62話 危険の予感
好きな人……。
フィロメーノの助言を受けて好きな人を思い浮かべて見た。が、勿論浮かぶ訳もない。私はまだ六歳。恋をする歳でもない。素敵な王子様……なキャラはいない。皆、見た目は良くても中身をよく知ってるので心がときめくのも皆無。仮にあの五人以外に見つけろと言われるとそれも困る。
だって、顔だけで言うと頂点が父様なんだよ。こればかりは好みと身内の贔屓目っていうのがあるけど、魔王である父様が一番綺麗な顔をしてる。次に誰かと問われれば……浮かばない。リエル叔父様にレオンハルト団長、アリス宰相くらいかな?フィロメーノは父様と同じくらい綺麗だけどそんな対象にはならない。と思う。
「難しいなあ」
「何がですか」
お散歩を終え、私を部屋に戻した父様はレオンハルト団長に呼ばれていない。いるのはお目付け役のセリカ、私、後フィロメーノ。フィロメーノはお腹を出してフカフカベッドの上に寝転がってる。気持ちいいもんね。
「セリカはホワイト伯爵家の三女なんだよね?」
「はい」
「何処か、他の貴族の家に嫁ぐとかの話はなかったの?」
「私ですか?そうですね、元々私は父に憧れていましたので騎士になる事しか頭にありませんでした」
ホワイト伯爵は魔界を守護する『騎士団』の団長。魔王や魔王の血族を守るのは勿論、貴族街や平民街の警備も担当している。悪魔狩り終了まで後少し。今回は、途中色々と邪魔があったものの父様とレオンハルト団長を筆頭に作られた結界のお陰で狩られた悪魔は殆どいないのだとか。
「セリカがホワイト伯爵に憧れてたのなら、どうして私の侍女をしてるの?普通は騎士になるんじゃ」
「ええ。元は『騎士団』の上級騎士でした」
上級って事は……『騎士団』の中でも少数しかいないと言われる超エリート騎士じゃない!
「な、なんで騎士を辞めたの?」
「辞めてはいません。侍女と騎士を兼業しているだけです」
セリカによると、上級騎士を務めていたセリカに父様が天界から拐ったばかりの母様の世話係を命じたのだとか。
「魔界に連れて来られた初めの頃は、シェリー様は毎日陛下に怯えていました。無理矢理拐われたので無理はないですが……。陛下が連れて来たとはいえ、シェリー様は天界の姫です。天使に悪意を持つ悪魔が大半です。世話役の白羽の矢が立ったのが私だったのは、私が陛下やリエル様達とは幼少の頃からの知り合いなのと私情で相手に差を付けないとご存知だったからと」
「天界の姫だったお母様に何も思わなかったの?」
「ええ。初めにお会いした際、確かに私達悪魔にはない神聖な力がシェリー様から感じられました。特別な力があるから長年天界でも大事に育てられていたと陛下から聞きましたがそれだけです。シェリー様はとても怯えていました。ですが、私が自分に何もしないと知ると少しずつですが心を開いてくれました」
「父様は?」
「陛下は……ううん……」
セリカは難しい顔をして言い澱む。もしかして、今は仲良しでも最初はそうでもなかったのかも。仕方無いか、母様にしたらいきなり連れ去られた訳だし。相手は敵対する魔界の王。何の逆鱗に触れて殺されるか分かったものではない。
次の疑問が浮かんだ私だがこれを聞いて良いのか悩む。運悪く父様が戻って話を聞かれたらまた機嫌を悪くする。違う話題を探そうと思考を巡らせてふと思った。
「母様を拐ったあの熾天使ってまだ生きてるの?」
アルバーズィオと手を組んで母様を天界に連れ戻そうとしたあの熾天使。セリカは違う意味で難しい顔をした。
「どうでしょう……死んだとはまだ聞いていないので生きてはいるかと」
「そっか。熾天使って天界で一番偉い天使なんだよね?“エデンの森”で襲ってきた集団の中にも熾天使がいたけど、天界で熾天使は何人いるの?」
「人数までは何とも」
合計二人魔界で拘束か殺された訳だけど(内一人は私の魔術と後謎の魔術で死んだけど……)天界がこのまま黙ったままだと思っていいのか。父様やレオンハルト団長達の作った結界があるから、そう簡単に大事にはならない……って願う。
私はちらっと時計を見た。もうすぐ昼食時。
「お昼食べる前に喉渇いたなあ……。セリカ、オレンジジュース飲みたい」
「分かりました。ですが、私がいないからって」
「出ない!出たら父様にお昼抜きにされるもん!」
育ち盛りの子供に一食抜きは辛い。セリカに絶対に部屋から出ないと釘を差してオレンジジュースを貰いに行ってもらった。セリカがいない間にこっそり抜け出そうとしても何故だろう、出られない気がする。
「はは、君は信頼がないねアフィーリア」
ベッドに寝転がっていたフィロメーノがタヌキから人の姿へと変身した。
「セリカはすぐに戻るよ?」
「なら、こうしよう」
指をパチン、と鳴らしたフィロメーノ。
待っても何も起きない。
「?」
「ふふ……外に出てみる?」
「でも」
「大丈夫だよ。皆“停止してるから”」
「え」
停止してる?
フィロメーノの言葉が気になり、ベッドから降りると手を引かれて部屋を出た。外に出て驚いた。城内を行き交う人皆時間が止まったかの様に停止していた。
私とフィロメーノ以外の人の時が止まっていた。
「ど、どうなってるの?」
「だから言っただろう?僕とアフィーリア以外の時間を“停止”したんだ」
「そんな事出来るの?」
「無条件に時間に干渉する魔術の使用は僕しか出来ない。レオンハルトでも使用は不可能だ」
「無条件に?」
さっきから質問ばかりの私に嫌な顔せずフィロメーノは説明してくれた。
魔術には、時間に干渉出来る類いのもある。例えば、時を加速させて身体強化の魔術の数倍の速度で移動したり、フィロメーノがした様に周囲の時を停止して足止めしたりと。しかし、これらには制限がある。時を加速させれば加速した分、今度は時が遅くなる。周囲を停止させれば、同じ時間自分が停止する。時を操るには操った分の時を戻さないとならない。
でも、フィロメーノは時を制限なしに無条件で扱える。理由を聞いたが「内緒」と人差し指を口元に充てるだけで教えてくれず。
「ケチ」
「しょうがないでしょう。うっかり屋な君が漏らせば大変だからね」
「どケチ!」
「人に言われて嫌だった言葉を使わないの」
「むう!」
正論なので反論出来ない。別の話題にしようと停止した人達を横切って移動しながら私は再び熾天使の話題を出した。
「セリカは知らないって言ってたけどフィロメーノは熾天使が何人いるか知ってる?」
「知ってるよ。熾天使は全部で四人。
ラファエル、ウリエル、ミカエル、ガブリエル。この四人が熾天使で天界では四大天使と呼ばれている」
女子高生だった私でも知ってるとても有名な名前だ。よくゲームやアニメで登場する天使や神聖な立場にいる人で使われていた。だとすると、あの名前もあるのかな。
「堕天した天使とかもいたりする?」
「いるよ。熾天使の中でも特別な翼を持ったのが。名前はルシファー。通常は六つの翼なのに対し、ルシファーは十二の翼を有していた。更に他の熾天使よりも美しく光輝いていた」
「会った事あるの?」
「あるよ」
フィロメーノの口振りからしてひょっとしてと感じたら当たっていた。
「まあ、何時か詳しい事は話してあげる」
「えー!」
「文句言わない。所でこれから何処へ行こうか?」
「行こうかって、フィロメーノが外に出たんじゃない」
「あ、はは。そうだったね。なら、このまま城の外へ行く?」
「うーん、行かない。セリカに迷惑がかかっちゃう」
前回の家出で懲りたから、流石にセリカを外に出しての外出は避けたい。ちゃんと部屋にいると約束したしね。
「僕が時間を停止させたままなら問題ないよ」
「フィロメーノが決められるの?」
「そうだよ。僕の意思で決められる。だから何も心配ないよ」
なら……いい……ん?
不意に視界の端に映った青銀のモヤモヤ。気になって振り向くと青銀のモヤモヤは何処かへと向かっていた。私の足が止まったので手を繋いでいるフィロメーノの足も止まる。どうしたの?と声を掛けられ、あれ、と青銀のモヤモヤを指指した。
「……」
途端、表情を険しくしたフィロメーノ。
「……アフィーリアはアレが気になる?」
「うん。すごく気になる」
頭の中で警鐘が鳴る。
関わるな、絶対に関わるな、関わっちゃいけない、と。
それなのに私の意識はあの青銀のモヤモヤを気にして足をそちらへ向けた。
「しょうがないね」
仕方ないとフィロメーノは苦笑すると私を抱き上げた。
急にだったから驚いてフィロメーノに抱き付いた。
「もう!ビックリするじゃない!」
「ごめんごめん。でも、そのままでいて」
ふんわりした微笑から急な真剣顔に驚きつつ、私は頷いた。
青銀のモヤモヤを追ってフィロメーノに抱っこされて到着したのは地下室。城内に沢山あるとされるレオンハルト団長の遊び場の一つ。
此処に何があるの……?
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