12.とある管理人の第一観測
今Vtuber業界で最も熱い話題は何かと問われれば、皆がゆめパズルの第五期生公開オーディションであると口を揃えるだろう。
俺も初めてその名前を聞いたときは「ゆめパズル?」と疑問に思ったのだが、直近で言えばVtuber間での盗聴配信、昔で言えばヤ〇マンVtuberの裏垢流出騒ぎと、事件の名前を挙げられて思い出すことが出来た。俺のブログでもそのネタを扱ったことがあった。
俺はいわゆるアフィブログの管理人を生業としている。
書いた記事にアフィリエイトを設定し、そこで発生する広告収入で生計を立てているわけだ。
その中でも、俺が経営しているのは『7chまとめ』と言われるタイプのブログだった。
7chの匿名投稿を読みやすく編集し、ブログの読者に提供するという形式である。これを「勝手に俺たちの書き込みを利用して金儲けするな」と言ってくるやつもいるようだが、俺はルールに則ってやっている。今どき『嫌儲』なんて時代遅れだ。この世はやったもん勝ちなのである。
このブログで取り扱っているメインのジャンルはアニメとゲーム。アクセス数を稼げそうであれば、それ以外の時事ネタも……というように運営していたのだが、ここ最近ちょくちょくと取り扱う回数が増えていたのが件の『Vtuber』というジャンルだ。今では時事ネタと分けて単独のタグを作成し、一ジャンルとして確立させている。
Vtuberが7chまとめブログの題材として優れていると思う理由は、ファンも多いがアンチもそれなりに多いというところだ。
特にうちのように炎上を取り扱うタイプのブログであった場合、『好き』な人だけが集まってくるような記事は受けが悪い。そこから発展して盛り上がるものが無いからだ。
その点、『嫌い』な人も寄ってくるような記事は良い。単純に考えてアクセス数が二倍に増えるし、対立争いでコメント欄が伸びる。コメント欄が伸びれば記事が盛り上がっているような雰囲気が出て、それを目当てにまた人が集まる。この好きも嫌いも集まってくるような状態を作りやすいため、最近はVtuberネタを多めに取り扱うようになっていた。
そして、前述したゆめパズルの第五期生オーディション。
けいたろうの参戦が明らかになった時点で一度記事にしたのだが、これがまたすこぶる反応が良い。まだ月半ばではあるが、月間アクセス数のトップはこの記事だ。
いったい何がそこまで読者の興味を引いたのか。その答えはやはり、みゃこ生の女帝にあるだろう。
今回けいたろうのVtuberオーディションへの参加が話題になっているのには、彼女が「常日頃からVtuberを敵視するような発言を繰り返していた」というのが最大の理由だと俺は分析している。
つまり、
「みゃこ生主の座を捨てて絵の皮を被った裏切者」
だとか、
「どうせ中身が大したことないからVtuberなんてやってる」
といったことを言っていたくせに「何を今さらVtuber業界に擦り寄ってきているんだ」という反発と、その見事なまでの手のひら返しを逆に面白がっているやつらが群がっているのだろう。特にけいたろうの信者は面白ければ何でもありだと思っている節があるので、「あのけいたろうがVtuberになるとかwwww」と脳死で草を生やしているに違いない。
なんにせよ、こうして話題を提供してくれるのはアフィブログ管理人の俺としてはありがたい限りだ。
ネットにはびこる亡者たちは常に炎上というお祭りを求めている。けいたろうは、Vtuber業界は、そんな亡者たちに絶えずエサを供給してくれるお得意様だ。
まぁ、本当にエサにされているのかはどちらなのか……その謎の答えを明らかにしないのが、ネットをより楽しむためのコツなのだろう。
オーディション番号11番であり、けいたろうでもあり、青春ひばなでもある。
そのVtuberが配信を始めてしばらく経ってから、コラボ相手となるゆめパズルの先輩Vtuberが姿を現した。
「えー。どうも皆さん、こんあくま、ヒキー・ニッターです」
いくらか覇気の無い声でヒキー・ニッターがそう言うと、コメント欄にはその挨拶への返答が並ぶ。
『よぉ』
『この絡みを待ってた』
『男4ね』
『けいちゃむに近づくな』
『Vtuber特有の「こん〇〇」ってやつ嫌い』
『ヒキたろうてぇてぇ……』
『あーあ、もうぐっちゃぐちゃだよー^^』
荒れ放題というようにも見えるが、けいたろうの配信ではこの程度は通常営業である。
ただ、それを差し引いても、二人が絡むことについてはやはり賛否両論といった様子であった。けいたろうを『面白い生主』ではなく『女生主』として見ている層は少数派であるが、それでもやはりゼロではないし、なによりそういうやつらは基本的に声がでかい。実際の数よりも多く見える。
そんな視聴者の反応を尻目に、けいたろうは弾んだ声で言う。
「こんばんは! 今日はようやく夫婦水入らずで語り合えますね!」
「夫婦じゃないんですけど」
「同じようなものじゃないですか」
「そんな要素一つもないと思うんですけど……」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。ところで、なんか今日元気ないですね。どうかしましたか?」
「あー……別に元気がないわけじゃないんですがね」
そう前置きして、
「このチャンネル、現時点で登録者何人か把握してますか?」
「え? えーっと……あ、今25万人くらいですね」
「そうですね。開設してたった2週間で、ゆめパズルの全員ごぼう抜きにされました」
「はい、ごぼう抜きしちゃいました!」
「元気いっぱいですね……。いやまぁ、それは本当に、けいた――ひばなさんの今までの活動があってのものなんで、全然いいんですけど……」
けいたろうは「面倒くさいんでけいたろうでいいですよ」と言う。「いいのかなぁ……?」と呟きつつもヒキー・ニッターは話を続ける。
「俺の登録者数もですね、激増してるんですよ。特にここ1週間くらいで」
「あ、本当ですか! 私けっこう宣伝してたつもりなんで、嬉しいなぁ……!」
「……まぁそういうことですよね。ていうか、けいたろうさんの配信見てた感じ、あれはもう宣伝っていうレベルじゃなかったですよね。『今配信見てる人はヒキー・ニッターのチャンネル入って!!』って視聴者を恫喝してましたし」
その発言が嘘ではないことは、ずらりと流れる『恫喝されました』、『脅されたので仕方なく』といったコメント群が証明していた。
「迷惑でしたか?」
「そんなことはないんですが、その増加量が半端ないわけですよ。……この一週間で俺のチャンネルの登録者数は、なんと8万人から18万人に増えました」
「おおー、倍以上ですね」
「はい。なので、単純に嬉しい気持ちが半分、『俺の半年はけいたろうさんの1週間にも満たないんだなぁ』っていう悲しみが半分、みたいな複雑な気持ちになってます」
登録者10万人はMetuberの上位10%だと言われている。それに値する数を一声で集めるのだから、けいたろうという配信者がどれだけ人気であるのかは、このやりとりが物語っているだろう。
ヒキー・ニッターは「とはいえ登録してくれた皆さん、本当にありがとうございました」と気を取り直したように礼を述べた。
「今日は単純にゆめパズルの先輩として、後輩と楽しくコラボ配信をしに来たわけですよ!」
「おっ、いいですねー! 私も先輩と楽しく配信したいです♡」
「では、視聴者の方々はどんな感じですかね……」
そう言って、ヒキー・ニッターの視線が動く。
おそらくコメント欄を眺めているのだろう。
しかし、
「先輩? どうかしましたか?」
「……いや、その、コメント欄が早すぎて読めなくて」
「えっ、そうですか? これくらいなら別に普通だと思いますけど」
「これが普通……?」
「みゃこ生で盛り上がってる時なんかはこんなもんじゃないですよ。動体視力検査って言われてますもん」
たしかにけいたろうの切り抜き動画などでコメント欄が映った時、常人ではとても追いきれないような速度でコメントが流れていたりする。それでも平然と面白いコメントを拾い上げて読みあげるからこそ、彼女はみゃこ生の女帝なのだと思ったものなのだが。
「とは言っても、私もゲーム配信中とか、コメントを見る余裕が無かったりする時はあるんですよね」
「ほぉ」
「だから、そういう時はエアコメを読みます」
「エアコメ?」
「今こんなコメントされてるだろうなーっていうのを予測して、さもコメントを読んでいるように振舞うんです。先輩もコメント早くて読めないなら、エアコメ読めばいいんですよ」
「はぁ……いや、それっていいんですか?」
「いいんですよ。こいつら馬鹿なんで言おうとしてることなんて大体わかりますし、私のエアコメの方が視聴者のコメントより面白いこと多いですし」
「よくもまぁそんな言いたい放題できますね」
「いくら馬鹿にしてもこいつら、コメントするのやめないんですもん。今も『僕ちんのコメント読んで―!』ってキーボードをカタカタしてますよ。馬鹿だから」
「ええ……」
ヒキー・ニッターがドン引きしている中、さすがのけいたろう信者も文句の一つくらいは言うのかと思ったのだが、コメント欄には『いええええええい!! 馬っ鹿でーす!!』というようなコメントがいくつも流れており、この世の終わりかと疑うような光景が広がっていた。これこそが日本一頭のおかしい視聴者が集まる配信者と呼ばれる所以なのであった。
そのまま二人の配信は順調に続き、大好評の中で配信は終わった。
意図的なのかは知らないが、ヒキー・ニッターの一歩引いたような立ち回りが功を奏していたように思う。結局視聴者はけいたろうを見に来ているわけなので、ここで「爪跡を残そう」だなんて考えてガンガンと前に出ていたら、視聴者に不快感を与えて袋叩きになっていただろうし、配信全体の空気が悪くなってつまらない配信だったという感想を抱かせてしまったかもしれない。
そこで、ふと思う。
ここまでけいたろうを中心に物事を考えていたが、そのけいたろうはヒキー・ニッターに引き寄せられている。つまり、全ての流れの中心にはヒキー・ニッターがいるのではないのかと。
いくつも問題は起こしているが、結果的に、そう『結果的に』の繰り返しでこのVtuberは成りあがっている。無名の事務所の新人が、たった半年で20万人近い登録者を稼ぎ出すなんて言うのは偉業に他ならない。
この五期生オーディションというお祭りの中では主役ではないため、まだ誰もその事実に対しては目がいかないようであるが……熱狂が落ち着いたとき、そこに残るものは、果たして。
「ヒキー・ニッターねぇ……」
俺はその名前を呟きつつ、7chのゆめパズルのスレッドを眺める。
恐らく原住民はけいたろうの信者に駆逐されているのだろう。レスのほとんどはけいたろうについてのものばかりであるし、なんなら『ちゃむうううううう』だとか、何のために書き込んでいるのか意図が全く分からないようなものばかりが並んでいる。
そんな荒れ地の中で、俺は先程の配信についてのレスを抽出し、まとめを作成する。
タイトルは『けいたろうのVtuber配信大盛況www』という感じで良いだろう。俺のブログは大してVtuberに興味がないやつらも集まってくるので、こういう記事を作成すると、「興味ねぇからまとめんなks」というコメントがつく。それに大して「興味ないのに記事開いてコメントまでしてるやつw」というコメントがつく。この様式美とも呼べる繰り返しで俺のブログは成り立っている。
基本的に記事を作成するときは安価が沢山ついているレスを抽出するのだが、俺はそれとは別にヒキー・ニッターを称賛しているような単発レスを目立ち過ぎない程度に抜き出しておいた。
ただ、これは好意ではなく、未来への投資だ。
きっと、こいつは炎上しながらも上に登っていくだろう。そういうやつは俺のブログでネタにしやすい。ネタにしやすいということは、俺の飯の種になるということだ。アフィブログ管理人としての嗅覚が、こいつは応援しておけば後々特になるだろうと言っている。
自慢じゃないが俺のブログはそこそこにアクセス数があるため、ここで宣伝しておけば、またあちらに人が流れ込むだろう。だから、敵でも味方でもなく、持ちつ持たれつな関係でやって行こうぜ。そんな独り言を虚空に投げかけつつ、俺は新規記事を作成した。




