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55話 ブルーローズの奥底

 


 五大公爵家の始祖の話は終わり。次に今回新たな公爵家となったノースゲート家の話となった。


 が。



「正直に言うと、あたしノースゲート家を詳しく知らないのよね」

「そうなの?」

「ぼくあの家嫌い~」

「俺も。我儘言うなって父さんに言われても、苦手なんだよな」



 詳細を知らないと肩を竦めるクリスタに続いて、社交界で関わりがありそうなアシェリーとネフィがうんざりとした様子で口にした。錬金術の名家と言われる程だから、魔術の名家であるノワール家とも親交が深そうだ。試しにアシェリーに聞いてみた。



「ノワール家とノースゲート家は交流があるの?」

「家同士というか、父さんとノースゲート侯爵が、だよ。何だったかな、魔王候補だった頃に色々あったみたいで関わりたくないオーラがすごいもん」

「ああ、俺のとこも一緒。詳しい事は教えてはくれないけど、顔見るだけで嫌な思いをしたのは本当っぽい」

「そっか」



 魔王候補だった頃。なら、詳細を知ってそうな人がいる。私が座ってるのは父様の膝。父様を見上げると視線を貰うのが分かっていたのか、嫌そうな顔をされた。左右にいる子供達も父様を見ている。



「始祖の魔王を心酔する程だ。当然、その始祖の子である俺やリエルに関わりたがる。当時の魔王候補は、本来世代交代を宣言した魔王が選出するのをあいつが選んだんだ」

「父様やリエル叔父様だけじゃなく、レオンハルト団長やアリス宰相を選んだのは?」

「元々、魔王になる者は五大公爵家から多く出ていた。始祖であるあいつの血を引く俺やリエルだけでは心許ないと、万が一を考えてレオンハルトやアリスを保険で魔王候補に選んだに過ぎん。が、それが始祖を心酔する奴の癪に触ったらしい」

「二人が始祖に選ばれて、ですか?」

「あいつを崇拝している自分こそが、奴に選ばれる次の魔王だと思い込んでいたらしい。魔王になるには不十分な魔力しか持たないというのに」



 セオティーヌ=シエル=ノースゲート。侯爵としては申し分ない魔力でも、魔王となると別の話らしい。ずっと疑問だったのけど、魔王になるに必要な魔力容量(キャパシティ)ってどれくらいなんだろう。殆どの悪魔は生まれと同時に魔力容量を量る。生涯の魔力容量は後天的に増える事はない。あるとしたら、潜在魔力と呼ばれる元からある魔力とは別の体の奥深くに眠る魔力だけ。ただ、これは何かの切っ掛けがないと目覚めないもので殆どの悪魔は目覚める事なく生涯を終える。


 唯一、潜在魔力を目覚めさせたのが始祖の魔王という。



「始祖の力が絶大なのは、その潜在魔力に目覚めたからっていうのもあるわ」



 クリスタの説明にフィロメーノも“そうだよ”と私にだけ聞こえる声で頷いた。


 潜在魔力……何だろう、どっかで聞いた単語。


 何処だっけ……と考えているとまたアシェリーにザッハトルテを一口差し出された。遠慮なく食べた。



「美味しい」

「でしょう?ぼくが大好きなお店のザッハトルテなんだよお。食後のデザートで食べたいから買ってきてもらったの」

「朝早くから開いてるの?」

「人気なんだよお。ナーディアに買いに行かせた」

「アイリーンの侍女トリオに何を頼んでるの!自分ん家の使用人を使いなさいよ!」

「別におかしくないだろう。アイリーンの侍女トリオは、全員ノワール家の出身なんだし」



 言われてみれば……。でも、何かあった時彼女達がいなかったらアイリーンが。「心配いらないよお。ナーディアがいなくてもマファルダやベルローナがいるしねえ」人の心を読んだアシェリーがまたザッハトルテを差し出した。美味しく頂くがやっぱり不安だ。ソラの言った通り、侍女トリオは――ナーディアは貧民街出身の孤児だが――ノワール家出身。それだけである程度の実力があると見込まれている。


 因みに、私の専属侍女セリカは規格外だとクリスタがホワイトボードに書いた図を消しながら言う。元は『騎士団』の上級騎士で、魔術無しの単純な武力でセリカに勝てる人はいない。……セリカってやっぱりすごいんだ。



「私の侍女はセリカ一人でいいや……」

「……今回の家出で、お前にはもう一人付ける」

「え゛!?」

「ちょっと、まさかあたしとか言わないでよ!?」

「安心しろ。お前みたいにアフィの我儘を聞き入れる者は選ばん」

「そう。良かった」



 安堵しないでー!


 でも、どんな人何だろう。父様に教えてと言っても後のお楽しみだと額にキスをされた。嬉しいけどキスで黙る程私は我慢強くない!


 外に出たいと何度か試した甘えん坊アピールでお願いしてみた。


 ――結果は駄目でした。喜んではくれるけど教えてはくれなかった。


 ……左右から受ける視線が妙に痛い。「何やってんのよ」とクリスタの呆れ口調が地味に傷付きました。


 これが母様なら父様は教えたのかな?



 “天界の姫がやると暫く部屋から出て来なくなるよ”

 私の心を読んだフィロメーノに突っ込まれる。母様の場合はそうなるんだね。結局、父様を懐柔するのは難しいとよっく分かった。




 ○●○●○●



 今日の勉強は、ソラの家庭事情と公爵家の始祖の話をして終わった。新たな公爵ノースゲート家の話はあまり聞けなかった。終わると持ってきたデザート皿を回収しに来た侍女に渡し、アシェリー達は部屋を出て行った。私の様子を見に行っただけなのに一向に戻らない父様を探してアリス宰相が連れ戻しに来たり、良い子にしていろと言い残して仕事に戻った父様を見届けた私は残ったクリスタを見上げた。



「ねえ、セリカは?」



 父様やリエル叔父様が来た時には一緒にいたのにいつの間にか姿を消していたセリカの所在を訊ねると気配もなく急に現れた。驚く私にセリカはずっと部屋にいたと告げた。気配を消して部屋の隅にいたのだとか。いても問題はないのに。



「ビックリするから、普通にいてよ」

「はい。今後は気を付けます」

「で?次は何をするの?」

「そうだなあ……あ、なら、魔術を教えてよ」



 魔術師としても優秀なら魔術を習っても大丈夫な筈。難しい顔をするクリスタはセリカに同意を求めた。セリカも難しい顔をしている。



「そうですね……殺傷能力のない魔術なら良いかと」

「それなら色々と使えるよ。実戦用の魔術がいい!」



 記憶になくても、私が使えた魔術はどれも超威力の魔術ばかり。あれだと範囲は広いわ威力は大きすぎるわで不便だ。魔力の使用量を最小限に抑えた目立たない魔術も使いたい。



 “何の為に?”

 不意にフィロメーノが問う。



 “決まってる。未来の為に。もし、仮に私がコーデリア様になってしまってもなるべく威力の低い魔術しか使えないでいたら、アイリーンやユーリ達の被害も抑えられると思うの”

 “不可能だ”

 “どうして?やっぱり、私が何故か使える超威力の魔術のせい?”

 “君が誘拐された母親を救う為に熾天使(セラフィム)に放った魔術は【エンシェント・バースト】炎の最上級魔術の一つ。アンデルの村でベルベットが使ったのは一つ下の【インフェルノ・ピラー】後、“エデンの森”でアフィーリアが使ったのは【エンシェント・バースト】と同等の魔術【カサルティリオ・フィアンマ】”



 魔界だけではなく、魔術の知識も並外れている。フィロメーノに何者?と聞いても「きゅう」と鳴かれるだけであった。教えてほしい事は教えてくれるが、フィロメーノ本人の事は教えてもらえない。



「アフィーリアお嬢様」

「!」



 セリカに呼ばれフィロメーノへ向いていた意識をセリカとクリスタへ向けた。



「クリスタと話しましたが、やはりお嬢様には殺傷能力のある魔術をお教え出来ません」

「どうしても使いたいなら、あの親馬鹿に言いなさい。勝手に教えたとなると何言われるか分かったものじゃないもの」

「分かった……」



 残念だけど、私だけじゃなくアイリーンやユーリ、ハイネにもまだ早いと禁じられているから私だけ特別扱いは無理。後、誰もが疑問を抱いているであろう私が超威力の魔術を扱える件については触れてこない。私自身が使える訳を全く知らないから?


 取り敢えず、今日は家出前から練習している空間魔術を応用した入れ替えの練習となった。あ、これはセリカに話しておかないと!


 庭へ向かう道すがら、アンデルの村で起きた事件をセリカやクリスタに話した。“エデンの森”の外れルートの主が村を襲った事、襲われそうになった組合(ギルド)の女性と村の女性を助ける時入れ替えが成功した事、主を結界で囲ったベルベットが最後に炎の魔術で仕留めた事を。魔界の空に走った炎の波の正体がベルベットの魔術だと知って二人は納得していた。



「成る程。道理で魔力解析妨害の術式が組み込まれていた訳ですね。陛下は最初、お嬢様の仕業かと思われたのですがレオンハルト様が調べた結果、レオンハルト様が得意とする妨害式が組み込まれていたので可能性は限りなく低いと判断されました」

「あの末っ子がいると知って、犯人は末っ子って知ったけどね」

「ベルベットって威力の高い魔術を好んで使うんだって。ただ、威力加減が上手に出来ないとも言ってた」

「並の悪魔では、あの魔術も妨害式も使えません。ノワール家の血は伊達ではないという事です」

「シルヴァ公爵も凄かったよ!ワイバーン相手に一撃で終わらせたもん!」

「四つの辺境伯家を纏める公爵ですから。五大公爵家の当主で最も強い力を持つと言っても過言ではありません」

「ほえ」



 普段は色々な場所をフラフラして、魔界には滅多に戻らないと聞くシルヴァ公爵。辺境の要である伯爵家を纏めるだけあってその実力は並大抵ではないらしい。


 話し込んでいる内に庭へと来た。父様の魔力で咲き誇る青い薔薇。今日も綺麗に咲いてる。枯れている薔薇も落ちている花弁もない。庭師が毎日綺麗に手入れしているお陰で庭の美しさは保たれている。薔薇に顔を近付けて香りを嗅いだ。何度嗅いでも薔薇の香りは心安らぐ。



 ――…………ネ……



 なに?


 不意に脳内に謎の音声が再生された。



 ――……は薔薇が……

 ――だって……



 なに?途切れ過ぎてちゃんと聞こえない。



「きゅう」



 ペタリと頬に柔らかい物が当たった。フィロメーノの真ん丸な黒い瞳が心配げに私の顔を覗き込んでいた。



 “どうしたの?”

 “何か……ううん。何でもない”



 自分でもよく分かってないのに説明なんてもっと出来ない。


 ノイズが激しくて誰の声かも聞き分けられなかった。


 青い薔薇から離れ、準備をしているセリカとクリスタの所へ行った。



「……」



 フィロメーノが私をじっと見つめていたなんて……知らず。





読んでいただきありがとうございました!


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