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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
19/145

19<騎士隊と盗賊と目くそ鼻くそ

(こりゃあ、あんまりにあんまりな状況だろうがよ……)


他領にてフリッツが受けている依頼の詳細を把握すべく

面談ついでにギルド長に頼んで他領に連絡を取り調べてもらい

依頼内容を確認した上で地図上からフリッツと騎士隊が辿ってきた

これまでの経路を割り出し、依頼者である貴族の裏も軽く洗った後で

目的の積荷を所持している盗賊に目星を付け連中の隠れ家(アジト)に向かう前に

町の外で駐屯している騎士隊に探りを入れに来てみれば……


「あの邪魔な冒険者にはちゃんと偽の情報伝えておいたんだろうな」

「ご安心ください隊長、今夜中に夜襲をかけて

盗賊どもを一網打尽にするってしっかり教えときましたから!

賊の罠が仕掛けられているルートへの誘導もばっちりですよ!」

「よぉし!全員今日はゆっくり休んでいいぞ、俺たちの出番は明日の朝だ」

「英雄は遅れて登場するもんですからね

冒険者も賊も、ある程度減っていれば儲けもんですなぁ副隊長」

「もし冒険者が賊に囚われてたらどうします?

女が一人いたでしょう、ソイツとか」

「ああ……あの肉付きのいい女か」

「最近ご無沙汰だったでしょう、楽しみますか?」

「こらこら、いかんぞ君、不謹慎な発言は慎みなさい」

「はっ申し訳ございません!」

「だが?まぁ?賊に捕らえられたなら乱暴して殺されたとしても不思議ではないよなぁ?」

「全くでありますな!ふはははは!」

「「はははは」」


昼間から駐屯地で物騒な話をしつつ酒盛りをしている騎士隊……

これじゃあどっちが盗賊かわからんな


お約束とでも言えばいいのか、隠密で騎士隊の様子を探りにくれば

タイミングを計ったように大事な情報をぼろぼろ吐いてくれる騎士の面々

備蓄テントの中にもこっそり侵入し、装備や食料の目録も把握しておく

フリッツが活動してる領地の騎士は相当腐敗してるみたいだな


騎士がここまで腐敗しているなら町の衛兵も、と思うのが自然か

よくもまぁここまでフリッツたちは無事でこれたものだ

これまでの仲間の苦労が(しの)ばれる

依頼貴族の背景を軽く洗った時点で大体の想像は付いてたけどな。


なんでかって?


俺が危惧していた例のフラグがものの見事に直立不動で立っていたからだ

なにやら見覚えある貴族の名前だな、嫌だなって思ってたら

塒の金庫の中にその貴族の名前があった事を思い出したんだ


瞬間、俺の心の中のモノクロな風景は一瞬で色付き動き出した


フラグは『大型の非常に強い台風』張りに旗部分を凄い勢いではためかせていた

その時降っていた雨は横殴りだ

最大瞬間風速は50メートルを超えていたんじゃなかろうか

頬に雨を感じて風が吹き始めたと分かった瞬間に吹き飛ばされたからな

トラックも横転してた

中央分離帯に等間隔で生えてたヤシの木も全部折れてた

きっちりキメた前髪も、吹き飛ばされ地面に倒れ伏した段階で

毛根全てが一方向に向かってスーパーサイヤ人だ

身に付けてた服も全部捲れ上がり上着は瞬く間に脱げて飛んでった

長ズボンが短パンになり股に食い込んだ布が超痛かった

尻が二つに割れるかと思った……


そんな心象の中、死に物狂いで回収したフラグ

この時ばかりはゆるっとスタイルが仇になったと思ったな。

これがあの魔王のフラグだったら俺、ショック死してたかもしれない


以上が俺の脳内で繰り広げられた孤軍奮闘な心象VTRである


貴族は過去何件もの契約詐欺を働いており

被害に遭った商人たちが恨みつらみを抱え訴えようとするも

その貴族の後ろ盾がこの領地の公爵家なものだから

被害者は表立って批判できず枕を涙で濡らす日々を送っていた


そんな中金のにおいを嗅ぎ付け、貴族が働いた詐欺の証拠をつかみ、お得意の口八丁手八丁で言いくるめて脅し、貴族連中の儲けになる筈だった大金をベルトコンベアの終点にて大きな袋の口を開けて待つだけの簡単なお仕事でまるっとそのまませしめて更に貴族を強請ってそれ以上の大金を巻き上げたのが



なにを隠そうこの俺、アシュランである



(……)


当時の貴族とのやり取りを芋づる式に思い出した時の俺の顔は

ショックのあまり劇画調になった

この調子だと俺、大半の悪事の終着点に名前連ねてるんじゃないのか?

……いや、今の呟きは別にフラグじゃない。フラグじゃないぞ。

やめてくれよ?勘弁してくれよ?冗談じゃないからな!?

例の詐欺貴族からせしめた総額を見たらみんなビックリするだろうなぁ

金庫に封印されてる書類に記載されてたゼロの桁

長すぎて途中で数えるのが怖くなって放棄したぐらいだもの


俺の全財産、総合してどれぐらいなのかな

田崎が混ざった時点で本人すら把握してなかったって


嘘だろアシュラン、嘘って言って。


記憶を遡った限りでは二十年かけて色んな所に

隠し財産築いてるみたいだけどこれどう収集付けたらいいの?

犯罪の根が深すぎて自然の山で育った超長い自然薯(じねんじょ)並みに掘り下げるのが大変だ。掘ってる途中で折れまくる奴だ、木の根に邪魔されて途中で掘れなくなる奴だ


……遠くを見つめるのはこれで何回目になるだろう


世の中が独裁故に末端が汚職と不正に塗れていて田崎の知識が役立たずで辛い

いっそ宝の地図を各地にばら撒いて

不遇な扱いを受けている領民全員が一攫千金の夢を見られるように

ダンジョンでも作ろうかな、この世界にはそんなもの無いけど


無いなら作るか? 『 ダンジョン 』


いやいや落ち着け、それむしろ危険あり過ぎて人が死ぬやつだ。

むしろ一獲千金のダンジョンなんか出来たら王族が所有権主張して

入場制限設けて騎士団派遣して金目の物取り尽した後

観光地化で有料公開して更に領民から金を搾り取る……

そんな流れになるのが目に見えている


(隠し財産の使い道か)


善人から不当に奪ったなら本来の持ち主に還元するのは当然として

悪人からせしめた金品に関しては悪人に返還などせず

多くの領民のためになるような事に使いたい


少なくとも、


目下で馬鹿笑いしつつ酒盛りしてる

名ばかりの騎士隊に使ってやる気にはならないな


騎士隊がフリッツたちにとって『敵』である事は明確になった

事に乗じて冒険者の始末を目論むに飽き足らず

婦女子の暴行まで企んでいる時点で賊どもと変わりない

こいつらの腐りきった性根を叩きなおすためにもキツイお灸は必要だな

精々全滅しないよう、命を賭けて学んでもらうとしよう。


(……もっと情報が欲しいな)


制約紋の制限がなければ今すぐにでも他領に赴いて

例の貴族とこの騎士隊の更に詳しい背景を探れたのだが

フットワークの軽いアシュランにとって活動範囲の制限は

やはり息苦しいものだ


(いや、これまでの事を考えれば

むしろ幸いだったと言うべきだな)


この制限がなかったらきっと今頃は世界中で悪事を働き、見つかったら

即行で打ち首にされるほどの『世紀の大悪党』になっていた事だろう

アシュランを領地内に閉じ込めた当時の領主の英断には感謝しかない


アシュランだって『領地外には出られない』という制限があったからこそ

表立って犯罪者扱いされないように

『殺人』という一線だけは超えないよう気を付けてきたのだろう

命を狙われているのも水面下での出来事ばかり

しかもそれら全てが犯罪者の手によるものだ

悪 対 悪 の図式をいくつも作り出している過去の所業に呆れて物も言えない

少し前までの俺もこの騎士隊どもと似たり寄ったりだったからな

目くそ鼻くそだこの野郎


さて、次は盗賊どもの動向確認だ

騎士隊に気取られぬよう場を離れ、盗賊の隠れ家(アジト)へ向かう

相手も俺の顔は知っているから忍んで行く必要はない

むしろ良い情報を渡しに行くのだからできる限り情報料を巻き上げたい


アシュランは滅多に外套(コート)を使わない

一旦外套を脱ぎ、腰の装備に引っ掛けて慣れた獣道を足取り軽く進む

いつもの格好の方が連中も見慣れてるしすぐに俺だと気付けるだろう

木の上に見張りを見つけて、それがまた見知った顔だったので

向こうが気付く前に声をかけた


「よォ、暫くぶりだな」


「アシュラン?なにしにきやがった」


「耳寄りな情報を持って来たんだよ

(かしら)は居るか」


「居るぜ、先触れ出しといてやるからそのまま進みな

罠増えてっから崩すんじゃねーぞ」


「目印は前と変わらずか」


「おう、ワザと引っかかったら全部テメーにメンテさすからな」


「おお怖ェえ、せいぜい気をつけらぁ」


と、言いつつ目の前に仕掛けられていた罠をあえて踏み発動させ

ひょいと後退すれば目の前で巻き起こった枯葉吹雪が頭上へ舞い上がる

なるほど、つり上げ式のバラ線(有刺鉄線)

絡まったら超痛そうだ


「言ってるそばからテメェ!」


「悪ィ悪ィ、次は気ィつける」


硬貨を一枚弾いて寄こし、ひょいひょいと罠を避けつつ進む

頬を膨らませつつも駄賃を受け取った見張りは

特殊な音を出す矢に走り書きしたメモを括りつけて俺が向かう先へ放った

使ってる武器は複合弓(コンポジットボウ)

見張りのクセに良い装備してやがる

扱いが手馴れてる所からしてここ数日で手に入れた武器ではなさそうだ

冒険者よりも犯罪者の方が識字率が高いのもこの世の常だ


暫く森を進み、その道中で何人もの見張りが俺を見送る

通りすがりに連中の装備も確認したがやはり全体的にグレードアップしていた

賊内でデカい金額の取引が行われた証拠だ


森を抜けた先には人為的につくられた土地が広がり

中心には粗末なログハウスが二戸ほど建てられている

ウッドデッキに集まっていた賊数名が俺を見てニヤニヤと笑った

俺が把握してない新顔が数名混ざってるな


「なんだぁ?ここ最近とんと見かけなかったアシュランじゃねーか」

「へ?コイツがアシュラン?あの町で嫌われ者で有名な?」

「お前初対面だったか、コイツはなぁ金のなる木ってヤツなんだぜ~!」

「金が木になるわけねーだろ、ッヴァ~カ」

「バカはテメーだバカ、『やゆ』に決まってんだろ」

「『やゆ』ってなんだよ」

「知らねーよッバカ!ヒャハハハ!!」

「チッ、くたばったかと清々してたんだが」

(かしら)に用か?大歓迎だぜ!オメーが来ると金も来るからなぁ!」


「チューチューうるせーな、そこを退きやがれ三下ども」


仁王立ちして片手は腰に

もう片方は連中をハエに見立てて「しっし」と手を振って払う

するとキレた顔をした新顔が数名武器を手に俺へと歩み寄ろうとして

場に居た連中の内のひとり、長い事顔見知りだった男が

新顔連中の頭に次々と拳を振り下ろした


「ボスの客だ!やめねーかクソども!!」

「いてー!!なにするんすか!」

「アニキ!俺らナめられてんスよ!?

このままナめられてろってゆーんすか!!」

「ルセェ!!玉蹴り潰されたくなきゃ黙って道開けろっ」


「俺は一向に構わねーぞ?来いよ新顔ども

腕の一本か足の一本ぐらいで済ませてやる

なんなら片目も持ってってやんぞ」


「冗談ぬかせ」


一際低い声が辺りに響く

扉が開かれ、奥から姿を見せたのはずんぐりむっくりな見た目のオヤジ

ヤツがこの盗賊の頭領だ


「折角増えたうちの戦力を削るんじゃねェ」


「ボス」

「「「かしらァ!」」」


「ならとっととここから下がらせろよ

目障りで仕方ねェ」


「分かってらァ

オイ、オメーら!コイツは上客だ!今の内に顔しっかり覚えときやがれ!

喧嘩売れるぐれェ力余ってんならモヅの一匹でも狩ってこいや!!」


鶴の一声というには汚過ぎるが、頭領の怒声で場に居た全員が

蜘蛛の子を散らすようにその場から走って行った

猿のように飛び跳ねながら茂みの奥に逃げていく新顔たちの背中を鼻で笑う


「折角腕試ししてやろうと思ったのに、残念だ」


「心にもねぇ事言いやがって

そうやってうちのモンの手足を何本持ってった

使えねェ食い扶持をこれ以上増やされちゃたまんねぇよ

で、なんの用だ」


「情報を売りに来た」


さぁて、楽しい交渉ごとの始まりだ

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