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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
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2<神殿の利用履歴が最悪過ぎて絶望した

回復薬と中和剤を命の綱に休み休み山を下り、町までの長い道のりを歩き……

神殿に着いたのは夜も更けた午前三時


アシュランが悪名高い影響で塩対応の警備兵に睨まれた後

街中を通り過ぎても時間帯のお陰で人に会わずに済んだのは幸いだが

やはりというか必然というか、応対した神殿の人からは

のっけから満開な嫌悪の眼差しを惜しげもなくプレゼントされてしまった


「ここまで自力で来れるなら

そのまま宿へ戻って自己治癒に任せればいいのでは?」


「……」


ご尤も。

だが生憎と今の俺は自己治癒だけでは治せないものがあった

ドラゴン爪による裂傷だけでなく唾液を浴びた所為で感染症に罹っている

中和剤も回復薬も少しずつ飲んでいたが町に着いた時点で使い切ってしまった


さてどうするべきか、と考えながら

過去アシュランが関わってきた神殿に関する出来事を思い出すも……

その全てがろくでもないオンパレードで

早速心の中で頭を抱えた悪党アシュランの身で言うのもなんだが

神殿の人たちはみな人が良い、基本的に性根が善人の集まりだ

こんな最低クズ野郎でも嫌々ながら治療を施してくれていたのだから

ほんに有難いことである

なので嫌味や皮肉の一言二言……三言四言五言六言……

これまでの俺の暴挙を思い返せば

気が済むまでいくらでも言ってほしいぐらいなのだが


「おや、珍しく静かじゃないですか

いつもみたいに時間帯も弁えず喚き散らさないのですか?

よく言ってるじゃないですか貴方

治癒師である我々の事を……なんと仰ってましたかね?」


ええ、はい、神殿にお世話になる度に問題起こしてましたね俺。

とうに勘当されたクセにイイトコの出を主張して神殿従事者の方々を

あろうことか「治療しか能のないウジ虫」とか「金持ちにすり寄る寄生虫」とか


ウジ虫も寄生虫も「テメーの事だろうが」って

ツッコミ待ちしてるみたいなブーメラン乙の罵詈雑言ばかりぶつけてたな

しかも俺ってばこの神殿での治療代を踏み倒しまくってる

相場より高いだのなんだのと難癖付けて

相手を選んで時には怒鳴りつけ、時には殊勝な面持ちで、時には弱弱しく

目的の治療が終わったら態度を急変させて

「対応が悪い」「治療が十分でない」「この程度の掠り傷に治療費を取るのか」と

文句ばかり言って結局治療費を払わない


(これまで一度も治療費、払った事ないんじゃないかなぁ……俺)


おかしいな?数えきれないほどお世話になってるのに

神殿にお金を収めたことが一度も無いって……


嘘だろアシュラン、嘘って言って。


思い返して絶望に暮れる

今すぐにでも平身低頭で詫びを入れたいが

胸痛が酷過ぎて腰を折る事すらできない

喋るのも厳しい、今ここで膝を折ったら多分もう立てない

そんな死に体の俺を決して招き入れる事無く門前で応対しているのは

元イイトコの坊ちゃんだった俺の暴言にも果敢に言い返し

意見してくる神殿の貴重な存在


対アシュラン用神殿防壁、ルルムス・アッパヤード


一か月ほど前からだろう

神殿を訪れた際の俺の対応は全部ルルムスが行うようになった

着任早々俺と大立ち回りを演じた所を見るに

俺対策の為だけにこの町の神殿へ異動してきたようなものだ

美丈夫で若く、町で伝え聞く噂からもとても有能らしく人望も厚い

もっと相応しいポストがあっただろうに

こんなドクズ野郎の為に異動させられてきたかもしれない、なんて

なんと申し訳ないことか


……ここまで言うと自意識過剰だな

異動してきた理由が他にあるにしても俺の所為で苦労しているのは事実だ

やっぱり申し訳ないことに変わりはない


傍若無人なアシュランの二枚舌にも理路整然と対応し

俺に関する治療をなんだかんだで完全拒否、全部門前払いしてるんだもの

実際アシュランが神殿を利用しようとする時の治療なんて

自然治癒で事足りるような大したことない怪我ばかりだったもんなぁ……

お蔭でここ一か月、神殿は俺の踏み倒し被害に遭っていない

ルルムスだけは俺と直接やりあってるから無傷ではないけども。


体を張ってくれてありがとうルルムス

貴方の存在があったお蔭でこのドクズ野郎はここ一か月

神殿へ迷惑をかけにいく頻度が「それなりに」減ってました

「完全に」、ではない所がアシュランのクソっぷりを物語っている


一種のライフワークだったんだろうなぁ

何かにつけて神殿に嫌がらせしに行くのが。


(……)


嫌がらせが一種のライフワークってなんだソレ毎日足繁く通いたくなるほどこの神殿に好きな子でも居たのかよアシュランお前馬鹿野郎そのパターン誰が相手でもトラウマ並みに嫌われる奴じゃないかそもそも神殿従事者は全員男と相場が決まっておろうがこれ完全に悪意ある嫌がらせ確定だわ四十手前のいい年したオッサンが甘酸っぱい恋心とかこれっぽっちも関係無かったわ!


自分の事ながら全く以て救いようのないクズである


「分かったならとっとと (ねぐら) に戻ったらどうです?

ここに居ても迷惑にしかならないんですよ

どうしても治療を受けたいというなら治療費を持ってきなさい

貴方はこれまでの治療費の支払いを一切していないんです

前払いでなければ決して受け付けません

神殿の治療は慈善事業ではないのですよ」


ご尤も。

塒と神殿の往復で残りの体力が持つかどうかが心配ではあるが……

僅かに視線を上げてルルムスを見るも、厳しい表情が向けられるだけだ

因果応報

散々迷惑かけてきた俺がここで相手の情けに縋るのは間違ってるよな

言われた通り、塒に帰って治療費を持ってこよう


所持していた薬を使い切っても神殿まで来れたのだから

ここまでの往復もなんとかできるかもしれない

塒まで戻り、中和剤と回復薬のストックがあれば

体を休めて体力を回復させてから改めて神殿に赴くという選択肢もある

ドラゴンの唾液による細菌感染の進行度が気になる所ではあるが


時間も勿体ないし兎に角行動しなければ。

ここ一か月神殿で治療を受けていないので

万が一に備えてそれなりに薬は買い込んでいた筈


ゆっくりと踵を返し、転ばないよう慎重に門前の階段を下りる

神殿に背を向けた俺の行動に、ルルムスが目を見開き凝視していたが

それに気付ける余裕は今の俺にはない

兎に角壁だ、壁に寄りかかりながら歩けばまだ少しは楽に進める

神殿を囲む立派な外壁に手を伸ばし、のそりのそりと歩を進める

この速度だと塒までかるく三十分以上かかりそうだな


大丈夫大丈夫、イケるぞ俺

ここまで根性で来れたんだ、問題ない、絶対出来る

倒れてなどやるものか、俺は治療費を前払いしてちゃんと治療を受けるんだ

真っ当に生きる第一歩だ、最初が肝心なんだ、そうだろう!?


(だから絶対に神殿の近くで力尽きたりするんじゃねーぞ俺!

これ以上神殿の人に迷惑かけんじゃねーぞ俺!!

もっと根性見せろ!ドラゴン相手にも

最後の最期まで剣を手放さない気概があったんだろうが!)


多分、アシュランの意地汚く生にしがみつくガッツが

変なところで発揮されてるんだろう

必死になって歩き続けて、それでも動作が鈍かったこともあり

周辺に住んでいる物騒な住民にも

俺の帰宅を覚られる事無く塒まで辿り着く事が出来た


金を隠している場所でごそごそと片手を動かし

暫しの間を置いて金貨一袋分を空になった腰のバッグへと詰め込む


(これぐらいあれば足りるかな)


なんせ俺、これまで一度も治療費を払わなかったので

治療代の相場なんて知る筈もない。知ろうともしなかった。

アシュランの金銭感覚はイイトコの坊ちゃんだった頃と変わっていない

だってアシュランのヤツ、この先も治療費なんて払う気全然なかったからな


俺ってば、ほんとクズ。


未使用の回復薬も見つかったのでその場で飲み干し

なんとか命を繋ぐことはできたが中和剤が見当たらなかったのが痛い

既に感染症の所為で視野狭窄が起こり始めていた

よってここで一休みするという選択はなしだ

だんだんとボヤけつつある視界の中、しっかりと施錠して建物を出る


よし、回復薬のお陰で体力に関しては神殿までの片道なら十分に持つ

視界も神殿までなら持ちそうだ

あとは来た道を戻るだけだぞ!もうひと踏ん張りだぞ俺!!


では、いざ神殿へ!!

人生初の、ちゃんとした手順で治療を受けるのだ!

騒がず!喚かず!大人しく!迷惑をかけないように!


(……病院嫌いの子供か俺は)


ひとりノリツッコミで笑みが零れた


見た目は相変わらずボロボロの満身創痍だが着替える余裕はない

怪我が痛すぎて着替える動作なんかできるわけがなかった

こちとら脇腹抉れてんだぞ、血ィだらっだらなんだぞ

本来ならとうに失血死してる所を回復薬で飲み繋いでる状態

いっぱい痛いし片腕全然動かないし、多分色々骨折してる

だから、真っ当にお金払ってあったかい治療をしてもらうんだ!


……なんて、希望に満ちていた時期が俺にもありました


「よぉアシュラン、あの状況で生きてやがるなんて悪運強ェじゃねーか」


「さっきテメーの幽霊見かけたって騒いでた奴がいたが

ドラゴンとやり合ってマジで生きてたとはな、しぶてェヤツだ」


「あんたが生きてると色々面倒なんでね、悪く思うなよ」


あー……今回の密漁でパーティ組んだ連中だ

つまり俺を殺すために竜の巣に置き去りにしやがったヤツら、という事だ

建物を出て五秒で希望が砕け散った

目的はさもありなん、全員が武装してて全員が俺に得物を向けている


俺、終わった


せめてこの金だけでも神殿に届けたい

ここ一か月で散々面倒をかけたルルムスに渡しておきたかったな

今ここでやられたらどうせこの金もコイツらに取られて

適当な使われ方するんだろうし、最後ぐらい真っ当な事して死にたいなぁ

といっても、今俺が持ってる金も

全部汚れたルートで稼いだものなのは事実なんだが

……あれ、そう思うとこの金自体神殿に持ち込むのが申し訳なくなってきた

真面目に働いて汗水流した金を用意してから神殿にお世話になるべきでは?

汚いお金を神聖な神殿に持ち込むこと自体やっちゃいけない事なのでは?

なんて色々考えてたら胸に熱を感じて、背中が地面に叩きつけられた


いや、俺が自分で倒れ込んだのか?

倒れ込んだ衝撃の所為か一気に視界がボヤけ始めて、何が何やら。

困惑している内に急激に全身が冷えはじめた、あっこれ駄目なヤツだ

折れた骨がどこかの臓器を傷つけたのかもしれない

痛みを感じないのは感染症の所為だろうか、ドラゴンの唾液怖い


「……え、か」


ん?今、声かけられたか?よく聞こえないな

目を開いてるはずだけど見えないも同然の状態になっていた

集中するように耳を澄ませる


「聞こえますか!?ちょっと!」


あ、この声ルルムスだ

なんでここでルルムスの声がするのかは分からないが丁度いい

俺が悪い意味で体張って稼いだ汚れた金ですけど、それでも良ければ

これ、今まで踏み倒した分の治療費にあてて下さい

これで足りるのかわかんないけど。足りなかったらごめん


と、言ったつもりになりながら腰のバッグを漁って

金貨が入った袋を取り出し持ち上げる

声の位置からして俺の目の前に居るんだよな?

声のする方角に袋を差し出した……つもりなんだけど

俺、ちゃんと体動いてるかな?それすらもうわからない

でもちゃんと言わなきゃ、せめて一言だけでも謝らないと


これまで色々ごめんなさい

他にも謝らないといけない人いっぱいいるんだけど

俺の顔なんて見たくないって人も多いし今度こそ本当に死にそうなので

せめてルルムスにだけでも謝罪しておきたいです


最初の謝罪さえまともにできず言い逃げとはなんという体たらく。

自分でも虫がいいなぁとは思ったけど

今際の際で謝れる相手がルルムスしかいなかったんだから仕方がない


伝わったかな


ちゃんと、伝わってくれてればいいんだけどな


ほんと、いい年した大人が情けないったら……


………… …………


…………


……

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