表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/40

29:玉座の間



「ここかしらね」


 タウリィア──タウは迷うことなく歩いてきた。


 隣には、”クガイ”の姿がある。

 この宮殿に潜入していたのだ。

 平民を代表する力自慢。

 

 タウが道ゆく姿を見かけたために、声をかけてここまで案内をしてきた。

 これは彼にとっても都合が良かった。王族や政務官が行き来するような場所には、結界が施されていたので彼は入れないからだ。


 タウがいれば、するすると結界を通ることができた。


(彼女の姿を見かけたときは、驚いた──)


 その美しさに圧倒されたのはもちろんのこと、歩いた後から芽生えが発生するような緑のエネルギー。

 屍妖精クァンシーハーフの自分が間違いなく仕えたいと感じたこと。

 ずっとうとましく思い、憎しみすらあった王族の姫だ。

 けれど今の彼女にならばひとまず従おうと思える──。


 この姿勢がいつまで継続するのかは、これからこの場にて、彼女が何を成すのかによって変わってくるだろう。

 クガイはタウの後ろ姿を眺めている。


 タウは、うろうろとしていた。


「あった。玉座の間。ここよねぇ」


 古代語のラオメイ文字が刻まれた板を見ながら、タウが読み上げる。

 それからようやく、入り口の方を眺めた。


 入り口はすでに壊れていて、壁も半分ほどが春雷によって削り取られている。

 中の様子が丸見えになっていた。


「メイシャオ姫様……!?」


 かつてのタウの名前を呼ぶ、大男が一人。

 驚愕をあらわにして、すぐに迎撃体勢をとった。それほどに彼は警戒している。


 男は知っていたからだ。

 メイシャオ姫は強大な緑の魔力を持ち、それは四季姫にふさわしいほどであると──


 そのような順調な王族の権力保持に納得せず、メイシャオ姫をあえて堕落に導いたことへの罪も──


 自分たちによる強引な権力交代を目前にして、春龍が暴れ始めたことのおそろしいメッセージも──


 だからメイシャオ姫をも、ここで消すしかないのである。


 まさかとは思っている。

 こんなことをするハメになるとは、と。


 メイシャオ姫のことはそっと殺したのだ。国民の自由のためにと。

 春龍のことは見限っていたのだ。自分たちを豊かにしないならばと。


(なぜ、なぜ、なぜ、なぜ今なのだ……!!)


 怒りがこみ上げている。

 男の顔のあたりが真っ赤になって、力を込めたゆえに浮き出た血管には、緑の魔力がこれでもかと流れ込み、赤と緑のまだらになっている。上半身裸ゆえ、肌の色が目立ち、化物じみた姿だ。


 エルがこれを見ていたら「悪趣味なクリスマスカラー」とでも失言したかもしれない。


(なぜ、今……。こちら側の勢力は出払っている。それぞれに内乱の役割を終えたら駆けつけるようにと打ち合わせていたが、やけに遅いのだから、援軍は望めないつもりでいなければ。私は快調とはいえない……先ほど国王と力比べをした分、削られている。どれほどあのメイシャオ姫の魔法に耐えられるか)


 男はぎょろりと目玉を飛び出させるようにして、凝視する。


(彼女が得意としていたのは、精神に影響を及ぼす緑魔法。それであればこちらは薬で予防しているため、効きようがない。新しい魔法を覚えているか、それとも弟王子が駆けつけるか、どちらかが彼女にとっての鍵になるはず──)


 指の先、爪の先端まで神経をとぎすませる。

 大臣の独特の"構え"は、長らく平民間で受け継がれてきた武術の構えだ。


 クガイは複雑な心境になった。

 己と同じ平民だと見せつけられているような気になる。


 けれど、屍妖精クァンシーの感覚が、まだタウにつくべきだと訴えているので裏切らない。


 男の呼吸が乱れると、指先が揺れる。カウンター的に反応できる武術の構えは、正しい姿勢をずっと保っているのが難しい。

 想定されているのが、多数の平民が控えている中で、道を切り開くためという”型”だからだ。

 足先が、じれったそうに、ギリ、と床を踏みにじる。


(じっと見ているだけなのはなぜだ……! なんなのだ、お前の思いは、メイシャオ姫!)


男は、大臣として問いたかった。


 大臣の焦りが、玉のような汗となって肌の表面を流れて光った。


 エルがこれを見ていたら「いやなイルミネーション」とでも失言したかもしれない。


 ことり、とタウが首をかしげる。

 首元の桃色のフリルがふわっと揺れた。

 いかにも優雅に、指先を柔らかな口元に当てる。



「ええと。何をするんだっけ……?」


「タウリィア姫様!」


 クガイが言及したのも無理はない。


(タウ……リィア?)


 大臣に聞き覚えがないのも当然だった。

 クガイであっても、ここに来るまでに「タウリィアって呼んで頂戴〜」と言われていなければ、そしてハーフの血が確信していなければ、彼女を受け入れられていなかっただろう。


 大臣の内心では(別人であるのか? そんなバカな! あの姿はメイシャオ姫そのもの! だが殺したはずだろう!)という謎が渦巻き始める。


 皮肉にも、大臣たちこそがメイシャオを妖精女王に変えたのだった。



「だってぇ〜、何か踏みつけているのよぅ。それがすっごく気になるのよぅ。気が逸れちゃったんだから、そんなふうに怒らないで頂戴」


 やれやれ、というように肩をすくめてから、タウは顎を使って「クイッ」と大臣の足元を指した。


 羽織が広がっている。分厚く、重く、豪華なものだ。

 その下には質量のあるものがうずくまっていて、脱げかけの靴や、ひび割れたかかとであったり、乱れた髪が覗いていた。


「……国王様なのでしょう」


 クガイはひっそりと憶測を口にした。


 平民は直接国王を見たことがない。


 ラオメイの国王はずっと宮殿で修行をしていて、龍のように天上に向かって生きている存在であるのだ。


 昔はそれが誇りであったが、生活の困窮が広がった昨今では、国王ならびに王族のあり方を平民はすっかり尊ばなくなり、国王の姿を見ない理由について「姿を見たくもない」という者も少なくなかった。


「あの羽織にはラオメイの文様が贅沢に縫われているでしょう」


「そうなのぉ? タウ、知らないわぁ」


「……ほら、あなたの羽織にも」


「あら! 本当ね。この花の文様、可愛いから気に入っていたのよぅ。うふふ」


 花のように微笑んでみせるタウ。

 顔が引きつるクガイ。

 とんでもない狂者なのか、余裕があるだけなのか。


(あれは何者なのだ? 国王を知らないだと? 国紋を知らないだと? それなのに羽織っているのはメイシャオ姫の着物であると……!? さては──)


 大臣の腕が、みしみしと音を立ててさらに肥大する。

 眉間にはくっきりと縦の溝が刻まれて、その形相はもはや人間の域から外れていた。

 憎しみも焦りも、罪の意識も全てを込めて叫ぶ。


「我々の国にて生かしてはおけんぞ、化物め!」


「んまあ。あなた、さては悪いやつね〜!」


 ビシ! とタウが指を差す。


 そこから攻撃がくるものと予想し、前のめりにカウンターを繰り出した大臣は──頭から床に刺さった。


 未だかつてなく体を重くしすぎていたゆえに、制御がきかなかったのだ。


 呆然とするクガイ。


 大臣は頭を床から引っこ抜くと、視線だけで射殺すほどに鋭く、タウを睨みつけた。


 タウの軽口が、この重苦しい空間に場違いなくらいの明るい響きを奏でる。

 春告げ鳥のさえずりのよう。


「すっごく悪いやつっぽいもの〜。顔を強張らせていてしわくちゃだし、ギラギラした目が下品なのよねぇ。そんなふうに誰かを見るものではないわぁ。醜くて、春にふさわしくない。だめよぅ! 悪いわ! だーめ!」


「な、な、な……!?」


 うろたえる大臣の後ろで、広げられた羽織の下から、じくじくとした声が上がった。


 その声のかすれ具合から、どれだけ痛めつけられたのか、想像するほどおぞましいような響き。

 けれど驚くほどによく通り、意思を伝えようとする声だった。


「逃げろ……!! 逃、げろ……! 逃げろッ!……ッ! ……ッッ!」


 たった三音を繰り返す。


 そんなことができるはずはない、させない、とかえって方針を頑なにした大臣が、ニタリ、と口元だけで笑った。血走った目が瞬きもせずにタウを捉えている。


 ──恩恵を受け続けている王族憎しで、ここまできたのだ。

 ──その王族が望んでいることならば、破壊してしまうのがこちらの進路。


 その思考はもはや合理性を欠いていた。


 呑まれるような気迫だった。


 クガイもすっかり足の力が抜けている。

 万が一のことがあれば参戦しようなど、平民のみすぼらしい想像であったのだと思い知らされ、心が負ける。


「まあまあ、タウのことが心配なのねぇ? お可愛らしいこと」


 ころころと、鈴鳴りのような、美しい笑い声。

 タウときたら、心配されたことが嬉しいのだというように、体をくねくねさせていた。

 その度に、綺麗な着物の裾が舞うように揺れるのだ。


(頭がおかしくなりそうだッ……!)



「助けて差し上げるわぁ!」


 タウが口の両端に手のひらを添えて、国王に声をかけた。


 その声を、信じられないような心地で国王は聞いていた。


 どのような姿をしているのか、血に濡れた目では見ることもできなかった。

 どのような顔をしているのか、かすんだ頭では想像ももう及ばなかった。

 おそろしい大男を前にした状況なのに胆力のあることだ。

 そんなものはもう、娘ではない。


 ──聞き覚えがあった声の響きであったとしても、もう二度と、娘だなんて思うことはないだろう。


 ──ラオメイ王族の娘というのは、緑の魔力を蓄えた蕾。


 ──それよりももっと尊いものであったのだろう。


 国王は意識を失った。



「春龍様からタウに託されたものがあるのよ」


 よいしょ、と腕まくりをするタウ。

 着物の裾は破ってしまった。


(けったいな格好……。……どのような魔法が来るかわからぬ、しかし、この結界を通り抜けることは叶わぬ。これぞ植物から生成した緑の力の集大成。この結界であれば国王の技をも吸収する。国王の娘の姿形をしたようなものが結界を破るなど、不可能ッッ!!)


 タン、と床を蹴るタウ。


 大臣は先ほどの反省を踏まえて、衝撃吸収の結界にて迎え撃った。

 そこで足止めをしたあとに、カウンターを食らわせてやるつもりなのだ。

 あの美の化身の化けの皮が剥がれたら、どんなものが顔を出すのか見極めてやろう、と。



「エンターテイメントにせよ、とのご発令よぉ〜。”エンタメキック”!」


 妖精女王が空を飛んだ。


 その蹴りは結界に到達する。


 ──さて、このたびの妖精女王の魔力というのは通常の緑の魔力とはまるで異なり、再生の前に、死を糧にするための”滅び”の力を含んでいた。死者が妖精女王になったゆえの、またとない珍しい現象であった。


 滅びを吸収した結果……緑の結界はまたたくまにひび割れて、妖精女王の足先がみごとに大臣を蹴り飛ばしたのだ。






読んでくださってありがとうございました!


タウのシーン、どんなのがいいかなと、キャラたちと相談した結果このようなイケイケウェイになりました。

国のことが絡むと漢字が多くなるけど、かるく読みやすいように気をつけていきますね。かといって軽々しくならないように丁寧に進めたいです!


更新をお待ち下さりありがとうございました(*´ω`*)



コミカライズについて、

8月25日の更新はお休みです。


しろくま先生がめっちゃ凝って次話を描いてくれているので、9月をお楽しみにです( *´꒳`*)੭⁾⁾



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ