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13.とある雛鳥の未見領域

「あー、もう始まっちゃう!」


 飛び込むように家の中へと入り、真っ暗な部屋に灯りをともした。

 21:00までにはもう10分もない。一刻も早く準備を進めなければ。物事を楽しむためにはそれなりの環境を用意する必要があるというのが私の持論だ。映画館で映画を見るならポップコーンとコーラを買うでしょ。そういうこと。


 スーツを脱ぎ捨てるようにして、部屋着に着替え直す。上下スウェットで家にいるときの世間から解放された感は異常だよね。

 ご飯の用意もしたかったけれど、今からでは配信には間に合わない。でも、配信が終わってからでは遅い時間になってしまうので、太ってしまうのが怖くて食べられない。うーん、しょうがない、今日の夕飯は我慢だな。名付けて推しダイエット。好きなもののためにご飯を気合で我慢する荒業。どうしても我慢できなかったら、後で納豆でも食べよう。それくらいなら許されるはず。

 それからあったかいお茶を入れて、座椅子に座ってクッションを抱きかかえるようにすれば完成。いつその時が訪れてもなんの問題もない。


 なぜ私がこんなにも慌てているかと言うと、21::00から白羽(しらは)すばるというVtuberの配信が始まるからだ。私はこのVtuberのすばる君がとても好きで、出来ればすべての配信をリアルタイムで見ようと追いかけている。リアルタイムならコメントを読んでもらえたりするかもしれないし、なにより配信を一緒になって盛り上げられる。あの一体感は生にしかない魅力だろう。


 本気で推しに恋をしている、いわゆるガチ恋勢……とまではいかないが、私の日々蓄積されているストレスを解消する『癒し』はすべて彼が担っていた。彼がいるから、私は毎日行きたくもない会社にいって、やりたくもない仕事をしていても、なんとか耐えらえている。すばる君にはもちろん、その運営となる夢花火には感謝しかない。すばる君を生んでくれてありがとう、夢花火。その言い方はちょっと違うかな?


 そもそもの私と彼との出会いと言えば、すばる君がMetubeに上げている『歌ってみた』の動画がきっかけだった。

 Metubeには『VOCAROBOT』という音声合成技術ソフトを作って、不特定多数の人が自由に楽曲を作り、それを今度は『歌い手』と呼ばれる人たちが歌い上げるという文化があったのだけれど、すばる君もこの歌い手の一人として動画を上げていた。

 最初は「良い声してるな」という程度に彼が上げた歌ってみたの動画を見ていたのだが、後々になって彼がVtuberであり、普段は雑談やゲーム実況を中心に活動していると知って、ものは試しにと見てみたところ、気付けばすっかり配信にはまってしまっていた。


「歌声はもちろんだけど、見た目も中身も良いんだよなぁー」


 白羽すばるは高校生3年生の男の子なので、配信の際の服装は基本的に制服だ。ブレザーの中に黄色いパーカーを合わせた着こなしが可愛い。でも本人曰く、それはお洒落というよりも「寒いから」っていうのが一番の理由だそう。ただの設定と思いきや、冬の時期には口癖のように「今日も寒いねー」と言っていたので、たぶん根っから寒がりなんだと思う。「また寒いって言ってる」ってコメントで突っ込まれる度に「いや、言ってない」と謎に否定するお決まりの流れはけっこうお気に入り。


 そんなすばる君の今日の配信はなんとコラボだった。

 しかも、外部ではなく同じ事務所の後輩Vtuberだという。


 すばる君はあまり同じ事務所のVruberとコラボをしていなかった。ゆめパズルには今まですばる君しか男性Vtuberがいなかったというのもあるし、過去に色々あったせいだとも聞く。私はこのあたりのことを詳しく知らない。炎上だとか引退だとか、不穏な単語が飛び交っていたから見ないようにしていた。

 どうせネットに転がっている情報なんて、嘘や憶測が真実として書かれているようなものばかりだろう。だったら噂などは気にせず、より当事者に近いところで、当事者のことだけを見て判断した方が良いんじゃないか、と私は思っていた。少なくとも私が見ているすばる君は誠実な良い人だし、一部で噂されているような悪人っぽい要素は一切ない。

 なにより、汚いものを見るのは仕事中だけで十分だ。家の中では奇麗なものだけ見て癒されていたい……。


「っと、それは置いといて」


 放送開始まで間もなく。今日のコラボ相手となる後輩Vtuberの情報を『ゆめパズル非公式wiki』で改めて見てみる。

 公式サイトにはキャラ画像とプロフィール程度しか載っていないが、このサイトには普段の配信から抜き出したVtuberの特性や重要な発言なども載っているので、私のように一人のVtuberを集中して応援するタイプにはありがたい。あくまでファンが作った非公式のものであるという意識は忘れてはいけないけれど。


「えーっと、ひ、ひ、ひ……あった、これだ」


 魔界の悪魔、ヒキーニッター。魔界でヒキニートをしていたが親に勘当され、しょうがなく人間界でVtuberをやることになったという。

 ここまでは公式にも載っている情報だが、何度見てもよく分からない。まぁでも、働きたくないという気持ちだけはよく分かる。もっとこう、生きているだけでお金が手に入るシステムを誰かに作ってもらいたいものだ。


「で、普段の配信内容は」


 普段はゲーム実況を中心に配信を行っていて、最近では雑談配信なども増えてきた………らしい。

 また、とにかく喋り続けるのが特長の一つとなっているようで、「ゲーム実況中のイベントシーンでも喋りたいが一部の視聴者が怒るから必死に我慢している」というエピソードが動画のURL付きで記載されていた。

 補足として、稀に(という文字には取り消し線が引かれている)奇想天外な言動や行動をすることがあり、その度に訪れるマネージャーさんからのお叱りの電話を心待ちにしているリスナーも多いとか。


「うーん?」


 総括すると、変な人ってことで落ち着いてしまうのだが、これでいいのだろうか。

 非公式wikiはすこし大げさに書かれている場合もあるのだが、このページに書かれている奇行には必ず出典元が併せて記載されているので、信憑性はかなり高そうだ。

 となれば、やはり変な人という認識で間違っていないのだろう。すばる君はこんな人と一緒に配信をすることになって大丈夫だろうか。まぁ外部とのコラボ配信を見ているうちに知ったのだが、この業界はけっこう変な人が多いみたいなので、慣れたものだと言ってしまえばそうなのだろうけど。


「あ、きた!」


 配信開始までの待機場で流れていたBGMが消えた。

 それはつまり配信が始まったという証でもある。

 間も置かずして白羽すばるが配信画面上に現れた。


「雛鳥の皆さん、こんばんは~。ゆめパズル二期生の白羽すばるでーす。今日も元気に、やっていこうと思いまーす!」


 雛鳥とは白羽すばるリスナーの総称だ。ただ視聴者やリスナーと呼ぶのでは面白みがないという理由で募集がかけられて、アンケートで一位を取ったことからこの名前に定められた。すばる君自身は「僕は鳥なのか?」と疑問に思っているようだった。


「で、事前に告知してあった通り、今日はコラボ放送なわけでね。しかも、なんと相手はこの前デビューしたばかりの四期生。いやー、三期生はちょっと個性的というか、ゴーイングマイウェイだったから、先輩のはずの僕がたじたじになることがあったけど、今日はしっかり先輩としてね、後輩をリードしていこうなかなと、そう思ってます!」


 力強く宣言するすばる君。

 幾度かゆめパズルの三期生とコラボ配信をした時、その姿は確かに先輩らしくは無くて、自由気ままな三期生の子たちに振り回されるような感じになっていた。あれはあれで面白かったけれど、今日こそはちゃんと先輩を出来るのだろうか。


「じゃあ待たせるのも悪いんで、早速登場してもらおうかな。では、どうぞー!」


 すばる君の掛け声とともに立ち絵が表示される。

 長い前髪を揺らし、病的なまでに白い肌をしたヒキニートの悪魔――ヒキー・ニッターは「あ、あ、聞こえておりますでしょうか?」と私たちに言葉を投げかけながら配信上に現れた。


「えー、どうも皆さん初めまして。ゆめパズル四期生のヒキー・ニッターです。この度はこちらの配信にお呼び頂いたことを大変光栄に思っております。精一杯お相手を務めさせて頂きますので、何卒よろしくお願いいたします」

「はーい、というわけで今日のコラボ相手のヒキー・ニッター君です! めちゃくちゃ堅苦しい挨拶から分かる通り、基本的には真面目な人なんで、みんなもお手柔らかに―!」


 その返答にと、コメントでは『よろしくー』と挨拶の言葉がずらりと並んだ。

 「基本的には真面目」という言い方にはなにか思うところがあるような気がしないでもないが、気のせいと言うことにしておこう。


「ヒキー君は悪魔とはいえ、一応僕は先輩なんでね。フレンドリーな感じでやっていこうと思うんだけど……いいかな?」

「はい、もちろん。でも、配信外では敬語なので新鮮な感じがしますね」

「おっとー? いきなり裏での発言暴露してくねー?」

「あっ、すみません。慣れてないもので」


 律儀に謝る悪魔だが、裏ではしっかり敬語でやりとりしているという情報が手に入っただけでも私的にはGJである。

 それからすばる君は「そうそう」と思い出したように言って、


「事前に言っておきたいんだけど、ヒキー君はまだ人間界に来たばかりだからあまりVtuber事情に詳しくないみたなんだよね。だから、僕自身のことも、これから一緒に配信しながら分かりあっていけたらなって――」

「いえ、それについてはもう大丈夫です」


 言葉を遮り、ヒキー・ニッターはきっぱりと言い切った。


「……一応先輩として、後輩がなんかやらかす前に保険をかけておこうかなって思ったんだけど?」

「やらかす前提なのは心外ですね」

「それはごめん……でも、ほんと大丈夫?」

「実はこのコラボが決まってからというもの、すばるさんの放送を死ぬほど見てきました。今の俺ならすばるさん検定があれば間違いなく1級を取るという自信があります」

 

 察するに、保険という言葉は、すばる君のことを好きな人ばかりが集まっているこの配信で、すばる君のことをあまり知らないと発言することが、雛鳥の反感を買うのではないかと(おもんぱか)ったのではないだろうか。だから、魔界から来た悪魔という設定を使って、予め知らなくても当然だという空気を作ろうとしたのだろう。

 

 しかし、ヒキー・ニッターはそれを否定した。あまつさえ、すばる君には誰よりも詳しいといったような態度まで取る始末である。

 これには私を含めた一部のリスナーは若干ムッとした。すばる君検定だぁ? ふざけたこと言わないでよ。そんな楽しそうなものの名前聞かせられたら黙っていられない。誰か作ってくれ。私も受けたい。


 コメント欄のちょっとした反発を知ってか知らずか、すばる君は困ったように「うーん」と唸って、


「じゃあ、僕が僕自身のクイズを出すんで、それに答えられたらヒキー君の勝ちということで。そしたらみんなも『なんだこいつ結構やるじゃん』って認める……ってのはどう?」


 すばる君の提案に対してヒキーニッターは乗り気だ。すぐさま「やりましょう」と答えている。

 そして、コメントもまた『負ける気がしない』だとか『雛鳥の力をなめるなよ』と悪魔を挑発する。こいつらはたぶんクイズがしたいだけなんだろうけど、野暮なことは言うまい。私もやりたいし。

 

「ん、問題なさそうだね。じゃあ……第38回、白羽すばるクイズー!」

「いえー!」


 『37回までのアーカイブは?』というコメントが流れた。

 私の知る限りではこの世に存在しない。


「第1問。じゃかじゃん。……えーっと、そうだな……あ、じゃあ僕が一番好きな食べ――」

「ぴんぽーん。肉じゃが」


 すばる君が言い終わるよりも先にヒキー・ニッターが言う。

 答えを聞くまでもない。これは正解だ。もっと正確に言うならば、お母さんの作った、やたらと具材が大きい肉じゃがが好きだと言っていたはず。

 

「ティロリロリーン。正解です。1問目にしては結構攻めたかなと思ったんだけど、やりますね」

「これくらいは余裕です」


 コメント欄は『これは分かった』と『分からなかった……』で二分されているようだった。

 どうでもいいけど、なんでこの人たちSEを自分の口で言うの? 可愛いが過ぎるからやめてほしい。


「では第二問。じゃかじゃん。僕の、僕の……。あ、僕がもう絶対にやらないと公言している配信はなんでしょう?」

「ぴんぽん。これはホラーゲーム配信ですね。以前に一回だけやった時、さぁこれからゲームの始まりだ、というような建物の入り口で30分費やして、結局中に入れずにリタイアしてました」


 すばる君は自分で言いだしたのにも関わらず、とても不服そうな声で「……正解でーす」と言った。あの配信はマニアの間では話題になっていて、まだ幽霊もなにも出て来てないのに、か細い呼吸で「もうむり」と宣言した姿は最高に情けないけど面白かった。


「ではラスト第三問! ……いやでも本当にけっこう見てるね。正直驚いたなぁ」

「恐縮です」

「うーん……じゃあ、僕の通算100回目の配信のタイトルはなんでしょう……で、どうだ!」


 ええ、これは流石に分からないだろう……と私が考えていると、ヒキー・ニッターは「ひーふーみー」となにかを数えだす。嘘でしょ?


「ぴんぽん。答えは『歌枠、歌ったり騒いだり』ですね。名前の通り半分は雑談枠という配信になっていました」

「……ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンサー」


 どこぞの大物司会者のようにたっぷりと間を置くすばる君。

 コメント欄でも『流石に分からん』とか『これ当てれたらマジですごい』と言われている。

 私たちは固唾を飲んでその行方を見守った。

 

 しかし、


「って、ごめん、僕もこれクイズにしたけど答え分かんないや!」


 とすばる君が言うものだから、私たちは肩透かしを食ってしまった。

 ヒキーニッターだけは「そうですか、当たってると思うんで残念です」などと淡々としたものである。


「でも、もう十分にヒキー君の実力は見れたんじゃないかな。そう思わない?」

 

 その問いには「まぁ、たしかに」と納得せざるを得なかった。

 どうせ私がヒキー・ニッターについて調べたのと同じように、非公式wikiに載ってる情報を仕入れてきたくらいのものかと思っていた。しかし、蓋を開けてみれば、これだけしっかりとすばる君のことを把握してきている。

 コラボ配信にはコラボ相手へのリスペクトが必要不可欠だと思うが、そう言った意味ではこの悪魔はその条件を確実に満たしてきていた。


「ありがとうございます。睡眠時間を削ったかいがありました」

「え、そうなの? 無理させちゃったなら悪いなぁ」

「いえ、実を言うとVtuberの放送をじっくり見たのは初めてだったので、夢中になってしまったんですよね」

「夢中に?」

「はい、配信を見るのはこんなにも面白いものなんだな、とようやく知ることができたというか。なにより、同じ男性Vtuberの先輩ですから、今後の配信をするにあたって参考になりました」


 すばる君は「照れるな」と目を閉じた状態で体を左右に傾ける。


「参考にするようなものでもないと思うけど」

「そんなことはないですよ。普段の配信内容だとか、リスナーとの距離感だとか、あるいはコラボ相手への配慮だとか……俺はまだまだ未熟者なので、学ぶべきものが沢山ありました」

「そ、そうかなぁ」

「はい、スバルさんは尊敬すべき先輩です。俺もいつかあなたのように配信出来たら良いなと思います」


 「うぇへへ」と変な笑い声を上げるすばる君。

 すばる君はどちらかと言うとコラボ中も徹底的にいじられ役になるとうか、一見不憫とも思われるポジションに収まることが多いので、こんなに褒めてもらえることは滅多にない。

 嬉しそうな姿を見るとこっちまで嬉しくなる……と頬を緩めながら二人のやり取りを見ていたのだが。


「いやー、気分いい! でも、こんなに褒めてもらっちゃうと困っちゃうな」

「困るんですか?」

「まぁ、ねぇ。だってほら、僕って先輩にはいじられ、後輩には舐められてきたようなやつだからさ、こうやって素直に尊敬されちゃうと、どうしていいか分からなくなちゃうんだよね」

「そうですか……」


 「では」と一呼吸置いて、


「ここからは改善点を上げさせてもらってもいいでしょうか?」


 と悪魔は言い放った。

 すばる君の口から発せられた「改善点?」という疑問と、コメント欄にいる私たちの思考が一致した。


「俺は普段の配信をマネージャーさんに監視……ではなく視聴してもらっていて、なにか良くない点があればアドバイスしてもらい、それらを常日頃からメモするようにしてるんです」

「うん」

「そして、すばるさんの配信でも俺の配信と同じような問題点がいくつかありました。これはマネージャーさんから頂いたアドバイスをそのまま使いまわせるってことですよ」

「えーっと? それって、つまり……?」

「はい、すばるさんの配信をより良いものにできるよう、これから二人で話し合っていきましょう」


 満面の笑みで悪魔はそう言ってのけた。


「ちょっと待って!? 僕もしかしてこれから後輩に配信のダメ出し受けるの!?」

「今日俺が持ってきたデッキのエースカードがこれです」

「ダメ出しが!? トリッキー過ぎて対策できてないんだけど!」

「大丈夫です。俺の言うことはマネージャーさんの言うことでもあり、俺のマネージャーさんは超有能なので、言っていることに間違いはないはずです」

「それはそうかもしれないけど……」

「では、とりあえず一つ目。『自虐ネタが多すぎる。リスナーは配信者のことを好きで見ているのだから、自虐は好きな人への悪口のように感じられてしまう可能性がある。また、謙遜しすぎは嫌味と紙一重。もっと自分のことを好きになるための意識改革が必要』……とのことです」

「ちょっと気にしてたやつー!!」


 後輩からの容赦ない言葉に絶叫するすばる君。コメント欄も大盛り上がりだ。素敵に先輩しているすばる君もいいけれど、やっぱりすばる君はこうでなくっちゃね!


 


 それからもダメ出しを中心に二人のトークは続いていき、当初予定していた1時間という時間を数十分ほど過ぎた頃、とうとう配信は終了することとなった。

 お別れ前に「僕が用意していたデッキは半分も消費出来てないんで、今度また」とすばる君が言うと、後輩は「はい、是非」と応えた後、「ワシのダメ出しは108まであるぞ」と言い残して通話をぶつ切りした。どうやらまだまだ言い足りなかったようである。


「いい配信だったなー」


 そう独り言ちて、もう冷めきってしまったお茶を一口飲んだ。

 アーカイブに書き込まれるコメントを眺めていても、私と同じような感想を抱いている人がほとんどだ。


『めっちゃ面白かった』

『ダメ出し開始 15:46』

『白羽すばるクイズの3問目、調べたら本当に当たってたわ』

『↑マジかよすごくね』

『ちゃんと先輩後輩してたのが良かった』

『またこの二人のコラボ見たい』


 その一つ一つに『グッド』を付けていく。このポイントが多いほどコメント欄の上の方に表示されるという仕組みだ。やっぱり見ていて気持ちよくなるコメントが上の方に来てもらいたいものだしね。


「私たちが楽しかったのはもちろんだけど……」


 なにより今回の放送ではすばる君自身が楽しそうだった。

 今までのコラボでは楽しそうじゃなかったとか、そういうわけではないが、コラボ相手が外部の人間であったり、同じゆめパズルの人間でも異性に囲まれる状態になったりと、やはりどことなく緊張してるのが伝わることがあった。

 今回は同じグループの一員で、しかも同性の後輩Vtuberということもあり、すばる君自身もかなりやりやすかったのはないだろうか。時間が進むにつれてそれは顕著になっていって、最後の方は盛り上がり過ぎたあまり、放送延長という結果になったのだろうし。まぁ私個人としては別にもっとやってくれてもよかったんだけどね。それくらい面白い配信だったから。

 

 やっぱり私はすばる君が心の底から楽しんでいるような配信が一番だと思う。そして、今回の配信はまさしくこれが見たかったというものだったし、これからより素晴らしい配信を見せてくれるのではないかという期待が高まるものでもあった。だって、今回はまだあの悪魔とのコラボは1回目なのだ。回数を重ねて、二人の関係性が深まって行けば、内容もまた円熟していくのだろう。


「魔界の悪魔、ヒキー・ニッターか」


 最初に抱いた変な人という印象は変わっていない。

 変わっていないが……それと同時に、ちょっと面白い人という印象を私は抱いていた。

 そして、彼のコミュニティをお気に入り登録しておく。今度は個人の放送を見てみようかな、なんて思いながら。


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