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※安息所でしかなかった人間(R15)


なろう運営さんより、R18の描写があるとご指摘を頂き修正しました。ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした。


 


 ――ねえ、なんでタヌキなの?しかも真っ白


 時刻は夜中。人間界も魔界も時間の感覚は同じ、朝起きて夜眠る。無論、陽を苦手とする種族も存在する。人間界にも魔界にも。天界に夜はない。常に絢爛たる太陽が空に君臨している。数百年に一度の特別な紫色の満月が魔界の夜を照らす。二週間の家出ライフは強制終了し、城に戻されたアフィーリアは両親に確りと叱られ、妹とは妙な溝が出来てしまう。侍女のセリカにごしごし洗われた後はまた父の部屋へ入れられ、朝になるまで部屋を出るのを禁じられた。どうせ朝になっても父であるロゼが許さないと外には出られない。アフィーリアは大きなベッドの上、何故か真っ白なタヌキとなって姿を現したフィロメーノを隣に寝かせて問いかけた。因みにフィロメーノもセリカに洗われた。様子を見るにアフィーリアに付いて来てしまったと判断された為。途中、力加減を知らないセリカに悲鳴を上げるも乾燥されている間は非常に気持ちよさげに目を閉じていた。


 アフィーリアの問いにフィロメーノは答えない。それ以前にぐっすりと眠ってしまっている。もう、と頬を膨らませつつ、ロゼが戻る前には眠った方がいいのでアフィーリアも眠る体勢に入る。瞼を閉じていたらその内眠るだろうと信じて。


 アフィーリアの思った通り、僅か数分で夢の世界へ旅立った。頬に肉球を押し付けても起きないのを確認してフィロメーノは体を起こした。



 “やれやれ”



 大きな寝台の上。フィロメーノがタヌキの姿をしているからか、シーツも被らないで大の字になって熟睡しているアフィーリアに呆れ果ててしまう。幼女を性的な対象に見る幼女趣味はないが中身は遥か昔に成人を迎えた男。もしもフィロメーノに幼女趣味の気があったら、間違いなく食われていた。シーツを加え、上へ上へ引っ張りアフィーリアの首元まで掛けると離した。



「きゅう」



 これでよし、と鳴いた。



「……」



 愛しい、哀れで可愛い魔界の姫君。魔王であるロゼと天界の姫シェリーの最初の娘にして、父親譲りの強大な魔力を持って生まれた魔族と天使のハーフの女の子。生まれた時から特別なアフィーリアに“アレ”がコーデリアの次に目を付けるのも同然だ。“アレ”は高魔力保持者の女を好む。元がそうなので当然と言えば当然。期限は四年。アフィーリアが十歳の誕生日を迎えるまでに答えを出させないとならない。



 “まあ、でもゆっくり考えさせてあげよう”



 ゆっくりゆっくり考えて――答えを導き出したらいい。でも――――



 “君は僕の望む答えを出してくれるけどね”



 フィロメーノは未来の話だというのに、既に四年後のアフィーリアがどんな答えを出すか知っている様子だった。クスクス笑うタヌキの姿は、悪巧みをする可愛いもの。中身は可愛さとは無縁のエグいの単語しかないのに。


 小さな肉球がアフィーリアの心臓付近に置かれた。



 “うん。異常はない”



 何度も繰り返した悲劇の中、漸く訪れた好機をフィロメーノは逃さなかった。




 ○●○●○●



 遡る事――十八年前。


 コーデリアの亡霊とまで囁かれ、魔界中の嫌われ者となった魔界の第一王女アフィーリア=オールドクロック。父である魔王にさえ見捨てられ、“処分”も目前と噂されていた。たった一人の妹を執拗に虐め、時に命を奪う真似をするアフィーリアをこれ以上自由にする事は出来ないと判断した為。あんなにも妹思いだったアフィーリアがそうなってしまったのか誰にも分からない。アフィーリアが好いている異母弟のユーリの愛情がアイリーンに向いている。愛する人の愛情が他の女に向けられている事による嫉妬。丸で、嘗てのロゼの婚約者――コーデリアの様だと誰もが口にした。


 このままでは魔王に殺されてしまう。命の期限が迫る焦りから、妹のアイリーンを部屋へ呼び出したアフィーリアはその命を奪おうとした。


 アイリーンがアフィーリアに抵抗出来ないのを良いことに何度も暴力を振るった。痛みで動けなくなった所を氷の魔術で生成した刃で刺し殺そうとした。静かに見守っていたフィロメーノは今回もアフィーリアはこの後誰かに殺されると確信した。今回は第一王子だろうと予測する。アイリーンとは婚約が結ばれ、結婚式が目前に迫っていた。



 “ん?”



 ――何時もと違う、と銀瞳を細めたのは、アイリーンを刺す筈だった氷の刃を持ち、自らの腹部を貫いたのだ。初めての異なる行動。意識する前に体が先に動いた。


 人間も、悪魔も、天使も。皆死ねば魂は輪廻の輪に入り、嘗ての記憶も力も洗浄され新たな器に入る。


 どんな悪行を重ねた悪逆非道の者でも例外ではない。聖人君子と謳われた傑物でも。


 が、極稀に輪廻の輪を弾き出され、知らない内に同じ生を繰り返す者がいる。


 魂が完全消滅しない限り止められない繰り返し。今回該当したのがアフィーリアだった。


 息絶えたアフィーリアの体から抜け出した魂をフィロメーノは即保護をした。いつもいつも、アフィーリアの魂は“アレ”に完全に食われたせいで保護が出来なかった。


 掌に乗った魂は風前の灯火。息を吹き掛けるだけで消え去りそうな程脆く不安定。



「暫くは休みなさい」



 何度も何度も食われ、最後は悪魔らしく、惨たらしい殺害方法を行使した彼等に殺された。



「――――――」



 聞き取れない言語を紡いだフィロメーノの掌から光の檻が描かれ、アフィーリアの魂を囲った。“時間停止”を付加(エンチャント)したので今すぐの消滅は防がれた。城の中では、未だに死したアフィーリアの遺体に縋りつくアイリーンがいて。ふう……と姿を消したフィロメーノが次に出現したのは真っ白な空間。白一色に統一された空間で服の色が黒なのでフィロメーノだけが唯一色を持つ。無言のまま足を進めた。



 …………。


 ……。



「着いた」



 たった一人で永遠の白を歩き続けた果てにフィロメーノは沢山の扉が立ち並ぶ場所まで来た。色もカラフルで先に何があるのか全くの不明。カラフルな中、更に奥にある金色の扉の前に立った。迷わずドアノブに手を掛け扉を開けた。


 白い空間から、質素な部屋に変わった。ダブルベッドの側にベビーベッドがあり、桃色のベビー服を着た赤ん坊がすやすやと眠っていた。



「……」



 赤ん坊の前に立ったフィロメーノは掌にある檻を解除し、消滅寸前のアフィーリアの魂を赤ん坊に押し付けた。心臓に押し当てられた魂はゆっくりと体内へ入り込んだ。



「うう……」



 自身の異変に気付いた赤ん坊が苦しげに声を漏らした。だが、フィロメーノがまた聞き取れない言語を紡いだ。すると、苦しげだった赤ん坊が安らかになりまた静かに眠った。魂を押し込み、暫し押し込んだままの状態で静止する。



「うん。何とか馴染んだね。この子が呻いた時にはヒヤリとしたけど、相性が良かったお陰で拒絶反応は出なかったね」



 赤ん坊から手を離してフィロメーノは一歩下がった。少しの間観察しても、やはり赤ん坊に異変は起きなかった。



「良かった。これで一安心。ゆっくり休みなさいアフィーリア」



 フィロメーノは生まれたばかりの赤ん坊の魂の中に消滅寸前のアフィーリアの魂を隠した。純粋無垢な赤子の魂の中で“アレ”に食われ続け、傷だらけとなった魂を癒す。そして、時が来たら大きくなったこの子から両方の魂を抜き取り、アフィーリアの魂だけを保護。後戻りが可能な時代へ送り返す。時間がかかるが、計算した所十八年程あればアフィーリアの魂は癒され、再び元の器に戻れる。但し――



「これは禁術。僕はアフィーリアが欲しいから、アフィーリアの魂は無事に抜き取れる様守護を施した。でも、君には何にもないから何にもしないや。ごめんね」



 一ミリも罪悪感を抱いていないのに謝罪の言葉を述べ、何も知らない赤ん坊の頭を撫でた。




 ――アフィーリアの魂の休息場として選ばれた人間の子は、十八年も経つと赤ん坊から立派な少女に成長した。彼女が生活する国の平均的容姿と頭脳。趣味は、学校の友人に勧められたとある乙女ゲーム。魔王の娘が魔王候補に狂おしい程に愛される恋愛ゲームで、そこにはヒロインの命までも狙う悪役令嬢が存在する。ヒロインの実の姉。同じく魔王の娘であり、父である魔王譲りの強大な魔力の持ち主。ヒロインの異母兄弟でヒロインの事を幼い頃から愛していた攻略対象者を愛している姉は、彼に愛されている妹に嫉妬し、愛情を一人占めしようと妹を執拗に虐め、果てには殺害を企てた。


 ハッピーエンドならヒロインは無事攻略対象者と結ばれ、バッドエンドなら姉に殺されるか、姉を排除しても愛に狂った攻略対象者によって狂気的に愛される末路となる。元十八禁乙女ゲームで家庭用ゲーム機に移植されても十八禁一歩手前とプレイヤー達が騒ぐのも道理だ、と少女は納得した。プレイして知った。このゲーム、大人でもそっち方面に耐性がないと赤面間違いなし。普通に事後描写がある上、絶対最中であろう描写が仄めかされるシーンもあった。



「う、ん~!はあ~。やっとネフィが終わったよ。長かったなあ」



 クッションを抱いてゲームをプレイしていた少女は一旦画面から目を離しベッドに寝転がった。



「ユーリ、ハイネ、アシェリー、ソラ、ネフィ。五人を攻略した次は隠れ攻略対象のベルベットだ。長かったよ。他の攻略対象者のルートでベルベットが出るのはアシェリーの愛憎ルートだけなんだよね。しかもバッドエンド」



 データをセーブして、ゲーム機をスリープモードにした。



「このルートだけ、なんだよね。唯一、攻略対象者がアフィーリアを好きなのは。アシェリーは元からアフィーリアが好きなのに、性格はあんなだしアイリーンがいるだけで敵意剥き出しにしちゃうから、不用意に近付けなかったんだよね。ベルベットとアフィーリアが恋人同士になった経緯は無かったけど、アシェリーはベルベットに嫉妬してアフィーリアを殺し、アイリーンをアフィーリアの代わりとして愛してしまう。アイリーンもアイリーンで、アフィーリアの代わりでいいからアシェリーの側にいたいってのがアシェリー愛憎ルートのハッピーエンドだけど」



 大きな欠伸をしてプレイ中抱いたアイリーンの感想を声にした。



「アイリーンって、マゾなの?自分を殺そうとするアフィーリアにも近付くわ、会ったらキスされた挙げ句毎度の如く酷い言葉を浴びさせるアシェリーに会いに行くんだもん。絶対マゾだ」



 但し、これが元祖十八禁になると更にハードになる。他のプレイヤーが書いたネタバレ感想を見て知ったが、十八禁のアイリーンは愛憎ルートでは更に悲惨だ。アシェリーで例えるなら、アフィーリアと呼ばれながら乱暴に抱かれる。初めての時は大事な所をほぼ解さずに貫かれ、処女を喪失する。


 また、愛憎ルートは基本、初めては皆無理矢理なのだとか。その中でもアシェリーのアイリーンの処女を奪うシーンが一番痛々しいとプレイヤーは書いていた。



「ふわあ~……ちょっと、ゲームのし過ぎだ。寝よう」



 眠そうに目元を擦った少女は寝る体勢に入った。就職先も決まった少女は卒業を待つだけの身。時間はタップリとある。起きたら念願のベルベットルートをプレイしようと決めたのであった。



 ――それが永劫に叶わない夢となるのも知らず……。




 ○●○●○●



 何もない真っ白な空間。普通の者なら、三日と待たず気を狂わせ廃人と化す何もない空間(せかい)に二つ、色のあるものがあった。一つは絶世の美貌を持つ男性、銀髪銀瞳の悪魔。フィロメーノだ。フィロメーノはもう一つの色のある存在を見つめる。二メートルもある巨大な体を持つ植物。胴体は大きく膨れ上がって破裂寸前の風船の様。そこから延びる無数の蔦。蔦から生成された深緑色の葉。


 胴体の丁度真ん中辺りに蔦に吊るされた少女がいる。



「……」



 突然自身の身に起きた異変に理解が追い付かず、心底怯え切った表情で蔦から逃れ様と暴れ続けていた。冷たい眼差しで見上げるフィロメーノの存在に気付いたのか、必死に助けてと少女は叫んだ。



「助けて下さいっ!!この気持ち悪いのに、何でか捕まっててっ」

「ふふ……気持ち悪い、か。可哀想に。その植物は、ある意味では()()()()()でもあるんだよ?」

「な、何を言って!!――ひっ」



 意味の分からない事を言うフィロメーノに少女が叫ぼうとするも、少女を捕らえる蔦が急に動き出した。巨体の真ん中が大きく口開いた。声にするのも気持ち悪い光景がそこには広がっていた。顔を真っ青にしている少女は、徐々に口へ近付いているのを察知して、先程よりも更に激しく抵抗し、救助を求める声を上げた。


 だが、フィロメーノが助ける為に動き出す事はない。静かに、冷たい銀瞳で見上げるだけ。



「嫌だっ、嫌嫌ぁあああああああ!!ねえお願い助けて!!殺される!!!」



 足が口の中に入った。表し様がない気持ち悪さが少女の感覚を襲う。足が入ってしまったからには、もう中からは出られない。


 殺されると叫んだ少女へ場違いな程綺麗な微笑を浮かべ見せた。



「安心しなさい。君は死なない。その植物は変わった奴でね、気に入った相手を見つけるとお腹の中に入れて隠すんだ。永遠にね」

「ど、どういう意味……っ」

「そう怖がらないで。そいつの中は特殊でね。体内に入れた獲物が老化しない様に、獲物の体内時計を止まらせる力を持つ。食事も心配いらないよ。――ただ、永遠に()()()()だけ」

「!!」



 最後に告げられた台詞に果てのない絶望を抱いた。少女の体は既に腰辺りまで沈んでいる。


 目の前の男が自分を助ける気がないのは、もう何度も助けてと請うても行動にしないのが物語っていた。


「ストップ」とフィロメーノが指を鳴らした。少女を飲み込む動きが止まった。助かる?――一抹の希望を抱いた少女の黒い瞳に光が戻り始めた。……が、すぐに地獄の底に叩き落とされる。


 フィロメーノは少女の心臓に手を当てた。



「良かった。ちゃんと回復してる。これなら、問題ない」

「一体……なにを……」

「うん?ああ。君の役目はもう終わったんだ。今までありがとう。僕の可愛いアフィーリアを守ってくれて」

「は……?」



 アフィーリア?


 その名前を少女は知っている。目が覚めるまでにプレイしていた乙女ゲームに登場するラスボス的立ち位置の悪役にして、主人公の姉。ゲームの世界のキャラを守ってくれてありがとうとは、どういう意味なのか。ねえ、と発しようとした声は、絶叫になった。



「ひ、ぎゃあああああああああああああああああ!!!」



 フィロメーノの手が少女の体内に入り込んだ。想像を絶する激痛に喉が潰れん勢いで少女は絶叫を上げた。苦痛を与えたい訳ではないが、フィロメーノの手はゆっくりゆっくりと奥へ進む。早く進めると余計な負荷を負わせてしまう。二の腕辺りまで入った所でフィロメーノの手は、中で目的の物を探した。



「ひぐう、ああああっ!!」

「煩いなあ。もう少しの辛抱だから我慢して」



 絶え間なく叫ぶ少女の声が煩くて美しい顔を歪めた。同時に探していた物を手が捕らえた。



「さあ……おいでアフィーリア」



 ――可愛くて哀れな僕のアフィーリア



 ゆっくりと手を引き戻していく。引き抜かれた手には眩い光を放つ球体が掴まれていた。


 少女の正体はアフィーリアの魂を隠したあの人間の赤ん坊。十八年経過し、そろそろアフィーリアの魂も癒されただろうと一度確かめに行った。そう、丁度少女がゲームを一休みして昼寝を始めた辺り。気配も音もなく侵入したフィロメーノは、ゆっくりと上下する胸の間に手を置いた。人間の少女の魂がある更に奥に仕舞ったアフィーリアの魂は、“アレ”に食われ消滅寸前だったのにこの十八年で随分と回復していた。これなら、戻して問題ない。


 ただ、少女とアフィーリアの魂がちょっとだけ引っ付いてしまっていた。まあ、とその時のフィロメーノはクスリと笑んだ。


 フィロメーノがパチンと指を鳴らす。ベッドの上で眠る少女の下に魔術式を展開した。深緑色をした魔術式から多数の蔦が出現。少女を取り込もうと華奢な体に巻き付くとあっという間に少女を魔術式の中へ沈めてしまった。



『これでよし。後はあの子からアフィーリアの魂を抜き取り、まだ取り返しが出来る年齢の頃に戻してあげよう。どうしようかな。天界の姫が死んでしまう前少し前くらいに戻してあげよう。そこでまた姫が死ぬか、それとも生き残るか。――全ては君次第だ、アフィーリア』



 これからが愉しみと肩を震わせて笑いを堪えるフィロメーノの手がゲーム機に触れた。側に置かれてあるパッケージを掴み、まじまじと見つめた。



 少女が昼寝をする前までプレイしていた乙女ゲーム。タイトルは『君に捧げる愛憎の花』。フィロメーノはぐしゃりと握り潰し、炎の魔術で消し去った。



『まさか、僕が今まで見てきたアイリーンと魔王候補達の話をしたら、こんな面白い物を作ってくれるなんてね。……だから()()()()()()()のは止められない。楽しいからね。魔界や天界だけじゃ、僕の欲求は収まらない。人間界が無数にあるのを知るのは――魔界に知る者はいない。天界にもいない。知るのは僕だけ。ふふ……』



 昏い表情で微笑するフィロメーノは正に悪魔。遥か昔から生き続けるただ一人の存在。彼の深淵(こころ)を覗き、無事でいられた者は誰もいない。




 そして――――



「ああ……綺麗だよ。とっても。君の魂はこんなにも眩しくて綺麗だったんだね。……うん?」



 ふと、アフィーリアの魂に余計な不純物が付着しているのに気付く。抜き取ったのはアフィーリアの魂なのに、脱け殻となってしまった少女の魂の一部。取り除こうとするも、アフィーリアの魂の中に入ってしまった。暫し見つめ、異変が起きないなら些細な事と判断して放置する事にした。


 腰辺りまで沈んでいた少女の体がまた沈み始めた。



「じゃあ、君とはお別れだ。安心しなさい。その植物は非常に愛情深い。生気を最後まで搾り取られても君の死体を丁重に扱ってくれる」



 死んだその時、君の魂は狭間に流され、永劫輪廻の輪に入れず永遠に行く宛もなくさ迷うけどね。とは告げずに。



「…………て……、……け……て……」



 フィロメーノは真っ白な空間を出る間際、消える寸前の少女の助けを求める声を聞いた気がした。興味の欠片もない対象に足を止める優しさはこの男にはない。安息所は安息所の役割を全うしたらいい。


 フィロメーノが消え去ると、少女の体は完全に植物に飲み込まれた。


 ――これから少女を待ち受けるのは、人外に強制的な愛を受け続ける行為だけであった。




 ○●○●○●



 ――その後、アフィーリアが六歳の頃の時代に戻り、丁度アイリーンに木登りを教えるとかで木に登るも足を滑らせて地面に落ち、頭を強打して寝込んでいる間に保護したアフィーリアの魂を今のアフィーリアの魂と融合させた。元が本人なので拒絶反応は出ないと思いながら、心配で一時間は様子を見た。何事もなく眠るアフィーリアに安堵し、この場を去った。


 但し、誤算が生じた。あの少女の魂の一部はしっかりとアフィーリアの中に取り込まれていて、目が覚めると自分はアフィーリアではなく、昼寝をしていた卒業間近の女子高生だと認識していた。


 頭を抱えたくなったものの、あの人間界の知り合いが作った乙女ゲームの世界だと思い込み、未来の残酷な死を回避するべく奔走しだした。



 “ある意味では良かったのかもね。元の記憶より、別人と認識した方がアフィーリアの心の負担も減る。でなければ、自分をあんな方法で殺した彼等と普通に接する事など無理だ”



 ただ、と真っ白なタヌキになっているフィロメーノは思う。



 “シルヴァ家の末っ子には、他の子達とちょっと違ったな。一度、恋人同士になったから、その時の感情がアフィーリアの魂に染み付いてしまったのかな”



 ユーリが嫉妬をする程、アフィーリアはベルベットを頼った。嫉妬深く、元からアフィーリアが好きなアシェリーは予想の範囲内。再会して力強く抱き締めていた。ネフィに呑気にザッハトルテを食べていたと突っ込まれるが、内心は酷く焦っていた。アフィーリアがいない事に。



「きゅう」



 ベッドから身軽に降りた。てくてくと扉まで歩いて行き、開ける動作もせずそのまますり抜けた。隠密の魔術を使用して歩くフィロメーノは、“エデンの森”にてタヌキに化けてアフィーリアに会いに行った二人のいる部屋へと向かった。



 “それにしても、何であの二人はタヌキになっていたの?”





読んでいただきありがとうございます。

アフィーリアと女子高生だった少女の回でした。フィロメーノがただの最低悪魔になった回でもありますね。

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