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58話 どうせいなくなるのなら

 


「うええ~グリーンピースがあるう~」

「我儘を言わない。早く食べないと冷めるわよ」

「お嬢様。好き嫌いを無くす良い機会です」



 今日の昼食は、トロトロチーズがトッピングされたトロトロオムライス。卵の中に包まれたチキンライスを掬って気付いた。玉葱、人参、鶏肉が微塵切りにされて入れられているのに対し、目立つ緑色が二種類いた。一つはピーマン。オムライスに入れる野菜としては定番中の定番。もう一つは、クリスタとセリカが昼食を運んで来るまでフィロメーノと入っていたら嫌だなと話していたグリーンピース。


 スプーンでグリーンピースだけを避けようとしても、好き嫌いをするなと二人に注意をされ、嫌々ながらもグリーンピースと一緒にオムライスを食べた。オムライスは美味しくてもグリーンピースがあるせいで台無しだ。フィロメーノは、下で朝与えられた牛乳を飲んでる。タヌキとしての食事が慣れているから、てっきり普段からタヌキに化けて生活しているのかと思いきや、違うと否定された。私と一緒にいる為にタヌキの姿をしているだけと言われた。


 侍女二人に見守られつつ昼食を取っている私は、ふと、父様がいない事に気付く。昼食を私と食べようと探していたと言っていた割にいないのだ。


 セリカに訊ねてみた。



「セリカ。父様は?」

「陛下は、急な執務が発生したので昼食時間が遅くなるそうです」

「何かあったの?」

「詳しくは存じておりません。ですが、お嬢様が心配になる必要は御座いません」

「どうせ、例の公爵がしつこく言い寄ってるんでしょう」

「それって、ノースゲート公爵?」



 私が思った相手の名前を言うとクリスタが正解と溜め息を吐いた。



「新公爵には、あんたと同い年の令嬢がいるってセリカが言っていたでしょう?」

「うん」

「自分のとこの娘とあんた達王女を会わせろってうるさいのよ」

「どうして?」

「大方、魔王の娘と仲良くさせて魔王との間に太い繋がりでも作りたいのでしょう」



 一利ある。魔王の娘である私やアイリーンと自分の娘の仲が良くなれば、優先的に便宜を図ってくれると考えているのだろう。私やアイリーンとしても、周囲にいる子供と言えば、父様が信頼する側近達の子だけ。以前出席したエドヴィージェ様のお茶会で初めて普段の面子以外の子供を見た。



「ノースゲート公爵の令嬢と仲良くなるかどうかは置いても、私やアイリーンももっと他の貴族の子達と交流を持って良いと思う」

「それはあの親馬鹿に言いなさい。まあ、魔王の娘じゃなかったら、ある程度の交流はさせてもらってたんじゃない?」

「そうかな。父様が貴族でも同じだった気がする」



 母様に対する愛情も深く、娘である私やアイリーンにも深い愛情をくれる父様。主に私が原因で稀に怖いと思うも大好きな事実には変わりない。グリーンピースを頑張って口に入れて咀嚼している間、ノワール家に引き取られたシャロン様を思い出した。


 義母であるエドヴィージェ様に脅され、たった一人の肉親を禁忌(ドラッグ)腐人(ゾンビ)にしてしまい、騒動が終わった後はどんな罰でも受ける覚悟だと父様に語った。幸いにも、元々彼女を妹として欲したアシェリーや魔力濃度(デンシティ)と魔力操作(コントロール)に目を付けたレオンハルト団長のお陰で養女として引き取られた。黒い子猫達と楽しく過ごしていたらいいなあ。今度、アシェリーに聞いてみよう。



「元気にしてるよお」

「ん!?」



 不意に耳に入ったのんびりとした声に、口の中に入れていたオムライスを吹き出しそうになった。噎せる私の背中をセリカが優しく撫でてくれる。落ち着いて水を飲み、全く気付かない間に隣に座っていたアシェリーを軽く睨んだ。



「もう!びっくりするじゃない!」

「アフィーリアが食堂に来ないから、昼食を持って態々来てあげたんだよお?」

「うぐ、そ、それは。で、でも、来る必要ないじゃない」

「ぼくはアフィーリアと食べたいのお」

「俺はどっちでも良かったけどな」

「ネフィまでいたの?」



 私とアシェリーの前には、パクリとオムライスを食べるネフィがいた。アシェリーも同じオムライスだ。そっか。基本皆一緒だもんね。



「アシェリーやネフィがいて、ソラがいないのは珍しいね」



 朝食や昼食は子供達皆で食べるけど、普段の行動では、アシェリーとネフィとソラ、ユーリとハイネ、アイリーンは家庭教師との勉強がなかったら基本私かユーリとハイネといる。私は好きな時に好きな事をするだけ。ユーリの引っ付き虫をしていた訳ですが、大きな死亡原因であるユーリに四六時中引っ付くのは残酷な死亡エンドを知っていながら自分から死にに行く様なもの。私を嫌いなユーリも、引っ付いて来なくなったので安心しているだろしね。



「ソラは置いてきた。俺達三人がアフィーリアのとこへ行くのもアレだしな」

「どうしてよ。来たいなら来れば良いじゃない」

「色々あるのお。もぐもぐ、美味しいねえオムライス。ハンバーグがあったらもっと良かったのに」

「オムライスだけで十分だろう。ハンバーグまであったら、腹が破裂するっての」

「オムライスのサイズを小さめにしたら、食べられるんじゃない?」



 それか、ハンバーグのサイズを一口サイズにしてもらうか、である。私はハンバーグなしがいい。オムライスはオムライス単品で食べたい。


 トロトロチーズをたっぷりチキンライスに絡め、スプーンを口へ運んだ。ハンバーグで思い出したが、ファミレスでバイトしていた時、賄いでミートグラタンを出されたけどエビフライが乗ってた。どっちも美味しいけど量が多くて、午後からのバイトがきつかった思い出がある。



「ご馳走さま」

「ご馳走さまあ~」

「ご馳走さまー。……なあ、アフィーリア」



 嫌いなグリーンピース入りのオムライスを完食し、クリスタの淹れた桃の紅茶を飲んだネフィが、……さっきとうってかわって険しさが滲んだ表情を向けてきた。背筋がピンと伸びた。



「お前が朝も昼も食堂に来なかったのは、アイリーンに会いたくないから。だろう?」

「……」



 ……父様だけじゃない。皆、気付いてる。


 私が父様の部屋でご飯を食べたいのが……アイリーンに会わせる顔がないから。


 謝らないといけないのは、頭では理解してる。でも、こういう時は何て謝罪の言葉を紡いだら良いのか。転んだアイリーンではなく、フィロメーノを優先した事を謝ればいい?私が城から抜け出して家出した事を謝ればいい?……全部だね。



「そうだねえ。全部だねえ」



 人の心を勝手に読んで肯定したアシェリーに今はちょっとだけ感謝した。アイリーンがいなくても、誰かに話をするのは酷く億劫だった。



「でもねえ、こういうのって長引けば長引く程状況は悪くなるよお。何処かで区切りを見つけてアイリーンに会いに行きなよ。アフィーリアが悪いって思ってる事全部をアイリーンに謝ればいい。それでもアイリーンが許さなかったら、もうどうしようもないよお」

 “許してもらう必要はあるのかな?”



 アシェリーの次に(思念(テレパシー)だけど)私に話し掛けたのは、牛乳を二杯飲んだフィロメーノ。三杯目は飲み過ぎとクリスタに却下され、床で拗ねた顔をしていた。



 “寧ろ、このままの状態で良いじゃない。どうせ、君は城を出るんでしょう?”

 “だけど”

 “それに、だよ。今回、仲直りをしても、君は城を出るんだ。そうなったら、今度はアイリーンを盛大に裏切るんだよ?……アイリーンの為でも”

 “……”



 アシェリーの言葉も正しい。


 フィロメーノも正しい。


 元の仲良し姉妹に戻りたいのなら、早くアイリーンの所へ行き、誠心誠意謝罪をしないといけない。


 ……それも、城にずっと居続けるならの話。


 何時、何処で、愛と嫉妬に狂ったコーデリア様になり、大切な妹を沢山傷付けた挙げ句、命までも奪おうとする悪役な姉になるか……。時期は不明確でも、確定されている未来から逃れる為に私は城を――魔界を、出る。



「……そうだね。頑張って、考えて、やってみるよ」



 心の内をアシェリーやネフィ、セリカやクリスタ。ううん、例え父様や母様であっても決して口には出来ない。



「ねえ侍女さん」と食器を片付け始めたセリカとクリスタにアシェリーがあるお願いをした。



「ぼく食後のデザート食べたいなあ」

「デザートですか?では、厨房にフルーツの盛合せがあるので持って来ましょう」

「よく食べるわね」

「成長期だもん」

「はいはい。あたしは自分の残ってる仕事でもしてきましょうか」



 食器をキッチンカートに置き、取っ手に手を置いたクリスタが私に顔だけ向けてこう言った。



「その子達の言う通り、ちゃんと仲直りしなさいよ?たった一人の妹なんだから」

「……クリスタ。こんな事、クリスタに聞いていいか分からないけど、クリスタはどう思ってるの?」

「何が」

「その、コーデリア様の事……」

「……」



 生家であるドラメール家を離れ、イグナイト家で育ったクリスタ。詳しい事情は知らなくても、自分以外が愛されるのを嫌うコーデリア様の事だから何となく予想が出来る。


 私の質問に難しい表情を浮かべるも……はあ、と息を吐き、キッチンカートから離れ私の近くまで来ると――



「消えて清々した。これが本音」金髪を撫でられつつ、複雑な色を見せる紫水晶を見せられ、何も言えなくなった。



「でもね、これだけは言える」

「?」

「両親やあのどうしようもないのが処刑されたのは自業自得。遅かれ早かれ、何時かは処分されていたわ。……でもね、あんなどうしようもない女でも、……あたしのたった一人の姉である事実には変わりないのよ」



 頭から手を離され、紫水晶の瞳が窓を向いた。遠い空を眺める瞳には何が映っているのだろう。



「早々に諦めていたら良かったのよ。そうしたら、自分が愛している男に愛されなくても、自分を愛している男に愛されて、傷を負いながらも幸せになれたのに。


 本当――……馬鹿な(おんな)……」


「「「……」」」



 誰に言っている訳でも、聞かせている訳でもない、遠い声。


 他人事と思えないのは、その馬鹿な女に私もなってしまうから……?



「……」



 誰も、何も言えないまま、セリカとクリスタは部屋を出て行った。


 残った私達も喋る雰囲気でもないから口を閉ざすだけ。フィロメーノはベッドに飛んで伸びてる。もふもふなお腹でも撫でさせてもらおうかな。と席から立とうした時。


「ねえねえ」とアシェリーが話し掛けてきたから、普通に振り向いた。



「ぶふ!?」



 気を紛らせようと飲んだ紅茶をネフィが吹き出した。気持ちはよく分かる。私を呼んだアシェリーは、私が振り向いたと同時に顔を近付け、躊躇もなくキスをしてきた。開いた口から魔力を吸われるのが感じる。



「ん……んん……」

「……ん……」



 甘い痺れが背中から頭にゆっくりと走る。淫魔の魔力吸収が気持ちいいのは、アシェリーとベルベットのせいで知っている。


 今回は魔力だけを吸って私から離れたアシェリーはふにゃりと笑った。



「やっぱり、アフィーリアの魔力は美味しいねえ。デザートよりこっちの方がぼく大好きだもん」

「……ひょっとして、デザート食べたいって言うのは、セリカとクリスタを部屋から出す為?」

「それ以外ある?」



 こてりと首を傾げたアシェリーに殺意が沸いたのは言うまでもない。






読んでいただきありがとうございました!


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