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4.ザ・ベストスリー

 先日の公開オーディション配信から一週間が経ったとある日、俺とざくろ様は夢花火に足を運んでいた。一般の方への結果発表はまだ先になるらしいが、俺たちは先んじて第二次審査の結果を知ることが出来るらしい。


「上位三名が第三次審査に進むんですよね?」


 俺が訊くと、二葉さんは「……そのはずだったんですけどね」となにやらものすごく苦々しい表情を浮かべた。

 かと思えば、俺の隣にいるざくろ様は心底楽しそうに「そのはずだったのよねー?」と二葉さんにいたずらな笑みを向けている。なにかあったのだろうか。


「私はどんな結果になるかネットの動きを見てたんだけど、その様子だと、案の定な結果になったみたいね?」


「はい……まさかこんなことになるだなんて、私は本当に申し訳ないような気持ちでいっぱいで……」


 二葉さんはそのまま消えてなくなってしまうのではないかというくらいに沈み込んでいる。こんなにもへこんでいる姿を見るのは初めてだ。理由が気になる。改めて俺はいったいなにがと問いかけた。


「そうですね……まぁオーディションの結果を聞けば答えは自ずと分かるかと思いますので、順に発表させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「はい。それは全然構いません」


 気を取り直すように咳を一つ置いて、二葉さんは語りだす。


「ではオーディションの結果ですが……第三位は26番さんとなりました」


「26番ですか」


 番号だけではピンと来なかったのだが、それを見透かしたのかざくろ様が「あの大声の子よ」と言った。ああ、あれか。


「俺がちょっといいなと思った子じゃないですか。そんな子が愛かったとなると、なんだか嬉しいですねぇ」


「ちょっといいな、ねぇ……」


「なんです?」


「ぶっちゃけあんたのおかげで受かったようなものよ、この子」


 俺は「え?」と声を上げたが、二葉さんもそれに同意して頷いていた。


 「26番に寄せられたコメントで多かったのは『最初はうるさいだけかと思ったが、ヒキー・ニッターが言う通り、やる気と元気があって良いなとも思った』というのと、『ヒキー・ニッターの糞みたいな自己紹介動画に比べたら最高』というものでした」


 そして「本条さんの自己紹介動画のインパクトが、そのまま26番のものとして扱われたようですね」とも言う。

 ええ……それはなんというか、他の応募者さんごめんなさいとしか言いようがないんだが。


「まぁこれについてはあんたの動画を公開するタイミングを私も間違えたわね。一番最初に出しておけば、誰の得にもならなかったかもしれないし」


「一番最初に出されてたら、それはそれで俺はその後の配信中ずっと、複雑な思いを抱えながらやらないといけない訳でしたが」


「とはいえ、運も実力の内とも言うしね。自分の意図しないところで『バズ』を引き寄せる才覚もVtuberには必要なんだとも思うから、これで不平を唱えるような奴はそもそもVtuberに向いていないわ」


 ばっさりと切り捨てるざくろ様。

 でもたしかにそういうものだと言われればそんな気もするな。特に俺はそういった偶然だけでここまでやってきた節があるから、今更この世界の理にケチをつけるような真似は出来ない。


「動画作りが粗い面もありましたが、そこは磨けば光る原石のようなものだと思えば面白いでしょう。ヒキー・ニッターという前例もありますので、まだまだこの先どうなるかはわかりませんよ」


「俺は磨けば光る原石でしたか?」


「あの自己紹介動画からの落差を考えると。石炭からダイヤモンドくらいの話ではないかと」


 褒められて……いると考えて良いんだよな、まっすぐな目をしているし。

 それにひきかえ、隣の女王様は「これがダイヤモンド?」と小馬鹿にしたようにぺしぺし頭を叩いてくる。ざんねんでしたー。ダイヤだからその程度の打撃はききませーん。


「では次に、第二位なんですが……」


「はい」


「あの、たぶん冗談か何かだと思ってしまうかもしれないんですが」


「……? はぁ、なんでしょう」


「第二位はですね、その……私、です」


 頭の中でもう一度「私です」という言葉をリピート再生してみたのだが、その意味が理解できずに俺は首を傾げるどころか、上半身ごと体を横に傾けた。


 それを見てか、ざくろ様がくつくつと笑う。


「本条、ちょっとこれ聞いてみなさいよ」


「なんですか、それ?」


「このオーディションのサンプルボイス」


 ああ、なるほど。こんな感じの自己紹介動画を送ってねーってやつか。

 言われるがままざくろ様のスマホを借りて、サンプルボイスを再生してみる。どれどれ。


『あれ、どうしたんですかこんなところで。……え? 私が疲れてそうだったから様子を見に来てくれたんですか? ……嬉しい。どうして先輩って私のしてほしいこと全部、分かっちゃうんだろ……』


 『えへへ』と照れたように笑って、


『でも、もう大丈夫ですよ。だって、先輩と一緒にいるだけで私は元気いっぱいなんですもん。……だから、これからもずっと一緒に頑張りましょうね。せーんぱいっ!』


 サンプルボイスが最後まで再生されると共に、机が「バン!」と叩かれた。

 びくっとして目をやると、耳まで真っ赤にした二葉さんが「もう勘弁してください」と消え入りそうな声で訴えて来ている。


 ということは――まぁつまり、そういうことなのだろう。


「自己紹介動画というよりはシチュエーションボイスだけど、まぁこれはこれでありよね」


「ああ、たしかにこれは自己紹介ではないですね。でも、どんなキャラなのかは分かる。面白いものですね」


「ね。それになにより可愛いし。特に最後の『せーんぱいっ!』のところは何度でも聞けるわ。あんたもそう思うでしょ?」


「え? あ、はい、そうですね。めちゃくちゃ可愛いです。いやでもまさか二葉さんにこんな才能があるとは全く知らな――」


 と言いかけたところで、


「――この動画についての感想はもうそのくらいで良いですよね!?」


 再び「どかん」と机が叩かれたので、俺は口を閉じることにした。

 ざくろ様はかなり大爆笑。人をからかうのだけが生きがいみたいな顔してる。やっぱり俺よりよっぽど悪魔だよ、この人は。


「私だって本当はやりたくなかったんですが、社長直々に脅され……もとい、頼まれてしまったのでしょうがなくやったんです」


「脅され……?」


「特に『この前のヒキー・ニッターのやらかしを大目に見たんだからこれくらいはね?』と言われたからには、もう断ることなんかできませんでした」


「あっ」


 結局俺のせいで迷惑を(こうむ)ったという話だったので、俺は机に額をぶつけて謝罪する。

 あの無許可配信は未だ糸を引いていたんだな。そしてそのしわ寄せは二葉さんのところにいっていたと。もう俺ってばほんと生きてる価値がない。あの木の葉の国のポジティブモンスターですらも「分かるってばよ」って言うレベル。


 しかし、二葉さんは「私が恥ずかしい思いをする分には良いんですが」と呟く。


「というと?」


「私が二位になったせいで、その分だけ枠が埋まってしまいまして、上位三人が第三次審査に進むという話が、二名のみ上に進む形となり……」


「あー」


「Vtuberの卵たちの貴重なチャンスを奪っててしまったのかと思うと、もう本当に申し訳なくって……」


 また深く項垂(うなだ)れる二葉さん。

 四位の人を繰り上げるのではだめだったのかと聞いてみると、「これはこれで面白いから」という理由で社長に拒否されてしまったらしい。こんなオーディションを開催するだけあって、中々に奔放(ほんぽう)な人なんだな、うちのトップは。


 まぁ自分が客の立場だったと考えると、少しだけ気持ちも分かる。人気投票で一位をモブキャラにしようぜ、っていうネット民の悪ふざけがあるが、あれに近いものがあるのだろう。『二位がサンプルボイスwww』っていう反応が目に浮かぶようだ。


「というわけで二位は私だったわけですが……一位が誰だか分かりますか?」


「一位ですか? うーん」


 どれも俺からしたらすごく出来が良いものばかりだったから、見当もつかない――


「あっ」


 と考えたところで、一つだけ思い当たるものがあった。

 俺からしたら間違いであって欲しいとも思うのだが、恐る恐る口にする。


「あの、まさかとは思うんですが、あれ……ではないですよね?」


「その反応から察するに、恐らくその予想は当たってますね」


「マジですか……」


「はい。一位は本条さんの予想通り、11番。ヒキー・ニッターのヤンデレ後輩というキャラ設定で応募してきた、あの方です」


 俺はもはや「そうですか……」と言う他に反応を取ることが出来なかった。

 自分のことを慕ってくれている人なのだから喜んでいい気もするのだが、かと言ってあんなキャラ設定では後々俺の方にまで火の粉が降りかかってくるような気がする。その喜びと嫌気が入り混じった感情は、しかしどちらか言うと苦み成分の多めな大人のカフェラテだった。


 そうしてうだうだしていると、ざくろ様が「まぁ妥当ね」と言った。


「演技も動画作成のクオリティも他の人間から頭一つ抜けてたし、ヤンデレという設定もどちらかというとインパクト重視になってしまったこのオーディションでは有利に働いたってことよね」


「はい、仰る通り、寄せられた票の大半は『演技が上手い』や『コラボした時にヒキー・ニッターがどんな反応をするかが見たい』というものでした」


「11番はここまで考えていた上でのキャラ設定だったのかしら。……いえ、きっとそうね。本当になんとなくだけど、私と似たものを感じるわ」


 ざくろ様と似ている……とはつまり、バーリトゥードこそ自分の主戦場だと考えている人間だということだろう。

 多少のリスクは承知で、炎上一歩手前のこともOKだとするやり方。11番は俺のことが好きなのかもしれないが、それ以上に「自分の得になる」と思ったからヤンデレ設定を用いたという予想だ。


 俺の考えをよそに、二葉さんは「ただ」と呟く。


「この11番への応援コメントなんですが、その中に『ちゃむうううううう』というものがあるんですよね」


「ちゃむ……?」


「はい。しかも結構な数が。どこかで聞いたような覚えもあるのですが……」


 そう言われて思い出したのだが、そういえば配信中にも同じようなコメントが流れていた気がする。荒らしの類かと思って無視していたのだが……投票時にも送られていたとなると、なんらかの意味があったりするのだろうか。


 頭を悩ませていると「この件については私の方で個人的に調べておきます」と二葉さんが言うので、俺も一先ずは保留することにした。

 きっと俺の無い頭で考えても答えが導き出せるようなことではないのだろうしな。って誰が無い頭やねーん。ってお前が自分で言ったんやないかーい。っていう風に無限に一人で遊べるようになりました。ぼっち生活の賜物(たまもの)です。


 そして最初にいった通り、この結果が一般の人に公開されるのはもう少し先になるらしい。その時が今から楽しみだなと考えていると、


「一位はあんたのヤンデレ。二位はあんたのマネージャー。三位はあんたの一押し……奇しくもヒキー・ニッター尽くしのオーディションになったわね」


 ざくろ様がニヤニヤしながら言った。

 なんの因果か偶然か。願わくばそれがまた問題を引き起こしたりしなければいいと思うのだが――その一方で、どうせまたなんかの騒動に巻き込まれるんだろうなぁ、という達観めいた気持ちも湧くのであった。

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