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12:枯れかけの大輪の花蕾

 

(ハオラウ視点)



 屋台から出てしばらく歩くと平民が利用する広場に案内された。


 そこまでの道は薄暗く、街灯もほとんどないので冬姫様たちはどうにも歩きづらそうだった。

 春のラオメイは霧が濃く、月までほとんど覆ってしまうほどだから。


「エル。手を」

「フェンリルどうしてそんなに歩けるの?」

「獣の勘だろうかな」


 平常心、平常心、平常心、ハネムーン……。


 北国の護衛使者殿たちはあの屋台で待ってもらっている。フェンリル様たちがそのように願ったためだ。あの者たちは心配そうに食い下がっていたが、家に誰もいないとタチの悪い山猿が入ってきて困るし、結局留守番をしてもらった。


 フェンリル様がこのように安定して夜に歩けるならばそれでよかったと思う。


 子どもたちの幼いひそひそ話が隣から聞こえる。


「ほぅらこうやって周りを見て歩くの」

「うーん難しいです……ラオメイのように緑の目を持っていないものですから」

「雪原でウサギを見つけるように白い光景なら得意なんですけどねー」

「すげぇ。氷の目?」


 フェルスノゥ王国は平民と貴族の垣根がないと聞いていたけれどここまでとは……。


 平常心、平常心、平常心……。


 子どもたちは話が弾んでいるようだが、さすがに北の双子の王子たちが遅れてしまったため困っているようだ。

 仕方がない。王族の相手は王族の僕がやるべきだろう。


 …………どのように、言おうか。


「「ハオラウおにーさま。おんぶ♡」」


 ……名指し。


 背中に二人ともを背負い、そのまま歩いていくと、両方の耳から褒められてしまう。


「おにーちゃんすごい力持ちなの、緑の魔力の循環? すごいですー」

「ボクたち二人の服も着崩れていません、すごぉいー」


 ラオメイでは祭り衣装として裾を引きずるような服を女子が着る場合がある。妹の翠玉姫のことをよく背負っていたから抱え方が上手くなってしまったな、そう、兄に命じられて……。

 兄は昔から誰かの上に立ち命じるのが好きで、だんだんとそれが凶暴的になっていった。翠玉姫は派手な目立ちたがり屋のくせにたまに人目を怖がっては、僕の背中に隠れるのがくせだった……。二人に挟まれていつも言われた通りにするのが、このハオラウだ。


 自嘲気味に口の端が吊り上がった。


 ……そういえばなぜ北国の王子の片方がスカートを履いているのだっけ。


 フェルスノゥ王国の風習を思い出す。

 冬の大精霊フェンリル様の代替わりがあるときに捧げるため魔力が最も多い王族”女子”を代々温存する。

 しかしながら前回代替わりのときには王子しかいなかったためそのまま実行したという経緯があり、それから、魔力が多い子どもであれば男子であっても代替わり用に育てるそうだ。

 スカートで過ごす王族男子がたまにいるとか。

 このメロニェース王子がそうなのだろう。


 そして初代代替わりだったという男子こそが、目の前にいらっしゃるフェンリル様。

 さらに異世界の女子エル様をつがいに認められた。


 フェルスノゥ王国は柔軟だ。

 このように次々に、時代に合わせて風習を変えていけるのだから。



 僕などは勉学をつめこんできただけで、それを政治に反映させるようなことは一切できていない。

 実績が伴わない臆病者を、王族の血だからという理由だけで次期国王になってしまってもはたしていいのだろうか……。


 冬姫様は「現実を冷静に見ることができる人だ」と言ってくださった。


 それをどのように活かしていけば良いのかと、思いを馳せる。



 夜風がさわやかに黒髪をなびかせていく。

 春の柔らかさに冬の清涼さが混ざっている。特別な風だ。


 大臣たちの騒音のない夜は、思考をするのにはぴったりだった。



 そして広場にたどり着くと、うっとりとするような甘い匂いと小桃の繁み、ジャスミンの花々。

 色と大きさの違う石を敷き詰めて、地には春龍様が象られている。

 その向こう側に「大きな花の蕾」があった。


 そしてそれは、春を呼んだにも関わらず、今にも枯れてしまいそうにしている。



 影が息を呑んでいた。

 これを把握してなかったということだろう。影がどこに何人いるかは知らないが、今はほとんど谷底に置いているはずだ。春龍様をお守りするために。


 そして私もまた落胆していた。

 春を呼んでこれが再生していないとすれば、一体どうすればよいのだろう。

 植物の再生に効能がある薬品といえば……考えろ、ホヌ・マナマリエから輸入した向日葵エキス、帝国の活性剤──



「よーし。ちゃちゃっと元気にしましょっか!」


 できるというのか。


「過激だけどやろう」


 過激なのか!?


「丸ごと凍らせて葉脈という葉脈に魔力を浸透させる。私たちの魔力はいわば染み込ませるためのブースト、あとは緑の魔力を持つみなさんがこの花に魔力を注いでくれたらいいかもね」


 かもね!?


「まあ花はいくつかあると聞くし。一つ試しにやってみて駄目だったら次に期待だな」

「ま、待ってください!失敗を前提にするのは」

「成功するつもりだし」

「つもり、などと不完全なままであれば」

「初めてこの緑の国に来ました。そして初めて春龍様を治そうとしています。春姫様でもない私たちが。──ということで冬フェンリルの直感に賭けてくださいませんか。もしも春が無くなってしまえば冬もいずれ道連れなのです、大丈夫」


 大丈夫ではない。

 しかし命をかけていらっしゃるということか……。


 冬姫様が手をかざした。


 心の臓も凍えそうなほどの莫大な魔力が放たれて、彼女はその髪を白銀に光らせていた。






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