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6話 馬鹿は良くても阿呆は嫌だ


シリアスさんにしようとしましたが出来ませんでした…

 


 魔界の夜空は、本日もお美しい満月が女王の如く君臨し夜の魔界を照らしている。


 暫く私はアシェリーに近付かないと決めた。それか、決して一人で会わないと決めた。今日の昼前、堂々と人をお嫁さんにして毎日如何わしい事をしようと言い放った相手とどうして二人っきりになれる?あの後、逃げようとした私を押し倒しひたすら触れるだけのキスを繰り返した。幼いながらにも魔法が使える彼に勝てる筈もなく、今から貞操の危機が訪れた私を助けたのは息子を探していたレオンハルト団長だった。レオンハルト団長はノックをして部屋へ入るなり、私達の様子を見て一瞬驚きはしたものの――すぐに、アシェリーに似た無邪気な笑みを浮かべ、私の上にいるアシェリーの首根っこを掴み引き剥がしてくれた。アシェリーは大分文句を言っていたがレオンハルト団長は笑って小さな額にデコピンをし、ぶすっと頬を膨らませたアシェリーを放置し、ベッドに寝転がったままの私を起こしてくれた。



「済まなかったねアフィーリア嬢。この子の血は半分淫魔でね。気に入った相手を見つけると見境がなくなる」

「むう。ぼくはアフィーリアが気に入ったんだもん」

「だろうねえ。妻も我輩を永遠のお気に入り認定して家を捨てて結婚したから、その執着がアシェリーに遺伝しちゃったのかなあ。でもねえ、まだ子供なんだからいけないよ。後、魔王が知ったら我輩が叱られる。子供の教育すらまともに出来ないのかって。アシェリー。大人になったら好きにしていいから、今は我慢しなさい」

「はーい」

「いえ良くない!!」



 勝手に話を進めないで!


 まあまあと頭を撫でられても懐柔されないわよ!


 怒りたいのにレオンハルト団長は私を抱き上げるとアシェリーの背を押して部屋を出た。元々、昼食の時間になったからアシェリーを探していたのだとか。子供達は基本同じ時間、同じ部屋で食事を取る。親はそれぞれ役職があるので基本一緒なのは私とアイリーンと母様だけ。母様は父様にどんなにお願いしてもお仕事をさせてもらえないのだとか。母様って、見るからにドジっ娘そうだから父様も心配なんだろう。


 食堂に入った私達を迎えたのは、何故か床に転がっているソラとネフィ。椅子に座って待っていたアイリーン、ユーリ、ハイネだった。あれ?母様がいない。



「奥方は魔王といるよ。今日は我輩が子供達と昼食タイムをする日になった。さあ、そこで転がってる二人も早く席に着きなさい」



 私をアイリーンの隣に座らせると両手を叩いた。床に転がっていたソラとネフィの身体が浮いた。彼等を重力操作(コントロール)で席に着かせるとレオンハルト団長はアシェリーの額にまたデコピンをして座った。因みに席順は左から、アイリーン・私・ユーリ・ハイネ、向かい側はソラ・ネフィ・アシェリー・レオンハルト団長。父親にお叱りを受けたアシェリーに隣に座るネフィが話し掛けた。



「また悪戯したの?」

「してないよ。大人の真似をしただけ」

「してるじゃんか。今度はどんな魔術使ったの」

「内緒」



 ね?と私に振らないで。可愛らしくウインクするな。レオンハルト団長も笑いを堪えてないでもっと叱って下さい。怒ってるとちゃんと意思表現をしたかったのでべえっと舌をアシェリーに向けて出した。ネフィとソラはアシェリーが私に悪戯したと判断したらしく、今度は私に悪戯の内容を聞いてきた。知らないとそっぽを向いた。あんな恥ずかしい体験を話せる度胸私にはない。



「あ、あの……姉さま……」



 控え目な声が私の左側からした。可愛いアイリーンの声だ。なあに、と振り向くとぎょっとした。綺麗で大きなサファイブルーの瞳が濡れていたから。



「どどど、どうしたの?」

「姉さまっ、どこも痛くありませんか?ご気分の方は?」

「へ?ああ、平気よ。アシェリーの悪戯って怪我をするものじゃ」

「そうではありません!二週間前の……その……」

「……」



 ああ……コーデリア様から受けた鉄拳か。女性であの力はないよ。顔と胴体が分離するんじゃないかってくらいの力だった。流石、魔力の高い魔族なだけはある。よしよしとアイリーンの頭を撫でた。



「心配掛けちゃったね。アイリーンも知ってると思うけど、私頑丈なんだよ?木から落ちても怪我してないから」

「……数日寝込んでたくせに」



 小さな呟きを私の耳が拾った。地獄耳の素質でもあるのかな?


 身体ごとユーリの方へ向けると頬杖をついて此方を見ていた。アシェリーより薄い紫水晶の瞳が揺れていた。昼寝をして何故かプレイしていた乙女ゲームの主人公の姉になった私には、勿論それ以前の記憶はあった。子供ながらに好意を押し付けて自分の我を通そうとするアフィーリアを鬱陶しくも、魔王の娘だから無下に出来ないから嫌々ながらも相手をしていた。父親は同じなのに、母親が違うだけで片方は愛されて甘やかされて、もう片方は虐待にも等しい勉強漬けの毎日。ハイネは父様と同じ瞳の色をしているから、まだ愛されている方だった。でも、同じ日なのに先に生まれたから、強い力を持っているから、未来の魔王としての英才教育を強制されたユーリ。


 ずっと自分を暴力と恐怖で支配していた母親はもういない。瞳の揺れが何を意味しているのか、なんて心を読む術を持たない私には知り得ない。ちらっと、アシェリーに目をやると彼はプチトマトを刺したフォークを持ってまたウインクした。で、レオンハルト団長にデコピンされた。多分レオンハルト団長はアシェリーの心を読んでデコピンをしているのだろう。


 アシェリーは後に回そ。またユーリに視線を戻した。不安げに私達を見つめるハイネやアイリーンとは違い、他四人は昼食を食べながら此方の様子を伺っている。



「……ごめん」

「?」

「余計な事して、ごめんなさい」

「アフィーリア?」

「私のせいで、その、コーデリア様が城から追い出されて、怒ってるんでしょ?」

「「「……」」」



 ……あれ?何、この沈黙?


 静かではあったけど、更に重力が増したように空気が重くなった。息苦しい沈黙に耐えきれず、言葉が出ないと絶句しているユーリの顔の前で手をヒラヒラとさせた。でも、効果なし。



「……アフィーリア本気で言ってるの?それ」

「だ、だって、事実じゃない」

「あー……駄目だ、二回頭打って阿呆になったな」

「なんですって?」



 馬鹿と言われるのは仕方ないにしても、阿呆とは何だ阿呆とは。ギロリとソラを睨み付ければ、隣のネフィが背凭れに凭れ、憐れみを込めた眼をユーリにやった。



「ある意味じゃ、良かったんじゃねえの。お前の二週間の悩みと苦労が何の意味もない杞憂に終わっただけで」

「……あぁ。みたいだな。アホらしい…」

「え、えーと、良かった…と思うよ。僕は。ね、ねえ、アイリーンも」

「い……いのかな……」

「……」



 何?そんな可笑しな発言した?ユーリを見たり、アイリーンを見たり、ユーリを見たりと繰り返すが――やがて空腹が勝り、誰も話してくれなさそうなので昼食に手を伸ばした。さっきまでの重苦しい空気はもうない。


 その後は、多少まだぎこちなさはありながらも普段と何ら変わらない食事風景となった。いつもの保護者が母様でない以外。


 食事が終わったらレオンハルト団長に聞いてみよう。この人なら、知ってるだろうし。


 最後の一口を飲み込んだ拍子にレオンハルト団長に目を向けたら、丸で了解したと言わんばかりに片目を閉じてウインクして見せた。それに気付いたアシェリーがぽかぽかと父親の身体を叩いた。



「親子ね……」

「何がですか?」

「何でもないわアイリーン…」





読んでいただきありがとございました!


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