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68話 ややこしい


本日より、タイトルを【基本(残酷な)死亡エンドしかない悪役の姉に転生~魔王の娘の持って生まれたチート能力で将来安泰を目指す~】→から【基本残酷な死亡エンドしかない魔王の娘になってしまったワケ】に変更しました。


 

 泣きそうな顔で走り出したアイリーンはただ一直線。アフィーリアの部屋へ向かう。侍女トリオの制止の声を振り切って。ふと、私は扉の方を見た。


 強張った表情のネフィと手をさっと引き込めたアフィーリア。ハッと、ネフィは険しい表情になるとアイリーンに叫んだ。



『馬鹿!こっちに来るな!』


『!』



 ネフィに叫ばれアイリーンは止まった。



『何度言えば分かるんだよ!?お前はもう、アフィーリアに近付いちゃいけないんだ!魔王やそこの侍女トリオの言葉が聞けないのか!』


『……は……ネフィは、そうやって姉さまの側にいるじゃない!ネフィだけじゃない、ソラやアシェリーだって!私だって姉さまの側にいたいのに……!』


『っ……!』



 ゲームでもそうだった。アイリーンは昔の優しいアフィーリアに戻ると信じて、周囲に何を言われようと何度も接触を試みた。プレイヤーだった時は会う度に暴言を吐かれ暴力を振るわれるのにと苛ついたが、実際に接してみるとアイリーンの気持ちが痛い程分かる。


 確かにアイリーンやユーリには酷い態度を取るのに、ネフィ達には姿を見せずともああやって寄り添い合っている。なら、自分にだって……と一縷の希望を抱くのは当然だ。



『姉さま!姉さま!私だよ、アイリーンだよ!姉さまお願い、出て来て下さい!』


『お前は周囲に目を向けるっていうのが出来ないのか!見てみろ、アフィーリアの部屋の周辺を!』


『え』



 言われて、ちゃんと見て、顔を青ざめるアイリーン。


 すっかり嫌われてしまったアフィーリアの世話を誰もしたがらなくなったせいで周辺の掃除すら行き届いていない。専属侍女にセリカがいるけど、フィロメーノによるとアフィーリアの周囲にいる強力な力を持つ魔族は軒並みリリスが一層強い精神汚染の魔術を掛けるので、誰もアフィーリアに気を掛ける人はいない。


 嫌々セリカが従っていた場面を何度かゲームで見たがあれもかなり無理矢理らしい。


 青くなって、泣きそうな顔で侍女トリオへ振り向いたアイリーン。彼女達は何も言えず、顔を逸らすだけ。



『なんで……なんで、姉さまが変わったから?で、でも、絶対理由がある筈よ。優しかった姉さまに戻る方法だって……!』


『あったら、とっくの昔に試してアフィーリアは元に戻ってるんだ!ないから今も続いてるんだよ!アフィーリアがどれだけ苦しんでるか分からないお前が軽々しく口にするな!!』


『っ!!』


『ネフィ様!』



「アフィーリア……」



 ……繰り広げられる光景は、現実にあったもの。赤の他人のような気持ちで見ていても心を凶悪な痛みは、当時アフィーリア()が受けたものなのだろう。


 心配げなフィロメーノの声がした。ゆっくり振り向くと彼は指を鳴らした。過去の光景が消えていく。



「泣いているの?」



 指摘されて気付く。ぼろぼろと涙が溢れて止まらない。悲しい、寂しい、怖い、そして……嬉しいって気持ちが一度に押し寄せてくる。袖で涙を拭ってもまた新しい涙が落ちる。



「フィロメーノっ、多分ね、私嬉しかったんだと思う。味方が誰もいないと思っていたのに、確かに自分を信じて助けてくれていた人がいるってことが」


「そう。これ以上は、君の精神に良くないようだから見るのは止めよう。だから、僕の口から説明していこう」


「うん」



 頭をポンポンと撫でられ、涙が止まるのを待ってフィロメーノは続きを話してくれた。



「幼少期はああやって、ネフィや他二人が君を守っていたんだ。周囲の悪意やアイリーンから。だけど、年月が過ぎていくと君の膨大な魔力を食らい続けたリリスを制御出来なくなってきてね。徐々に君の自我が消えていった」


「それで?」


「彼等にも言い寄るようになったんだ、リリスは。純血の魔族ではなくても、強い魔力を持っていたから」



 本当に見境がなさすぎる。



「そんな時だったかな、君がシルヴァ家の末っ子に会ったのは」


「ベルベットに?」



 ベルベットにもちゃんと会ってたんだ。



「彼は君をアシェリーから聞いて色々と手伝わされていたからね。周囲から聞く君の評判とアシェリーから聞いていた話、どちらが真実か確かめる意味で近付いたんだ」


「ベルベットはどっちを信じたの?」


「勿論、彼はアシェリーの話す君を信じた。不思議なことに、末っ子と会う時リリスは表に出て来なかったんだ」



 精神を乗っ取ったリリスじゃない、本来のアフィーリアであり続けた理由はフィロメーノも分からないと首を振られた。それからアフィーリアにとってベルベットと会うのは、救いの時間となったのだ。


 周囲には誰もいない。リリスも出てこない。自我を保ったままで他者といられる。当時、一人でいない限り自我を保てなくなっていたアフィーリアにしたら、本当に救いだったのだ。



「だが時間というのは残酷だ。末っ子と会わない日は、リリスは君の自我を奪い続けた。……そして、度重なるアイリーンに対しての暴力、王女として相応しくない振る舞いに堪忍袋の緒が切れたロゼが君を処分すると決めた」


「っ!」



 私は、自分がアフィーリアになってからの父様を思い出す。父様は最初からアフィーリアを嫌ってない。寧ろ、溺愛を通り越して偶に怖くなる。


 リリスに乗っ取られなかったら、父様はずっと大事に愛してくれた。


 全てはリリスがアフィーリアの体を奪い、自我を食らったせい。


 私は抱いた疑問をフィロメーノにぶつけた。



「どうして、リリスはそうまでしてアフィーリアを孤立させたかったの?」


「さあ?そればかりは、リリス本人に聞かないとね」


「……」



 肝心のリリスはフィロメーノが消してしまったのでもう聞けない。私の心の声を聞いたかのように、次にフィロメーノが発した言葉に驚愕した。



「アフィーリア。リリスは死んでないよ」


「え?」


「いや、正確には君の中に残した種が消えていないってことかな」


「どういうこと?」


「君が死んだのはね、一度や二度の話じゃない。もう何度も死んでいる。ロゼに処刑されたり、あの双子のどっちか両方に殺されたり色々とね」


「……」



 うん……ゲームでのアフィーリアは主に攻略対象者に惨い方法で殺されている。因みに、ノーマルエンドでは父様に処刑されている。愛した娘を殺したという罪悪感は、精神汚染に侵されアフィーリアがコーデリア様にしか見えなかった父様は抱かなかっただろう。



「繰り返された運命のせいで君の魂には、余計な不純物がついてしまった。それがリリスが植え付けた種だ」


「フィロメーノはどうやってそれを知ったの?」


「僕は普通の悪魔と違うからね。本来、悪魔や天使、人間に限らず、皆死ねば魂は輪廻の輪に入り、嘗ての記憶も力も洗浄され新たな器に入る。だが極稀に輪廻の輪を弾かれ、知らない内に同じ生を繰り返す者がいる。君がそれなんだ、アフィーリア」


「で、でも、私は目が覚めた時自分がアフィーリアになったっと思ったのはどうして?」


「ああ……それね、僕が原因なんだ」



 困ったように頬を掻くフィロメーノ曰く、前回のアフィーリアの死亡原因は、なんと自害だと告げた。アイリーンに止めを刺すギリギリのところで自我を取り戻したアフィーリアは、アイリーンを殺す為に作った氷の刃で自らの腹部を貫き命を絶った。その際、肉体から出た魂をフィロメーノが間一髪保護した。別の、清らかな人間の体内に保護した魂を隠したのだとか。



「その人間っていうのが、女子高生っていう君だよ」


「わ、私?」


「そう。十八歳になった君の中で随分と回復したアフィーリアの魂を保護した際に、隠れ蓑にしていた君の魂もちょっとだけ引っ付いちゃってね。君が自分がアフィーリアじゃなく、昼寝をしていた女子高生って思ったのはそのせいなんだ」


「……」



 ……つまり、リリスに食われ続け疲弊し、消滅しかけていたアフィーリアの魂を赤ん坊だった私の中に隠し、回復したのを見計らって元に戻す際に私の魂がアフィーリアの引っ付いてしまったせいで、私という別の人格で目覚めてしまった。


 ……え、それって要は……



「……元の私っていう存在は」


「生きている筈だよ。全ての魂が引っ付いていた訳じゃないから」


「……」



 卒業待ちの女子高生だった自分が何故乙女ゲームの残酷な悪役になっていたのかが知れて良かった……な訳がない!



「今の私って、結局アフィーリアなの?女子高生だった私なの?」


「何とも言えない。記憶や能力は今までのアフィーリアのものだ。現に君は、修得した覚えのない魔術が使える。それらは、今までアフィーリアがリリスに対抗する為に得た力だ」


「だけど、人格の方が女子高生だった私が勝ってるってこと?」


「そういうこと」



 なんてややこしくて面倒臭い。



「ねえ、アフィーリアに引っ付いた私の魂って取れなかったの?」


「出来たらこうはなってない」


「ですよね……」



 フィロメーノ曰く、一度アフィーリアの魂と一体化した私の魂を引き離すことは不可能らしい。


 私は判明した事実に頭を抱えたくなった。


 死んでしまったのではないと知って、一応安堵はしていいだろう。問題はこれからである。人格が女子高生である私が勝っていようと確かにアフィーリアである事実に違いはない。


 困り果てていると「話を戻すよ」とフィロメーノが真剣な声色で紡いだ。



「リリスが植え付けた種。リリスを消滅させても未だ君の中にある。繰り返されたが為に種は消滅せず、いつも君の中にある。芽は出ていないとは言え、いつ咲いて君に危害を加えるか知れない」


「そのリリスが植え付けた種ってどういうものなの?」


「それは――――」



「……へえ、随分と面白そうな話をしているな」



 世界の時間を停止する規格外なフィロメーノの魔術が発動している魔王城。現状、動けるのは私とフィロメーノだけ。


 ……の筈が、第三者の声が突然入ってきた。


 私がよく知る、普段間延びした穏やかな声は鋭利な刃を纏った色をしていた。


 こればかりはフィロメーノも予想していなかったのか、驚きの面持ちで相手へ向いた。



「一度あることは二度目もあるって、よく言うだろう」


「……やれやれ、ちょっと甘く見ていたよ。何時からいたの?」


「最初から、と言ったらどうする?」



 え……?最初って、それはつまり……。


 私は冷や汗をダラダラと流した。アフィーリアが別人格に乗っ取られたと思われても可笑しくない。



「じじい。アフィーリア嬢に語ったあれらは事実なのか?」


「全て事実だ。リリスは消滅した。だが、彼女の中にある種が芽を出せば、再びリリスは蘇りまたアフィーリアの精神を乗っ取る。あれは高魔力保持者の女児を好む。例え一度滅ぼされても次に蘇られるように準備は怠らない」


「全部あんたに対する執着のせいじゃないか」


「僕は欲深い女は嫌いだよ。一度でも手を出していたら、永遠に付き纏われた」


「は……現在進行形で付き纏われてるだろう。挙げ句、被害がアフィーリア嬢にまで及んでいるんだ」


「それを言われたら言い返せないな」



 第三者――レオンハルト団長は、黄昏色の瞳を殺気の込めた色で染め、遠慮なくフィロメーノにぶつけている。直に向けられていない私でさえ、恐怖で硬直しているのにフィロメーノは平然としている。何か、言わなきゃと思うのに何も喋れない。


 両者に漂う戦闘の気配。



「一つ聞くけどレオンハルト、どうやって“停止”した時間の中を動いているの?」


「素直にアフィーリア嬢から離れたら教えてやるよ」


「じゃあ、君を痛めつけて聞き出すしかないな」


「!ま――」



 待って、と止めよう足を一歩踏み出した時、透明な球体の中に閉じ込められた。どんどん二人から遠ざかっていく。ある程度の高さまで上昇した刹那――絶大な威力を誇る雷と炎の魔術が衝突した。


 レオンハルト団長が動けても他の人は停止したままなんですけどー!?





読んで頂きありがとうございました!

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[良い点] あけましておめでとうございます。 更新お待ちしていました。お年玉ですね(^ー^) ようやくアフィーリアは自分がなぜ昼寝をしていた女子高生だと思っていたのか、なぜ無残な死を迎えていたのかわ…
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