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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
32/145

32<生活環境をごっそり入れ替える事にした

建物を出た所で衛兵に声をかけ

女装した不審者に殺されかけたので撃退し

上層階の通路で伸びている事を伝え

施設管理者と共に階段を登って行くのを見届けて

相変わらず俺の顔を見続けるクラウスと手を繋いで靴を扱う店へ向かう

耐久力皆無のルームシューズなんかじゃ

主要街路以外の舗装されていない通りすらもまともに歩けないからな

服は現行で良しとして靴だけは色んなサイズを買っておこう

というわけでできる限り平たい場所を選んで進む


「足の裏が痛かったら『痛い』ってちゃんと言えよ」


そん時は抱っこしちゃる。

返事はないがじっと俺を見上げ続けているので

先ずは前を向いて歩けと教えるべきか

その割には足取りがしっかりしてるんだよな

竜人って視野広いとか?

俺を見てるようで実は360度見えてるとか?

あれもこれも「竜人の当たり前かも」と考えたら可能性無限大だな


(コケたり躓いたりがあるようだったら注意してやればいいか)


買い求める靴は、できれば田崎世界で言う所の

『トレッキングシューズ』に近い物が望ましい

ハイカットの登山用、足首までがっちりしっかり守ってくれる靴の事だ

冒険者の間で普及している靴は見た目だけはそれに近いものも多いが

大量生産などはされていないので機能性が安定しない

防御力を求めると大体が魔物の皮や骨を導術で加工したものになる


導術を用いた物は総じて『魔導具』と呼ばれている

庶民では到底手が出せない高級品だ


()()素材を()()で加工した()()だから『魔導具』

ちなみに、アシュランが所有している装備は全て導術加工された最高級魔導具

色んな効果が付与されているがどれほどのものかというと

分かり易い例を挙げるなら俺の実体験がいいだろう


竜による爪撃を受けると通常であれば即死する

掠っただけでもその部分を中心に広範囲が衝撃波で吹き飛ぶ

ドラゴンの導力が加わっている場合はただ”吹き飛ぶ”だけじゃない

細切れ以上の血煙レベルで吹き飛ぶ


しかしハイランクの魔導具を装備していたらその衝撃波を物ともせず

当たり所によっては部位が吹き飛ぶことも無く辛うじて生きていられる

脇腹を抉られただけで済んだ俺のように……十分致命傷だったけどな


竜の足蹴りを一度は防げる

それほどにありえへん防御力、といえば分かり易かろう


導術加工の魔導具、マジパネェっす


性能を思えばこぞって導術加工の発展にのめり込むこの世界の価値観も分からんでもない。田崎世界では戦車並みの装甲がこっちの世界では見た目ただの薄っぺらい胸当てともなれば、そりゃあ高額にもなる

当時のアシュランご自慢装備もドラゴンの蹴り一発でお釈迦になったけどな

ルルムスが処分したと言っていたから

あの一撃でほぼ全部の装備付与が飛び

唾液も浴びたから素材効果もなくなったんだろうな


ドラゴンさんのおみ足、マジパネェっす


ってドラゴンの足蹴りの強烈さについて話してたんじゃない

クラウスが履く靴についてだ。

田崎の知ってるトレッキングシューズのように

靴を愛する技術者たちの粋を結集させて生み出された

高性能な靴なんてこの世界には存在しない

あったとしても魔物素材を多用した超高級魔導具の靴になってしまう


性能を求めると魔導具にしやがるこの国のお約束の所為で

科学と医療はすっかり衰退しきりだ

困った時も大体が『導力』という名のゴリ押し超能力頼り

大量生産もできず技術料が高いので庶民に普及するわけがない

セレブにしか恩恵を与えない魔導具の所為で

貴族と庶民の経済格差は洒落にならんレベルまで広がっている


俺に導術の才能があったなら速攻でエコロジーかつ永久的にエネルギーを生み出せるような『導力発電所』を作って田崎世界でいう所の電力みたいに普及させて全国民の生活水準向上とそれに伴う技術革新に励んでいただろうになんだって俺には導術の才能のひとかけらも無いんだそういう部分こそチート能力があって然るべきでは無いのか俺だってほんのちょっと位は魔法ってのを使って楽しみたかったんだよ畜生め!


いかん、また思考が逸れた

頑丈な靴が欲しいのは勿論だが、サンダルとかの方がいいだろうか?

小さい靴を履いてる時にでかくなったらヘタしたらクラウスの足が潰れ……

……潰れるか?

むしろどんな頑丈な靴でもバリっと破れてしまうのでは?


人間如きが作った靴で竜の足が潰れる?


ないない、全然問題なさそうだ。

よし、安心して頑丈な靴を見繕ってやろう

クラウスがいきなりデカくなったり竜に変身したりを前提に考えてるけど

この世界で田崎の常識は通用せん

竜人に関するファンタジー知識は大いに参考にさせてもらうけどな!

備えあれば患いなしだ


さて、既に正午を回った本日の過密スケジュールだが。


先ず適当な店でクラウス用の靴をいくつか購入

フリッツたちから道案内の報酬を貰って町を出るのを見送って

初のパーティ任務達成の報告をすべくウォード商会のアマルティア産チョコもっちマシュマロを手土産にルルムスとお茶ついでにクラウスの事を紹介してそのまま神殿の一室を借りてレストラン経営改革案の書類を作成しポセ支配人に渡しに行くついでにレストランで夕飯を食べる

よし、再確認してもやっぱり忙しいスケジュールだ

少しぐらい明日に回した方がいいかな


(これだったらまた塒に戻って……いや、駄目だな)


思い出したのは暗殺者の襲撃


もうあの塒は安全ではない、セキュリティが高いから重宝していたが

一度でも外部の侵入を許したなら安全とは言えない

これまでのアシュランだったら大家にセキュリティを強化するよう怒鳴り込んで気にせず住み続けたかもしれないが。


クラウスの歩幅に合わせてゆっくりと昼下がりの街中を歩いていたら

徐々に頭が冴えてきた。さっきはなんとなく予感がして

荷物全部を撤収して出てきたがあの行動は正解だったなと思い直す

俺の首に懸賞金が掛かっている今の状況では

宿に関わる内部手引きの可能性も有るから

経営体制を確認してからでないと部屋を取る気にはならない

安全を確認できるまではこの宿の系列に泊まる選択肢は除外だな


かといってクラウスを連れて

セキュリティ面に不安のある宿に泊まるというのも

それはそれで安眠できそうにない


(いっそ野宿の方がいいのでは)


俺としては野宿でもなんら問題はない

何故かというと、アシュランが持つ秘密道具……至宝「魔導袋」の三つ目には

他二つの魔導袋にはない驚くべき機能が備わっている


なんと建造物も収納できてしまうトンでもない力が秘められているのだ!


無限に、という訳ではないが中堅程度の家ならば一軒まるごと収納可能!

しかもその魔導袋の中には既に二軒ほど家が収納されている!

……ものすごく実用的ではない


豪邸みたいなのが二軒


だけどな。役に立たねェよ、宝の持ち腐れだよ

野宿するのに豪邸を出し入れとか非効率極まりないだろうが

土地の確保の方が大変だわ


俺が欲しいのは雨風を凌げる小さいコテージのようなものだ

頭の中に浮かんだのは、盗賊団が隠れ家にしていた二軒の内の一軒

備蓄倉庫として扱っていたログハウス

作りはそんなに悪くなかったし、ものを保管しておく場所だっただけに

そこそこ頑丈に作られている

今後の野宿に使うにはうってつけの……


「ああ、駄目だ

そういえばギルドの連中が現場保存してるんだったか」


時間は既に昼過ぎ、昨夜の内に手配を終えた敏腕副ギルド長が

騎士隊駐屯地跡の現場保存だけでなく

盗賊の隠れ家もしっかりと押さえてしまっている事だろう

雨風を凌げる物件が手に入ると思ったんだが惜しい事をした


「仕方ない、町に寝泊まりするよりは安全だろうし

キャンプ用品も一式買っておくか」


野生の獣や魔物連中が

竜人であるクラウスにどう反応するかも見ておきたい

竜と同じように扱われるなら弱い動物は恐れをなして近づいてこない筈

周囲の町民の視線を感じながらアウトドアグッズを取り扱っている店に入り、どよめく一般客のリアクションをスルーしつつ必要そうなものをひょいひょいと小脇に抱えてさほど時間をかける事無く会計へ

傷や不良部分、ヒビなど値切れそうなところはしっかり交渉して

それなりの金額で購入し、店を出ると今度はクラウスの靴の入手だ


(一旦町を出て荷物を整理するか)


キャンプ道具一式は流石に大荷物だ

導技で身体強化を使っているから重さは気にならないが兎に角かさばる

ひと目のない場所まで行って魔導袋に全部放り込んでおきたい、あと

なんとかして手ごろな家を一軒持ち歩いておきたいな

無理なら幌付きの荷馬車か

少なくともクラウスが人の世界に馴染めるまで

街中の夜間に襲撃を受けるよりは野営中心の方がいいだろう


竜人を人間に馴染ませていいものかは甚だ疑問だが。


靴の店ではその場でクラウスに履かせるものを選ぶ

しかしここで想定外の問題に直面した


「……」


クラウスが靴を履こうとしてくれないのだ

しかもどこで覚えたのか

あれだけ目を離すまいと見つめていた俺から目を離してまで

俯きイヤイヤと言わんばかりに首を左右に振っている


揃えて置かれた靴を目の前に

しゃがみ込んで膝を抱え首を振り続けるクラウス


そんなクラウスのつむじを見下ろし困り果てる俺


子供を虐待しているのではと今にも衛兵を呼ぼうとザワつく一般客


どうしたものか。

とりあえずこのまま突っ立っておくのは悪手だな

ぼんやりしてたら衛兵を呼ばれてしまう


「靴、履いた方が安全だぞ?」


傍らにしゃがみ込み言い聞かせてみるが

返ってきたのは先ほどと同じく首を振り振り無言の抗議


「履きたくないのか?」


またも首振り


「靴の臭いが気になるとか」


更に首振り

試しに片方を手に取り鼻を近づけて見るが……

うん、中古だから普通に臭い

しかし臭くない靴なんて滅多に取り扱いがないからなぁ

ましてや新品自体もそれなりに素材の臭いは残るものだし

この臭いは俺的には気にならないレベルなんだが

竜人は嗅覚が鋭いのだろうか、それともこの類の臭いが一際不快なのか


「裸足のままじゃ、格好悪ィぞ?」


そう言ってみるとクラウスが伏せていた顔をぱっと上げた

不安げな瞳が俺を映す


「……ものすごく格好悪ィぞ?」


重ねて告げた言葉にクラウスの体が震え始める

眉間にも僅かに皺が寄っているので益々確信を持った


「靴を履いた格好良いクラウス、見てェなぁ」


靴履くクラウス見てみたいっ!あそれイッキ!イッキ!!

酒飲みコールみたいなノリとまでは言わないが、空気読まない田崎の知識が既に想像し終えてしまったので屑籠にゴミを投げ入れるが如く思考の隅にほかしとく


「見れねェの、残念だなァ」


クラウスの隣にしゃがみ込みそっぽ向いて落ち込んだフリをしてみせると

くい、と外套を引っ張られたので顔を向けてみれば

俺と目が合ったクラウスはぐっと表情に力を籠めると再び俺から視線を外し

じっと靴を見据え、その場に尻もちをついたかと思えば

靴を片方ずつ両手で持ってぐいぐいと足を突っ込み始めた


(おお……とうとう俺から目を離しはじめたぞ)


クラウスはどうやらトンでもないスピードで

人間でいう所の幼少期を駆け抜けているようだ

さっき一瞬だけ見せたのは「イヤイヤ期」だったのかもしれない

そうだとしたらいくら何でも一瞬過ぎる

もしかしてこの調子で少年期を終えて一気に体がでかくなるとかないだろうな?

この様子だと物凄くそんな気がしてならないんだが?

靴を履き終えどこか自信に満ち溢れ胸を張った雰囲気を纏って立ち上がったクラウスに一抹の不安を覚えつつ、俺も立ち上がる前にクラウスが履いている靴のかかとに指が一本入る隙間があるかを確認してみる

靴というものは隙間なくぴったりしたものを履くより、履いた後にかかとに指一本分の”あそび”があると長く履けて馴染みもいい


確認してみるとちゃんと指一本分の余裕がある

よし、サイズはこれでよさそうだ

クラウスはその場で何度か足踏みをして

無表情ではあるがどこか嬉しそうに見える

安全性と頑丈さを重視しつつ違うサイズもいくつか購入し店を出た


俺が手を伸ばさずとも自分から手を繋いできたクラウスは

今度は俺を見つめる事無く前を向いて歩き物珍し気に街中を見回している

仕草的には好奇心旺盛な四・五歳ぐらいの子供か?


(成長早っ)


突然走り出すかもしれないので手はしっかりと繋いでおいた

粗方買い出しも終わった事だし次は

ギルドで待っているであろうフリッツに案内料を貰いに行くワケだが

この大荷物を持って街中を闊歩するのもちょっとなぁ

早く町の外の一番近い森に入って荷物を片付けたい


ギルド前を通り過ぎようとして、ふとギルド倉庫街が目に入り(ひらめ)

倉庫借りた振りして倉庫の中で荷物出し入れすればいいじゃないか

というかギルド倉庫一棟欲しいな、デカすぎるから野宿には不向きだが

倉庫自体があると便利なんだよなぁ


俺がこんなにも倉庫代わりの建物を欲しがるのには理由がある

盗賊からせしめた物品の仕分けもせねばならんからだ。


(ここのギルドに任せるって手もあるんだがなぁ……)


現在ギルドは多忙に多忙を極めているのでこれ以上仕事を増やしても

物品処理に手が届くまで何か月先になるやら……

昨夜副ギルド長と話をした時に俺が受けていた依頼報酬に関する不正の調査ついでに過去の採算をまとめてみたら別件での横領が多数発覚してしまったとかでこの支部の責任者はもう何日も寝ていないらしい

かといって貴族が束ねる騎士隊に委ねようものなら

それこそ着服横流しの二次被害が出るだろう


腐りきって信用できない秩序なんて国が終わってるも同然だな

どこに預けても不安ならいっそ自分で調べて自分で返した方が早い

今俺が保有している金銀財宝に関してもしっかり中身を改めて

悪人を除き、不当に搾取されたものに限り

本来の持ち主に返していかないとな


(こりゃあ、リストを作るの大変だぞぉ)


なんせ俺自身自分が持つ財産の全てを把握しきれていないのだから

そんなワケで通りすがりついでにギルド倉庫へと向かう事にした

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