74話 王女の招待 ー即退場ー
王国の第一王女様に招待された私はウアリウスを連れ、王宮へと足を運んだ。魔王城とは違い、黄金一色に染まった城は国の栄華を物語っていた。事実、大天使と人間の女性によって創られた王国の財力が衰えたことがないのだ。神が愛する国。創造主の血を引く王族は、王国で最も尊い人と崇められている。
ウアリウスも神族じゃないのに神秘的で神々しい雰囲気がすごい。流麗な銀の髪、銀の瞳、瞳を覆う睫毛まで銀髪って……ケチの付け所がない絶世の美貌。見た目と中身の年齢が合わないのは悪魔ならでは。いずれ私もそうなるのだ。
王宮の門番に話をつけ、中を案内される。
内装は外装と違って黄金一色じゃなかった。白に統一された清潔感溢れ、壁に絵画も置物も超一級品。生けられる花に淡い粒子が取り囲み、幻想的な光をもたらしていた。王宮筆頭魔導士が生けた花だろうとウアリウスは言う。
軈て、王族が好んで使用するサロンに案内された。案内をしてくれた騎士が扉を叩き、私達の来訪を告げると中から「どうぞ!」と期待大の声が返ってきた。
「うう……緊張する」
「楽にしなさい。僕がいれば、王女も迂闊な発言はしないだろうしね」
「うん……」
ウアリウスにとてもご執心な王女様が何もしてこないといいけど……。
扉が開けた先には、第一王女の他にも何人かの王族がいた。
「まあ!! 公爵様まで一緒だなんて! それなら、公爵様宛に手紙を出しましたのに」
「ヴィオラ! アフィーリアお嬢様とマクミラン公爵閣下の前でなんて事を……!」
……うん、予想通りの反応なので平気です王太子殿下。
感激の余り、涙を流す女性がヴィオラ第一王女。王族の血を引く者皆、大天使と同じプラチナブロンドにサファイアブルーの瞳を持つ。彼女も例外じゃない。王女を嗜めたのは第一王子であり、王太子であるリヒター殿下。細身の長身でありながらも、社交界の噂曰く、服の下はすごいらしい。あれかな、着痩せする人なのかな。
他にも第二王女と第三王女がいる辺り、私を呼んで何をしようとしていたかは想像に難くない。
ヴィオラ様が最もウアリウスにご執心といえど、残り二人の王女も中々にウアリウスを気に入っている。
リヒター殿下は私達の前に来ると申し訳なさそうに眉を曲げた。
「申し訳ありません、アフィーリアお嬢様、マクミラン公爵閣下。我が愚妹の戯言など、お気になさらず」
マクミランというのは、人間界でのウアリウスの家名。本人によると適当に付けただけらしい。
「気にしないで王太子殿下。僕のアフィーリアが気になって仕方ないみたいだね王女殿下は」
敢えて僕のと強調する意味は?
笑顔なのに、その下にある感情を察せられないのは長く生き続ける悪魔の特徴そのもの。リヒター殿下が言葉をどう捉えたのかは想像に難くない。若干、表情が青い。王女達だけ、未だウアリウスの登場に色めき立っている。
「……申し訳ありません」
今一度頭を下げた殿下に苦笑する。
「顔を上げなさい。第一、君は次期国王だろう?そう簡単に頭を下げていいものじゃない」
「マクミラン閣下相手にそのような……」
社交界では不老の公爵様として人気なウアリウスの実年齢を知る人はいない。曰く、数百年前から王国の公爵を務めているのだとか。それも所詮暇つぶし。神が愛する国を選らんだのは、いつか自分が始祖の魔王と気付いた神が大群を率いさせ襲って来ないかと期待してのこと。が、大事に囲って育てていた姫であった母様を奪われた挙句、悉く奪還に失敗しているせいで神は無気力気味になっているとか。
リヒター殿下が私とウアリウスを席へ案内してくれた。上座には王族方が。下座には私とウアリウス。ヴィオラ王女は自分の隣にとウアリウスを誘うも、美しい微笑を崩さず私の隣に座った。
ヴィオラ王女は口を尖らせた。
「まあ、わたくし公爵様と一緒に座りたいのに!」
「殿下。あなたには婚約者がいらっしゃる。不用意に異性に近付くのは良くありませんよ」
「いいですわあんな男。わたくしは公爵様の妻になりたいと昔から言っているのに、お父様もお母様も誰も聞いてくれないですもの」
「ヴィオラ!」
……彼女が王太女じゃなくて良かった。王国は、必ずしも王が必要なわけじゃない。より優秀なら女王誕生もある国だ。
ヴィオラ王女の婚約者は、王族の分家、宰相家の嫡男。あんまりな言われよう。社交界で何度か挨拶をした。黒髪に青い瞳の、冷たい雰囲気が特徴な人。口数は少ないが一つ一つの動作が洗練されていて、完成された美術品を体現したような人。
悪い噂も聞かないから、単に王女が嫌がっているだけ。ウアリウス一筋な王女からしたら、どれだけ優良物件な相手だろうとウアリウス以外は認められない。
「だってお兄様!公爵様以上に素敵な殿方はいませんわ」
「いい加減にしなさい。全く、これではお茶会の続行は無理だな。衛兵、王女を部屋に戻すんだ」
「ま――!」
リヒター殿下の呼びかけに応じ、扉の前で待機していた騎士が入り、命令通りヴィオラ王女をサロンから連れ出した。扉が閉められても「嫌ですお兄様あ!公爵助けてええええええええぇー!!」絶叫が届く。残る二人の王女は、リヒター殿下の容赦のなさに怯え、身を寄せ合い縮こまっている。
頭を下げようとしたリヒター殿下をウアリウスが制止した。
「はは。君も苦労が絶えないね、王太子殿下」
「はい……。ヴィオラは、昔から閣下にご執心で……婚約者を決めたのも閣下を諦めさせる為だったのに」
「人の気持ちは、そう簡単に変わらないよ。僕もびっくりしたけどね。初めて会ったのは王女が五歳の時だったね」
五歳の幼女に一目惚れされ、両陛下のいる場所で求愛されたそうな。
顔を青ざめる両陛下と周囲、固まるウアリウスの構図が目に浮かぶ。
「アフィーリアお嬢様」
リヒター殿下が私に向いた。
「ヴィオラがお嬢様を呼び出した訳は、恐らく他の王女二人が知っているでしょう。聞きますか?私も気になっていたので」
分かりやすいくらい、顔を青ざめだした二人の王女が気の毒になってきた。私もある程度の予想はしていたし、ウアリウスも分かって同行してくれた。
「私はどちらでも構いませんよ。美味しいお茶が飲めるならと今日は応じましたので」
「そうですか。……で、お前達、一体どういう訳でお嬢様を呼び出したんだ」
リヒター殿下の問いに第二王女エフィア様が震える口を開いた。
「あ……あのっ……マクミラン、閣下といるから……屋敷を出るように迫ると……、お、お姉様に、言われ、ました」
本当に予想通りだった!
読んでいただきありがとうございます!
ちなみに、母様の瞳がサファイアブルーなのも天使ならではの色です。




