛んだ俺は冷え切った表情を浮かべ

差し出されたそれを受け取って洞穴の入り口に向かい

容赦なく滝つぼに投げ捨てた。

怪我人もいる洞穴を異臭で充満なんかさせたら

折角の高級寝具の寝心地も最悪になるだろうが

丸焼きっていうか多分中身は確実に生だろうな、食えるかあんなモン

……ん?鳥捕まえて焼いた?


「まさか、ここから出たのか?」


振り返り問いかければ、折角用意したであろう鳥の丸焼きを

捨てられたことに対する不満は見受けられない表情で頷くクラウス

一応煙やにおいに配慮して外で焼いてくれたらしい

良かった、最低限の配慮だけはしてくれたか

しかし外に出て鳥捕まえるって、危ないのによく出られたな

あと焼いたって?火種どうしたの、まさかドラゴンブレス?

大道芸人みたいな感じで口先でボッて?息で焼いたの?

……わかんない、起き抜けに聞きたくない

何言われても今更驚かないけどな、相手は竜人だし


クラウスが俺を見上げて首を傾げる


「ちぬき、もつぬき、はねぬき」


ああ、やっぱりコイツ俺の心読んでるわ

一体どうゆう原理なんだろうなぁ

情操教育上よくない事はなるべく聞かせないように気を付けねェと

そろそろ「竜人だから」というワードが魔法化しそうだ。


「獣を捌くタイミングが来たらちゃんと、」


あ、教えらんねェわ俺。

知識だけはあるけど実際に捌いた事は一度もない

しかも田崎よりアシュランの方がより詳しい知識を備えている

己の口に入るものに関しては知識欲人一倍だったからな……

そして素材だけ選んで料理人に全部押し付けてた記憶が蘇った

ボンボン育ちのアシュランが下処理の経験なんかある筈なかったよ

大事な事なのに教えられない事実に申し訳ない気分に駆られる

そんな俺の心情を読んだクラウスが優しいフォローを入れてくれた


「だいじょぶ、おれ、いきたままたべれる」


ワオ、ワイルドゥ☆

俺が寝てる間に何かを生きたまま食べたってことか?

……ルルムス食ったりしてないよな?

思わずもう一つのベッドを確認してしまう、よし、ちゃんと寝てる

布団の膨らみも違和感ないな、見えてるとこだけ食べ残して布団めくったらその部分ありませんでしたとかいう猟奇的ホラーな事にはなってないよな?なってたら泣くぞ?


「るるむすも、だいじょぶ」


頷くクラウスを見てホッと安心……いやちょっと待て

どっちの意味での「大丈夫」なんだそれは。

食べられますよって意味の大丈夫じゃないだろうな?

容体に変化はなかったですよ経過良好ですよって意味での「大丈夫」だよな?

後者だって信じるぞ俺は


兎に角人型の時に踊り食いは絶対に止めよう

竜型の時は場合によっては威厳を優先して踊り食いもいいかもしれないが

毒持ちや知的生命体はどちらの場合でも必ず殺してから食べることをお勧めする。なんでかって?丸呑みされても直ぐに死ぬわけではないからだ


よくあるパターンが丸呑みされた獲物が腹の内側から肉を切られたり爆発させられたりするケース

アレは絶対的強者の油断に他ならない

クラウスにはそういったお約束の隙は徹底的に潰していってもらいたいからな

なんて思ってたら頷いていたクラウスが変なトコに食いついてきた


「……ひと、ころしてたべていい?」


「基本的には駄目だ、だけどな

お前の命を脅かすような敵がいた場合は

例えそれが人間であっても決して容赦はするな

魔物よりも人間の方が残酷で残忍だ、分かったな」


「うん」


「……お前、結構喋れるようになったな」


「うん」


素直で可愛い反応だ、丸焼きを直に触ってしまった手をクラウスと共に滝の飛沫(しぶき)で洗い流してから水を払って乾かし、クラウスの頭を撫でる


「朝食、用意してくれてありがとな

次は食えるもんを一緒に用意するぞ」


鋭い歯を見せてにこっとクラウスが笑った

表情には見えなかったがやっぱり丸焼きを捨てられた事で落ち込んでたんだな

一生懸命取って来てくれたのかもしれないが

アレは食べ物としてカウントしてはならない

命には代えられんので容赦なく処分させてもらう

時には無情な事もあるのだと覚えてもらおう


さて、盗賊の備蓄庫も根こそぎ奪ったので

魔導袋の中に食材が山ほどあった筈だ

アシュランの塒の物も回収しておいて良かった

あの時の直感は正しかったなと今更に思う


一旦ルルムスを窺い、まだ目が覚めそうにない様子を確認してから

不意に目覚めても魔導袋の存在を知られずに済むよう念には念をと衝立を取り出しルルムスが眠る寝台と作業場を簡単に仕切る事で目隠ししておく

この状況を見られたらでかい家具や持ち込みの難しい道具の数々で

お察しされそうな気はしてるけど、バレたらバレたで仕方がない

今は国宝級でも駆使しなきゃいけない状況だしな


貯蔵庫と調理器具を取り出し

洞穴の一角にセッティングして色々な食材を並べて何を作ろうかと吟味する

こういう時魔導具って便利だよなぁ!

「なんでもかんでも魔導具ゴリ押しかよこの世界」ってディスった時もあったけど、なんだかんだで電気もコードもいらない持ち運びもラクラクなのはこういった有事の際に本来以上に性能を発揮してくれる

これらの道具が世間一般に普及したら

領民の暮らしも段違いに良くなるんだろうな

それこそ、田崎が居た高文明の世界を更に超越した物凄い生活水準の……


グゥ~、とクラウスの腹の虫が鳴る


おっと、食材選ぶのに時間をかけすぎた

無言の催促に笑みが零れる


「ちょっと待ってろよ、すぐに作ってやっから」


「てつだう」


アシュランが面倒見てるのに良い子に育ってる時点で奇跡だな


「暫くは見て覚えて、それから実戦な」


頷き適当な足場代わりになりそうな木箱を持ってきたクラウスは

料理する俺の手元を覗き込める位置にポジショニングする

その様子を見て、どうせなら

ニカの一流調理技術を見せてやりたかったなと思った

なんか俺の家庭的レベルな料理の腕前で申し訳なくなってくる


これはアレか

才能ある子供に高等教育を受けさせたい親の気持ちと言うやつか


しかしな~、田崎にもアシュランにもサバイバルの経験が殆ど無いのは

今後の生活においてかなり致命的だ

食料確保の為の経験は俺自身も積んでおいた方がいい

町があんな事になってしまったし

魔導袋に仕舞ってある財宝や盗品に関して

過去のアシュランの贖罪に関わる(ごう)(しがらみ)

あの町に関係する人々は焼き払われ殺されてしまった

ルルムスが何か知っているかもしれないのでそれに期待したい


だが、もし償う(すべ)を失くしてしまっている場合は

どうすればいいのだろうか


「一生をかけて……できるだけ多くの人たちに返していくしかないんだろうな」


償いをすると決めた時から

それに一生をかけることは初めから考えていた事だ

俺のやるべき事は変わらない

刻んだ食材をフライパンに投入してわっさわっさとかき混ぜる

量はとりあえず大人三人分

宿の食事でクラウスは底なしに食えるって分かったから常に多め。

ルルムスが目を覚ますまではここから動けない

その間に魔導袋の中身の分別を済ませてしまおう


そろそろ朝食を作り終える所で

テーブルや椅子を取り出しセッティングしてくれたクラウスに礼を言う

椅子や食器も種類はバラバラだがそれは一人暮らしの弊害だ

盛り付けられるならなんだっていい


「さ、食おうぜ

いただきます」


「いただき、ます」


クラウスは俺の言動を見様見真似する

そういえば食前食後の挨拶を教えたことは無かったな

うっかり田崎の感覚を引っ張ってきてしまったが

悪い意味ではないのでこのままでもいいだろう


朝食の間にルルムスが目覚めることは無かったので

余った食事はクラウスに食べてもらう

昨夜と同じく回復薬の三分の一を口に含ませ体の傷の具合を一通り確認し

更に回復薬を染ませて治癒を促進させる

床ずれを起こさないよう適度に体の位置を変えつつ看病と並行して

魔導袋の中身の整理分別を進めた


ルルムスが目覚めぬまま二日目、三日目と時が過ぎ

流石に本当に目を覚ますのか心配になってきた四日目の夜

ベッドの傍に椅子を寄せ顔を覗き込んでいた俺は決意を固めていた


明日の朝

ルルムスが目覚めなかったらここを出て別の町の神殿に連れて行く

俺の目では確認できない重大な怪我があるのかもしれない

手遅れになったら俺はここに留まる判断をした事を死ぬほど後悔するだろう


早く目を覚ましてくれと祈りながら、今日は心配のあまり

傍を離れることが出来ず椅子に座った状態で寝落ちしてしまった

入院した知り合いを心配して椅子でうたた寝する見舞い人の気持ちが分かった気がする。これすっごい心配してるって事じゃないか

ドラマみたいな大袈裟な演出も実際に経験しないと

その行動を取る人の気持ちって分からないものなんだなぁ


―――……その日の深夜


僅かな衣擦れの音に気付いて目を覚ますと

見上げた先で体を起こしたルルムスが俺を見つめていた

暗がりでハッキリとした表情は見えなかったが”起き上がっている”という事実に気づいて徐々に目を見開き、椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がる


「ルルムス!目が覚めたのか!!」


身を乗り出しベッドに両手を突いてしっかりと目を凝らし

ルルムスの様子を忙しなく観察する

顔色は暗がりで分からんが痛そうな気配無し、呼吸も正常!


「この野郎!目を覚ますならもっと早く起きやがれ!!

まる四日!まる四日間眠り続けてたんだぞ!?

めちゃくちゃ心配したんだからな馬鹿たれ!!」


安堵のあまりその場に突っ伏してばしばしとシーツを叩く

なんのリアクションも返ってこない事に不安を覚えておそるおそる顔を上げると

再び見上げたルルムスはじっと俺を見つめ続けており

酷くなにか言いたげな表情をしている事に気が付いた


何か、とても戸惑っているように見えるのだが……


「ま、まさか……何も覚えてないのか?記憶喪失か?

失語症になってるとか?自分の名前とか言えるか?」


やばい、メンタル的な病気は全くの専門外で知識すら備わってない

どうしようどうしようと右往左往しながら焦っていると、そんな俺の行動に

目を丸くしたルルムスが両手で顔を覆い、完全に俯いてしまった

騒ぎ過ぎたか?傷に触るような事をしてしまったのかもしれない

どうしよう、どうしたらいい?対処法がまるで分らず涙が出そうだ

絶対に助けたい、大事な俺の友人なのだから


「わ……悪い、行き成り怒鳴って悪かった

五月蠅くし過ぎたよな、体に異常はないか?痛い所があるなら言ってくれ

薬飲めるか?飲んどいてくれた方が俺も安心できるんだが」


ウロウロとさ迷わせていた手を丸くなったルルムスの背中に当てて

たどたどしく労わる……が、触って大丈夫だろうか

背中の傷はもう塞がっている事も確認済みだし

体の包帯だって昨日には全部取れたし。

ルルムス、頼むからなんかリアクションしてくれ……!


「…… ……、…………」


顔を覆ったルルムスのくぐもった声が聞こえるが何を言っているのか分からない


「ルルムス?」


何度か呼びかけて、やっとルルムスが顔を上げた

しかし次に見せた表情は酷く落ち込んでおり、思いつめたような深刻なもので


「アッシュ」


良かった、記憶喪失や失語症ではないらしい

名前を呼んでもらえて心底安堵した俺は

両肩の力を抜いて息を震わせながら深呼吸する


「……ああ、何か腹に入れとくか?一般的な病人食なら作ってやれる

今は体を治す事に集中してくれ、他の事は俺が全部やるから」


「では、回復薬を頂けますか?」


「よし来た任せろ!すぐ持って来てやるから!」


衝立の向こう側に一度身を引いた俺は

あれだけ騒がしくしたにも関わらずぐっすりと眠っているクラウスの傍らに置いといたバッグから薬瓶を一本取り出すとルルムスの元に戻り栓を抜いて手渡す


「ホラ、ゆっくり飲めよ」


「ありがとうございます」


ゆっくりと時間をかけて一本飲み干したルルムスは一息ついて

空になった瓶を俺に渡すと周囲を見渡した


「ここは?」


「俺の隠れ家の内のひとつだ

安心していい、外敵は入ってこれない自然要塞みたいなモンだからな

それよりお前の方こそどうしたんだ

あんなボロボロの状態で森の中をさ迷うなんて何があった?」


「貴方の身内に襲われました」


「……双子か?」


「ええ」


「ルルムスは町に居たんだろう

神殿があんな状態になってたのによく無事だったな」


「あんな状態?」


「生きててくれて本当に良かった……そうだ!

町の連中は避難できたのか?少しは避難できた奴もいるんだよな?

まさか……皆殺しにされた、なんてことないだろ?」


「アッシュ、落ち着いて聞いてください

先ほど、私が貴方に助けられてから四日経ったと言いましたね

私は急用がありそれよりも更に三日前の早朝、王都へ発ちました」


「……つまり、七日前?」


「ええ、この国は七日も前に滅んでいます」


「は?」


「聖典の伝承はご存知でしょう

第一の兆候が世界各国で確認されましたが国が対策を練る前に

この国はその配下によって滅ぼされました

命からがら逃げだした私は古の王の配下となった王国軍の追手を撒き

二日間森をさ迷って貴方と出くわしたのです」


「ちょっと待ってくれ、情報を整理したい

つまり俺が数日前に王都の方角に視たあの赤い光はやっぱり炎で

町と同じ状況になってて、古の王の配下っていうのが……俺の」


「ええ、貴方の双子のご兄妹

お二人は正式にセインツヴァイトと名乗りましたよ

私の殺害予告をした上で」


「殺害予告……」


「私は王都で継承の義を執り行い

正式に教皇という職に就き同時に『導師』という称号を得ました」


「昇進は確かに目出度いが、こんな状況じゃあ

素直に喜べねェよな」


「分かっていますか、アッシュ

私はこれから世界各国を旅して古の王を討伐すべく

四人の聖者を探しに行かねばならないのですよ

それこそ年単位かかるかもしれない」


「事の重大さは分かってるつもりだ、でも一人で大丈夫なのか?

出来る事なら手伝いたいんだが……

俺はただのモブだし、この領からは出られないし」


言葉の後半は口の中でもごもごと呟くだけになった

先ほどから真っ直ぐに俺の事を見つめ続けているルルムスが

酷く真剣な様子で問いかけてくる


「本当に……手伝って下さるのですか」


「当然だろ?お前は俺の……だ、だい……

ダチ!だからなっ」


「”大事”という言葉を口にする程度で

恥じらわないでくれませんかいい年して気持ちの悪い」


「言い慣れてないんだよこういう台詞は」


「まぁ、そうですね……いいですよ

私はアッシュの友人第一号ですし、いつまでも独りぼっちじゃ憐れですし」


「憐れって……言葉のチョイス考えろよ

それに俺は今現在ぼっちなんかじゃないぞ」


「ああ、そういえばフリッツという恋人ができた噂を耳にしましたが

驚きましたよ、まさか貴方に男性の恋人ができるなんて

……どうかしましたかアッシュ」


何から説明すればいいのだろうか


やっぱり先ずはフリッツの依頼とその経緯からか?


苦悩しつつ、もう一度目の前のベッドに

突っ伏す羽目になったのは言うまでもない

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