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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
41/145

41<ルルムスとクラウスとお気に入りの秘密基地

地面に倒れ込む寸前で抱き留めたルルムスは

体中傷だらけで酷い有様だった


意識のない彼を背負い、急いで渓谷へと向かう

東の森にある深い谷間(たにあい)は大量の湧き水が長い年月をかけて山を削った為にできたと言われている。近隣住民が付けた名称は『死の谷』

理由は諸説あるが、一番はここを訪れ死亡した者が多い所為だろう

強力な魔物の住処でもあり自然も容赦なく人間に牙をむく

人が生きていくには不向きな場所、それが俺が今いる場所だ


渓谷の裂け目となっている絶壁は滝が流れており

一番大きな滝の中ほどに作られた洞穴は

アシュランが領内に点在させている緊急避難所の内のひとつだ

出入り口は巧妙に隠しており身体強化によって絶壁に向かって

跳躍することで滝の裏側に潜り込むことが出来る

魔物も容易には入り込めない秘密基地だ


「しっかりしがみついとけよ」


慣れていないクラウスを行き成り長距離で跳躍させるのは流石に心配だったので最初は俺にくっついて飛ぶよう指示する

背中にはルルムスを背負っているので前にしがみつくよう促した


少しばかり唇を噛みしめたクラウスは俺を見上げて後

ちらりとほんの少しだけルルムスの顔を見てから頷き

両腕をいっぱいに伸ばして背負っているルルムスごとがっちりと掴むと

両足もルルムスの足を巻き込んでしっかりとしがみつく


俗にいう『だいしゅきホールド』ってヤツだな


田崎め、また空気をぶち壊すようなことを……

こちとら重傷のルルムス背負っとんのやぞ、自重せぇや

と、緊張感の欠片も無い田崎の知識を戒める


「いてっ」


クラウスの頭がワザと俺の顎にぶつけられた

アホ言うとらんとちゃちゃっと跳ばんかい、と暗に言われた気がする

過去何度となく成功させてきた跳躍だが

これだけの大荷物を抱えての跳躍は初めてだ

失敗したら即お陀仏なので集中しなければならない


両足に導力を最大限巡らせて滝を斜めに構えた位置から跳ぶと

なんとか目的の足場には着地できたが

リキみ過ぎたのか勢い余って前につんのめった

倒れ込む前にクラウスが両足を突き俺の体を支えてくれる


「助かった

ありがとな、クラウス」


頭を撫でてやりたいが両手はルルムスを背負うので塞がっている

気持ち微笑んだように見えたクラウスが奥に向かい

俺と同じく夜目が利くらしく

(あらかじ)め備え付けていた魔導具の燭台に明かりを灯した

火種ではなく導力を充填することで光を発する道具なので

燃焼によるボヤなどを心配する必要がない

使い方を教えた覚えはないのにクラウスはしっかりと使いこなしていた


滝の裏側に隠れた洞穴は本来水音が響いて五月蠅いものだが

この滝裏洞穴は入り口から少し奥に進めば音の反響が巧い事作用しているらしく滝が流れる音も殆ど聞こえなくなる、自然に出来上がった静かな場所だ


大自然に囲まれた、お気に入りの秘密基地のひとつ


前々から魔導袋を活用して家財道具も充実させていたので

怪我人を上等な寝具で介抱する事もできる

当然回復薬等の備えもバッチリだ

アシュランは常日頃から生き抜く事に余念がなかったからな

こういう気質のお蔭でこれまでも数多の暗殺者から逃れることができたのだろう


背負っていたルルムスをそっと寝台に寝かせ

ボロボロに汚れた服を裂き傷の程度を見る

素人目で見た限りでは致命傷を避けているようだが深く大きいものが多い

服に染み込んだ血の量から出血も多かったのだろう

ある程度まで自分の傷を癒しながら何かから逃げてきたのだろうか

目につく患部全てに直接回復薬をかけて傷の治癒を速めておく

その間クラウスも手伝ってくれてルルムスが身に付けていた服全てを取り払い、血のりや汚れを拭いながら手当てを進める


背中に付けられた大きな傷にも薬をかけて粗方の傷を消毒、治癒促進させると塞がるまで時間がかかりそうな傷に関しては包帯を巻いて処置しておいた

俺にも治癒術が使えれば良かったんだが

ルルムスが早く目覚めてくれることを祈るよりない


できるなら回復薬を一本飲み干して体の内側の治癒促進もさせたかったが意識のない人間相手に何か飲ませようものなら溺死させかねない

ご存じだろうか

少女漫画でいう所の気絶していたり意識のないヒーローにヒロインが

口移しで何かを飲ませて目覚めさせるシーンとかよくあるだろ?逆もまた然り

あれ、現実では不可能なヤツだからな。

意識のないヤツ相手に何か飲ませようものなら気管に入ってむしろ止め刺す可能性あるから。そういうシチュエーションに恵まれたとしても実践はしない方がいいぞ


例え俺が絶世の美男子だったとしても

相手が絶世の美女であったとしてもそれはない

合意なしにキスなんかしたら性犯罪待ったなしだ

少女漫画ではお約束のトキメキ展開だろうがリアルでは気持ち悪いにも程がある。慰謝料請求される。一方的に唇奪われるとかどんな悪夢だよいい加減にしろ


今現在介抱している相手は野郎だが、むしろ同性で良かった

でないとボロボロの服を遠慮なく剥いての応急処置もできなかっただろう


折角の黄金鉄板なシチュエーションなのに野郎が相手とか悔しい

血の涙を流しそうだ


……と、飽食の時代を生きた相変わらず空気読まない田崎が主張している

おい田崎、それセクハラだからな。女から男にするのはイケメンのみに許されたフィクションのイベントであり、男から女にするのもイケメンしか許されん所業だ

そして俺は当然イケメンではない、よく覚えておけ

妄想するだけ空しいって事をなァ!!


(……)


夢もへったくれもねェな


歳を重ねると物事を冷めた目線で見るようになるし

次第に夢なんぞ見なくなるモンなんだよ

という訳で何もしないよりマシなのでルルムスへの回復薬摂取開始だ

口の中を湿らせる程度に回復薬を脱脂綿に沁み込ませ時間をかけて少量ずつ馴染ませる。こういう時胃に直接流し込める挿管用チューブや点滴があればなぁと思うがそもそも医療行為自体やったことないので今ここにあっても意味ないか。

時折苦し気に乱れていた呼吸も少しずつ安定し始めて

回復薬が三分の一減った頃には顔色も随分よくなっていた

やはり回復薬の粘膜摂取は飲み込まずともある程度効果があるようだ


この様子ならばひとまず大丈夫だろうと安堵に肩の力を抜き

薬と血と汚れで汚くなったシーツを取り換えるべく

素っ裸のルルムスを一旦抱え上げた


「クラウス、頼む」


俺の望みを解っているかのように汚れた服と共にシーツも引っ張って取り除き

いつの間に用意していたのか、ベッドの傍らに置かれていた

替えのシーツをバサリと広げて素早くベッドメイクしていく


「え、なに、その手際」


呆然とクラウスの行動を見送っている間に寝台が綺麗になり

再びシーツの上にルルムスを横たわらせると魔導袋を取り出して

俺の貴重なゆるっとファッションその2を一式取り出した


傷が治ったのに未だにルルムスが目覚めないのは

おそらく導力が枯渇しているからだ


アシュランの締め付けピチピチ露出ファッションなら魔導袋に腐るほどあるが

休息が必要な人間に体を締め付ける服を着せる訳にもいかない

俺専用のゆるっとコーデはクラウスに一組使ってて残りあと二組しかない

にも関わらずこの場で更に一組使わざるを得ない状況に追い込まれている


「ふぐぅ……っ」


寝台の前でカーペットに覆われた地面に膝を突き

口元を押さえて嗚咽を(こら)える

ルルムスに着せる寝巻代わりの服を用意しようと思ったら

俺のゆるっとコーデシリーズしかないじゃないか

このようなタイミングでゆるっとコーデその2まで犠牲になるとは

俺もまだ袖通してないんだぞ?装備重視の所為で

アシュランファッションから脱せない現状が続いててただでさえ悔しいのに

この上お気に入りの服を他人に与えねばならない辛さのあまり涙が滲む

残り一組は絶対にキープしておきたい

古着屋で丸一日かけて厳選に厳選を重ねたお気に入りコーデなんだぞ

一度は全てクラウスに譲ろうと思ったが

手元にずっとあったらやっぱり惜しくなるのが人間の(さが)


「……」


俺のリアクションを見かねたクラウスが歩み寄り

頭をそっと撫でて慰めてくれる……が、今正に俺のコーデその1を

身に付けてる奴に慰められても素直に甘えることが出来ないのだが。

不満を込めて睨み付けるがクラウスの表情は

腹の立つことに何もかも理解していると言いたげな慈愛で満ちていた


慈愛って言うか……この憐れんだような顔、俺の事馬鹿にしてるよな?

やっぱりコイツ俺の心読めてるんじゃないだろうな?

ここまでの道中阿吽の呼吸が出来すぎている

俺の望みや考えている事を見透かしたような動きが多い


空気が読め過ぎるクラウスの事も気にはなるが

このままルルムスに風邪を引かせるわけにもいかないので

布地に十分な余裕のある俺のゆるっとコーデその2を

歯ぎしりしつつ、かつ相当未練がましくルルムスに着せて

ふわっふわの布団を被せる


なんかもう悔しくて仕方がないのでルルムスには

最高の寝具で最高の眠りを堪能してもらいたい

その方が気分的に導力の回復も早いだろう、と勝手に判断しておく


ちなみに、今まであえて言わずにおいたが

アシュランの過去の酷い生活態度で察している者たちも多い事だろう

俺は基本的に寝る時は裸族だったのである。寝巻はまだない。

勿論田崎混じりになってからは裸で眠った事は無いが

折角なので残りのゆるっとコーデ一組を着て眠りたい所だが

まだ何が起こるか分からない状態だ

常に動き出せるようにそのままの武装で眠った方がいいだろう

ルルムスがまだ何かに追われてる最中な可能性もあるからなぁ


「クラウス、悪いが限界だ……少し仮眠を取らせてくれ」


「みはり、まかせて」


「なるべく早く起きるからな

何か異変があったらすぐに起こせよ」


「あしゅつかれてる、やすも」


「絶対に起こせよ」


「……」


おい、こら、首を振るんじゃない、言う事聞きなさい

俺の言葉に首を振ったクラウスは「早く起きたりなんかしなくてもいい」という意味で首を振ったのだろうが異変が起きたら起こしてもらわなければ困る

じぃっと目で訴えれば案の定、クラウスは暫し目を泳がせて仕方なしに頷いた


お前やっぱり俺の考えてる事伝わってるだろ


心の中で問いかけるがクラウスはノーリアクションだ

チッ、お前のその察しが良すぎる理由いつか絶対に暴いてやるからな

いつの間にやら俺から魔導袋を取り上げていたらしく

ベッドを取り出し設置までしていたようだ、至れり尽くせりかよ。

結構な力で俺をそのベッドへと押しやり寝るように促されてしまった


子供に気遣われるなど情けないが

ずっと体を駆使して精神的にもキツい光景を目の当たりにしていた所為か

この時の俺は本当に疲れ切っていた


せめてブーツだけは脱ぎきってベッドに横になると

間も置かず直ぐに意識が眠りの底へと落ちていく


横になって三秒で眠れたのなんて久しぶりの体験だった

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