5話 命ではなく、違う意味での危険フラグ出現
R15指定にして良かった。
「はあ…こんなとこかな」
知りうる限りの情報を改めて整理し、ノートに走り書きした。元から字が汚いのは自覚していたが適当に書くと余計汚くなった。自分が読めれば問題ないので大丈夫だろう。
乙女ゲームのタイトルは矢張り思い出せなかったが攻略対象や内容はある程度は覚えていた。先ず攻略対象は五人。
異母兄弟で悪役アフィーリアがずっと片想いしていた相手であり、主人公のアイリーンがずっと好きだったので、ルートとしては王道なのがユーリ。
ユーリの双子の弟でユーリが主人公を好きなのを知っていたので中々進展しづらかったのがハイネ。
次に「私」がまだ会っていない人達。
『魔術師団』団長の息子でキャラで一番色気が凄まじいアシェリー=ナイト=ノワール。紫がかった癖のある黒髪にユーリよりも深い紫水晶の瞳の美青年。淫魔の母親の血のせいか、妖しくも大人の色気溢れる父親のせいか知らないが息子である彼のルートは十八禁一歩手前であった。普通に事後のスチルがあったし、一番キスシーンが多かったのも彼。子供の内から色気があったらどうしようか……。
魔界で魔王に次ぐ権力を持つ宰相の息子でアフィーリアより一つ年上なネフィ=フラン=フォレスト。父親譲りの海を思わせる青い髪に青い瞳が特徴。お兄ちゃんみたいに頼りがいのある性格なのだが、主人公を普通に監禁してしまう恐ろしい相手である。彼の地雷だけは踏んではいけない。
最後は、リエル叔父様の息子で私達姉妹とは従兄弟になるソラ=アステル=スティード。彼の母は吸血鬼の一族を治める族長の一人娘で姫君。母方の姓を名乗っているのはリエル叔父様の希望であるとか。これについては詳しい説明は存在しなかった。吸血鬼なので吸血されるシーンが多々あった。特に、主人公と結ばれてからは頻度が増した。吸血行為は性行為よりも強い快楽を得るので一部では中毒者も出ており、吸血鬼の吸血行為は魔界でも問題になっている。
「あー……そういえば各キャラには、”愛憎”ルートと”純愛”ルートの二種類があったよね」
”愛憎”と”純愛”では主人公に抱くキャラの印象は異なり、”愛憎”は生意気な子、”純愛”は素直な可愛い子、になる。”純愛”は周り見えてる?って聞きたくなるぐらいのラブラブっぷりなのに対し、”愛憎”は各キャラが主人公を色んな狂った方法で愛してくる。ユーリは独占欲が大幅に増し、ハイネは執着心とユーリに対する嫉妬心が加えられ、アシェリーとソラは快楽で支配をし、ネフィは狂気に取り憑かれ閉じ込めてしまう。
「誰でもいいけどどうか”愛憎”ルートはなしにして……!アイリーンが可哀想過ぎる……!」
生で”純愛”ルートが見れなるなら私は全力で応援する。”愛憎”ルートなら全力で阻止する。
今の私は確か六歳。本編での主人公の年齢は十六歳。主人公と姉が初めて夜会に出席し、そこで魔王が例の五人を”魔王候補”とすると宣言する所から始まる。魔王の過保護と妻を失った事による不安で今まで姉妹を表に出さなかったが、何時までも情緒不安定な魔王を心配した宰相が魔力の高い五人を”魔王候補”とし、新たな魔王と主人公を結婚させると決めた。
「アフィーリアはコーデリアの亡霊って噂されるほどコーデリアそっくりになったせいか、父様は彼女を見限っていたんだよね。それ所か、母様そっくりのアイリーンを目の敵にしているアフィーリアを始末しようとしたけど……母様は生きてる。で、私は誰にも恋愛感情を抱いていない」
五人の内三人とはまだ会ってないが、友達として距離を保って、更にアイリーンを可愛い可愛いと愛でれば、あのバッドエンドを回避出来るのではないか?あんな痛いと惨いとえぐいの感想しか出せないバッドエンド等味わいたくない。
パタンとノートを閉じ、㊙と表紙に書き紐で縛ると本棚の奥に仕舞った。
ベッドにダイブし、思い切り体を伸ばした。昼食まで部屋にいてとリエル叔父様に言われてるし、誰かが呼びに来るまで寝よう。
「あれ?寝ちゃうの?アフィーリア」
そうだよ私は寝るよ。眠いしね。
「え~?起きたって聞いたから遊ぼうと思ったのに。あ、ねえ、ホワイト伯爵家から来てる侍女のスカート捲って下着を丸見えにして泣かせたんだって?同性のくせに酷いよねえアフィーリアは。ねえ、アフィーリア。一緒に寝てもいい?」
勝手にしなよ寝るから……うん?さっきから誰と話してるの?っていうか、声出してないよね?
「うん。アフィーリアの心を読んでるだけだよお」
「うえ!!?」
慌てて飛び起きた私の隣には、同い年とは思えない美貌の少年がニコニコ顔で寝転がっていた。紫がかった黒の癖毛にユーリよりも濃い紫水晶が私を映す。攻略中私がキス魔かこやつはと思う位キスシーンが多かった魔性の色気を放つ―――
「アシェリー!!!?」
「うーん、そんなに驚かなくてもお。寝るなら寝ようよ」
「いい!!寝ない!!私大事な用事思い出したから起きる!!」
アシェリー=ナイト=ノワールが何故か私のベッドにいた。ベッドから降りようとしたら、駄目と背後から声が聞こえたと同時に羽交い絞めにされた。子供のくせに力強っ!
ジタバタ暴れる私を物ともせず、再びベッドの上に戻された挙句アシェリーと向き合う形で倒された。
「ないでしょう用事なんか。ぼくと寝ようよお」
「眠気吹っ飛んだから寝ない。寝るならアシェリーが寝なさいよ。私のベッド貸してあげるから」
「いいよ別に。アフィーリアの横で寝たいの。それに今、外に出たくないの。ソラとネフィが大説教されてる途中だと思うから」
「大説教って……あの二人何したの?」
「家庭教師とお勉強中のアイリーンを驚かせてやろうって、森で捕まえた達磨虫をアイリーンの部屋まで持って行こうとしたのを宰相さんに見つかってね。で、達磨虫を間違えて逃がしちゃってね、庭園で寝てたぼくと父さんに達磨虫達が襲ってきたんだ」
「……災難だったわね」
そして、ナイス宰相さん!
虫嫌いなあの子がまんま達磨の形をした虫を見たら大泣きするに決まってる。母様も一緒ってリエル叔父様言ってたから、同じく虫嫌いな母様も悲鳴を上げる。母様とアイリーンの悲鳴を父様が聞き逃すとも思えないので、二人が魔王の逆鱗に触れる事無く済んで良かった。安堵の息を吐いた私の頬を撫でてくるアシェリーに目を向けた。
「心底安心したって顔してる」
「当然でしょ。全く、ソラもネフィも何を考えてるのかしら」
「見当はつくけどねえ」
「?」
「二週間前、ユーリを鬼ババから庇ったアフィーリアは知らないと思うけど、あれからアイリーンもユーリもハイネもとっても落ち込んで数日部屋に引き篭もってたんだよ」
三人が?どうしてと疑問が顔にありありと出ている私に頬を撫でたままアシェリーは答えてくれた。
「アイリーンはね、姉が身体を張って鬼ババからユーリを庇ったのに自分は泣いてるだけで何も出来なかったって。
ユーリは関係ないアフィーリアに庇われて、ハイネはアフィーリアを叩き飛ばした後笑いながらユーリを叩き続けた母親を止める事もユーリを助ける事も出来なくて、自分達の無力感に落ち込んでたんだ」
「そんなの……当たり前じゃない。皆子供なのよ?コーデリア様はとても強い魔力の持ち主で、大人でもまともに相手を出来る人は中々いないのよ?」
「ぼくは殺せるよ。簡単に」
「……」
さらっと口にしたアシェリーに背筋が凍った。恐ろしい台詞を明日の朝ご飯何かな感覚で言ってのけるってこの子の将来心配よ……。
言い放った言葉には似合わないふにゃりとした微笑みが眩しい。魔性の色気は子供の内からあったらしい。これ以上アシェリーの顔を見ていられない。逃げられないなら、寝よう。そう決めた私は瞼を閉じた。
「あれ?寝るの?」
「寝る。アシェリーも寝るなら自分の部屋のベッドで寝てね。誰かに見られて勘違いされたら大変よ」
「勘違い?子供が大人の真似事をするの?中にはそういう性癖の人もいるのは知ってるけど、ぼくにそんな性癖はないよ。大人の遊びは大人になってからでいいもん。子供の内は、子供だから許される事をたくさんしたい」
大人の遊びとは所謂……何でもありません。子供を好む大人がいるのもアシェリーの言う通り実在はするがほんの少数派。無邪気な顔のアシェリーが気になって私は再び瞼を開けた。で、後悔した。
「っ~~~!!?」
「目え開けないでよお。ビックリさせようと思ったのに」
至近距離にアシェリーの綺麗な紫水晶があった。唇に感じた暖かい感触。硬直して動けない私の唇にまた暖かい感触。間違いない。これは……。
「……お間抜けな顔だねえアフィーリア。誇り高い魔王の娘の威厳もあったものじゃないね。まあ、君もアイリーンも、そんなものないけどねえ。魔王や父さん、あと魔王に仕える重鎮達の過保護っぷりは有名だもん」
顔に全身の体温が集中しているのではないかと錯覚するぐらい、私の顔は真っ赤に染まっているのではないか?
無邪気な顔には似合わない、皮肉を多分に含んだ言葉が何故か私の胸をぐさりと刺した。城の皆が私やアイリーンを魔王の娘として扱いながら、魔界の姫君として扱わないのは、魔王である父様が私達を一度も表舞台に出さないから。爵位を持つ家の子供は、ある程度の年齢になると社交界デビューを果たし、大人の貴族社会に飛び込む。そこで一員と認められるか拒絶されるかは、本人の実力次第。私やアイリーンにも何度も社交界に出る機会はあった筈。でも、一度もそんな話を父様はしない。
「どうしてだと思う?父さんに昔聞いたんだけどね、魔王が父さんや宰相さんに言われて一度奥方をパーティーに出席させたんだ。その時、パーティーに出席していたある上位貴族の当主が奥方に一目惚れしちゃってね。魔王の目がほんの一時離れた隙を突いて奥方を連れ去ろうとしたんだ。勿論、護衛がいたからあっさり助けられたし、その貴族は捕まったけどね」
「……知ってる。リエル叔父様に昔聞いた。母様はもうそれっきりパーティーには出てないって。パーティーどころか、公務にも一切関わってないって」
「そうだよ。で、魔王が君達姉妹を見せないのもそれが原因なんだ。アフィーリアは両親の遺伝子を丁度半分ずつ引き継いでるみたいだけど、アイリーンは奥方に生き写しだからねえ。大量の目玉の前に大事な娘の姿を晒したくないんだろうね」
「当然よ。アイリーンは私と違ってとても可愛くて女の子らしい子だもの」
「君は見た目と中身が噛み合ってないけどねえ」
「うるさいわよ」
余計なお世話である。心の中で吐き捨てるも、人の心を勝手に読むアシェリーには筒抜けだ。今だって、にっこり笑っている。
ならば私も全部口に出してやると決めた。
「ねえ、アシェリー。こんな話より、私さっきからあなたに聞きたい事があるんだけど」
「チューした理由?」
「そうよ!子供だからって一線があるのよ!?やっていい事と悪い事の!」
「してみたかったの」
「大きくなってからでいいでしょう!」
「それじゃあ遅いかもしれないじゃないか。アフィーリアの唇柔らかそうだからつい触れてみたくなったんだ。思った通り柔らかいし甘い味がしたよお」
子供の内からキス魔の片鱗があったのこの人!?淫魔の血を引いてるから!?
ペロリと下唇を舐めたアシェリーに益々自分の顔が熱くなるのが分かる。茹で蛸並に真っ赤な私を無邪気な子供の顔が見つめる。
「可愛いなあアフィーリア。最初に頭を打ってから別人みたいになっちゃったけど今の方がぼくは好きだなあ」
「べ、別人?」
「うん。だって、前までユーリユーリうるさいし、ユーリが嫌そうにしても四六時中ユーリの引っ付き虫をしてたし。ぼくがチューしても顔を真っ赤にして固まるだけなんだもん。きっと、前の君なら怒り狂ってたよね?ユーリの為のファーストキスを返せって」
「……」
記憶が戻る前はアシェリーの言う通り、ユーリで世界が回ってる暴走気味な女の子だったが、自分が悪役な姉に何故か転生したと知った日から、将来命の危険を齎す人物とは最低限の距離を保とうと決心したからだ。
アシェリーはまた触れるキスをした。
「淫魔の血を引いてるから見えちゃうんだ。…ぼく、アフィーリアの身体とは相性がとても良いみたい。この意味解る?」
「っ~!!?」
口をパクパクと魚みたいに開閉する私に止めを一撃をくれました。
「決めた。成人を迎えたら、ぼくのお嫁さんにする。毎日気持ちいい事して遊ぼうねえ」
……。
えー……親友が彼を存在自体が18禁と言っていたのを思い出した。子供の頃から魔性の色気を持っているだけに止まらず、淫魔としての血もしっかりと仕事をしているせいで可笑しなフラグが成立しました。
こんなフラグいらない求めてない!いらなーい!!
「返事は?」
「……の……ノーセンキュー!!!」
――将来安泰の為にも、必要な項目が一つ増えた。妹を愛でる・攻略対象キャラとは最低限の距離を保つ・アシェリーから貞操を(命懸けで)守る。である。
読んでいただきありがとございました!
幼いながらに危ない雰囲気を醸し出すアシェリーに狙われるアフィーリアです(命の危険ではありません)




