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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
23/145

23<ふたつの想いの先に在ったのは寂しさでした

盗賊のアジト南側の茂みにて

フリッツたちとの 『 交渉 』 が始まるほんの少し前に時は遡る




「行くぞっ」という

コランダスの潜めつつも威勢の良い掛け声で

姿勢を低くして賊の討伐に出た五人の背中を

茂みの中から羨望を込めて見送る


(い~なぁ~)


しみじみ思う……仲間、いいなぁ

あの信頼し合った感じが羨ましい


超、


羨ましい。


「行くぞ!」っていう掛け声から「応!」って感じで

飛び出して行く阿吽の呼吸というか一体感というか。

比較的軽度だと思うがコミュニケーション渇望症に陥ってる身としては

ハタから見ててもぅ羨ましゅーて羨ましゅーて……


俺も今からでも頑張れば

心から信頼し合えるようなああいう仲間、できるかなぁ


なんて思ってたらどんどん寂しくなってきた

田崎のインドアぼっちな時もアシュランの一匹狼な時も

人との交流なんて無くても全く問題なかったのに

なんで今の俺はこんなにも人恋しいのだろう?

やはりアシュランの生き意地に対する絶対に諦めない精神が

相変わらず変な方向に突っ走ってる所為だろうか


だとしたら長期に渡って突っ走り過ぎだ

何度も顔を合わせてるギルド長のビジネス一辺倒な対応が気になったり

ひとりで自炊して食事をしててもあんまり美味しくないと感じたり

田崎世界のSNSやネットがあったらいいのに、なんて事は

ここ最近特に感じてる事で


(……あ、)


これまでの感情の機微を振り返り ふ、と思い当たる

これはもしかして、一時的な感情の変化などではなく

アシュランと田崎が混ざり合った結果の

”今の俺自身”が持って生まれた、俺だけの性質なのでは?


話したい


関わりたい


孤独でいたくない


「あ~……ああ~~……」


アハ体験により発声する言語が一時的にバグった


どうも変だなおかしいな、田崎でもアシュランでも納得できない

妙な方向に感情が振り回されてるな、とは思ってたよ

なんで人から避けられまくってこんなに辛いんだろう、とは思ってたよ

なんで人に近づこうとここまで意地になるんだろう、とは思ってたよ

二人分の記憶がひとつになった”俺”は多分、きっと

おそらく、確実に



” 寂しがり屋 ” なんだ



でなきゃおばさまの井戸端会議や同年代であろうおじさん達の寄り合いに突撃まで仕出かすはずがない、たったひとりルルムスが友人になってくれたからと喜びまくる筈がない、フリッツたちと行動できることにあれだけ浮かれまくってかゆい所に手が届く程お膳立てに勤しむ筈がない

よっぽどの寂しがり屋でない限り


「どうか、誰か、俺と仲良くなってください」なんて


切実に祈る筈がないじゃないか


「ぁあぁ~~~」


もっと早くに気が付き自覚できていればあれほど振り回される事も無かった

人間何歳になっても新しい発見はあるものだと言うが

自分発見のタイミングとなると

遅ければ遅いほどモノによってはダメージがデカい

四十手前のオッサンがここまできてやっとこさ

「ああ俺寂しがり屋なんだ」って気が付いた瞬間の切なさよ。

その場でダンゴムシみたいに丸まって悶え苦しみたくもなる


(はぁ……いい年したオッサンが寂しがり屋って)


これは誰に知られても憐憫の眼差しを向けられ苦笑いしかされないヤツだ

男の矜持に関わる、絶対に隠し通し墓まで持っていかねばならぬ

寂しいと素直に訴えられるのは子供だけだ

そして大人になって寂しいと甘えられる相手は恋人か奥さんだけだ


(恋人か奥さん、か)


これまでのアシュランの所業を思い返せば

伴侶なんて……暖かい家族なんて夢のまた夢に違いない

と、考えただけで俺の心が盛大に吐血した


おい伴侶について考えるのを今すぐやめろ

環境の改善どころか評判すら底辺突き抜けている今の俺には

その望みは高すぎる、高すぎて天辺が見えない

俺へのダメージが全部クリティカルになってんだよ

恋人だの奥さんだの伴侶だのって言葉が物理的に心臓を貫いてんだよ


本人が分かっているならいちいち直視しなくてもいい事実ってのは往々にして存在するものだ、独身中年男性の婚活事情なんてその最もたるものだぞこのやろう!!

今は耐えろ!耐え忍ぶ時期なんだ頑張れ俺!寂しさに負けるな!!


(婚活が許される状況になったらできる限り頑張ってみよう)


そう、何事も前向きが大切だ

例え町中の人間から避けられていようと

たった一人の友人と気軽に会えない間柄であろうと

おはようの挨拶ひとつも返してもらえない状況であろうと!

ネバーギブアップだ!折れるんじゃないぞ俺!!

目指すのは町の人たちとの挨拶キャッチボール!!

「おはよう」には「おはよう」、「こんにちは」には「こんにちは」!

やってやれないことはない!そうだろう!?

よし!なんだかイケそうな気がしてきたァ!!


ガバッと上体を起こし、ダンゴムシスタイルを脱したこの時の俺は

全く気付いていなかった


この世界のアシュランの生活が夜中心で昼間の町の雰囲気に疎く

『通りすがりに挨拶を交わす』『会釈をする』という

習慣そのものがこの世界の『世間には存在しない』という事実を。

太平の世であるからこそ成り立っていた

『田崎の世界でだけの当たり前』だったという事実を……。


フリッツに対しては初対面時にモロ全面に出して縋ってしまったが

あの様子では既に忘れてくれているようなので

このまま二度と思い出さないでくれと祈っておく

本当にアレは失態だった

あの時は俺の心が限界突破してたんだろう、色々と。


ドラゴンの大口を前に田崎とアシュランの記憶と経験を混ぜっ返し

そうして生まれたのが田崎でありアシュランである 『 俺 』 だ

己を知り自覚したのも早い方に違いない

大事なのは『受け入れること』だ

知られたら恥ずかしいから隠しはするが、俺はちゃんと受け入れるぞ!


自分が 寂 し が り 屋 で あ る という事をなァ!!


その影響かは分らんが妄想内でのひとり遊びは得意だぞオラァ!

と、張った胸をそのままに心の中でもふんぞり返る

理解が及んだ分今後はある程度自制して動けるようになるだろう

思いがけぬ自分発見の機会で決意を新たにしつつ

先のフリッツたちとのやりとりを思い出し

折角親交を深める機会だったのに勿体なかったな、と

肩を落とす。


「ついでに荷運び手伝って」的な事を言ってきたトルピット少年に

即答で「おっしゃ任せろ」って頷こうと思ったのにフリッツが

そこそこ歴の長い俺でも初耳な

『 冒険者の鉄則 』 とやらを持ち出して(さえぎ)ってきた


なんだよソレ初めて聞いたよ俺

もしかして俺が知らないだけでギルドでは鉄則だったのか?

アシュランの記憶にはそんなのないぞ?

約二十年冒険者してたのに誰も教えてくれなかったのか?

こんなトコでもぼっち?ハブられ?泣くぞ?身も世も無く泣くぞ?

さっきよりも更に肩を落とす。


俺の中の寂しさをこれ以上刺激しないでくれ、自覚したばかりで

今は極薄クレープ生地みたいにデリケートになってるんだ

せめて瓦せんべい並みの強度になるまでそっとしておいてほしい


鉄則、とかいうハウスルールみたいな事言われたら

手伝いたいのに断らざるを得ないじゃないか。で、空気読んで断ったら

案の定トルピット少年にケチとか言われちゃったじゃないか

少年からはオッサン呼びから兄ちゃん呼びに変わってて

パンクロックな格好が要因とはいえ若々しい呼び方してもらえて嬉しくて

俺の中で好感度めちゃくちゃ上がってたのに、なのに

ケチ呼ばわりされちゃったじゃないかフリッツの馬鹿野郎!

さっきよりも更に、更~に肩を落とす。


挙句の果てに「決まりを守るから信用がついてくるんだぞ!」って

ドヤ顔までされて完全に表立って手助けできない状態に追い込まれるし

そんなに俺の手は借りたくないのかよ

ここまでお膳立てしたのにほんのちょびっとも仲間に入れてくれないのかよ

くそう俺の友人の輪を広めよう計画がおじゃんだよフリッツは敵だ


……イカン、いつの間にかダンゴムシスタイルに戻ってしまっている


(でもな、)


ぼっちな俺に最初に話しかけてくれたのもフリッツなんだよな

皆が遠巻きにする中たったひとり話しかけてくれた

他領から来た冒険者で俺に関する事情を知らなかったからといっても

あの状況で話しかけてくるのも十分凄い事だと思う


今回の事で騎士への盲目っぷりが少しは改善されてるといいんだが。

まだ色々気にしてそうだよなぁ、フリッツたちの積荷の運び出しが終わったら

早めに賊が騎士隊の襲撃から引き上げるように何か策を講じておくか


それに鉄則とかいうのに関しても

もしかしたらフリッツが住んでる領独自のものかもしれないし。

同行した騎士隊があれだけ腐ってたんだ

下々の連中も小さなことでも問題にならない様に気を付けてきた結果

自然に生まれた冒険者同士での決まりかもしれない

そう思えば納得だってできる


……本当に俺だけ知らされてない可能性もあるから

今の所はフリッツたちのルールに乗っかるけどな!


で、肝心の

手持無沙汰な俺はこれからどうするか、なのだが。


思いがけぬアハ体験の所為で頭の中はかなり忙しかったが

現状は暇だし、騎士隊と盗賊たちの様子を見に行ってこようか。

相当馬鹿やらかさない限りこれだけ手薄になった盗賊の隠れ家の制圧を

失敗するとは思えないが、万が一に備えてこの場に留まるべきか……


道中でフリッツたちの戦力を(はか)れる時間的余裕を作っておけばよかったな

有事の際に何もせず待機し続けるのは苦手だ

このソワソワ感は機動力あるアシュランの気質の影響だろう

何かしてないと落ち着かない

悶々としている間に目の前の備蓄倉庫からフリッツとコランダスが出てきた


目を瞬かせた俺は茂みから右に、左にと

ひょこひょこ顔を覗かせて様子を窺う


(早い)


もう制圧できたのか?

ここの賊は片手で捻れるような雑魚ではなかった筈だが

アイツらって実は結構実力者揃いだったのだろうか

間も置かず荷車まで引いて出てきた所を見ると本当に制圧し終わったらしい

いっとう力持ちのコランダスがでかい木箱をいくつも抱えて出てきて次々に荷車に積み込み始め、俺が潜む方角を見たフリッツが手招きのハンドサインを出す

見た目通り、こっちに来てくれという意味だろうな


(ここに居ても暇だし、ソワソワして仕方が無いし)


クギを刺された故に彼らの仕事に手を出すつもりはないが

傍で周囲を警戒するぐらいはしてもいいかな

余計な事するなって怒られなきゃいいけど

でも呼ばれたんだからそれ位はいいよな?


一度茂みに顔を引っ込めると今の内に思う存分笑みを浮かべて

ペチペチと頬を叩いてすまし顔を整えてから茂みを出て歩み寄れば

俺の行動を確認したフリッツは言葉を交わすことなく背を向け

他三人の加勢をするらしく賊の塒へと素早い抜き足で向かっていった

急ぐ背中を見送りながら荷物を積み込んでいるコランダスへと歩み寄る


「順調だな」


なんか手伝うことない?


「ああ、こっちの見張りは一人しかいなかったからな

指定された荷物の積み込みももうすぐ終わる」


……なんだ、そっか、もう終わるのか。


「ふぅん」


所無さげに揺らしていた両手指をズボンのポケットに引っ掛ける

気のない返事をしながら、一人だったらそりゃあ制圧も早いよなと納得する

賊の方がこちらにとって都合の良すぎる方向に動いてくれたらしい

日がある内に頭領とは上手く交渉を終えていたが、まさか

昼間あれだけ多かった備蓄倉庫の見張りを一人にしておくとは思わなかった


荷台を見れば木箱には番号が振られており

賊が近々裏ルートで出荷する予定の物である事がひと目で分かった

『指定された』とコランダスが言う辺り

貴族は木箱に振られた番号まで把握していたという事だ

蓋は頑丈に打ち付けられている為中身までは確認できない


ついでだし、昼間には確認できなかった賊の倉庫内も見ておくか

金目のものがあれば折角なので回収できるものは回収しておこう

盗賊の規模縮小と資金削減に大いに貢献だ

俺には荷運びの強い味方、空間導術が施された魔導袋があるからな!

俺が所持する中で最高ランクの隠し道具のひとつだ


『 空間導術が施された魔導袋 』


手のひらサイズのそれは一見どこにでもある巾着袋だが

その実態は一介の貴族であっても手に入らないと言われている超高級品だ

世界に七点しかないと言われており、内の三点をアシュランが所持している

場合によっては国同士の取引にも利用されるほど価値が高い


なんでそんな貴重なモノをアシュランが持ってるのかって?

裏オークションで落札したものもあるのだが、他は……


金庫に住んでいる魔王なヴァイオリン軍団が

チラチラこっちを見ている様子でお察し頂きたい


コランダスに見られるわけにはいかないので

物見の(てい)で倉庫に入りつつ『いい匂い』のする倉庫奥へと分け入り

いくつかのシートと布をばさばさと避けていく

そんな中自身の冴え渡る直観が大当たりの鐘を鳴らし

輝く金塊を見下ろして「ビンゴ!」と潜めつつも声を弾ませる

盗賊連中、武具を新調できるほど羽振りが良かったからな

大金を溜め込んでるとは思っていたがここまでとは。

金額からしてどこぞの裏金も含まれてそうだ……が、


(知ったこっちゃねェな)


全部例外なく回収だ

ただ、できる限り物品の流通ルートの把握はしておいた方がいい

それに関してはもう一戸の建物の方で頭領の部屋を調べて

あるかどうか、可能性は低いが帳簿の類を探して確保しておくか

賊の塒とはいえ貴族と取引できる規模なのだから

書類の一枚ぐらいは保管されているだろう


……多分。

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