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9:谷底への門は閉鎖

 

 階段の一番下まで。

 下まで。

 下……


 長!!


 舞う桃の花びらが減ってきて、階段にへばりついた上を歩く。

 この花びらがやがて枯れて石の隙間から吸収されたら、大地というかこの崖の岩などにも魔力が染み渡るんだろうなー。

 ふみ。ふみ。早く馴染みますようにっと。



 そしてひたすらにまっすぐ降りて門までやってきた。


 分厚い金属の門。

 槍を持った屈強な門番が四人、控えている。


 その前にハオラウ王子が立つと、彼が小柄に見えるくらいだ。彼は身長が170センチくらい、細身だからね。


「「ここは通すことができません」」

「なに?」

「「上よりそのように指令が御座います」」


 それって……王子よりも上ってこと? 国王陛下? そんなばかな。


 ここで無駄足にさせたって、私たちがどうやってでも春龍を治しに行くことは明らかじゃない?

 わざわざラオメイに来たんだから。


 ハオラウ王子の対応を見守っていると、いくつか口論してから、いったん引いた。


 階段をもう少し上に上がったところで、彼が重い口を開いた。



「別の道を探しましょう。おそらく自分たちからあの門を開けることはありませんし、攻撃をしてくることもあり得ます。彼らはフェンリル様たちの奇跡の瞬間を見ておらず、大精霊への信仰が薄い」

「押し通るには危険ってこと?」

「はい。申し訳ありません」


 ハオラウ王子が頭を下げた。

 もう日が暮れかけて、夕焼けが彼の顔を暗くしていた。


「あれらは財派の者ですから」


 敵ってことはわかる。


 この長い階段脇に一定間隔で備え付けられている、休憩場所の石椅子に腰かけて話を聞いてみることにした。


「財派?」 


「つまりはこの国に財を蓄えて豊かになろうという者たちです。その者たちが目指すのは諸外国との交流で金持ちになること。それから平民にも分け与えてやろう、とこのような順なのです」


「「お茶、ごくん。ハウラオ王子は違うのですねー?」」


「私と国王は伝統派ですから。昔ながらの清貧を美徳としております。しかし、"どちらかといえば"という危ういところにいるのが現実ですが……それくらい我が国は痩せていて、盛り返したのは王家ではなくあの財派の大臣たちだ。それに兄上も噛もうとした」


「清貧かあ……」


「冬姫様?」


「あ、うん、なんか懐かしいなあと思って。私の……故郷にもそんな言葉があって」


「たしか異世界の方だとか」


 呟きを拾うくらい彼にとっては重要視してきた言葉なんだろう。

 足も疲れてるし、ちょっとだけ長めに話そうかな。


「細かいところは省きますけれど、国があって国民がいたのは異世界も同じです」


 みんな平民で選挙制ってとことか話すと長くなるから省略。


「貧しくとも清らかな心で。っていうのは一見美しくて、みんながそれを褒めがちなんですけれどね。貧しいままでいてもらったほうが都合がいいからその言葉を褒めて私腹を肥やす人たち。いませんでしたか?」


 あ、今の大臣たちがまさにそうかもって顔してる。

 だって土気色になってるんだもん。

大丈夫かな。

はい桃どうぞ。


「もしも他者にそれを言われて受け入れてしまった時には、弱点になる。だって豊かになったことが悪だから。

でははたして子どもにおなかいっぱい食べてもらうようなことは悪でしょうか? 違うと思う。大事なものを大事にできるように、いつも清らかな心でいたい、重視するのは"そこ"のはずです」


「そう、ですね」


「ではどうすれば清らかな心でいられるのか。故郷もそれを解決できていませんでした」


「えっ」


「そりゃあ、国と人ですもの。めっちゃ人いますし、人は他人が気になる生き物ですから、嫉妬や絶望も生まれます

 三大欲求というものがあって。食欲、睡眠欲、……愛情を感じること」


 おおう危ない。子供もいる前で発言に気をつけないと。


「そこを満たしてあげたら少なくとも穏やかになれます。他人に優しくする余裕もできるかも。それって目標になりうるんじゃないでしょうか?」


「清貧よりも、分かりやすい……かもしれません」


「そこもいいポイントなんですよ〜。なにせ、貧しくなろうって誤認や誤解を”させられる”ことが減るし。おなかが空くことや眠ことは毎日感じるから満たされるイメージがしやすいですよね。やってみようかな、って思いませんか?」


「……国策に、」


「と考えてくださるくらいには実感していただけたようで嬉しいです! 正直とてもオススメですけど、ここで国に首を突っ込まれることはラオメイの皆さんもよく思わないはずだし、ハオラウ王子がいいと思ったらご自身の発言としてお父様にご進言下さい」


「あなたの手柄を盗ってしまうのはよくない」


「思想はものじゃないですよ。いいと感じるものがあったなら、それはあなたの心のおかげです」


 ハオラウ王子は目を瞬かせた。

 受け取った桃にわずかに指が食い込んで、ぎゅ、と力が入っているのが見て取れる。


 ラオメイは個人主義だね。誰が何を言ったのか、重視するところはいいと思う。

 口数が少ないお国柄で、少人数の民族だからってところもあるだろう。


 国家として団結するフェルスノゥとは違うところだね。

 あっちの団結力は雪崩に国家総動員であたるため、と聞いたことがあるなあ。


 ああ……ジェニメロが半眼で作り笑いで緑の王子を見ている……うん、国策とかすぐにそのまま丸呑みしようとしたの王子としては頼りなかったよね……

 彼の方が大人だけど、成長速度はそれぞれだから。現時点が残念なら、これから良くなっていくしかないから。

 頑張ってほしいな。


 すんすん。

 桃のフレッシュな甘い香り。

 ぐーーー、とこんな時に鳴る私のお腹が自重しなさすぎるね?

 タスケテ!


 哀れんだのかフェンリルが自分のお腹を撫でる仕草をしてくれているけど、影さんが「いやいやこっち」と私のお腹を指差してくるの素直が誤爆しているのでタスケテ。


「ゴホンッ。あの道はいったん通れないんだろう? 他の道はあるんだろうか、影よ」

「ある」


 フェンリルが尋ねてくれたら、影さんは、私のお腹を指していた指を上に向けた。え、上?


 すると上の方から人が、”落ちてくる”。


 っっっっ──……! 衝撃に構えたけど、足音ないんかーい。


 なるほど修行済みの人なのね。


「平民街の情報をッッッ!! 持ってきた!」

「これはクガイ。少々うるさいが、我々の半同類だ」

「うむッッ」


 クガイさんはフェンリルの方にまっしぐらに駆けてきて、砂埃も立てずに急停止、頭を下げた。


 おおう……自国の王子のことはガン無視……複雑なラオメイ事情そのものだな。


「簡単にいう。このクガイは平民街で暮らしているため、その情報を持つ。他にも宮殿内部にいるもの、野山に潜むもの、春龍様の側に待機しているもの、がある。我々「影」の知識はそれなりに共有されている。すべて使えばラオメイの把握に役立つ、あの門以外を案内することもできるんだ」


 誇らしそう。


 言っている間に、また影さんと背格好が似ている人がやってきた。

 階段の隣から……

 ってそこ切り立った崖なんですけど!?

 崖に植物のツタを生やして、ターザンみたいにやってきたよ。


「春龍様のヨウスを、報告。冷風にて、快調なヨウスだ。よって、この街周りの有害植物、先に、除去シヨウ」

「よかったなあ!! であれば、ちょうど冬姫様が腹を鳴らしていたから食料調達からしようか」


 す、すみません……!


 私たちは平民街に食料調達に。

 クガイさんはまたたくまに宮殿に。うおおおおおって、有害植物を根絶やしに出かけた。


 そのクガイさんの行動を、ハオラウ王子が止めなかったのが印象的だった。





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