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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
27/145

27<忙しない夜長~卵運びは命がけ~

「正気かよ!?」


「無理に付いてこなくていいぞ」


「付いてくる来ないの話じゃない

竜の巣なんて人が立ち入る場所ではないって言ってるんだ!

そこへ孵化しかけてる卵を返しに行くだ!?冗談じゃない!

ドラゴンだぞ!?ここで始末しておくべきだ!

成長したら町に被害が出るかもしれない!」


「親が留守だったら卵を巣に置いて帰りゃいい

親が居るなら近くまで行って卵を転がして返しゃあいい

成長した後の事なんざ知るかって言いたいトコだが

対策が無い事もない……がそれを説明してやる義理もねェな

何が問題だ」


「問題だらけだ!そんな簡単にいくか!!

ドラゴンは人の臭いを嗅ぎ分ける

臭いを覚えられたら地の果てまで追ってくるんだぞ」


地竜(アース・ドラゴン)とやりあった事があるのか

この卵は一応、古代竜(エンシェント・ドラゴン)って触れ込みだから

地竜みたいに臭いで追いかけられることはないぞ」


「古代竜!?これが!?

伝説の生物ってもっとヤバイじゃないか!!」


「”触れ込み”っつっただろ、疑う事を覚えろよ

人里近くに古代竜の卵なんざあるワケねーだろが」


「……心配して言ってるんだぞ俺は」


狼狽えるフリッツに真顔で返せばギロリと睨み付けられてしまう

心を許してくれているのかは分からないがフリッツは素直過ぎだ

学生の頃に騎士団の見学に行ったことがあるが

どいつもこいつも馬鹿正直な性格の奴ばかりだった

フリッツは冒険者止めてとっとと騎士団に入った方が身の為だな


「親を見た限り、この卵の種類は巨竜(グランド・ドラゴン)

古代竜は巨竜の先祖返りだって話も聞くし

何百年周期でマジな古代竜が生まれるのかも知れないけどな」


ついさっき、それよりも更に珍しいであろう伝説……というか

神話にしか存在しなさそうな 『 竜 人 』 みたいなのが生まれたんだが


これは今の所言わない方がいいな、誰にも。


道中文句垂れながらも卵をひとつ背負って俺に付いて来てくれているフリッツ

こっちの都合に巻き込んじまったし何があってもフリッツだけは絶対に守ろう


巨竜が住み着いている森は魔窟に変貌するという。

密猟の際も行きがけで相当な数の魔物の襲撃に遭い苦労させられた

今も大なり小なり活発な魔物が飛び出してきてもいいぐらいなのだが

孵化しかけているドラゴンの禍々しい気配のお陰なのか

足音を響かせ大声で話もしながら大胆に進んでいるにも関わらず

周囲に動物たちの気配が感じられない

後ろを走るフリッツの息が切れ始めたので回復薬を投げて寄こす

何も言わずに投げたものだから薬と気付いて慌ててキャッチしたフリッツは

その瓶の形状を確認して苦々し気に顔を歪めた


「これも最高ランクかよ……一介の冒険者が

何本も持てるような代物じゃないだろ」


「さっさと飲め、こう見えて忙しいんだ俺は」


「ああそうだろうよ!俺だって積荷がまさか

ドラゴンの卵だなんて思ってもなかったっての!」


薬の代金は払わないからな!と言って回復薬を飲み干し

全身に身体強化の導技をかけなおすフリッツ

息を整えながら空になった瓶をバッグに仕舞い

丁度走る道が岩肌を晒し始めた所でぴたりと並走してきた


「あんたは飲まなくていいのか」


「疲れてねェからな」


「頬の怪我は」


言われて思い出した

部屋の中で孵化した卵の欠片が掠ってそのままだった

もう血も止まってるし、放っておいてもいいだろう


「掠り傷だ、気にすんな」


「気にする、結構派手に血が出てるぞ

消毒ぐらい」


「そんなコトしてる暇はねェ」


もうすぐ俺が殺されかけた場所に出る

遠目にも分かるほどその場所の木々は腐り焼け落ち爛れていた

二週間では山の惨状もそう変わらないか。

それを見止めたフリッツは喉を震わせ嫌そうに表情を歪める


「アシュラン、なんでわざわざこんな危険な事をするんだ」


「付いてくりゃ分かる」


「さっきから思ってたけどな!お前のその態度!

なんでそんなにツンケンするんだ!

一緒に仕事してんだからちょっとぐらい事情話せ!」


「依頼した事以上はしないさせない、が鉄則なんだろ」


「これに関しては俺たちの依頼にも関わる事だ

積荷の中身を入れ替えるんだから

俺たちが知っておくべき事でもあるだろ」


「ねェな、テメェらは依頼者が指定した積荷を運ぶだけだ

中身の事情なんざどうだっていい、違うか?」


「そういうの、なんて言うか知ってるか

” 減 ら ず 口 ” って言うんだ」


「豊富な語彙力(ごいりょく)の披露をありがとよ

そろそろ着くから気配は殺しとけ」


「馬鹿にするな、俺はこれでも学舎を二年出てるんだぞ」


「へぇ、庶民にしては裕福な方だったんだな」


「お前はどうなんだよ、元お貴族様」


「当然学導院でみっちり五年学んだに決まってんだろ

テメェら庶民と貴族じゃ教育レベルが天と地ほど違うんだ

この俺に口で勝とうなんざ一年早ェな」


「一年って……頑張れば勝てそうだな」


「騎士団に入るなら今すぐの方がいいぞ

寄宿舎でも十分学べるんだからな」


「受けたってどうせ通らない」


「騎士に採用されてる奴は庶民の方が多いんだぞ

貴族が幅利かせてっから出世は難しいが

冒険者としての暮らしとは比べるべくも無く良い筈だ」


「それ位は知ってる」


「現役で冒険者やって実績も積んでる、信用もある

学舎を二年出てるなら試験もイイトコまで行けるだろ

テメェは冒険者に向いてねェ

これだけ条件が揃ってんのになんで志願しねーんだ」


「それは……その……」


「女か」


「そんなんじゃない」


「親兄弟か」


「心配する事なんかない」


「じゃあ怖気づいてるだけか、腰抜け」


「何も知らないくせに適当言うな」


「っと、お喋りは一旦お預けだ

フリッツ、卵寄こせ」


「言いっぱなしかよ、腹の立つ」


まだ随分遠いが目視できる範囲に竜の巣を捉えた

その場にしゃがみ込んでフリッツが背負っていた卵を受け取り

両手で抱えて慎重に巣へ近づく

幸運な事に立ち位置は風下、臭いで気付かれる事は無い

付いてこようとしたフリッツを目で制して単独で近づく


巣の中に親の姿はなかった、これも運が良い

身体強化でひょいひょいと巣の中に足を踏み入れると

二週間経っていたこともあり巣の中が組み直されていた

幼体の死骸や割れた殻は見当たらず新しい枝や葉が敷き詰められている

やはりここの巨竜は巣を放棄しなかったようだ


(確か五・六年ほど前から、だったか?)


人里の、これほど近い場所に巨竜が巣を作るのはこの領地では初めての事で

最初の内は町を封鎖して領民全員退去するかという案まで出たほどだった

しかし不可解な事に竜は町に興味を示さずせっせと巣作りを始め

度々人間が様子を見に来るも竜が巣を放棄する気配は無く。

以前にも一度卵が産み落とされた事があったらしいが

それを危険と判断した冒険者側で駆除され一つも(かえ)らなかったらしい


アシュランたちのような裏稼業を行う者にとって

魔物の巣はどれも金のなる木だ

森はそれなりの深度だが竜が居つけるほど自然豊かではない

だから今でも不思議に思っている


巨竜は何を思ってここに巣を作ったのか

何故、過去一度卵を奪われているのに

今回も懲りずに同じ場所で産み落としたのだろう

どうして、俺は助かったのだろう


(あの時の巨竜は何かに気を取られている様子だったな)


俺を喰らおうとして突然その行動を止め、空の彼方へと飛び去った

竜種は総じて賢い

卵を狙われていると学んだなら巣の場所を変えるはずなのに

当時の疑問を思い返しながら柔らかな枝葉の上に卵を下ろす

巣が新しく組まれているなら卵を置いといても育ててくれるだろう

ふたつの卵から素早くベルトと布を取り去る

補強テープも剥がし急いで巣から撤収した、直後


『 ビョー!!ビョォォオオー!! 』


最初とは全く異なる鳴き声が殻の中から響く

鳴き声の振動だけで周囲がざわめき肌を刺す感触が全身を襲った

次いでバキンバキンと殻を割り開く音

丁度エメラインの催眠導術の効果が切れたのだろう

危ねェ、超ギリギリだった


「撤退だ!!」


待機していたフリッツに駆け抜けながら声をかけた背後で

巣の中から火柱が上がった、幼体が火を噴いたのだろう

相当距離があったのに火柱が上がった瞬間熱風が吹き背中に熱を感じた

フリッツと共に崖を転がり落ちる様な様相で下山し、森を駆ける間

巨大な影が頭上を通り過ぎ巣の方角に向かって飛んで行った

幼体の鳴き声で親が帰ってきたのか

巨竜の降り立つ振動で地面が揺れる

俺とフリッツは兎に角巣から距離を取る事に専念した


山の麓近くまで下りてやっと一息つくが、まだ塒には戻れない

今夜中にやっておかなきゃならない事がある

町の明かりを視認した所で駆け足のまま斜め後ろを振り返り声をかけた


「ありがとな、なんだかんだで助かった」


「俺が無理に付いて行っただけだ、礼なんかいらない」


「そうか……俺はまだ用がある、ここで別れるぞ」


「は?これだけ走ってまだ用事って……」


何か言いたげに戸惑うフリッツに眉を顰める

町も見え始めてるんだから流石にもう案内は必要ないだろうと思ったんだが、もしかして宿までの道が分からないから案内してくれとか?

それならまぁ次の目的地の通り道だからついでに案内してやるけど


「宿までの道が分からないなら行きがけのついでだ、案内してやる

ただ時間が無い、このまま走らせてもらう」


「まだ走るのか、本当に忙しないなあんたは」


言いながら走る速度を上げた俺をフリッツが追いかけ、横に並ぶ

双方まだ息が上がる気配はないが

フリッツの方はおそらく宿に着いた辺りで息切れし始めるだろう

宿まで持つなら回復薬はいらないな


ちなみに俺はまだ一本も回復薬を飲んでいない

フリッツより導力量が多いという事の証明なのだが……おかしいな

これまでの俺だったらそろそろ一本消費してもおかしくないほど身体強化の導技を使い続けているんだが、一向に疲れる気配が無い


むしろまだまだ動ける


昼間からずっと長距離を走り続けているのに今日一日ずっと調子がいい

こんなに体力が続くはずがないのだが

フリッツたちと交流できて嬉しさからハイになってる可能性もあるな


(……子供か俺は)


この理由で納得できるはずも無いのだがそれ以外に思い当たる事がない

今の所なんの問題も無いのでまぁいいか、と

不可解なほど有り余っている体力に関しては自己完結しておいた

眠気は若干感じてる……かな?睡眠欲はあるらしい


「今度はどこに行くつもりだ」


「テメェには関係ねェ」


「だから、そうやってツンケンするの止めろ!

ここまで付いてきたんだ、最後まで付き合わせてもらう」


「宿に戻ってろ、足手まといだ」


「何をもって足手まといだなんて言うんだよ」


「性格」


フリッツが押し黙った

本人も納得してしまう切り返しだったらしい

昼間に仲間から懇々と説教されたであろうフリッツの様子を想像しつい笑ってしまった俺のリアクションに首から上を紅潮させジト目で「笑うな」と訴えてくる


「卵の運搬を手伝ったんだ、手間賃を貰うぞ」


「さっき 『 礼はいらない 』 って言わなかったか」


「覚えてないな」


「調子良い脳ミソしてんなァ」


「孵化しかけのドラゴンの卵を

命の危険も顧みず背負って持って行ったのは俺だ

見返りを要求する!」


「急に恩着せがましくなりやがった」


ここまで言い募ってくるという事は

俺に恩着せて何かさせるのが目的だったって事か

そうだよな、そうでもないとドラゴンの卵なんて背負ってくれないよな


(うん、分かってた)


しっかり想定し終えていたとも

アシュランに対して善意だけで動いてくれる人なんて居るはずがないんだ

けどここまで打算丸見えだと辛い

田崎の世界がどれだけ無償の親切で満たされていたのかがよく分かる

それでもフリッツの言い分は俺が跳ねのけてしまえばそれまでなのだが、危険を承知で卵背負ってくれたのも事実だし巣にも近づいてくれたから危険手当という名の見返りぐらいは補填してもいいよな

人手があって助かったのも事実だし、なにより切迫した状況の中人が傍に居てくれて気持ち的に楽だったというのも事実だし


よし、フリッツの要望を飲んでやろう

早急に騎士隊の件を片付けた後になるけど


「なんの見返りが欲しいんだよ」


「騎士隊の様子を見に行きたい、一緒に来てくれ」


それ、正に今から俺がやろうとしてた事なんだが

返す言葉に迷ってフリッツを見ていたら

俺の視線に気づいたようで居心地悪そうに眼を泳がせる


「なにかの用で急いでるのは分かってる、だがあんたがいないと

さっきの森は罠が多すぎて無事に辿り着けそうにない

だから頼む、騎士隊の駐屯地まで連れて行ってくれれば

後は自分でどうにかする!」


真剣な表情で俺を見つめるフリッツに合点がいった

賊の隠れ家からの帰り際

妙に話を引き延ばそうとしていた理由はこれだったのか

俺が賊を騎士隊にけしかけたという話を聞いてから

積荷の運搬中も気になって仕方がなかったのだろう、だからといって

俺が「初めから騎士隊の方も様子を見に行く予定だった」とか言うのも……

なんかちょっと気まずいな

賊をけしかけたの俺だし、見込みでは騎士隊全滅だし


本来の予定では積荷を運び出せた時点で俺が離脱し

頭領の部屋を家探しした後に騎士隊の様子を見に行くつもりだった

ドラゴンの卵の所為で予定が大幅に狂わされたな


「分かった、見に行ってやるからお前は宿に」


「俺も行く」


「体力続かねェだろーが、もう回復薬はやらねェぞ」


「ランクは低いが自前のがある、無用な心配だ

それより同行してくれて感謝するぜ

案内料は上乗せしてやるから楽しみにしてろよ」


「ホントに付いてくる気か」


「行くったら行くんだ」


「ロクな光景じゃねェと思うが」


「だからくどい…… ……」


顰めッ面で言いかけたフリッツは横を走る俺に顔を向けて

その表情からすとんと感情を落とすと

やや間を置いて再び顰めッ面になる


「ガキ扱いするな!

確かに騎士に思う所はあるがそれとこれは関係ない

どんな悲惨な光景が広がってようが仕事上

同行した騎士隊がどうなったかを報告しなきゃならないんだよ」


「そういう理由なら、まぁ、構わねェが」


「変な気を回すな

行くと決まったなら急ぐぞ」


「町に寄る必要も無くなったな

よし、近道をするから武器構えてついて来い

もっと速度上げるぞ」


「今よりも?」


「なんだ、付いて来れねェか」


「情けないが今がギリギリだ」


「……足手まと」


「精進する!!」


ボソリと突っ込みかけてそれをかき消すようにフリッツが叫んだ

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