1 最強の誕生
新連載はじめます!
よろしくお願いします!
暗闇の中で、俺は温かい水に包まれていつも通り気分よく寝ていた。
騒音もなく、とても静で寝心地の良いこの空間は俺のお気に入りの場所だ。
ここにいると、何故か腹も減らないし、ときどきユラユラと揺れて、妙に眠気を誘われる。
毎日、働かずにただ眠るだけ。
まさに絵に描いたような理想的なスローライフ。この平和な日常がいつまでも続けばいいなと俺は呑気に願っていた。
だが、その希望は突然幕を閉じることになる。俺のスローライフに新しい変化が訪れたのだ。
(きょうもへいわだなー)
ぼんやりと、夢うつつにそんなこと考えていると、脳内に電撃が流れたような痛みがはしった。
(ぐうぉぉーー、痛ええェっ、なんだこれ!!? )
ずっと寝て生活しているだけだったので、初めて経験する痛みにパニックになってしまう。
(ひいいい、助けて頭が割れるぅぅ)
どうすればいいか分からなかった俺は、とりあえずジタバタ暴れていると、見たこともない映像が頭の中で勝手に再生されはじめた。
映像には、灰色の道を、でっぷりと太った小汚い男がフラフラと歩いていた。
覚束ない足取りで、片手には白い袋をぶら下げ、もう片方の手で銀色の筒を持ちあげて口につけている。どうやら何かを飲んでいるらしい。
陽気な声をだして道のど真ん中を歩いていたそいつは、後ろから迫ってくる車輪のついた巨大な塊に気が付かず、轢かれてあっけなく潰れてしまった。
その瞬間、映像が消えて、俺の視界はブラックアウトした。
いつの間にか脳内の痛みも綺麗さっぱり消え去っていた。
(はあ、はあ、はあ、なんだったんだ、今の映像と痛みは・・・)
突然の出来事に暫く呆然としていたが、俺は自分の体に異変が起きていることに気が付いた。
映像を見る前よりも、明らかに全身がパワーアップしており、迸るようなエネルギーが体の奥底から無尽蔵に湧き上がってくるのだ。
しかも、いつもぼんやりとしていた思考も、鮮明になり、五感が研ぎ澄まされ、知るはずの無い知識が次々と流れ込んでくる。
その結果、いま自分が置かれている現状を完全に理解することができた。
(えっ、もしかして・・・俺って生まれる前の赤ちゃんだったの!?)
どうやら俺がスローライフを送っていた場所は、母のお腹の中だったらしい。
なぜ分かったかというと、現在進行形で絶賛出産中だった。
「頑張ってください、もうすぐ生まれますよ!!!」
「は、はい先生っ! ひっひっふーっ、はぁ、ひっひっふー」
必死に息を吐く女性の声と、それを心配するしわがれた男の声。
すると、また別の人の声がした。
「先生・・・出血が多い上に赤ちゃんが逆児です。このままでは母子ともに命に危険が・・」
「・・・よりにもよって回復術師がいない日にっ・・」
それを聞いた俺はとても慌ててしまった。
(なんだって!? このままでは母上が死んでしまう!!)
こうしてはいられないと、なにか助ける方法はないか考えてハッと思いついた。
逆児ならもう一度反転すればいい!
そう、逆逆児だ! 普通の胎児には不可能だが俺にはできる。
俺は急いで頭と足の位置を自力でくるりと反転させ母上の負担を減らす。
しかし、いまだに苦しそうな女性の声は止らない。
(くそっ、駄目か・・・こうなったら俺が母上を助けなくちゃ!! 大丈夫、俺のスペックなら出来るハズっ、いくぞぉ!!!)
「ぶぼぼぼぼぼお!!!」
羊水の中にいたせいで発音した呪文が殆ど意味不明な言葉になってしまった。
けれど、両手が暖かい光に包まれたので、それをそっと母上の体にあてる。
(大丈夫、きっと成功しているに違いない)
何故なら、さっき脳が痛みにやられて体が覚醒した時に気が付いたからだ。
どんな原理かは知らないが、漠然と俺は自分がどういった存在なのかを知った。
人間や他の生物ではない、もっと別のナニカ・・・・
全ての生物の頂点に座するために生まれてきた最強の個。それが俺だ。
だから、母上を死なせずに助ける事が出来るは筈なのだっ、絶対にっ!!!
「ぶぼぶぼぶぼぶぼー!!」
ドンドンと体内の魔力を変換して母上に注ぎ込んでいく。
すると、急に頭が引っ張られる感覚が強くなり、俺はスポンと体内から放出されて、柔らかい床の上に投げ出された。
はじめて見るまぶしい自然の光が目に突き刺す。
しかし、いまは新しい世界を見て感傷に浸っている暇はないっ!
俺は急いで立ち上がり声をかけた
「ばばばばばばばひ?」
心配して母上の様子を窺う。
が、俺の目に映りこんできたのは苦しんでいる女性ではなく・・・・・・・
限界まで目を見開いて、こちらを見ているハゲたおっちゃんだった。
「あ・・・あ・・・あ、赤ちゃんが立った!? それも仁王立ち!?」
(し、しまったっ!?)
俺はすっかり普通の赤ちゃんが生まれた直後に立てないのを失念していた。
このままでは、化け物に勘違いされてしまいかねない。
慌てて、俺はごまかすために近くに落ちていたタオルを拾って、それをパサァとハゲのおっちゃんに投げた。
そして、高速で床にダイブを決めて寝転ぶ。
するとどうだろう?
おっちゃんがタオルで一瞬視界を奪われて、もう一度目を開いたとき、そこには可愛いベイビーが声をあげて寝ているじゃありませんか。
「おぎゃおぎゃおぎゃ」
「・・・・き、気のせいか?」
「先生、わたしの赤ちゃんは?」
「お、おう心配するな元気な赤ちゃんだぞ、よく頑張ったな」
「よかった、みせてください」
(どうやら母上も無事らしい、本当によかった・・・)
俺は安心すると、どっと疲れが押し寄せてきて、そのままぐっすり眠ってしまった。
こうして、俺は新世界に産声をあげたのだった・・・・
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作者の心が癒されます。下のお星さまに明かりをつけて、感想に超おもしろいですね、ぐへへへと書いてくれると、作者もそうでっしゃろ? ぐへへへとパソコンの前で笑います。