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14.でかい! 説明不要!!(前編)

「この前のコラボ配信はとても面白かったと思いますよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

「私の発言を無許可で出したのについては『少々勝手し過ぎでは?』とも思いましたが……」

「しゅ、しゅみましぇん……」


 「まぁでも、結果的に良い配信になったのであれば、私も本望です」とにこやかに二葉さんは言った。

 ヒュー、まったく脅かしやがって。そうやって笑顔を見せれば俺が許すとでも思ったのかよ。そんなの決まってるだろ。もちろん許すぜ。可愛い子の笑顔にはそれだけの価値がある。……俺はいつか壺でも売りつけられるんじゃないだろうか?


 白羽すばるさんとのコラボから数日たったある日、俺は夢花火に訪れていた。

 特に用があったわけではない。しいて言うなら二葉さんに会いに来ている。別に甘い意味ではなく。

 では何故かというと、二葉さんに会うことでこうして配信の感想やアドバイスを貰うことが出来るからだ。もちろん、二葉さんの手が空いている時に限ってではあるから、そう頻繁にというわけにはいかないが……それでも一人で配信の内容についてあれこれ考えるよりかは、ずっといい発想が浮かぶだろうと考えていた。というか、正直なところ頼りっぱなしだ。ほんと、二葉さん様様なのである。


「本条さんがVtuberになってから早いものでもう二か月近くが経ちますが……どうでしょうか、最近の心境としては」

「そうですね。最近は配信にも慣れてきたな、という実感がありまして、非常に楽しくやれています」

「楽しめているのであれば、それはなによりです」

「二葉さんに叱られる回数も減りましたしね」

「私も別に叱りたくて叱っているわけではないんですが」

 

 じと目を向けられたので、「ははは」と笑って流す。


「本条さんは好調とのことですが……それは数字にも表れていますね」

「数字……ですか?」

「本条さんは今現在のコミュニティ登録者数を覚えていますか?」


 えーと、ついこの間20000人を超えているのを見て「おっ、めっちゃ増えてる!」と喜んだ記憶があるから、そこから少し増えたくらいだろう。そう伝えてみると、「今朝8時に私が確認した時点では21128人でした」と二葉さんは言った。ずいぶん細かく覚えてくれてるな。


「でも、たしかスイカちゃんとかざくろちゃんとかって35000人近くいるんじゃないでしたっけ。それと比べると、同期の中でも俺の登録者数ってかなり低いんじゃ」

「総数で言えばそうなのですが、直近の伸び率だけで言えば本条さんが四期生の中でトップなんですよ。特に白羽すばるさんとのコラボをした時に一気に伸びましたね。まぁ私は鹿島さん……ざくろちゃんのマネージャーでもあるので、喜んでばかりもいられないんですが」


 そう言われると、一か月前まではまだスイカちゃんやざくろちゃんとの登録者数は倍以上離れていたっけな。けっこう差を詰めることが出来たと考えていいんだろうか。

 それもこれも四十万さんのおかげだ。俺もすっかり白羽すばるの雛鳥になってしまった。脳みそ空っぽにして「ぴよぴよー」ってコメントするの楽しいんだなこれが。


 同期と言えば、だ。

 

「そういえば、四期生でコラボをするかもみたいな話をしてませんでしたっけ。あれは結局どうなったんですか?」


 電話で配信の相談事をしていた際にぽろっとそんなことを言われたことを思い出して訊いてみると、二葉さんは顔をゆがめた。

 そして、思い悩んだ末にといった様子で口を開く。


「……この間も言ったのですが、二期生の件があってから男女間のコラボについてはゆめパズルでは慎重になっています」

「そう聞きましたね。ああ、それでまだ調整がつかない感じですか?」

「いえ、そういう訳でなく……というのも、仮に二期生の件が無くても、男女間のコラボとはかなり慎重になるものなんですよ」

「え、そうなんですか?」

「はい、あくまで一部の視聴者に限ってという話ではあるのですが、自分の応援しているVtuberに異性のVtuberが近づくのを嫌う方々がいるんです。そういった方々をむやみに刺激してはならないという習わしがありまして」

「あー、厄介オタクというやつですか」

「そう言って切り捨ててしまえれば楽なのかもしれませんが、それらの視聴者も大事なお客様ではありますからね。うまく共存出来るように道を探る必要はあるんです」


 企業としては一見面倒なだけに見える客にもある程度の配慮が必要になるらしい。難しいところなのだな。

 俺個人の意見で言うなら、そんなものは迷惑極まりないだけ……と思ったのが、よくよく考えれば俺もまた「岬ちゃんに誰も近づくんじゃねぇ!」とか言ってるタイプの厄介妹オタクだった。 厄介オタクを覗いている時、厄介オタクもまたこちらを覗いているのだ。ニートの言葉はやはり重みがある。違う、ニーチェか。


「そういった事情があるので、四期生のコラボをする時は出来ればなんの憂いもない状態で行いたいと考えているんですが……」

「ですが?」


 二葉さんはこれまで以上により一層ばつが悪いような表情を浮かべた後、机から身を乗り出してきた。

 意図を察して俺も耳を寄せる。


「実は、ざくろちゃんが少し炎上しているんです」


 そして、耳から脳が溶けていきそうなウィスパーボイスで二葉さんは言った。

 ざくろちゃんが炎上?


「炎上って、あの炎上ですよね?」

「はい、ネット上で悪評が広まるあの炎上です」

「……一体何があったんですか?」

「それが、スイカちゃんとのコラボ配信中に『だから私たち中々登録者数伸びないんだよ』とうっかり言ってしまったらしく……」


 そうか、登録者数が中々伸びないと言ってしまったのか……。

 ん……?


「え、それだけで炎上したんですか?」

「炎上と言っても今のところはまだ小火程度ではあるんですけどね。それでも今までにはなかった量の低評価がついたり、マイナスな内容のコメントが書き込まれたりしているようです」

「にしたって、そんなちっぽけな発言で、どうしてそこまで」

「恐らくイメージとの相違が原因ですね。誰もが配信者に対して自分だけのイメージを持っているわけですが、ざくろちゃんに対して『ただ楽しくて配信をしているようなピュアな女の子』といったイメージを持っている人もいるんです。それがこうして登録者数という数字を気にしている姿をまざまざと見せつけられたことで、イメージとの剥離に不満を持ってしまった人がいるらしく」


 なるほど、いわゆる一つの「飛〇はそんなこと言わない」ってやつか。アイドルはトイレ行かないとかも昔からよく言われるが、「えー、私頻尿で1日10回以上トイレ行くんですよー」なんて言われたら冷める人もいるかもしれない。……それはそれで全く別のファン層がつきそうな気もするが。


 とにかく、そういった問題がざくろちゃんの周りでも起きているらしかった。

 俺からしてみれば些細なことでも、大きな問題だと感じるリスナーもいるのだろう。


「そんなことが起きていたんですね。だから、今はまだコラボは様子見だと」

「炎上というのは一気に燃え広がるものもあれば、積もりに積もった不満が爆発してという場合もありますからね。火を注ぐような真似は避けたいというのが上の判断のようです。……すみません、もうずっとお待ち頂いているのに」

「いえ、俺もその日に向けて配信の腕を磨いておきますよ」


 特にざくろちゃんの前で無様な真似を見せようものなら容赦なく言葉のナイフでめった刺しにされそうだしな。同期コラボは楽しみな反面、今最も恐れている行事でもあるのだ。


「しかし、イメージの剥離とは恐ろしいものですね。俺も気を付けないと」

「そうですね。だからこそ自己分析というものは重要なんです」


 と言った後、「ヒキー・ニッターの場合はちょっとした失言くらいではビクともしないでしょうが」と小声で呟く二葉さん。


「はぁ、ビクとも……。ん、あの、それってどういう意味ですか?」

「いえ、あの、まぁ」

「まさかとは思いますが、元々のイメージが低いから何を言おうがこれ以上落ちることは無い、なぁんていう理由ではないですよね?」

「…………」

「二葉さん? もしもし、聞こえてますか? 二葉さん?」


 会議室の中、俺の声が空しく木霊する。

 どうやらこの一瞬の間に聴力を失ってしまったようであるが、それでも俺は必死に彼女の名前を呼び続けるのであった。




 ミーティングを終えてエレベーターホールでエレベーターが来るのを待つ俺氏29歳独身彼女募集中血液型はAB。

 ニート時代とは違ってまた給料をもらえるようになったし、岬ちゃんにお土産のケーキでも買っていこうかと考えていると、隣に人の立つ気配を感じた。悟られないように足元で確認すると、どうやらその人物は女性のようだ。


 エレベーターに男性と二人きりで乗り合わせると不安になる女性がいると聞いたことがある。そんな思いをさせるのも申し訳ないので、トイレに行く振りでもして乗るタイミングをずらそうかと考えていると「あの」という声がした。


 「まさか俺に話しかけているんじゃないよな?」そう思いつつも念のため声のしたほうを確認すると、ふわふわで栗色の髪の毛をした女性がじっと俺の方を見つめていた。やはり気のせいではなかったようだ。


「な、なんでしょうか?」


 恐る恐る声をかける。


「間違っていたらごめんなさい。ヒキー・ニッターさん、ですよね?」

「え……あ、はい、そうです。夢花火の方ですか?」

「そうです。でも、その、それだけじゃなくて」


 俺が「それだけじゃない?」と訊き返すと、女性はもじもじと髪の毛をいじりながら「私、豊穣スイカです」と言った。


「豊穣スイカ……ちゃん!? うわぁ、これはどうも、初めまして」

「は、はい、初めまして!」


 二人でぺこぺこと、どちらがより頭を下げられるかの勝負をしているように挨拶をしあう。

 急なことで驚いてしまったが、この子が豊穣スイカちゃんの中の人なのか。そうなのか……。

 どこの部分がとかは明言しないというか、してはならないような気がするが、マジでびっくりするくらいにスイカちゃんだった。目線は首より下には下げないようにしなければならないな。


「まさかこんなところで同期の方に会うなんて、驚きました」

「すみません、驚かせてしまって。それに、別に偶然という訳ではなくて」

「え?」

「あの、元々私も会社に行く予定はあったのですが、その前にツブヤイターを見ていたら……ヒキーさんも会社にいると呟いていたので、もしかしたら会えるかもって」


 ああ、そういえばツブヤイターを更新していたっけな。たしか「これから会社でミーティングするなう」という内容だったはずだ。

 「なう」を語尾につけるのがツブヤイターの基本らしいが、こんな魔法少女もののアニメに出てくるマスコットキャラクターのような口調であっているのだろうか。いつも疑問に思っている。


 そうこう話しているとベルを鳴らしたような音が鳴って、エレベーターの扉が開いた。たまたま出会っただけならこのまま別れるのだけれど、わざわざ会いに来たと言っているようであるし。


「なにか用があるようなら休憩室の方に行きますか?」

「あ……お願いできますか?」


 「あまりお時間は取らせませんので」と言うスイカちゃんと一緒に、閉じていくエレベーターの扉を見送り、俺たちは休憩室の方へと歩き出した。

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