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33:緑の国の再生

 


「【刹那明明せつなめいめい】」


 唱えられたとき、春龍様と、もともと人だった妖精女王タウリィアの手は柔らかく繋がれていた。


 緑の魔力があっという間に溢れていく。とまらない! すごい……!


 霧のように細やかに、私たちを包んで言った。

 体が柔らかく変化しているような感じがする。ふと指先を見ると、木片でちょっと擦りむいていた傷がなくなっている。傷が消えたというよりは、回復力が高まっている……そんな感じがした。


 トクトクトク、と心臓が鳴るリズムが、大地と一体化したように感じられる。


 なんだろう。安心する……。


 この緑の大地に足をつけている全ての生き物と、同じリズムで生きているような感覚がある。


 私、今、春に芯から浸っているんだなぁ。


 春に浸って、生命力をもらっている。


 それとともに、私たちの魔力も馴染むように外に放出されていた。

 …………ん? まずくない? 緑の魔力ならまだしも。


「あのね、フェンリル……ここに氷魔力持ちの私たちがいてもいいんだよね?」


「ん?」


 桜色の髪をなびかせていたフェンリルが、顔を覗き込んでくる。

 逐一、美人だ。

 いい微笑み、ごちそうさまです。


 まだ返事をもらってないけれど、フェンリルがこうやって落ち着いていると安心できちゃうなあ。なんて。


「あそこを見てごらん、エル」


「……切り立った崖の割れ目から、氷が突き出していますよねーー!?」


 だめじゃん!

 氷の魔力、影響しすぎじゃん!?


「どどどうしよう、あそこだけ寒くなっちゃったりしたらどうしよう!?」

「落ち着きなさいエル。雪山でも、寒さが厳しいところや陽だまりのできやすいところがあるだろう。土地の少々の違いだよ」

「ユニコーンの角かっていうくらい氷が伸びてるから、少々ではないよ!」

「では、それなりに。私たちがいるからこうなったのだろうな」

「……やっぱり?」

「まあいいじゃないか」

「お許しくださいますか春龍様……」


 恐る恐る聞く私は、いかにもヘタレな表情をしていただろう。なにせ土地まるごと珍百景にしてしまった未曽有の事態なので、心臓がビビりまくっている。


 春龍様は、キラキラした表情で氷の塊を眺めていた。

 あの顔は、面白いものを好意的に眺めている目だ。岩山から突き出した氷は、ロックンロールなお考えのうちに入った……のかな。


「まああぁ! タウ、あそこで滑り台をしてみたいわあー!」


 ……うん。

 好評でなにより!!


 ということで収めていいかな?


 これしか方法がなかったわけだし。

 国王様は諦めのにじんだ表情をなさっていて、春龍様がきっかけになった現象だから異論は出ないのかもしれない。


 いやー、まさか緑の峡谷に氷が生えるとは。

 春の日差しにきらめいて、クリスタルのように綺麗だ。


「エルは気配りをする子だね。少々……おっと、それなりの氷によって、これまでの”夏が早く来たよう”だった現象は収まるはず。それに、あの氷の周りには、珍しい植物が育っている。であれば冬毛になっているのだから、あの辺りは枯れた大地にはならないだろう。土地の新しい植物が芽吹いていて、体が熱くなった動物などが涼しい草を食べにくるはずだ」


「生態系ってものが……なんでもないです……」


「聞かせてごらん。間違っていても、不安なだけでもいいから」


「ありがとう。えっとね……春の生き物たちにとって、長い目で見て悪影響が出ないといいなあって思うの」


 風景はとても神秘的で美しい。


 でも、ここには昔ながらの生態系があり、人々が生きているから。


 これまでの習慣が通用しなくなるはず。

 あの貧しい平民街に、この事態に対応するだけの力があるんだろうか。

 これから快適に暮らしていってもらえるだろうか。


 そういうことをポツポツと、呟くようにフェンリルに相談した。


 すっかり小さくなってしまった私の頭を、フェンリルが撫でてくれた。


 大精霊様は寛大だし、フェンリルという存在は私にうんと優しい。


「今よりマシになるだろうさ」


 辛辣!!

 確かにラオメイはちょっと前まで内輪揉めしてて環境悪かったけど、辛辣!!

 フェンリルそういうところがある!


「そうよぅ。生きているものたちの方が変わればよろしいわ?」


 タウリィア姫があっけらかんと言う。

 おおう、人から妖精女王様に変わった人が言うと重みがありますねえ……!


「……変わらねば、なりません」

「国王様」

「……これまで、春龍様に苦労をかけました。……今度は人が、踏ん張る番です。……宮殿の者たちから、必ず、変わります」


 国王様は咳をしながら、絞り出すように告げた。

 その声はかすれていて苦しげではあるものの、どこかあっけらかんと、タウ姫に影響を受けたように、すっきりと吹っ切れていた。


 人は強いなあ。

 自然のエネルギーもきっと強い。

 小さくなっていた藤岡柊が、ぐんと背伸びしてまた冬姫エルになったような気がした。



「【刹那明明せつなめいめい】♪」


 また、タウリィア姫が唱えた。

 さっきの祈るような感じとはまた違い、ポップなわくわくするような声の調子で。


 谷に、花が咲き誇る。


 爽やかな緑と花の甘い香りが、空を吹きぬけていく。


 緑の霧が、渓谷の上から下まで包むように現れて、生命力を与えていった。


 春の芽生えを、私たちはめいっぱい共有した。







 この訓練場から下方を覗くと、たくさんの緑の芽生えが見られる。

 岩肌だったところにはツタが生えて、花が鮮やかで、すっかりと春らしく見違えた。


「タウ、あの子を呼んでくるわね」


「あの子?」


「ハオラウ。だってもう回復していると思うから。ここにくるのに迷っているかもしれないわ」


 タウリィア姫が去ろうとすると、国王様はとっさに手を伸ばしていた。

 彼も、もうかなり体調が回復しているはずだ。

 手を伸ばしたのは、支えてくれという意味ではないはず。

 彼女にそばにいて欲しかったのか、ここにハオラウ王子を呼ばないでおいて欲しかったのか。


「いいかしら?」


「……ああ、そうして下され」


「そうよね! きっとここを気にいるわぁ。文字が好きだっていっていたもの。彼は、タウに文字を教えてくれたのよ」



 タウリィア、って文字を教えてあげていたんだね。


 国王様は穏やかな顔で、タウリィア姫の後ろ姿を見送っていた。


 よかった。国王様の中でひとつ大きな許しができたみたいだ。

 頑なだった彼のルールが春のように柔らかくほどけていく。

 春龍様が微笑んでいることも、決断をできた理由なんだろう。


「かまわない。いいや、そうあるべきなのだろうな。今からは。平民のクガイであったり、国外からの来客であったり……そして、息子であったり……」


 この場所を見上げている国王様の目元が険しい。

 怒っているんじゃなくて、涙をこらえているような。

 いくつも横に入った肌の線は、顔をしかめて鍛錬をしてきたことを想定させる。とても、とても長い時間。……。


「あの。ハオラウ王子は、ここに来るだけの素質を備えていらっしゃると思いましたよ」


「そう言ってくださいますか」


 ここにいると圧倒される。

 私なんかが、こんな物言いをしてもいいのかなって思ってしまうくらい。

 冬姫エルとなった私だけれど、22年平凡に生きてきた藤岡柊ノエルが、国を管理してきたような人に意見してもいいのかなって。積み上げてきたものの重みが違うから、気になってしまう。

 国王様だって、ハオラウ王子だって、私がここで発言する何倍も、思い悩んできたのではないかって。


「ここにある歴史をハオラウは全て暗記しておりましたから」


 う、うーん。

 でもそれは、この場所に入る資格として言ってる?

 重視するところがまた若干ずれているような……。


 書いてあるんだから、全部暗記しなくても良くない……? もがっ。


(フェンリル?)


 フェンリルが私の口を手のひらで塞いでる。

 パチクリと目を瞬かせて、フェンリルと目を合わせると、ひとつの可能性に気づいた。


 私、もしかして幼狼特有の失言をしてました? ”全部暗記しなくても良くない?”って、思ったことが口に出ちゃいました!? よりにもよってここで!


 フェンリルが口付けてきた。

 いや誤魔化し方!!!!


 春龍様、そこで楽器をシャララランって鳴らすのやめて!

 クガイさん?が「ぶは」って噴き出して笑ってて、恥ずかしいよー!


 フェンリルは私の頭を撫でつつ、国王様に向き直った。


 そしてひとかけらの氷の粒を差し出す。

 国王様はハッとした表情になって、フェンリルを眺めてから、氷の粒をゴクンと飲み込んだ。


 ──何が行われたんだろう?


 今、私たちと、国王様は氷の魔力でわずかにつながっているような感じがする。


「ゴホン。緑の国王よ。人間が数十年でこれらを全て暗記するのは負担ではないのか? というか暗記の必要があるのか?

 これらの歴史を辿って、今のオマエたちがあるはずだ。であれば生まれた時から続く春の感覚を忘れないことのようが重要だと私は思うよ。春の調子がおかしければ、そのたびに治して春を保つこと。春龍に語りかけてみなさい。これからはよくここを訪れるのだろうから」


 これをスムーズに伝えたかったんだね。


 フェンリルはラオメイ語が上手くできないから。

 今まではハオラウ王子が翻訳してくれたり、私が異世界人特典(?)で理解できるから伝えたりしていたもんね。


 なるほど。氷を飲んでもらえば、言語としては通じなくても、言葉の意味が体感できるって感じみたい。国王様に伝わったようで、彼の頬にはつうっと涙がひとすじ、流れた。


 春龍様は、にっこりと笑っている。

 そして、龍の姿になると、森の方へと帰っていった。


 私の獣耳に、春龍様の言葉が届く。


 帰ってしまった!?と混乱していたらしい国王様に、春龍様のお言葉を耳打ちした。


「またすぐ来るよ、って。いつでもこれるようになったから、おかげさまで、ですって! ──この訓練場はいい場所ね、って」


 国王様は深くお辞儀をして、春龍様の去った方角に敬意を示していた。






読んで下さってありがとうございました!


綺麗な光景を伝えられていたらいいのですが……!

いいかんじに、いいかんじに花と緑とクリスタルです。



★まんが王国様で、コミック最新話が更新されています!


 ぜひ、読んでもらえたら嬉しいです(*´ω`*)



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