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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
29/145

29<他領の冒険者だが、物凄い過密行程だった

木箱を担ぎ上げたアシュランとそれを追いかけるフリッツ

町に向かって猛ダッシュしていく二人の背中を見送るヒユイが

身近な脅威が去った事に安堵しつつも心配の眼差しを向けていた


「アシュランさん

あの積荷の中身がやばいモノだって知ってたから引き取ろうとしてたのか

エメラインの導術が効いてくれて良かった」


「それならそうと言ってくれれば良かったじゃん

だったらあんな脅しみたいな交渉なんかしなくても済んだのに」


不貞腐れるトルピットに

自前の回復薬を飲み終え一息ついたエメラインが推察する


「中身が分かった時点でヒユイが

『ここで殺しておいた方がいい』って真っ先に提案したでしょ?

私も同意見だったわ

出発前に正直に中身を教えてくれたとして

私たちが積荷を放棄するのを避ける為に言わなかったのだと思う

コランダス、随分昔に竜の巣の監視依頼を受けた事があったわよね?

鳴き声を聞いてすぐに気が付いたんじゃない?」


「まァなぁ

魔物の幼体は生まれたばっかでも十分危ねェ

死と隣り合わせだったあの時見た光景は今でもよく覚えてらァ

だが、さっきのはまだ敵対している鳴き声じゃなかった

ヘタに刺激して状況を悪くするよりは

エメラインの力を貸すっていう奴の案に従った方が安全だと判断した」


「あの人やっぱりおかしいよ

賊だけじゃなくて魔物まで殺さないなんて

不殺の誓いでも立ててんのかなぁ」


「何か事情があるみたいだし、深く聞こうとは思わないけれど……

私の導術がいつまで持つか分からないし

付いて行ったフリッツが心配だわ」


「う~む……」


「何か他に心配事?」


「さっきの鳴き声が気になってなァ」


「ドラゴンの?」


「アレは親に甘える時に出す鳴き声だ

親の姿もねェのにおかしいと思ってよ」


「生まれたばかりで寝ぼけたとか」


「かもしんねェなァ

気配はトンでもなかったが敵意は感じなかった

荷車の振動も人の声も聞こえてた筈なのによ

生きた心地はしなかったが何にしても運が良かったぜ」


「ねーコランダス、アシュランの兄ちゃんが言ってたけど

『火の海』って大袈裟だよね?例えなんだよね?」


「いーやマジだ、ドラゴンの幼体は種類によっては

生まれて直ぐでも辺り一帯を焼き尽くせる火力を持ってやがる

確かアースかエレメンタルか……グランド・ドラゴンだったか?

覚えてねェなァ」


「ぇえ……フリッツと兄ちゃんは?

それが本当なら死んじゃうんじゃないの!?」


「アレはどう考えても巣へ帰しに行く雰囲気だったわよね?

町から山一つ向こうに巨竜の巣があるらしいから

もしかしてそこへ向かったのかしら?」


「無事に戻って来てくれたらいいんだが」


「野兎の巣穴でも見つけたら一匹獲っとくか」


「巣まで同行してたら危険極まりないものね

帰ってきたら好物で労うぐらいはしてあげなきゃ」


「皆なんでそんなに悠長にしてられるの!

フリッツが死んじゃったらどーすんだよ!」


「アシュランがそうさせないわよ

フリッツの事だって守ってくれるわ、きっと」


「万が一ってこともあるじゃんか!僕たちも早く町に急ごーよ!」


「そうだな、トルピットの言う通り備えておいて損はない、早く町に戻って

帰りの道中も万全を期する為に残りの積荷も調べておこう

これを運ぶのも長旅になるからな」


「あら、フリッツがまた騒ぎそうね

依頼では積荷の中身は詮索不要だったはずよ、いいの?」


「ギルド倉庫借りてそこでコッソリ調べりゃ問題ねェ

魔物の卵と同じようなモンつかまされたとあっちゃあ

こっちの命がいくつあっても足りねェからな」


「貴族の依頼だからと思って信用しきってたからね

今後あの貴族の依頼には手を出さない様に気を付けよう」


「それも大事だけどそーじゃなくて!

フリッツ追いかけよーよ!」


「無理よ、どこに行ったかわからないもの」


「エメ姉言ったじゃん!町から山一つ向こうに巨竜の巣が」


「ダーメ、詳しい場所が分からないでしょ」


ヒユイはコランダスを見る

以前巣の監視調査に赴いたコランダスならもしかしたら

話に上がっている巨竜の巣の場所も見当がつくかもしれないが

例え知っていたとしても危険すぎるので近づきたくはないだろう

コランダスがその件について自ら言い出そうとしない事から

ヒユイもあえて疑問を口にすることは無かった


「フリッツだってガキじゃねーんだ

テメーの行動にはテメーで責任とれンだろ」


「みんな冷た過ぎない!?」


「覚えておくのよトルピット

仲間と組んだ上で単独行動を取るという事は

己の行動に全責任を負うという事、なしくずしは全滅を招くわ」


目を細めたエメラインが諭す

ひとり危機感を募らせるトルピットを若いなと思いながら

仲間のやり取りを眺めるヒユイの視界に

不意に見慣れぬものが飛び込んできた


「……なぁ、みんな

アレはなんだ?」


緊張感漂うヒユイの声色に全員が即座に警戒態勢に入る

町の方角を見つめるヒユイに倣って同じ方向へ目を向けたエメラインが

思わずといった様子で言葉を漏らした


「なにアレ、あんなの町の近くにあったかしら?」


「いいや、無かったはずだ……塔か何かか?」


星明りに照らされた夜空を貫くように聳え立っている

巨大な柱のようなものが遠目に見える


「あ!あっちにも同じような影があるよ!あっちも!」


周囲を見渡したトルピットが異なった三方向を順に指差す

見晴らしの良い草原の向こう側に見える地平線には山脈が連なっており

その一角に、町の向こう側に見えている黒い柱と同じようなものが見えてる

距離はかなり遠いが山と比較しても

その規模はかなり大きいように見受けられた

更に別の方角にもずっと遠くに黒い柱がいくつも(そび)えているのが見えた


「これだけ一度に同じようなモノが見えるって事は……

自然現象?蜃気楼か何かかしら」


「建造物にも見えるけど、どれも遠すぎて分からないな」


「日が昇れば分かンだろ、兎に角町に戻るぞ」


道中で見かけた巣穴から野兎を一匹捕獲し

絞めてワタと血を抜き下処理を施しつつ町へ戻る

治安の悪い夜の町中でトラブルに巻き込まれぬよう警邏している衛兵に声をかけギルド倉庫まで付き添ってもらい、安全を確保できた所で倉庫内にて積荷の確認作業に入る

蓋を開けたことに気付かれないよう細心の注意を払って作業を続け

ドラゴンの卵のような危険物がない事を確認してから

倉庫番のギルド職員に声をかけて施錠する様子を見届ける


この時点で全員が心身ともに疲れ切っており

町の外に無数に見えている柱のような黒い影を

調べに行く余力など残ってはいなかった


宿に戻り従業員に声をかけ

下処理を終えた野兎を昼に丸焼きとして出してもらうよう手はずを整え

部屋に戻った時にはもうすぐ明け方を迎える時間帯だった


まだ体力に余裕のあったヒユイが他三人が就寝するのを見届けて

フリッツの帰りを待つべく宿にて起きて待ち始めたが

さほど時間を置くことなく完全に日が昇り切る前に

疲労困憊な様子ではあったが無事に帰ってきたフリッツを

ヒユイは笑顔で出迎えた


別行動した後どうなったのか尋ねるも

事後報告する力もないほど疲れていたらしく

装備もそのままに即行でベッドに沈み眠ってしまった為

一連の様子を見ていたヒユイも休むべくベッドへ潜り込む


ほぼ明け方に眠りに入った所為か

全員が目覚めたのは昼過ぎだった


寝ぼけ眼にベッドの上に座ったままぼーっとし続けるフリッツへ

トルピットがテンション高く声をかける


「おはよーフリッツ

ヒユイから聞いたけど僕らが帰ってきたすぐ後に戻ったんだって?

ドラゴンの卵はどーなったの?

アシュラン兄ちゃんが朝に届けてくれるって言ってた例の積荷は?

騎士隊の様子はいつ頃見に行く?」


「……トルピット

起き抜けに質問攻撃は勘弁してくれ」


「だぁって気になるじゃん!

孵化しかけてたんでしょ?竜の巣まで返しにいったの?なんで?」


「フリッツ、先に風呂に入ってこいよ

目が覚めるぞ」


「そうさせてもらう、酷い筋肉疲労だ……回復薬の副作用か?

太腿が痙攣してる」


「どれだけ無茶したのよ、介助は必要かしら?」


「大丈夫だ、なんとか動ける」


「フリッツ、おじーちゃんみたい」


両足をプルプルと痙攣させながら

施設内の一階にある大浴場へ向かおうとするフリッツの腕をつかみ

引き摺るようにコランダスが連れて行く様子を三人が見送る


「フリッツがあの様子じゃ今日中に出発は難しいかな」


「私も昨夜導術を使いすぎた所為でまだ体がだるいのよね

できるなら休みたいけれどそうも言ってられないし」


「クソ野郎どもとはいえ騎士隊と連絡とらなきゃだもんね……

気が進まないなぁ!このまま帰りたい!!

賊とやりあった騎士隊も消耗してるだろうし

絶対僕たちに八つ当たりしてくるじゃん!

でも盗賊どもの動きも把握しておかなきゃだし

またアシュラン兄ちゃんに案内してもらった方がいいかなぁ」


「私たちは先に昼食を頂いておきましょ

食べてる間に二人も戻って来るだろうから」


エメラインの提案で、既に身支度を整えていた三人は一階の食堂に降りて

風呂に入っている二人分の食事もテーブルに並べて食べ始める

丁度野兎の丸焼きが出てきた所で

足の痙攣が落ち着いたらしいフリッツとコランダスも戻り

仲間が獲ってきた己の好物が食卓に並んでいる事に気が付いたフリッツは有難うと笑みを浮かべ大いに喜んだ


「で、昨夜はどうだったの?

アシュランと朝まで二人っきりでし~っぽり!だったんでしょ?

筋肉が痙攣しちゃうほどハリキっちゃってさぁ~」


食器を鳴らしながら揶揄(からか)い交じりに問いかけるトルピットに

野兎にかぶりついたフリッツは心底嫌そうに眉を顰め

話しより食欲を優先してかぶりついた口を放さぬまま返事を返した


「ひっぽりなんて、生易(らまやは)ひい表現(ひょうれん)

(おは)まるか…… ……っての!」


肉を引きちぎりもしゃもしゃと咀嚼し水と一緒に流し込んだフリッツは

ダン、と勢いよくタンブラーの底でテーブルを叩くと

仲間四人に真剣な眼差しを向ける


「トンっでもなく濃厚な夜だったぜ!」


「ぶはっ!」


「ぐっ……げほごほ!」


物を口に含みながらのフリッツらしからぬ切り返しに

ヒユイが噴き出しコランダスが食べていた物を喉に詰まらせる

あらまぁと肩を竦ませたエメラインは周囲で食事をとっている数組のテーブルが

不自然に静まり返っている事に気が付く

目をぱちくりとさせたトルピットは徐々に顔を歪めると

震える指先をフリッツへ向けた


「え、マジで?フリッツって男もイケるクチだっ いってェ!エメ姉抓んなよ!」


「おばかトルピット

昼間っから下世話なネタで盛り上がらないの

フリッツ、話すことがあるなら場所を変えるべきじゃないかしら?」


「そうだな、食べ終わったらギルドの会議室を一室借りよう

今日のスケジュールも含めて

言っておかないといけない事が山ほどある」


「分かったわ、そういうワケだからトルピット

余計な事を 言 わ な い の っ 」


「痛い痛いっわかったよもォ!」


頬を抓られたトルピットも周囲から向けられる妙な気配に気づき

肌がぞわぞわするのを感じた

しっかりと腹を満たした五人は一旦部屋へ戻り

フリッツの指示で荷造りを終えて宿を引き払うとその足で

積荷を荷車ごと保管しているギルド施設へ向かった

その道中歩きながらぐるりと空を見渡したヒユイが呟く


「昨夜の黒い影、ないな」


「そういえばそうだね

やっぱりなんかの自然現象だったのかなぁ」


「ちょっと気になるわね」


四人全員が方々に顔を向け空を見渡し

なんの話か分からないフリッツだけが首を傾げる


「何かあったのか?」


「フリッツは見なかった?昨夜別行動した時に気付いたんだけど

町の西側とか北側とか、ずっと遠くに黒い柱みたいな影が見えたんだ

こーやって、こーんな感じで真っ直ぐ空に向かって伸びてて

高さだけなら山よりでかかったよ

天辺が霞んで見えたから空も貫いてるかも」


ジェスチャーで表現されるもフリッツに心当たりは無い


「俺の方は空を見る所じゃなかったから全然気づかなかったな」


「あーそっかぁ、そうだよねぇ

アシュラン兄ちゃんを見下ろすのに忙しかっ  ()ァ!!」


ポンと手を叩き、先ほどのネタを引っ張ったトルピットに

フリッツは眉を上げつつすかさず拳骨を叩きこんだ

ギルドに着き、二階の受付に向かえばヒユイが申し出るより先に

職員の案内を受け会議室の一室に通される


「副ギルド長が一時間後に伺いますので

それまでごゆっくりなさって下さい」


案内してくれた職員は頭を下げながら部屋の扉を静かに閉め、去っていく

促されるがままに入室した四人がざわつき始める


「なんで何も言ってないのにこの部屋に案内されたの?

なんでここの副ギルド長に会わなきゃいけないの?

意味わかんなくて怖いんだけど?」


「今から説明する、とりあえず座ろうぜ」


落ち着きを払ったフリッツの訳知りな様子を見た四人が大人しく席に着き

懐を探ったエメラインは盗聴防止の魔道具を取り出すとソレに導力を込める


「これでいいわ、盗み聞きされる心配はない」


「さっきの食堂ではアシュランさんの名前が出ただけで

周りが静まり返ってたからね

あれだけあからさまに聞き耳立てられると雑談もする気になれない」


「物騒な気配もいくつか混ざってたよ

ホント嫌われ者だよねぇ兄ちゃんって」


「話を聞こうじゃねェかフリッツ、俺らと別れた後何があった」


コランダスの問いに一度目を伏せたフリッツは

ひとつ息を吐き、顔を上げて四人へ説明し始めた


ドラゴンの卵を二つ巣に返した事

賊と騎士隊がドラゴンの襲撃を受けて双方壊滅した事

その時にアシュランが提案してくれた口裏合わせも含め

副ギルド長とは昨夜の内に報告し話し終えている事など


一夜の内に起こった出来事の全てを。

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