21<夢と希望を打ち砕く、それは正に悪魔の所業
扉を開けたら室内に居た五人全員が俺に注目した
全員参加とは驚いた、八割ドタキャンになると思っていたから
そうなったらなったでお膳立ても済んでいる事だし
森に潜んでさりげなくサポートするつもりではあったのだが。
夜に情報収集を行わなかったのだろうか、それとも……
(案外、フリッツへの説教で時間が潰れたのかもなぁ)
俺の悪評を耳に入れているなら俺を見る目も変わってる筈だ
その変化が無いという事は
挨拶後部屋を出た直後のフリッツへの説教ぶりを思い出すと
俺の推測もあながち外れでもなさそうな気がする
見た目の大変身ぶりがよほど衝撃だったのだろう
フリッツと少年は大口開けて俺を凝視していた
「道案内の契約は成立だな」
呟いてみるが誰も返事を返してはくれず
各々が俺の見た目に関する感想を述べ始める
「格好良いじゃない、その方が男らしくて素敵よ」
「昼間と全然違う、誰かと思った」
「これがあの冴えないオッサン?詐欺じゃん!」
「いーいツラ構えしてんじゃねーか!」
「……裏切られた気分だ」
よりにもよって女性からは高評価
男性陣も軒並み……褒めてるんだよな?
趣味じゃないだけに複雑な気分だ
ゆるっとファッションだって格好良い着こなしなんだぞ
仕方がないか、この世界が俺の美的感覚に追いつくには
まだ何百年とかかりそうだしな、ふははは
ところで神妙な顔をしてるフリッツよ
服装が変わったぐらいで何がどう裏切りになるというんだ
「俺が守ってやろうと思ってたのに」
(……)
確かに守ってやるとは言われたような覚えはあるが。
えっ 昼間の俺の見た目ってそんなに弱そうだったのか?
(……)
複雑な気分だが、認識を改めてもらえてよかった
四十手前のオッサンが若者に格好良く守られてしまう、という
誰得な構図を展開させてしまう所だった
こりゃあ夜に出歩く時は周りにナメられないようにあえて
パンクロックでいる必要も考慮しなければいけないヤツなのだろうか
「早速出発するぞ」
今は考えたくない
あえて服装に関する思考を放棄する
店で思わぬ時間をくったので予定が押しているからな
早く盗賊の隠れ家に向かわなければ面倒な事になるのだ
ヘタするともう間に合わないかもしれない
戸口を開けたまま宿の出口に向かって走り出すと
五人が慌てた様子で付いてくる
「あら、走るの?今から?」
「すげーせっかちじゃん
冴えないオッサンじゃなくてせっかち兄さんじゃん」
「アシュラン!まだ行き先を伝えてない……っ」
「もう全部知ってる、テメェらの説明はなにひとついらねェ」
「いらないってどういう事だ!ワケがわからないっ」
「最短快適安心安全な道案内を約束してやるよ」
「兎に角止まってくれ、最低限の説明が必要だ」
「町の外でな」
「……畜生っ」
ギリギリ声が聞こえる距離を保ち走り続ける
止まる気配のない俺に悪態吐いたフリッツは
町の外に出て少し進んだ所で走る速度を瞬発的に早め
前を走り続けようとした俺の手を掴んだ
「説明してもらうぞ!」
場所は森に入る手前の草原
強制的に足を止めざるを得なくなった俺は不機嫌に後ろを振り返り
掴まれた手首を乱暴に振り払いながら付いてきた全員を見る
誰も息切れした様子がない事を確認してニヤリと笑みを浮かべた
「全員『導技』は使えるみたいだな」
「私は『導術』よ、階級は修導師だけれど」
「それでアシュラン、急いでる理由はなんだ?
どうして教えてもいない行き先を知ってる」
「歩きながら話す、全員俺の背後について来い
罠に掛かりたくなきゃ横には広がるな、前の奴の足跡を辿れ
賊どもが仕掛けてる罠の量はかなり多いからな」
「だからっ なんで罠とか知ってるんだ!」
「お前らと別れた後”両方”の偵察をしたからだよ」
俺の指示に即座に適応する所は流石場数を踏んでいる冒険者たちだ
森へ入った段階で前の人間の服を掴み蛇のように進む
フリッツの背中の服を掴んでいた青年が声を潜めて尋ねた
「両方って、盗賊と騎士隊?」
「そうだ、お前らの側についてる俺にとっては両方敵だからな」
「騎士隊は敵じゃない」
「フリッツ、それについては皆で話し合って決めただろ?」
「でもっ」
「アシュランさん……偵察の結果をお聞かせ願えませんか」
「金貨五枚、案内とは別料金だ」
「支払います」
「ヒユイ、勝手な事」
「命には代えられない」
「金貨五枚なんて高すぎる」
「教えて下さい、アシュランさん」
青年……ヒユイは『学舎』で学んだ経験があるようだ
言動に一定の教養が身についている
金貨五枚は冒険者にとって結構な大金なのに
それを迷いなく出す辺り物事を見極める能力は相当高い
あの騎士隊に相当な不満と疑心を抱いていたようだ
不満げなフリッツ経由で金貨を渡され
指先に受ける感触で枚数を数え懐に入れる
「要点を踏まえて手短に話す
今回お前らと同行した騎士隊の質は最悪だ
冒険者をゴミとしか思ってねェ
そいつら経由で渡された情報には嘘しかねェ
盗賊の隠れ家を騎士隊と協力して夜襲
賊を討伐し積荷を運び出す算段なんだってな?
フリッツ」
「騎士隊と俺たちしか知らない筈なのにどうやってその情報を?」
「実際に騎士隊が動くのは賊が寝静まる『夜明け』
お前らが深夜の内に夜襲することで罠の数と賊の数が減れば御の字
ついでにお前らも全滅してりゃあ万々歳って寸法だ
昼間、駐屯地で酒盛りしながらベラベラ喋ってたぜ
明け方までぐっすり眠って英気を養うんだとよ」
「最っ低」
「そんなこったろうと思ったよ、あの人でなしども!」
「でも、騎士隊は俺たちと同じ目的で
俺たちを見殺しにするような……嘘の情報なんて、そんな事は」
女性が嫌悪を滲ませ呟き、少年が悪態をつく
ショックを受けたフリッツの沈んだ表情が暗闇の中でも読み取れる
その様子はまるで英雄を信じて失望した子供のように見えた
ここまで言っても騎士隊を信じたがっているなら
他に大きな理由があるって事だ
最初にフリッツを観察した時の印象を思い出す
『自警団というより、騎士と名乗っても……』
そんな事を思ったことがあった俺は
ここでやっとフリッツの内に少年のような心があると気が付いた
俺が騎士でも似合いそうだなと思ったのは
フリッツが望んでそう振舞っていたからだったのか
これを乗り越えたら大きく成長しそうだなぁコイツ
「フリッツ」
「俺は、」
「あの騎士隊は、お前が目指すにゃゴミ過ぎる」
「騎士はゴミなんかじゃ」
「お前、冒険者の実情をよォく知ってるよなァ?
例えば小さな子供が頼もしいお前の姿を見て冒険者に憧れを抱いたとする
その後、子供は町で冒険者の姿を見かける度に憧れを見たと喜んだ
偶然見かけたその冒険者がたとえ
仲間を平気で見捨てるようなクソ野郎だとしても、だ
冒険者ってだけで皆お前のように頼もしくて優しい筈だと信じ込んで
クソ野郎の冒険者にまで憧れの目を向けるんだ
そんな憐れな子供にお前は何をしてやれる
憧れを守ってやるために、クソ野郎に向ける子供の目を
そっと覆ってやるのがお前の優しさか?クソ野郎の実態を教える事無く?
冒険者はみんな優しくて頼もしいんだとでも言い聞かせるつもりか?」
「俺が、その憐れな子供だってのか」
怒りを滲ませて睨み付けてくるフリッツの視線に
くい、と眉を吊り上げるだけで返事を返す
それを肯定の意と受け取ったフリッツは何も言わずに奥歯を噛みしめているが
フリッツ、今後ろを振り向いたら
連れの四人全員がしみじみと頷いている光景が拝めるぞ
「だからお前、この依頼が済んだら
王都の宮廷騎士団を見学して来いよ
マジモンの騎士を拝みゃあ少しはその目も肥えんだろ」
「宮廷騎士団?」
「場末のクズ騎士眺めて満足してんじゃねェってこった
物事を一方向から見るんじゃなく多面的に捉えて見聞広げとけ」
「イイコト言うわね、アシュラン」
「王都行くんなら付き合うよ!僕も行ってみたい!王都!」
「物事を多面的に……全くその通りだ」
「俺は遠出はパスだぜ、オメェらで好きにしろ」
「えー、一緒に行こうよコランダス」
「もうすぐガキが生まれんだよ
王都なんて遠いトコ行ってられっか」
スキンヘッドはイカつい見た目に反して既に所帯持ちだったのか
冒険者で生計を立てるのは難しいと思うがよくやっている
やはりこのパーティの核は年長者の彼のようだな
「そういう理由じゃ貴方の同行は無理ね」
「だが、四人じゃ魔物の対応も心もとないぞ」
「王都までの良い道案内を雇いたいわねぇ」
ちら、とヒユイと女性から視線が向けられる直前に
前へ向き直って素知らぬ顔で進む
背後で女性が「フラれちゃった」と軽口を叩いているが
俺はもとより領地から出られないから王都には同行できない
受けられない依頼に期待を持たせるのも悪いから
今の内に態度でハッキリさせておこう
隠れ家から一定の距離まで迫った所で進行方向に気配を察知し
フリッツ達に息を潜めるようハンドサインを出した
獣か魔物だったら隠密は利かないし厄介だな
外套を深く被り直し
口元を黒い布で覆うと後方に待機の指示を出して俺だけ先行する
向かった先には巡回の見張りが二名
丁度背中を向けて遠ざかり始めたので背後を強襲し
姿を見られる事無く昏倒させ、手早く拘束し目隠しと猿轡をかませる
縛っている間に肉食獣に見つかったらそれはそれでご愁傷様だな
仲間に見つけてもらえるまで己の無事を祈ってろ
気絶した状態の賊二人を足元に転がして短く合掌する
一旦戻って再びフリッツたちを伴い息を潜めながら
隠れ家を目視で確認できる距離まで近づいた
この辺りには罠の設置は無い
少年が俺の真横に歩み寄り小さく口笛を鳴らした
風と羽音がしているので周囲には響いていない
「凄いねアシュラン、ここまでの道中確かに安心安全快適だったよ」
「賊を二人仕留めたのも鮮やかな手並みでした」
「さて、偵察情報の後半部分だ
盗賊に関してだが連中は今、騎士隊を奇襲してる頃だろうな」
俺の言葉にフリッツが戸惑いの声を上げる
「どういう事だ」
「昼間に酒盛りをしてたと言っただろ
酒でぐっすり眠ってる騎士隊を賊どもが襲いに行ってる
全滅の可能性は高いがそれがアイツらの運命だったってことだな」
「ひえ~、アシュランてば賊と騎士隊をワザとぶつからせたの?」
「今彼らがぶつかってないと私たちがぶつかる事になってたものね
騎士隊の企みを利用したという事かしら?」
「今すぐ場所を言え、助けに行く!」
最低限声を潜めながら俺に詰め寄るフリッツ
俺の案内が無いと騎士隊の駐屯地まで無事にはたどり着けないだろう
必死な様子のフリッツを冷めた目で見つめる
「ヤツらはお前らを罠にかけようとした上
賊が生け捕りにするだろう彼女を姦して楽しもうとまでしてた
それでも助ける価値があると思ってるのか?
さっき言った筈だぞ、連中は騎士とは名ばかりのクズどもだってな」
「命には代えられないだろうっ」
「もし、彼女が乱暴をされた後でも……
無残な姿をした彼女の目を見て、クズどもを助けたいって言えるのか?」
「……それは仮定の話で」
「フリッツ、俺はエメラインを傷つける話をしてた連中を助ける気はないぞ」
「俺もだ、ツラぁ見せやがったら逆にぶっ殺してやってるぜ」
「僕も!騎士隊より仲間のエメ姉の方がずっと大事だもん」
「みんなありがと、私は良い仲間を持ったわね……で、フリッツは?」
「俺だって当然、エメラインには指一本だって触れさせる気はない!」
「じゃあ騎士隊の事は騎士隊にお任せして私たちは私たちのすべき仕事をしましょ
賊をとっちめて積荷を取り戻すの、本来の予定通り……でしょ?」
「そっちの話はまとまったな
情報の続きを教えてやる
賊は最近装備を充実させたばかりだ
隠し武器と飛び道具には特に気を付けろ
さっきも言ったように賊の大半は騎士隊を狩りに行ってる
目の前の隠れ家に残ってるのは少数だろうが腕の立つ連中ばかりだ
全員呼び笛を持ってるから一人ずつ確実に無力化していけ
簡単でもいいから縛り上げて、猿轡は必須だ」
俺の言葉にフリッツたち全員が神妙な顔つきで俺を凝視する
なんだ、なんか文句でもあるのか?
じぃ~っと俺を見つめた五人は
今度はそれぞれ仲間内で視線を交わし合っている
なんのアイコンタクトなのか俺には分からんが
後にしてもらってもいいだろうか
「なんだよ」
「アシュラン、お前……本当に悪党だったのか?」
「は?何言ってやがる」
「いや……なんでもない」
「意見が無いなら話を進めるぞ
賊の本隊が戻ってきたらお前らに勝ち目はない
一度でも笛を吹かれた時点で直ぐに撤退しろ
逃走経路に関しては俺が安全を保障してやる
制圧が上手く行ったらすぐに積荷の運び出しに取り掛かれ
荷物の搬送経路も確保してある
手前が備蓄用の倉庫で奥が賊どもの塒に使われている
塒の方の部屋数は大体分かっているが
備蓄倉庫の内部までは流石に見張りの目が多くて確認できなかった
あとはお前らの好きなように動けばいい
時間が無いと言ったのはこういう事情があったからだ
金貨五枚分の値打ちは十分にあっただろう?」
地面に盗賊の家の内部を簡単に書き記し
五人全員がその場で頭に叩き込む
口元を緩めたヒユイが俺に笑みを向けた
「全て有益な情報でした、ありがとうございますアシュランさん」
「ねぇ兄ちゃん、僕らが制圧し終えるまでここで暇してるなら
積荷を乗せる荷台ぐらいは」
「止めろトルピット、頼んだ以上の仕事はしないさせないってのが
冒険者の鉄則だろうが」
「構わねェぜ、前払いで金貨五十はもらうけどな」
「これは絶対にやらないっていう意思表示ね」
「アシュランを使おうとするのは諦めろよ」
「ぶ~ぅ、暇してんならちょっとぐらい手ェ貸してくれてもいーじゃん
アシュラン兄ちゃんのケチ」
「仕事に決まりは必要だ、それを守ってるからこそ信用も付いてくるんだぞ」
「わかったよもう!時間が無いんでしょ?
僕とヒユイとエメ姉で賊の塒を制圧しに行く
フリッツとコランダスは手前の倉庫をお願い
倉庫の方が人数も少なそうだし
積荷の運び出しも力持ちの二人に任せるよ」
「笛を吹かれたら即撤退な」
「……輸送するにしても撤退するにしても、騎士隊はどうする」
「それは後で考えましょ
兎に角、盗賊全員と真正面からやり合うのはナシね」
「最優先すべきは自分と仲間の命、その次に依頼の達成だ
行くぞっ」
コランダスの号令で俺を除く全員が姿勢を低くして茂みから飛び出す
建物の裏手に素早く回り
さほど間を置かず要所要所から微かな物音が上がり始めた




