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69話 種は取り除けない

 

 高位魔族の本気を垣間見たのは“エデンの森”以来。あの時シルヴァ公爵は本来の実力の片鱗すら見せていなくても、一度(ひとたび)放った魔術は空気を震わせ大地が悲鳴を上げた。目下、繰り広げられる力と力のぶつかり合い。



「《躍り狂え炎竜王》」

「《噛み砕け黄金の狼》」



 個人が使用するには最高峰の威力を誇る炎と雷の魔術が一直線に放たれ、激突した。フィロメーノによって謎の球体に閉じ込められ、地面から遠く離された私はフィロメーノとレオンハルト団長の魔術戦を眺める事しか出来ないでいた。


 全てを焼き付くす業火の竜が、黄金に等しい雷を纏った狼が激しく争う。竜と狼が触れる度に、周囲は大爆発が起きて美しい庭園を破壊していく。


 だが――――



「すごい……っ」



 クレーターとなった地面や木っ端微塵となった城壁は瞬く間に元に戻っていく。それは彼等がどんな魔術を放っても。


 一際眩しい光が魔王城を飲み込んだ。目がまともに開けなかった私は袖で目を覆った。



「やれやれ、念入りに準備をしているねこれは」

「フィロメーノ!」



 横にはいつの間にかフィロメーノが立っていた。


 数々の超高等魔術を放っていた割にフィロメーノに疲労の色がない。底無しの魔力に戦慄してしまう。



「そこにいてね。君を守りながらレオンハルトを相手にするのは面倒だから」

「それより、フィロメーノやレオンハルト団長に破壊されても修復されるお城にどんな仕掛けがされてるの?」

「簡単さ。魔王城周辺に非常に高度な時間回帰魔術が施されている。大人数で行う儀式魔術の一種だね」

「そ、それを一人でレオンハルト団長はやったの……?」

「……いいや、レオンハルトじゃない。巧妙に隠されているが魔術から感じる魔力からして……」



 顎に手を当てて考え込むフィロメーノ目掛けて紫電の槍が飛んで来る。「フィロメーノ!」と叫ぶ私とは対照的にフィロメーノは冷静で。左手を向けた。



белЫЙ(ビエールイ)



 聞いた事のない言語の呪文が紡がれた。紫電の槍はフィロメーノの左手から放出された白い光に包まれ、淡い光を発し消えていった。



「今のは……?」

「魔術を強制終了させた」

「相変わらず気に食わないじじいだ」

「!」



 疲労の色がないのはレオンハルト団長もだった。若干、魔術師団のローブが焦げているが……。


 普段の飄々とした様子はどこへ……噛み付きそうな勢いでフィロメーノを睨むあの人はまるで別人だ。



「何時から城に時間回帰を施した?」

「あんたが最初に現れた時だ。その日から、どうせまた姿を現すだろうと念の為に」

「準備がいいね」

「始祖の魔王相手に準備を怠る馬鹿がどこにいるよ」

「……しそ?」



 一瞬、紫蘇が浮かんだが恐らく始祖の事だ。え?フィロメーノが始祖の魔王っていうことはつまり……



「……え?」

「なあにアフィーリア。人を珍獣みたいな目で見ないでよ」

「フィ、フィロメーノが始祖の魔王なの?」



 だが今思うと納得だ。他の悪魔とは違う、悪魔なのに神秘的な魅力を持ち更に父様達の事や昔の事情を詳しく知り、扱える魔術は魔王級。フィロメーノが始祖の魔王だと気付けるタイミングは実は幾つもあった。


 自害したアフィーリアの魂を保護し、赤ん坊だった私の中に隠した後回収して六歳のまだ正常なアフィーリアに戻すというとんでもない行為も平然とやってのけるわけだ。



「遅かれ早かれバレるとは思ってたけど、君にバラされるのは面白くないなレオンハルト」

「知るか。じじい、アフィーリア嬢を渡せ」

「話を聞いていたなら分かるでしょう?この子の中には、未だリリスの種がある。種がある限り、何らかのきっかけでアフィーリアはリリスに体を乗っ取られる。公爵家の始祖を甘くみない事だレオンハルト。例え君がノワール家始まって以来の天才でも、生きてきた年数が違う悪魔と戦うというのはそういう事だ」

「……」



 私は気になっていた疑問をフィロメーノに聞いた。



「ね、ねえ、そのリリスの種ってフィロメーノの魔術でも取れないの?」

「種自体が体の何処に植えられているかを探し出すのは不可能だ。それこそ、君の体を開き、臓器や脳も最悪開いて中を見ないとならない」

「ひい……!」



 グロテスクな映画大好きな人でも悲鳴をあげそうだ。痛い思いは絶対に嫌だ!


 取る以外で方法を模索するも、そもそもアフィーリアはリリスに勝つ為に様々な魔術を修得している。だが、全て効果がなかったのだ。体を完全に乗っ取られ、ユーリといった攻略対象者を筆頭に残酷な死亡エンドを迎える。



「体を……要は精神を乗っ取るって訳だが、強靭な精神魔術をアフィーリア嬢に施せば……いや駄目か」

「その通り。精神強化の術は、術者が本来持つ精神を魔術によって補強するだけ。生まれつき超人な精神を持っていたら別だけど……アフィーリアは普通の精神しかない。だから、それも出来ない」



 正に八方塞がり。私が殺されず、アイリーンに何もしない手段はただ一つ。それはやはり、私自身が魔界を出る以外他にない。

 フィロメーノ、と呼び掛けた時だ。


 気配もなく現れた人に目を見開いた。



「ご無沙汰しておりますな、ウアリウス様」

「はあ……やっぱりいた。やあ、シャルル。六百年以上振りかな」



 四つの辺境伯家を纏めるベルベットの父シルヴァ公爵がやれやれといった深緑色の瞳でフィロメーノを見た。ウアリウスって名前がフィロメーノの本当の名前なのだろう。授業で始祖の魔王を習わなかったせいで何も知らない。父様が始祖の魔王を毛嫌いしている理由は知らないが、前にフィロメーノに親子喧嘩をしたせいだと言っていたのをみるとまだ父様の中では親子喧嘩は終わってないのだ。


 フィロメーノは軽い調子で六百年振りと言うが女子高生だった()の感覚が強いせいで吃驚してしまう。



「君だね?この時間回帰の魔術を城の周辺に施したのは」

「レオンハルト殿に頼まれましてね。あなたが碌でもない事を企んでいるからと」

「酷いなあ。僕はアフィーリアの、可愛い孫娘の為にしてるのに」

「それなら、他の孫達にも何かしてあげては?五人もいては、あなたでも平等は大変ですかな?」

「いいや。する必要がない」



 きっぱりと言い切ったフィロメーノは歪んだ美貌で微笑んだ。



「アフィーリアは面白いから手を貸してるだけ。他の四人……特に、アイリーンは退屈だ。天界の姫の血が強いせいで悪魔の魔術が扱えず、更に天界でも稀にしか生まれない姫の特異体質も受け継いでいない。まあ、皮肉にもそれを受け継いだのはここにいるアフィーリアだけどね」





読んで頂きありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[良い点] とうとう、フィロメーノがアフィーリアのお祖父さんと分かりましたね。いや、まだ彼女は実感としてお祖父さんとはまだ気が付いてなさそうですね。単に始祖の魔王としか(^ー^;)だって、レオンハルト…
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