魔王に可愛さは必要ない
黒一色で統一された室内にて。父レオンハルトのお膝に座らされているアシェリーは、白いぷにぷにほっぺを指でつんつんと弄られていた。
「あ~可愛いなあアシェリー♪男の子なのにどうしてこんなにも触り甲斐のある頬をしているのだよお」
「もー!!ぼくの顔指で突かないでよ!!」
「え~良いじゃないかあ。それに、家に帰りなさいと言ったのに帰らなかったアシェリーが悪い」
玉座の間にて、アフィーリアとアイリーンが感動的な再会になる……筈がなく、妙な溝が出来た再会となった。レオンハルトに帰る様告げられた子供達だが、大人しくはい帰るとならなかった。気配を消して様子を伺っていた。アイリーンが乱入した際には廊下に飛び散っていた。普段は大人しく、泣き虫で魔力操作もまだまだ下手だが、身に秘める力は父親譲りなのだろう。いたた、と頭を擦るアシェリーとネフィとソラの頭上から「何をしているのかなあ?」と間延びした声が下りた。恐る恐る上を向くと、黄昏色の瞳が三人の子供を見下ろしていた。
本能で危険を察知した三人の内、二人が玉座の間から出て来た父親の所へ逃げて行った。一人逃げられないアシェリーだけが残された。言い訳をしようと口を開きかけた時、セリカに抱かれたアフィーリアと目が合った。思念で「アフィーリアのバーカ」とアシェリーが罵倒すれば、力なく項垂れた。アフィーリアを抱いていないセリカの腕には、真っ白なタヌキが抱えられている。太く、ふわふわもこもこな尻尾がぷらぷらと揺れていた。中の様子を盗み見ていたから知っているが、アイリーンとの再会よりもあのタヌキを優先したが為に妹と溝が出来てしまった。肝心な所で考えが足りないのがアフィーリアらしい。
「ねえ、あのタヌキなんだったの」
「シャルル殿曰く、アフィーリア嬢に付いて来た、らしい。ただ、ベルベットに聞かないと分からないな」
「むう。何でベルベットとアフィーリアが一緒にいるかなあ」
「はいはい。怒らない焼きもち妬かない」
淫魔の特性上、気に入った相手が他の相手といるのを酷く嫌がる。相手が同じ淫魔だと尚更。お互い、ハーフにクォーターと言えど、淫魔の血は確りと仕事をしており……。魔王譲りの魔力だけでなく、内面も気に入ってしまったが為にアフィーリアをお気に入り認定してしまった。
思い出すと更に怒り、レオンハルトの肌蹴た胸元をポカポカ叩く。レオンハルトも「可愛いなあ我輩のアシェリ~」と蕩けた笑みで愛息子の頬をぷにぷにし続ける。これがアシェリーではなく、セフィリアだったらレオンハルトの色気に当てられて押し倒していた。
「しかしまあ」
困ったと言いたげなレオンハルトは愛息子の頭を撫でつつ、折角再会したというのに妙な溝が出来てしまったあの姉妹を心配した。アフィーリアがいなくなってからずっと泣いていたアイリーンにしたら、自分との再会よりも何時の間にか付いて来たタヌキを優先したアフィーリアが許せないのだろう。アフィーリアも転んで泣くのを耐えていたアイリーンに真っ白な可愛いタヌキを見せれば機嫌が良くなると思って見せたが、結果は当たり前な話悪い方へといった。
お開きになると、アフィーリアはタヌキと一緒にセリカに抱えられて行き、アイリーンは侍女トリオに付き添われて部屋へ戻った。
明日からまたどうなる事か、とアシェリーの頭からまだ頬を突くのに変えると何もない空間がぐにゃりと歪んだ。歪みの中から、特殊な魔術式が刻まれたガラス瓶を両手に持ったベルベットが現れた。
「おやベルベット坊や。こんな時間にどうしたのだよお」
「叔父様に後は任せようと思って」
「うん?」
これ、とベルベットはテーブルにガラス瓶を置いた。淡い紫色に光る液体がぽちゃんと揺れた。今夜採取した"月の涙"の花弁から抽出した蜜をガラス瓶の中に入れたのだ。
「おれはいらないから」
「シャルル殿はなんと?」
「おれの好きにしていいって。なら、おれはフィーに使ってもらいたいから加工は叔父様に任せるよ。多分、二人分しかないしね」
両手で抱えるだけの大きさのガラス瓶一杯に入った"月の涙"でも、結晶化させると子供の拳サイズにしかならない。仲直りの為なら、加工は装飾品辺りになる可能性が高い。人数は二人が限界。誰に渡したいか予想がつくベルベットは、敢えて二人と告げた。
「二人、ねえ。出来るのは出来るが、形は決まっているのか?」
「それは明日聞くよ。まあ、あの魔王陛下が会わせてくれるか、だけど」
「……ねえ」
不機嫌げに頬を膨らませてベルベットを睨んでいたアシェリーが拗ねた声色を発した。
「ベルベットがアフィーリアを"フィー"って呼ぶのは何で?」
「フィーが最初そう名乗ったからだよ。アフィーリア、何て名前聞いたら流石のおれでも気付くよ」
社交界に出なくても、魔界を統べる王の愛娘の名くらいは知っている。姿を知っている人はほんの一握り。過保護な魔王が外に出すのは酷く嫌っているせい。ベルベットの方も家名を名乗っていなかったのでアフィーリアも彼がシルヴァ家の者とは気付かなかった。理由を答えても拗ねたままなアシェリーの心情は丸分かりだった。自分ですら、アフィーリアとしか呼んでいないのに一度も会った事のないベルベットが愛称を呼んでいるのが気に食わないのだ。
「アフィーリアって知ったならそう呼びなよ」
「アシェリーには関係ないだろ。アフィーリアってちょっと呼び難いから、フィーでいいでしょう」
「ダメ!!」
頑なにフィー呼びを嫌がるアシェリーの内心を見抜いているレオンハルトが意地悪げに笑んだ。
ベルベットへ向けて。
「因みに言うとだねえベルベット坊や。アフィーリア嬢のフィー呼びの元はリエルなのだよお」
「ああ、陛下の弟君」
「そうそう。アフィと呼ぶのはロゼの特権、だからフィーという愛称を作ったのだよお」
「ああ、そう。なら、おれは別の愛称でも考えるよ。もう決めたけどね」
「早いなあ」
むすうう、と拗ねた紫水晶を向けてくるアシェリーへ「悔しいならアシェリーも考えなよ」と(一歳上でも)歳上の余裕を見せ付けたベルベットは、“月の涙”の加工をレオンハルトに釘を差し、再び空間を歪めると帰って行った。
膨れっ面のアシェリーを可愛い可愛いと連呼しつつ、子供の時にしか堪能出来ないぷにぷにほっぺをまだまだ堪能する。折角の美貌が残念な程蕩父親の顔は蕩けている。自分しか子がいないとはいえ、悪魔はあまり自分の子に執着しない筈だと家庭教師に習った。あの家庭教師が嘘を教えるているとは思わない。ノワール家の嫡男として、幼いながらに社交界に出席しないとならないアシェリーの周りで親に溺愛されている子供はネフィとソラくらい。他の家の子も両親に愛されてはいそうだが、アシェリー達と比べると淡白な部分が見受けられた。
親馬鹿の頂点に立つ魔王の娘二人と幼馴染みなせいで自分達が貴族の中で異常だと忘れてしまっていた。
つんつんほっぺを突くレオンハルトの人差し指をパクりと口に含んだ。おやあ?と黄昏が丸くなる。ちゅうちゅう吸う様は、母の胸を吸う赤子の様。
「どうしたのだよアシェリー。我輩の指なんか吸っても何も出ないが?」
「んん~?うん。ぷは、あんまりにもしつこいんだもん。いい加減離してよお」
「え~」
「ぼくもう寝る」
「ふむ。そうだなあ、子供は寝る時間だあ。我輩が部屋まで送り届けてあげよう」
いらないと言っても聞こえない振りをするのがこの父である。赤ちゃん抱っこをされて不満を噴出しても鼻歌を歌うレオンハルトには無意味。行き交う使用人達は「ご当主様はアシェリー様がお好きね~」「アシェリー様可愛いもの」と何時もの事と温かい瞳で見られた。
アシェリーの私室も基本黒一色。天蓋付きの大きなベッドの上にアシェリーを寝かせた。
「お休みアシェリー。明日からはまた大変だよお。我輩が」
「そういえば、アフィーリアが滞在してたっていうとこはどうするの?」
「明日、シャルル殿がベルベット坊やと一緒に行く。アフィーリア嬢は無期限の軟禁生活を強いられるだろうが……まあ、こればかりはしょうがない」
「アフィーリアももう少し我慢したらいいのにね。どうして外に拘るのかな。頭を打ってから急に外に出たがりだしたもん」
「元々、好奇心の強い子だから。興味の対象が外へ向くのも当然だよ。さあ、もう寝なさい。安眠の魔術でもかけてあげよう」
そう言うとアシェリーの額にキスを落とした。また文句を零すアシェリーだが、次第に瞳がとろんと眠気に蕩け――あっという間に眠った。シーツを首までかけてレオンハルトは姿を消した。
○●○●○●
次にレオンハルトが現れたのは真っ暗な袋小路。灯りがないと何も見えない細い道を迷いもなく歩を進め、行き止まりの先にある扉を開けた。薄暗く細い室内を進んで行くと空間が広がった。何本もの蝋燭がつけられた背徳的な空気を纏う空間の中、こっちこっちと手招きをしている男性の元へ行った。普段の髪の色が更に黒く思えてしまう。琥珀色の液体の入ったグラスを左右に揺らしているリエルの前に座った。
「遅かったね。お楽しみの最中だったかな?」
「いいや終わった。寝ると言われれば寝かせない訳にはいかない。子供の睡眠は、大きくなる為の大切な栄養源なのだよ」
「ああやっぱりアシェリーで遊んでいたんだね」
白いYシャツのボタンが肌蹴ているのが、てっきり妻に襲われたと思っていた。息子と遊ぶだけで異性を魅了する胸元を露出する必要はない。魔族は魔力が強いと無意識に異性を惹き付ける強力な魅力を発する。リエル本人は自覚がないが、妻のティファリナ曰く寝起きの姿は押し倒して吸血をしたくなるから見たくないと昔告げられた。吸血鬼一族の姫でありながら、吸血行為があまり得意ではないティファリナ。唯一、リエルだけ吸血が可能。極端に強い魔力を持つ相手の血を最初に吸ってしまったが為に、他者の血を受け入れられなくなったと知るのは二人だけの話。
店の者に「アンダルシアをおくれ」と注文したレオンハルトをリエルの深い青が意外そうに見開かれた。
「珍しいね。レオンハルトがカクテルを頼むなんて」
「偶には違う酒が飲みたくなる。普段飲む酒とそうアルコール度数は変わらんしな」
ジンにウォッカ、テキーラにバーボン、スコッチといったどれもアルコールの高い酒を好んで飲むレオンハルト。リエルが飲むのはウォッカ。レオンハルトがカクテルを頼むから彼も飲みたくなり、グラスに入ったウォッカを一気に煽りマティーニを注文。“カクテルの帝王”と名高いこれもアルコールが高い。
二人とも、酔いたい気分なのだ。
アフィーリアが戻った事で明日から城に平穏が戻る。家出中は常にロゼの怒りが城を充満し、耐性がない者は次々に倒れていった。アリスが機転を利かせて高位貴族の家々から、臨時で使用人を補給したとはいえ、長引いていれば人手不足は更に深刻となっていた。
幼い魔界の王女は、自分がどれだけの価値があるのか分かっているのか分かっていないのか。恐らく後者。不可解な点があるとは言え、魔力が強いだけの子供。魔王娘というだけでどれだけの価値があるか。今日、ロゼがアフィーリアに伝えた言葉でもある。家出ではなく、誘拐だったらどうなっていたか。必ずしも無事とは言い難い。絶大な力を有するロゼを好まない輩は当然いる。
「お待たせしました」
二人のカクテルが同時に運ばれた。薄い琥珀色のアンダルシアをレオンハルトが、デコレーションにオリーブが付けられた透明なマティーニをリエルが。グラスを持って、コツンと乾杯した。
半分程喉を通した。どちらも共通するのは、焼ける様な熱が喉を伝った。
不意にリエルが笑みを零した。
「そういえば、クリスタが抱えていたあのタヌキ。フィーちゃん達は正体を知っていたのかな」
「知っていたら平然としていない」
「だよね。僕も知らなかったら、きっと驚いていたよ。だって――」
――あの二匹タヌキはロゼとシェリーちゃんだから
思い出し笑いでもしているのか、笑いを堪えるリエルに気持ちが分かるとレオンハルトは何度も頷く。
「タヌキになってアフィーリア嬢に同行しようと言ったシェリー様にロゼが見せたあの顔が忘れられない」
事情は今日のほんの数時間前まで遡る。
今日の夜中、数百年に一度咲く“月の涙”を求めて“エデンの森”へアフィーリアが足を運ぶと情報をシャルルから得た。特別な満月の日は、普段よりも凶暴となった魔物に襲われる危険性がある。歴戦の猛者であるシャルルが一緒でも、親心から心配で堪らなかった。アフィーリアを外へ連れ出したクリスタによると、内緒でユーリも行くと教えられた。執務室で事情を聞いたロゼは全くと溜め息を吐いた。
『ユーリを止めなかったのか』
『止めた所で無駄よ。あたしが寝ていても叩き起こしたでしょうね』
『ハイネはどうするつもりだ』
『丁度、アイリーン王女が不安定なままだから母親と一緒にいさせてる』
『その原因が自分にあると忘れないで下さいね』
『うっさいわね』
何度も混乱を招いた元凶だと言い続けるアリスがいい加減鬱陶しい。クリスタは整った顔に似合わない皺を眉間に寄せた。執務席に座るロゼは考え込む様に額に人差し指を当てて瞳を閉じていた。軈て、エメラルドグリーンの瞳が見えると驚きの行動を口にした。
『“月の涙”探しに俺も行こう』
『ロゼ!?』
驚愕の声を上げたアリスに続いて側に控えていたレオンハルトが首を振った。
『ふむ。どうせ、止めても強行するのだから小言は後で言うといい』
『レオンハルト!』
『まあまあアリス。でも、ロゼが行くとなるとそのままの姿じゃ絶対行けないよね?フィーちゃんが吃驚して逃げちゃう可能性もあるし』
『リエルまで』
アリス以外、誰もロゼを止めない。止めてもアフィーリアが漸く見つかって危険な森へ行こうとするのなら、自分が行って守ってやりたいのだろう。だが、リエルの言う通りそのままの姿では却ってアフィーリアが逃亡しかねない。すぐにロゼに捕獲されて城へ強制送還が関の山だろうが、何か良い案はないかとアリス以外の面々が思案していると。もう一人の娘アイリーンを寝かし付けたシェリーが嬉々とした様子で執務室へ入った。そして、ある本のページをロゼの眼前に広げた。
『ロゼ!なら、これに姿を変えたら良いのよ!』
シェリーが見せたのは、絵本の中に出て来るタヌキ。どうやら、出入り口の扉の前で会話を聞いていたらしく、急いでアイリーンを寝かし付けるのに使った絵本を取りに戻っていたらしい。サフィアブルーの瞳を輝かせて提案したシェリー。固まって顔を盛大に引き攣らせているロゼが力無くタヌキと呟いた。周囲の面々も絵本を覗き込んだ。レオンハルトは見た瞬間に口元を抑えプルプルと体を震わせ、リエルは彼女らしいと苦笑し、アリスは先程とは打って変わって同情した眼をロゼへ向け、クリスタはこれなら魔術で簡単に変身出来ると言った。
『本当?良かった。ロゼ、タヌキの姿ならアフィーリアも警戒しないわ』
『……俺に、こんな動物の姿になれと?』
『本物は見たことないけど、とても可愛いと思うの。アフィーリアだって、怖い動物より可愛い動物の方が喜ぶに違いないわ。ロゼ、タヌキよタヌキ』
『可愛い……』
背中を丸めて声を出すのを必死に堪え、震えが強くなっているレオンハルトへ殺気の込めた眼差しを差し向けるも爆笑間近な男に効果はなかった。どうしてか痛みが生じ始めた頭に手を当てて、今日一番の溜め息を吐いた。
『分かった』
シェリーの言い分も分からないでもない。アフィーリアの警戒を解くなら、可愛い動物の姿をした方が得。絵本を閉じたシェリーはロゼが座る方まで回ると本をぎゅっと抱き締めた。
『私も行きたい』
『駄目だ。待っていろ』
『ロゼがタヌキになって行くのなら、私がタヌキになって同行しても同じよ。それにずっとロゼやアフィーリア達といるから。お願い』
母親として、一緒に行きたいとシェリーが言い出すのは安易に予想出来た。だが、危険な場所に例えタヌキとなって常に傍を離れないと言っても連れて行きたくないのがロゼの本音。
が――
『……絶対に傍を離れるな』
『ロゼ……。うん!』
断固として城の外に出せないロゼが今回だけ特別にシェリーの同行を許した。勝手に城を抜け出した(クリスタが外へやった)アフィーリアをシェリーも酷く心配していた。形はどうであれ、無事な姿を早く見たい。娘を心配する母親の心情を優先した。
おいで、とシェリーの手を自分の手に重ねさせた。
変身用の呪文を唱えた。二人の光が目映い光に包まれる。
光が消えるといた筈の二人がいない。
『きゅう』
面々が下を見ると金色の毛並みをした二匹のタヌキがいた。小柄でサファイアブルーの瞳に尻尾に瞳と同じ色のリボンが巻かれた方はシェリー。はあ~と項垂れている一回り大きくエメラルドグリーンの瞳のタヌキがロゼ。初めて目にしたタヌキに興奮収まらないシェリーがてくてくとクリスタの方へ歩いて行った。
『きゅう!(クリスタ!)』
『多分、あたしの名前を呼んでいるつもりだろうけど全然分からないわ。そっちは?』
もう一匹のタヌキは執務机に上半身を任せ爆笑するのを堪えているレオンハルトの頭をげしげしと踏んづけていた。が、そこはタヌキの肉球。痛みはない。クリスタへ向けられた顔にシェリーの様な愛嬌はない。仏頂面しかない。
『……きゅう』
多分、『なんだ』、と言っているのだろう。発せられた鳴き声も些か低い。誇り高き魔界の王が可愛らしい動物の姿になった等と誰も思わないだろう。笑い死にそうなレオンハルトを心配しつつも、不機嫌最高潮なタヌキ――基ロゼ――を抱き上げたアリスはクリスタへ渡した。
『クリスタの使い魔として同行させて下さい』
『その辺りが利口ね。それでいい?』
『きゅうう!』
『……ぎゅ』
『あんた、タヌキになっても愛想が悪いわね』
タヌキ以外でも、可愛い動物の姿になっていれば不機嫌だった。
その後、レオンハルトがタイミングを見て迎えに行った際に一足早く城へ戻りタヌキから元の姿に戻った。
タヌキだった二人の姿を思い出しては吹き出すレオンハルトは早いピッチでカクテルを飲み干していく。アンダルシアの次はホワイト・レディ、ベルエール、アコーダンスといったアルコール度数の高いカクテルを頼んでばかり。後二十杯飲めば、酔い始めるであろう。対してリエルの方は、最初に頼んだマティーニを飲み干すとキャロルを頼んだ。次いでに酒の肴を何品かも。
「明日からどうなる事やら」
「フィーちゃんの事?」
「ロゼは今までアフィーリア嬢に付けていなかった家庭教師を無理矢理付けるだろうなあ」
「うーん。ああ見えて、フィーちゃん勉強は出来る方だからロゼも目を瞑っていたんだけど」
「普通の家庭教師は使わんよ」
意味深な口振りから、既にアフィーリアの家庭教師の目星を付けていると見えた。魔王の娘の家庭教師になるに相応しい人物。思い当たる相手を探していくリエルが一人の名前を口にした。正解、と笑うレオンハルトに口端を引き攣らせた。タヌキを提案したシェリーへ向けたロゼと同じ表情。
「……本気?」
「経緯はどうあれ、元は最高位の貴族令嬢だ。イグナイト家で必要な教育は終えているしな」
「どっちかって言うと、フィーちゃんの我儘を聞きそうな人だけど」
「そこはセリカの腕の見せ所だろう」
リエルが思った通りの相手がアフィーリアの家庭教師。面白さと不安が混ざった未来にリエルは運ばれたキャロルを一気に飲み干したのであった。
読んでいただきありがとうございました!
次回より、子供最終章です!




