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18:翠玉姫の正体

 


「このたびは春龍様を癒してくださり、誠にありがとうございます」


 そう言ってくれたのは大輪の花から生まれた、翠玉姫メイシャオ・リーさん。……みたい。


 ハオラウ王子は(ありえない、ありえない)とブツブツ言っている。顔は真っ青だね。

 あの子がもしも本当に翠玉姫だっていうなら、雪山に毒を放った張本人ということだ。


 けれど、今のこの子はあまりに無害に見えている。

 挨拶のあとこてりと小首を傾げた仕草は自然だし、ふんわりと微笑む唇には毒気のかけらもない。柔らかいタレ目がとても優しそうで、ありがとうって言葉が大変馴染む。



「春龍様は、癒されているんですね?」


 もう少し話をしないとわからないよ。

 フェルスノゥ王国で冬姫として活動し始めた時と違って、こちらではどの人が味方で敵なのかわかりにくいからねー。


 微笑むとふんわりと桃の香りがする。

 おおお……


「ええそうですわぁ。谷底にいる春龍様は昨日からの冷気に心地よく喉を鳴らしていらして、表面に生えていた黴もだんだんと減っておりますのよ。かさかさに乾いてひび割れていた髭の先がひんやりとした霧で潤って、痛くないそうですわぁ。すこしずつ、お話もして下さって」


 わわ、すごくお話好きみたいだ。

 おっとりした口調なんだけど私が口を挟む暇もないくらいに、スラスラと話す。

 どこで息継ぎをしているんだろうって思うくらいよく話す。


 ──いや、呼吸をしていない?


 獣の耳はついに息継ぎの音をとらえることができなかった。



 彼女はなんだろう。



 ハオラウ王子が剣を突きつけた。


「ハオラウ王子!?」

「……メイシャオ・リーの姿をしている貴女は何者だ? メイシャオならば名を春龍様に捧げて谷底にいるはずだ。付き添いを解かれてなどいないだろう。もしくは姿をかたどっただけの別物だというなら、本来の姿で現れてもらおう」

「落ち着いてください!」


「わたくしはこの姿よぉ。生まれたのは月が三度落ちたくらい前」

「三日前……? それ以前はなんだったというんだ」

「知らないわぁ」

「記憶が途切れているのか?」

「知らないって言ってるじゃない。だからそうねぇ、イメージしましょうかぁ? わたくしはもしかして谷の小鳥だったかもしれないし、空に舞うひとひらの花びらだったのかもしれない。うふふ、楽しいわねぇ」


 わなわなとハオラウ王子が震えている。

 ああもう気持ちはわかるけどさあ……


 彼が現在これだけ苦労して背負っている現実を、問題の張本人である彼女が「知らない」の一点張りなのだからイライラもするだろう。


 彼はもしかしたら「記憶をなくしてでもラクになりたい」と考えるタイプなのかもしれない。グレアみたいに。だからきっと──羨ましいんだ。



 この暖簾に腕押し的な翠玉姫と、怒りを堪えているハオラウ王子を見ていると遠い目になってしまうな──


 しばらく前、異世界トリップする前の私は限界社畜だった。

 ブラック企業ですり潰されたあげくに部署全体のミスを押し付けられて、みんなには「知ーらない」ってされてクビになった。

 そのあとは自失呆然でアパートに帰って、もう消えてしまいたいって泣きながらクッションに飛び込んだんだっけ……


 苦労の中にいるときって、苦労を手放せた人がきっと羨ましくて仕方ない。


 ふと、フェンリルが私の肩を抱いてくれていた。

 そう、クッションに倒れこんだときにフェンリルの背中めがけて異世界ダイブしていたんだよね。




「復讐をしたいわけじゃないでしょう? 私たちもです」

「……冬姫様にそう言われてしまうと……頷かざるをえないですね」


 やっと剣が下された。


 翠玉姫はそんな風に剣を向けられたのに怖がる様子もなくて、きょとんとしている。


 双子が話しかけようと前に出かけたのを、影さんが止めていた。


「あらあ? 兄様?」

「兄様ぁ!? いや…………え? すまない、誰かと間違えていないか?」


 ハオラウ王子のライフがガリガリ削れてるみたいだからやめてあげて!?


「なんだか同じ感じがしたのよぅ。わたくし、貴方と似ている存在なのかしら」

「! なるほど」


「影さん説明して下さい」


 深くなんども頷いているけど、影さん口数少ないからきっと説明忘れちゃうからな。

 ほら、握手しようとするんじゃないよ。本当に同じ感じなの?……あっ。分かったかも。でもそれって……


「この妖精女王ティタリィア様は、あらたに蘇った方のようなのだ。春龍様にすべての名を捧げた春姫のなり損ないであり、その後なんらかの要因で死んでしまい、妖精の泉に落ちて屍妖精クアンシーとなったのだろう」


 情報量が多い多い多い。


 それってとんでもないことなんじゃないの!?


「長らく妖精女王様が生まれなくて困っていたが、なんと今度はずっと死なないとは、めでたいな」

「めでたくしちゃっていいの!?」

「だって死なないし」


 いいじゃん? とでもいうように影さんは小首を傾げている。その仕草、屍妖精クアンシーに共通するものなんだろうか。


 緑の国の死生観独特すぎるでしょうぅ……


 ハオラウ王子はここまで聞いて納得したのかな?

 と思って隣をチラ見してみたら、魂が抜けたような顔をしていた。ですよね。


 緑の国の中でも、谷底の文化は難しいみたい。





読んでくれてありがとうございました!


ちょっと遅くなっちゃってすみません><

明日も更新しますね!


引き続きたのしんでいただけると幸いです。

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