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面接

「初めまして!今回面接を担当させて頂く、三島優子と申します。ちょっと特殊なだけで、気取った会社では無いので安心してくださいね!」


「は、はい……よろしくお願いします。冴場拓也です。」


対面に座る面接官の女性は、驚くほど綺麗な人だった。


背中の中程まで伸びた黒髪は絹のように滑らかそうで、薄く化粧をした顔は人形のように整っている。

ほっそりとした健康的な体つきは、モデルや女優だと言われても信じてしまいそうだ。


髪と同じ黒の瞳は零れ落ちないか心配なほど大きく潤んでいて、形のいい唇は光沢のある桜色。

落ち着いた美人といった見た目とは裏腹に、明るく物腰柔らかな対応からは若々しさも感じられ、年齢は定かでない。


だが、この人にとって接客業は天職なのだろう。

三島優子と名乗る女性は、ストレスとは無縁そうに微笑んでいた。


「早速ですが、まずは簡単な自己紹介からお願いします。あ、面接というか、世間話という感じで大丈夫ですよ!冴場さんはほぼ採用決定なので。」


「え、そうなんですか?俺、面接始まる前から採用って言われたの初めてです。」


「お恥ずかしい話ですが、割と人員不足なんです……。それに、うちの会社を見つけられる人って、その時点で少し特別なんです。理由は後でお話ししますね。」


そう言って、困ったように笑う三島さんも可愛らしい。

というか、さっきから可愛い可愛いと思うばかりで内容が全然頭に入ってこない。


大学を卒業した今でも、交際経験どころか女性と話した経験もほとんど無いから、少し浮かれてしまっているのかも。

採用はほぼ確定とは言って貰えたものの、名目上は面接なのだから気を引き締めなければ……


そんな思いとは裏腹に、緊張からか三島さんが聞き上手だからか、俺は普段の数倍饒舌に自分の経歴を語っていた。


最初は学歴や今までの体験など、面接で聞かれるであろう一般的な話を。


勉強は好きで、高校・大学はある程度偏差値の高い所に進むことが出来た事。

就活が始まり、肝心な初動の時期に事故で入院、有名な企業や入りたかった業種は、軒並み弾かれてしまった事。


途中からは、面接には一切関係ない、僕自身の個人的な話を。


小さい頃から夢見がちだった事。

特別な何かに憧れて、ライトノベルやアニメに傾倒し、今でもファンタジーや魔法の世界が大好きな事。

このホテルの求人の「他とは違う」という一文に惹かれた事。


特別な「何か」を求めてここに来た事。


三島さんは、俺の語る子供みたいな話も、辛かった事も、遮ることなく全て聞いてくれた。

適切なタイミングで相槌を打ち、時に頷きながら親身になって話を聞いている彼女は、優しい姉のようでもあり、カウンセラーの先生のようでもあった。


長い長い自分語りをしてしまった事に気づき、


「す、すいません、長々と……」


と謝ると、


「凄く面白かったですよ!それに、冴場さんの事が良く分かりました。やっぱり、とっても素敵な人なんだなぁって思いましたし、うちの会社にも合ってると思います。」


と、少し興奮した様子で語る三島さん。


「身長は高いのに少し痩せてらっしゃるのは、スポーツより勉強を頑張っていたのと、事故で入院されている期間に筋肉が落ちてしまったからなんですね……。なるほどなるほど、それなら立ち仕事も問題無さそうですね!」


俺の外見的特徴を交えながら、仕事への適性や会社のルールを分かりやすく教えてくれる。


「うちの会社、基本的に髪型は自由なんですけど、その髪って地毛ですか?それとも面接用に黒染めしてます?あ、地毛なんですね〜!なら全く問題ないです!」


「俺、目つき悪いんですけど接客業大丈夫ですかね……。ほんとですか?俺より目つき悪い先輩がいるって、それ相当目つき悪い気がするんですけど……。なるほど、裏方的な仕事もあるんですね。それなら安心かも。」


なんて他愛もない雑談混じりにお互いの確認したい事を把握した頃、三島さんは少し不安そうに眉根を寄せた。


「その、最初に申し上げた内容なんですが……うちが少し特殊って話。ここ、1番大事な事なので、もし冴場さんが少しでも分からない点や、合わないなと思う点があれば何でも聞いてくださいね?あの、うちのホテルの売りがですね――」


過去に、泊まることが出来るんです。


そう言って、三島さんはまた少し困ったように笑った。

その顔がまた可愛くて――


え?過去に泊まるってどういう意味??

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