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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
16/145

16<冒険者フリッツの依頼

「俺はフリッツ、あんたは?」


「アシュランだ

あの空気の中よく俺に声をかけようと思ったな」


「別に気にならなかったぜ?…って言えりゃ良かったんだけど

ありゃあ異常だ、なんであんなに遠巻きにされてんだ?

ギルドだけじゃなく町中のヤツらにまで」


共に歩いていれば行き交う人々から向けられる視線や行動で

嫌でも分かるのだろう、周囲を見渡しながら訪ねてくる

隠す事でも無いので素直に答えておこう


「ついこの間まで悪党だったから

領民の殆どに嫌われてるんだ、俺は」


「有名人なのか」


「悪い意味でな」


「悪党”だった”って事は今は違うんだよな?」


「ああ、まぁ」


なんだ矢継ぎ早に。

隣を歩くフリッツの様子を窺えば何やら考え込んでいたらしく

宙にさ迷わせていた視線をゆるりと俺に向ける


「なぁアシュラン、 『 道案内 』 は得意か?」


「この領地内だけなら知らない道はない

どこか行きたい場所があるのか?」


「俺が今請け負ってる仕事を手伝ってほしいんだ

それなりの礼はさせてもらうぜ」


「……真っ当なヤツだろうな?」


「当たり前だろ

奪われた積荷の奪還輸送の仕事だ

貴族依頼だから信用あるぜ」


依頼書の控えは持ち合わせていないのか

フリッツは首に下げていたチェーンを指先に引っ掛け

身分証代わりのギルドタグを服の下から引っ張り出して見せてきた


身分証にはカードとタグの二種類があるが

前衛職でよく体を動かす場合は紛失を避ける為カードよりも

首に下げられる小型のタグを選んで発行してもらう冒険者が多い

ちなみに俺の場合はカード

ギルドの仕事はたまに見かけていた例の高額依頼目的で

それ以外でも体を動かすより頭を使う仕事を選んでいた


荒事は専ら裏稼業だ、犯罪者ギルドは顔パス名売れが基本。

身分証の代わりは腕っぷし、「力が全て」の世界で頭も良かった俺は

顔を出せば方々からひっぱりだこの売れっ子悪党だった


なんだよ売れっ子悪党って、歯ァ食いしばれ。


頭の中で自分をフルボッコしつつ

フリッツの首元でユラユラと光を反射しているタグを覗き込む

ふむ、フリッツは俺と同じ中堅冒険者か

タグの発行場所はやはりこことは別の領地名が刻まれている

割のいい仕事を受けているからか記載されている星は銀色が五つ

信頼度もそこそこにあるようだ


彼に(なら)い自分のカードを見せると俺の手元を覗き込んだフリッツは

「うわぁ」と、嫌悪を滲ませた声を上げる


「星がひとつも無いギルドカードなんて初めて見た」


身分証に記載される信頼度を判断基準のひとつにする冒険者は多い

道案内だけならと思ったが

この様子だと今の話は無かった事になりそうかな


「匿名依頼しか受けたことがないからな

町の連中を見ての通り、信用に関してはむしろマイナス評価だ

俺と組むのが不安なら他のヤツに声をかけろ

昼間に探す方がアタリも多いと思うぞ」


「夜だとなんかマズいのか?」


「昼間と違ってこの町の連中は特にガラが悪い

新顔は間違いなく喧嘩をふっかけられる、夜に動くなら覚悟しとけ」


「忠告助かる、いい情報がもらえて良かった

情報料は」


「いらねェよ

この程度ならそこら辺りを歩いてるじいさんばあさんでも知ってる町の常識だ

じゃあな、俺とは縁がなかったって事で」


「、おい!」


肩を竦ませフリッツから数歩離れようとした所で手首を掴まれ引き戻された

思いがけない行動だった上結構な力だったものだから

後ろ歩きでたたらを踏んでしまう

眉を顰めて振り返れば、目が合ったフリッツは慌てて手首から手を離した

どうやらこの男は口より先に手が出る系の典型らしい

ばつが悪そうな様子で取り繕う視線はしっかりと泳いでいる


「悪い、つい焦っちまった

仕事を手伝ってくれって話を取り下げる気はない

元悪党だったあんたにこそ道案内を頼みたいんだ」


……マジか。

元悪党を名乗る俺みたいな奴をこうも簡単に懐に入れようとするとか

なんか逆に心配になってきたな、ホントに大丈夫なのかこいつ


「俺でいいのか?世間の信用ゼロだぞ」


「もう決めた

今俺が受けてる仕事内容なんだけどな

ヘタしたら盗賊数十名を相手にしなきゃならなくなるかもしれないんだ」


「だろうな

道案内だけの俺には関係のない話だが」


盗賊とガチンコする可能性も「積荷の奪還」と聞いた時点で察しはついていた

アシュランの、ロイヤルに手を出すほどに高い向上心に比例して

悪事を働いた回数も裏で知ってる連中の顔も当然山ほどあるって事だ

この時期どのルートで商売してるかでどこの盗賊連中が動いているのか大体の目星がつく程度には奴らとは親しい、勿論悪行的な意味で。

もう二度と一緒に仕事する気はないけどな


「安心しろよ、戦闘になっても俺が守ってやるから」


自信あり気に片手拳を持ち上げて言うフリッツに苦笑いを返す

野郎に守ってやると言われても嬉しいより寒いんだが。

雰囲気から全く他意はないのだろう、ギルドで俺だけ遠巻きにされてた時も

不機嫌そうな顔をして他の冒険者を睨みつけてたから

いじめとか、そういった曲がった事が嫌いなんだろうな


で、俺は多分ゆるっとした見た目の所為で弱いと思われてる

フリッツの中での俺への評価は

ケチな事ばかりやってる”小悪党”なんだろうなぁ

以前までのパンクロックファッションだったら

「守ってやる」なんて絶対に言われなかったであろう台詞だ


苦笑いをした俺が不安がっていると思ったのだろう

一層真剣な顔をしたフリッツが再度「大丈夫だ」と念を押した


「本当に大丈夫だって、今回の同行者は俺”たち”だけじゃない

依頼者の貴族側で騎士隊も派遣されてるんだ

乱戦になったらあんたの事もきっと守ってくれる……

ただ、今の所あんまり連携が取れてないんだけどな」


言い辛そうに視線を泳がせる様子に俺はため息を吐いた

やっぱり他にもパーティ組んでる奴が居たのか、そりゃそうだよな

盗賊とやり合う可能性があるなら最低でも人手五名は必要だ


その上騎士隊まで出てくるなら相手方の盗賊は中規模

奪還すべき積荷もそれなりに高価な物って事か

動員数からして単独では容易に運び出せない物……


(他領の貴族が騎士隊を投入してまで盗賊から奪いたい物か)


目的の積荷の中身も気になるし

フリッツの仲間が今この場に居ないって事も気になる

しかしそれよりも何を差し置いても絶対に無視できない情報が出てきた、それは


騎士隊と連携が取れていないという点


「それはやべェだろ

お前らが捨て駒扱いなの見え見えじゃねーか」


「……パーティを組んでる他のヤツもあんたと同じ事を言ってた

今後の行動を定めるにしてもこの辺りの土地勘のある奴が必要だったから

元悪党だっていうあんたと知り合えて運が良かったよ

悪いことをしてたならそっちの抜け道にも詳しそうだしな」


「組んでる奴らは?

俺みたいにギルドの信用すらない男を案内役になんかしたら

仲間内で意見が割れるんじゃねーのか?」


「もう割れてる」


「は?」


あっけらかんと言い放つその姿は堂々としている

俺は悪くないと言いたそうな顔だ

仲間割れが生じてる時点でかなり深刻な事態だぞ

俺が悪党のままだったらそれを見抜いた時点でフリッツを陥落させて

美味しいとこ総取りは確実に(くわだ)てていただろう


というか、既にそのあくどいプランを

「は?」の一瞬で条件反射のように構想し終わってはいるが

実行する気はさらさらない。

何かにつけての完全犯罪計画(パーフェクトクライム)の立案は長年のアシュランのクセだ

頭の中で冒険者、騎士隊、盗賊という三者全てと

あわよくば依頼者である貴族を骨の髄まで啜り尽す準備は万端だが

もう一度言う


絶 対 に 実 行 す る 気 は な い !!


俺の意志に反して脳内では馬車馬のようにあの手この手が展開されている

例えるなら、長年続けてきた仕事と同じ業務を転職先ですることになり

以前のノウハウを生かして考えるまでも無く瞬時に効率よく動きまくれる……

そんな感じとよく似ている


そんな訳で目をキラッキラさせて慣れ親しんだ行動に出たがってるアシュランの衝動は全て妄想の内に受け流しておいた

頭の中でなら何をやっても構わん、好きにしたまえ


「さっきこの町に着いたばかりで宿を取って休んでもらってるんだ

その、今後の方針の件でちょっと仲違いしちまってて

頭冷やすためにも俺が昼に情報集めて他の奴は夜にって」


なるほどなぁ

フリッツだけが単独行動してて他の奴が全員宿なら

意見が割れてる人数の対比は一対複数って事だ。

宿を取るほど時間的余裕があるのは目的の積荷が移動していないか、もしくは奪還したい荷物がここを縄張りにしてる盗賊の手元に初めからあったか……


(複数側から捨て駒意見が出たなら

ここまでの道中で騎士隊から不当な扱いを受けたという事だ

対立するフリッツが主張しているであろう意見はおそらく)


「騎士隊と協力を取り付けて連携を図るべき」という主張なのだろう

道徳的にも間違っちゃいないし理想的でもあるがお花畑が過ぎる

領を跨いでも関係が変わっていないなら協力し合える望みは”絶対に無い”


何故断言できるのかと言うと、騎士隊の連中が

冒険者であるフリッツたちをナメきってる心象がよく理解できるからだ


教養を身に付けている騎士の身分が

学のない冒険者を侮るのはこの国では当たり前の事

事実、アシュランも領民全てを有象無象のゴミ共だと見下していた

奴隷のように扱ってもなんら問題ない、生殺与奪の権利も当然握っている

教養を収めた者たちの大半が抱く、無学な民に対する感覚がそれだ


しかしいくら無学で能が無いとは思っても

良識の有る騎士が一人でもいたならフリッツたちの扱いは

”精々邪魔にならない後方で大人しくしておけ”

という指示で収まっていただろう、だがそれ以上に扱いを悪くするという事は


騎士隊の中にアシュランみたいな強硬派の差別主義者がいるって事だ


そんなヤツとどうやって友好関係など結べるだろう

無理だ、絶対無理だ

むしろ騎士である己が任務を完遂するために目障りな汚物(冒険者)など

隙あらばついでとばかりに処分しようとするだろう

かつてのアシュランがそうであったように


(「捨て駒にされるぞ」とまで意見が出るほどの扱いを騎士隊に受けたにも関わらず仲間割れしてまで情報収集に乗り出してるのか)


フリッツは頑固なのか?致命的に察しが悪いのか?

もう少し話さなければ判断はつかないが、印象としてはさほど愚かには見えない

ガタイが良すぎる所為で脳筋に見えなくもないが。


兎にも角にも仲間の意見を解決すべく

『騎士団に捨て駒にされないように』予防線を張れる人材を探してたってトコか

地の利を把握したいという理由なら俺に課せられた役目は

『積荷を奪取した後の速やかな逃走経路』を定めるって所だろうな


騎士隊を”敵”として見た場合は地の利の対策じゃ足りないんだが

その辺はコイツが他の仲間と話を詰める所だし態々(わざわざ)指摘する必要はない

ただ、このまま仲間割れしている状態だけはどうにかしておいてほしい

案内役を務める俺にも影響が出そうだし。


「フリッツ、悪い事は言わねェから急いで仲直りしてこい

騎士団が味方でない限り頼りになるのは同じ冒険者だけだ」


苦言すれば身長の高いフリッツは俺を見下ろし

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる


「星なしを案内役にしたって言ったらどうせまたひと悶着あるんだ

急ぐ必要はねぇさ」


それより腹が減った!と食事処へ急かす姿勢は

部下が上司に対して上手に甘えている印象を受ける

フリッツは後に訪れるひと悶着を今の時点で既に受け入れている

何を言っても聞きそうにない雰囲気から

「なるほどこりゃあ割れる訳だ」と納得した


(ま、なるようにしかならないか)


俺は頼まれた”道案内”をしてやるだけだ

……『奪還輸送』の仕事、か。

俺がやってたのは専ら賊側に(くみ)する稼業ばかりだったな

奪還される側にとってする側が追いはぎか強盗扱いになる

今回は逆のパターンってワケだ

依頼者の貴族ってのも気になるなぁ


俺が強請(ゆす)ってる相手じゃないといいんだけど。


(……)


イカン、フラグが立ちそうなことを考えてしまった

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