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6:影との和解

 

(冬姫様。──かくかくしかじか)


(なるほど理解しました)


(……。我々は、口下手とよく噂されます。断続的な説明でしたが、伝わりましたか?)


(はい、平民街の様子がしっかりと。あなたよりも説明に慣れていない方も対応したことがありますし、それに、本当のことをそのまま伝えてくれるのってありがたいんですよ)


(……。本当のことを言わないものが多すぎて、人間は嫌いなんだ)


 影さんがそんな風にいうので、驚いた。

 口数が少なくなりがちなのは、こうしてまっすぐに物事を言いすぎると、自覚があるからかな。


 口下手と噂していたのは、ラオメイの方々なのかもしれない。


 人間との間にトラブルがいろいろあったんだろうなあ。

 信用が壊れてしまうほどの。


 どのような言葉をかけようか。

 無言を貫かれたいわけじゃないはずだ。

 私が、こういう心境になったときのことを思い出して──


(私たちだって本当のことだけ言っているわけじゃありません)

(し、しかし冬姫様であり、冬の大精霊様であるので……)

(はい。お仕事をしますって、それは約束しますから。嫌いでもいいんです、春龍様を治すためのあれこれにだけ協力して下さい)


 影さんの動きがピタリと止まった。呼吸すらも。

 葉で作られた帽子の影から、緑の目がこちらをじーっとみている。

 そのまま、数秒。


「わかりました……」

「よろしくお願いします」


 握手の手を差し出すと、あちらも握り返してくれた。


 これまで、ずっと獣だけに聞こえる音で内緒話していたから、突然の意気投合にラオメイの方々は驚愕している。


 あちら側にこうして影さんが近づいてくれることは、なかったのかな。



 おお、フェンリルがにっっこりしている。


(エル、ご苦労様)

(うんっ!)


 私の耳と尻尾がぶんぶんと荒ぶってしまうぜ……!


 え、ちょ、握手している手にフェンリルも混ざってきたんですけども。あ、影さんがぴきんと固まってるぅ。


 双子も背伸びして小さな手を伸ばしてきたので、こ、これは……


 円陣!!


「えい・えい・おーーーーー!!」


 気合い入れるしかないのではーーー!?



 巻き込まれた反応わりと多種多様だな。

 影さんは唖然としてる。

 ラオメイの方々の顎がカクーンと落ちた。

 フェンリルたちは北国スタイルに慣れてるから笑ってる……というか私のテンションに慣れてんのね。助かります。



(情報が集まってきて助かる。これなら問題を回避しつつ、春龍様のところに迎えそうだよね〜)


 と、言ってるところにもう一人の影さんがやってきた。

 シュッ、といきなり霧のように現れるからすっごいびびった。獣耳の毛が逆立っちゃったよ。


(静かなところでもう少し報告をしたい)

(では交代するか)

(そうしよう。よろしいか、冬姫様)

(フェ…………う、うん)



 おっと、フェンリルに尋ねようとしちゃった。

 ここでは私が判断をする訓練にするって決めたじゃないの。

 何か起こった時にはフェンリルがフォローしてくれるから、冬姫として成長したいんだって。



 今度こそ、仕事をちゃんと前向きにやりたいの。


 嫌われることや失敗も、怖がらないように、仕事に自信をもちたいの。


 それでもやりたいって思える仕事なんだから。


 日本での藤岡ノエルはもう引きずらない。



 影さん”たち”がこちらを心配そうにみていたから、もう一度、ぶおん!と勢いよく頷いておいた。

 あ、冷風が吹き荒れた。まずった。


 影さんたちの帽子が軽くはためくと、緑の髪と下がった眉が見えた。

 おお……なんか一気に親近感が生まれたかんじ。素直な気持ちが見えると、私たちの心が近くなる。私もめいっぱい素直に微笑んだ。



「よろしくお願いします」


 ぺこり、と私がお辞儀している間に、シュッと霧の音がした。

 きっと、宮殿側で諜報をしていた影さんと、平民街に赴いていた影さんがこっそり入れ替わったんだろう。


 すんすん……鼻を鳴らすと、宮殿側の影さんはスパイシーな香辛料の臭いがわずかにする。う、オオカミの嗅覚にはキツイかも……。


 フェンリルは大丈夫かなって振り返ったら、平然とした顔を保っているけど獣耳がわずかに伏せていた。可愛いんですけど??ゴホン。



 影さんは複数いて、入れ替わることもできて、いったいどんな魔物なのかな。大精霊の使者は、魔物が人型をとっているはずだ。


 まあいいや。


(調べないのですか?)

(え。えーっと、色々素直に話していただいてるようですから問題ないですよね……?)

(そう、ですか)

(目的と、それぞれの能力が分かっているなら、あとはプライベートかなって)


 だよね。

 過去とか能力とか、そういうのは他人がほじくるものじゃないよ。


 影さんがわざわざ確認してきたってことは、人間嫌いの原因のひとつにこれもありそうだなー。


 とんとんと肩を軽く叩いた。

 ファイト!

 アイタッ、影さんの肩パッドにはわずかにトゲがある。


「毒が!?」

「毒あったのー!?」

「身辺自衛用でして」

「物騒……!」


「貸してごらん」


 フェンリルが私の手を掴んで、ああああそんな顔を近づけてもしかしてキ、キキキキキーーー……!


 フウーーーー。


 と冷風を吹きかけてもらったら、ピキッと指先が凍って、すっかり毒気が抜けましたとさ。

 冬フェンリルたちを治すには氷漬け。新人冬姫エル、覚えましたよ。

 ちくしょういたずらに顔が赤いぜ。恥ずかし……。


「と、私たちに緑の国の毒は効かないから。安心して近くにいてくれたらいい」


 フェンリルのにっこりとした顔に圧があるなあ。


「……わかりました」


 これは緑の国への牽制だね。

 フェンリルも、嘘をついた。

 毒性がもっと強ければ毒はフェンリルにも効くし、雪山はそれで一度死にかけた。



 影さんはぐっと唇を噛み締めた。

 安心していてくれたらいいとかさ、フェンリルは本当に人たらしだよねー。


「冬姫様方。お話しされるのであればラオメイの宮殿へどうぞ」


 さて、どう切り抜けようかなあ。


 目的を同じくする人たちだけで集まりたい。



 もう集まっているのでは?


 ここで宮殿と反対方向に動いたら、春龍様のもとへ行きたい人がついてきてくれるんじゃないかな。おそらく私たちを宮殿に誘い込みたい人は乗り遅れるはず。


 まずは市街地に行ってみたい。

 そこの人々の様子を見たら、この国がどのような状況なのか確実にわかるだろう。

 宮殿に行ったとしても、誰が嘘をついているのか見分けるだけの知識は私たちにはないし。そんな時間もないからね。


 私は駆け出した。

 すると、意外な人物もついてきた。







エル、駆けはじめました。

フェンリルたちもノリノリについて来てます。猶予そんなにないしね。



読んで下さってありがとうございました。



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