閑話:今日も第一王女の機嫌は最高です
魔界の第一王女アフィーリアが二歳の時。
自分の足で立ち、歩き、走れる様になると――好奇心の強い王女は毎日広い城内を走り回っていた。
当時アフィーリアの侍女を任されていたのは、後にアイリーンの専属侍女になるベルローナとマファルダ。魔術の名家ノワール家の分家出身の二人は、毎日世話から逃げ回るアフィーリアを追い掛け回していた。二歳ながらも魔王譲りの才能は目を見張るものがあり。まだ魔術どころか、魔力操作すら習っていないのに身体強化の魔術を使ってとんでもない速さで走る。追い掛ける二人もアフィーリアを早く捕まえる為に身体強化の魔術を使用するも、魔力量から違うアフィーリアを長時間追い掛けるのは不可能だった。というより、二歳児が長時間魔術を使いながら走り続けられるのも可笑しな話なのだ。
それが納得されるのは、始祖の魔王と同等の力を持つ魔王であり父ロゼの娘だから。もう一人、去年生まれた娘がいる。名前はアイリーン。アフィーリアがロゼのエメラルドグリーンの瞳を受け継いだのなら、アイリーンは母親であるシェリーのサファイアブルーの瞳を受け継いだ。あまり夜泣きもなく、シェリーに抱かれる時が一番幸せそうな顔をするアイリーンは赤ちゃん用の玩具にあまり興味を示さない。シェリーや侍女達に絵本を読み聞かされるのが好き。アフィーリアが城内を走り回ってベルローナとマファルダから絶賛逃げ回っている最中の今はシェリーに添い寝をしてもらっている。
しつこく追い掛けてくる二人から楽しげに逃げるアフィーリア。本人は遊んでもらっていると思っているのだろう。毎回、自分が部屋から飛び出す度に追い掛けてくる。今一番お気に入りの遊びである。追い掛けている側は必死でも。
楽しさが全身から発せられるアフィーリアを通り過ぎる騎士や使用人達が目を剥き、髪が乱れ呼吸が荒くヘトヘトになってでも追い掛けるベルローナとマファルダに同情した。魔術を使って捕らえたとなると、魔王の怒りを買うだけでなくノワール本家の当主から厳しい折檻が待ち受けている(但し、一度もアフィーリアを捕まえるのに魔術を使用した事はない)
停止という言葉を知らないアフィーリアは速度を保ったまま重厚な扉まで迫った。門番を務める二人の騎士が「い、いけませんアフィーリア様!」「お戻りください!」と慌てた声を発した。無論、先に道があるのなら何処へでも猪突猛進の如く突き進むアフィーリアには関係なし。お構いなしに二人の騎士の妨害を避けた。二歳児では到底開けられない重厚な扉が勝手に開かれた。疑問にも思わずアフィーリアは扉の先――謁見の間へ突入した。最奥部に鎮座する玉座に座る魔王ロゼは、両手を広げて「パパー!!」と突進してきたアフィーリアを玉座から降りて受け止めた。
抱き上げられたアフィーリアはきゃっきゃとはしゃぎロゼに抱き付いた。
「やれやれ。今日も元気だねフィーちゃん」
元気の塊であるアフィーリアへ苦笑を浮かべるのはリエル。同い年の息子ソラがいるが城内を毎日走り回るアフィーリアよりかは大人しい。
「はあー。ベルローナとマファルダは?」
「あっちだねえ」
長い溜め息を吐いたアリスは、レオンハルトが言うあっちを見た。外から虫の息の状態となって漸く追い付いたベルローナとマファルダが入った。足が縺れて倒れでもしたら起き上がれない程に疲労していた。
「も……、もう、申し訳、ありませんっ」
「わ、わ、わた、し達では、とても、追い付けませんっ」
「情けないなあ。アフィーリア嬢はたったの二歳。お前達は何歳上なのだよお」
「まあまあレオンハルト。そう責めないの。フィーちゃんはロゼの子なんだから規格外なのは仕方ないよ。それに魔術を使って捕まえられないから」
「二歳児が走る速度ではありませんよ?アフィーリア様は。ロゼ、アフィーリア様の安全の為にも重力で浮かせる程度は許すべきでは?」
アリスの提案は、愛娘に甘えられて蕩けた笑みを向ける親馬鹿に届いて
「前に一度、クリスタが風の魔術でアフィを捕らえようとしたら、更に速く走り出して逃げたらしい。重力でも術者の環境が落ち着いていないと操作は難しい」
いた。耳はしっかりと側近達の会話に傾けていた。アフィーリアにじゃれられ、真っ白なぷにぷにほっぺを指で突いていた。
パタン……とベルローナとマファルダが倒れた。遂に体力が切れたらしい。レオンハルトが指を鳴らした。彼女達が倒れた床に魔術式が即座に刻まれ、浅黄色の光が発せられた。
「少ししたら回復するだろう」
「うーん。フィーちゃんの侍女を変えた方が良いのかどうなのか、だね。シェリーちゃんもアイリーンちゃんがいるから追い掛けられないんだろうね」
「アイリーンがいなくてもシェリーには追い付けない。アフィ、一体何処で身体強化の魔術なんて覚えた?」
「う?」
ロゼの問い掛けが何か丸で理解していないアフィーリアはこてりと首を傾げるだけ。ほっぺを突いていた指を引っ込め、次はほっぺを上下に撫でる手が加わった。何度触っても飽きない手触り。大好きな父に撫でられて今日も第一王女の機嫌は最高です。
読んでいただきありがとうございました!
こんな二歳児いるか!とツッコミをもらいそうですが、魔王の娘という事ですので……(;゜∇゜)




