22<他領の冒険者だが、自称元悪党を語ってみた
「思ったんだけどさぁ
アシュラン兄ちゃんってすげー甘くない?」
小型ナイフの血のりを払い、太腿に装備したカバーに手慣れた様子で差し込むトルピットがのんびりした口調で話し始める
声は潜めていない
その問いに答えたのは同じく声量を普段通りに戻したエメライン
「そうね、元悪党にしては言ってる事とやってる事がチグハグよね」
「賊には無意識に情けを掛けてるのかな」
傍でしゃがみ込み盗賊の首から矢を引き抜いたヒユイが
血を拭きとりながら考えを述べるが即座にエメラインが反論した
「それにしては見張り二人の落とし方に躊躇が無かったわね
殺してはなかったけど、情があるなら拘束も甘くなる筈でしょ?
その辺りは徹底しているように見えたから情けではないと思うわ」
「僕、コランダスがこっそり止め刺してたの見ちゃった」
トルピットが声を潜めて囁き
それを聞いた二人が驚いた表情で振り返る
ここに来るまでの隊列はアシュランを先頭に
フリッツ、ヒユイ、エメライン、トルピット、コランダスだった
無力化し終えた見張り二人の脇を通り過ぎた際
最後尾にいたコランダスが二人の首に刃を突き立てたのを
トルピットが目撃していたのだ
エメラインが顎に手を添えてため息を吐き、ヒユイは考え込むように腕を組む
「私も心配しながら通り過ぎたから
コランダスが始末してくれてたなら安心だわ
それが普通の対応だもの」
「わざわざ生かしたアシュランさんが
俺たちが殺したと知って気分を害さなければいいんだけどな」
「相手は賊だよ?殺すのが普通なのに
なんでわざわざリスク背負ってまで犯罪者を生け捕りにしなきゃなんないのさ
もし兄ちゃんが文句言ったら僕はコランダスの肩を持つよ」
盗賊の隠れ家の制圧はあっけなく終わった
アシュランの情報通り良い武器を装備してはいたが
隠密からの強襲を行えばほぼ全員一撃で『仕留める』事が出来た
トルピットは元から隠密行動が得意だった為小さな体を生かしての戦法で独壇場を演じ、ヒユイも仲間のサポートには熟達したスキルを持っていたのでフォローも完璧、エメラインは導術で対象の意識をかく乱後に命を狩り取った
現在、隠れ家の中は死屍累々
複数の死体でできた血溜まりを避けて歩いてきたフリッツが
先行制圧を済ませた三人が集まっていた広間へ顔を見せる
「こんなトコに居たのか三人とも
制圧し終わったなら荷運び手伝えよ」
「ねぇフリッツ、貴方宿でも言ってたけど……
アシュランって本当に悪党だったの?」
「わかんねぇな
でも、コランダスが持ち帰った情報も間違いはないと思ってる
町の連中にとんでもないレベルで嫌われてるのも事実だからな」
「さっき賊の情報を教えてもらってた時の事で
よくわからない人ねって話してたトコ」
「肝心の、夜の情報収集ができなかったからな
誰の所為とは言わないが」
「コランダスも結構怖い見た目なのに
余所者ってだけで喧嘩吹っ掛けられまくったって言ってたもんね
独りで行かせるんじゃなかったなぁ~
誰の所為とは言わないけどォ」
「私たち全員で情報収集に出るべきだったわね
誰の所為とは言わないけれど」
「俺の所為だって言いたいのかよ……」
「聞き分けのない貴方への説教で時間が潰れたんだから
貴方の所為に決まってるでしょう?
でも、解決策としてアシュランを連れて来てくれたお蔭で
結果として私たちの命が助かったわけだし、それいついてだけは
でかしたわフリッツ」
「よくやったフリッツ」
「おみごと~フリッツ」
「褒められてる気がしない」
「賊に対して『不殺』を当たり前のように指示した彼が
騎士隊を見捨ててるって事の方がよっぽど容赦ないわね
直接見聞きしたみたいだし
生かす価値もないほど腐ってたって事なんでしょうけれど」
「彼は騎士隊の事を初めから『敵』だとハッキリ明言していたからな
民を守るべき立場に居るはずの騎士が賊と同じ事をしていたなら
俺だってそっちの方が余程罪深いと考えるよ」
「でもさぁ、いくら騎士隊がクズでも
賊に対して『殺さず』なんて発言、普通だったら絶対に出てこないよ
盗賊なんて頭領だけ生け捕りにして他は全部殺すのが定石なのに
”無力化しろ”って言われた時はみんなもビックリしてたじゃん
僕だって聞き違いかと思ったもん
アレの所為でアシュラン兄ちゃんのことなんにも分かんなくなっちゃったよ」
「冒険者であれば……いや、悪党であっても決して出てこない言葉だ
盗賊と騎士隊を戦わせるなんてえげつない策を講じたのかと思えば
当たり前みたいに殺しを避ける発言をしてる」
「改めて言葉にすると不気味だな」
「矛盾してるわよね」
「なんかこう……誰にも理解できない行動って一番危なくない?」
「俺も不思議で仕方がないんだ
アシュランがどうして町の人からあんなにも嫌われてるのか
……悪い奴じゃねェのは確かなのに」
アシュランと昼食を共にしたフリッツは納得しかねる表情で腕を組み、俯く
その様子を横目にエメラインはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた
「い~っぱいフォローしてもらったものね、特にフリッツは。
騎士への憧れもズバリ見抜かれてたみたいだし」
「うるせーよ!やっぱ年の功か?悔しいな~
コランダスと同じ空気を感じる」
「私たちより長生きしてるんだから当然よ
目上は敬わないとね」
「昼間の格好の時は非力で弱いと思ってたのに」
「あっはは!腹筋バキバキで胸板ムキムキだったもんね~!
あの時のフリッツの落ち込みっぷりったら!あっは!
ちょー面白かった!」
「トルピット!このっ……」
「ねぇ、油売るのもこの辺にしておきましょ
あんまりモタモタしてたら
コランダスの怒りの地団駄を聞く羽目になるわよ」
仲間内のじゃれ合いが始まる前にエメラインが待ったをかける
苦もなく制圧できたとはいえ時間がない事に変わりはない
四人で建物を出た所で様子を見に来たコランダスと顔を合わせ
三人はエメラインの危機管理能力よる助言に感謝してアイコンタクトを送った
視線を交わす仲間を目の前になにがしかを覚ったコランダスは
四人全員を視線だけで窘める
長い付き合いだ、四人で無駄話に興じていたのがバレたのだろう
フリッツとトルピットは肩を強張らせそろりと視線を泳がせる
エメラインとヒユイは苦笑いで場を濁した
短い時間だが、アシュランの待つ南側の茂みに向かう間に
今後の予定について軽く話しを詰めておく
ヒユイがコランダスへ問いかけた
「どうだ?彼の様子は」
「別段怪しい動きはねェな
帰りも任せて大丈夫だろ」
「コランダスがそう言うならこのまま彼に案内を頼もう
依頼料はどれぐらい渡せばいいかな」
「相場通りなら銀貨五枚じゃん?」
「ガキの使いじゃねーんだから」
「えー?だってただの道案内だよ?妥当じゃんか」
「罠も事前に回避できて、盗賊の手勢も大幅に減らしてくれたんだ
銀貨じゃ割にあわねェ」
「そんなの兄ちゃんが勝手にやった事じゃん!
それに情報料で金貨五枚渡してるのにその上また金貨出すの?
僕たちが赤字になっちゃうよっ
依頼以外のことはしないさせないが鉄則だったんじゃないの?」
「騎士隊が担当していた偵察や根回しを
彼が事前にやっておいてくれたお陰で
私たちの生存確率が否応なく上がっちゃってるんだから
この場合は報酬に色を付けるのが常識よ」
「ややこしいなーもー」
「”持ちつ持たれつ”の対等を保つために報酬も変わるってこと
助けられてる状況で片方がケチったら
必ず痛いしっぺ返しが来るものなの」
「だからって僕らの利益が出なかったら
苦労して仕事こなしてる意味ないじゃん」
ムスっと頬をめいっぱい膨らませて俯くトルピットを宥めるヒユイ
「気持ちは分かるが、今回に関しては出し惜しみしない方がいい
騎士隊に嵌められそうだった事は
約束の時間を過ぎても彼らが姿を見せないことと
盗賊の数が想定よりもずっと少なかった事で明らかだからな」
「だとしても!金貨を出すのは反対っ」
トルピットは断固として主張する
エメラインもこれまでの道中の平和っぷりを踏まえて相場かそれ以上かと難しい顔で視線を彷徨わせ、コランダスは手持無沙汰に後頭部を搔く
アシュランの根回しが良すぎる所為か、順調快適が過ぎたのか……
余りにも楽な行程に財布の紐を引き絞りたくなる気持ちは
殆どがその日暮らしの冒険者であれば誰だってよく分かる事だった
トルピットは自分の取り分をこれ以上減らしたくない
エメラインは情報の重要性もよく理解している為迷っている
コランダスはこれから生まれる子供のためにも稼げる時に稼いでおきたい
フリッツはこのまま町へ戻って報酬を渡さねばならなくなる前に
やはり気になってしまっている騎士隊の様子だけでもなんとかして見に行けるようアシュランを説得できないものかと考え込む……そして、
節約できる部分は節約したい
この場にて、ヒユイ以外の全員がそう思っている
冒険者の大半が『目に見える苦労』が
多ければ多いほど金を出す傾向があるからだ
情報だけを扱う冒険者は身体的苦労を負わないと判断され
冒険者の中でも冷遇される傾向が強い、なので冷遇を避ける為
パーティの一員として斥候や戦闘補助を務めている場合が多い
頭脳戦と戦闘補助がメインのヒユイがまさにそういう立ち位置だった
五人の間で微妙な空気が漂い始める
その空気を敏感に察知したフリッツは今回の道案内の報酬に関して
あらかじめ金額を決めておくべきだったなとここに来て後悔し始めていた
全員が足跡を残さない様に歩き
荷台が置かれている建物の影に入った所で
傍に立っていたアシュランが人の悪い笑みを浮かべながら会話に割り込む
「安心しろよ
お互いの落とし所ってのに納得できなかった時の為に
『交渉』ってのが存在するんだから、なァ?」
どうやら途中からこちらの話は聞こえていたらしい
ニタリといやらしい笑みを浮かべたアシュランの
傍らに積まれている木箱のフタが開いている
(まさか……)
それを見たヒユイは彼がこれから持ち出すであろう道案内の報酬に関する『交渉事』の内容がなんであるかを即座に覚った
エメラインもそれに気づき深々とため息を吐く
「ほぉら、出し渋るような事言うから
早速しっぺ返しが来ちゃったじゃない」
「なに、どーゆーこと?」
「これから交わされるやりとりは教訓になる
今後の為にもよく覚えとけよ、トルピット」
同じくため息を吐いたヒユイはトルピットの頭をポンポンと優しく叩き
覚悟を決めアシュランを見据える
パーティの交渉事に関する担当は
『学導院』に一年ほど通った経験を持つエメラインと
『学舎』で二年学んだフリッツとヒユイだ
ヒユイは考える
フリッツたちが受けた依頼内容も把握していなかったのに半日とかけずそれら全部を知る事のできる情報網、自ら動き短時間で二つの勢力の偵察を終える鮮やかな立ち回り、盗賊を騎士隊の駐屯地に誘導した手回しの良さ、深夜帯にも関わらず覚えるのも難しい数の罠を明かりも灯さず難なく回避してここまで案内し、大幅に減っている賊の手勢をそれでもほぼ正確に予測してみせた事などから評価させてもらうなら
アシュランは 『 類稀なほどに有能 』 な人間だ
できることなら敵に回したくはない
しかもまだ帰りの道中がある
この段階で報酬に関する交渉事など持ち出されてしまえば
そうなった時点でお互いにフェアではなくなる
圧倒的に自分たちの方が不利だ
(やはり出発前にコランダスが持ち帰った情報通り
アシュランさんは犯罪者なのか?)
しかし初めて自己紹介してからこれまでの会話で
アシュランが悪人とは思えない、という見解は
パーティの中でも珍しく一致していた意見だ
そっけない態度や砕けた言葉の中に
小さな気遣いや助言を含ませてくれた彼だからこそ道案内を依頼した
普段から人を見る目が厳しいコランダスでさえ、夜の情報を持ち帰った上で
『ヤツの根は善人だ』と言い切るほどだったのだから。
そんな自分たちの判断を信じたい気持ちもある
しかし、今目の前に居るアシュランは
明らかに何かを企むような、不安を煽ってくる表情をしている
纏う雰囲気がフリッツたち全員の命を危険に晒していた




