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44話 雲のような人

 


「うわあ……」



 感動した声を漏らしたのは誰か。


 今日だけの特別な紫色の光を発する満月に照らされた花畑。薔薇に似た花々が広大に咲き誇っていた。花から浮かび上がる淡い紫の粒子。これは、月の魔力を吸収し発光しているのだ。数百年に一度咲く花に魅了され、腕に抱くリボンちゃんを下ろしたアフィーリアはゆっくりと花畑へと足を踏み入れた。何時もなら注意をするユーリも花に魅了されてアフィーリアに気付かない。想像以上の光景にベルベットも父である公爵の足下でじっと花を――“月の涙(ルナ・ティア)”を――見つめていた。



「きゅう」



 リボンがフラフラと奥へ行くアフィーリアを引き止める様に鳴くも、ある光景に目を、意識を奪われているアフィーリアには届かなかった。


 きっと、アフィーリアだけが見えている。リボンちゃんに見えていたらその光景に目を丸くするから。


 アフィーリアはフラフラと、でもしっかりと歩いてその光景に近付いた。


 “月の涙”をくるくる回す銀色の髪の長身の男性がそこにはいた。眉も睫毛も髪と同じ銀色。そして、銀で覆われた睫毛に縁取られた瞳もまた銀色。紫の色を発する月光を浴び、悪魔でありながら神秘的な雰囲気を漂わせていた。銀瞳がアフィーリアを視界に捉えた。“月の涙”を回すのを止め、真正面からアフィーリアを見下ろした。


 不思議と威圧感を感じない。会った事もない人なのに初対面の感じがしなかった。


 ――知ってる……私……この人を知ってる……


 誰か思い出せない。でも、知っている。誰だったか、思い出そうと顔を歪めたアフィーリアに初めて男性が声を発した。



「止めなさい」

「!」

「無理に()()()()()()()()()。君には、一切必要のない記憶(もの)だ」

「貴方は一体……」



 髪も眉も睫毛も瞳も銀色の男性。絶世の美貌と謳ってもまだ足りない。月も恥じらうその美しさにアフィーリアは見惚れてしまう。彼と同等の男性は知っている。父であり、魔王でもあるロゼ。そう、男性の美貌はロゼと何処か似ていた。柔らかな微笑は叔父のリエルと似ていた。色は二人とは全然似ていないのに。そう思ってしまうのは何故か。答えを男性は持っている気がするとアフィーリアはそのまま訊ねた。すると男性は、くすくすと笑った後膝を折ってアフィーリアと目線を合わせた。



「知りたい?」

「うん。知りたい」

「そう。でも、教えない」

「どうして?」

「僕の話をすると君のパパは機嫌を悪くするよ。彼にとっての僕は消し去りたい過去の遺物。姿を見せただけで殺しに来る」

「喧嘩したの?父様と」

「喧嘩か。そうだね、ある意味では喧嘩だね。あの時うっかり殺しそうになった僕はそれ以来とっても嫌われているからね」



 物騒な台詞を丸で面白い本を読んだ子供が親に感想を言う様に紡ぐ男性。殺しそうになった相手が誰か問えない。アフィーリアには、それが誰かどうしてか分かってしまったから。きっと、男性の言う相手はロゼなのだろう。一体、どんな関係なのか。


「あ」と声を漏らしたアフィーリアは、花を採取し始めたユーリ達に気付いた。あれはいい、これは駄目と選別するベルベットは採取した花をシルヴァ公爵に渡していき、二匹のタヌキとユーリはアフィーリアを探しているのかキョロキョロと辺りを見渡している。


 奥の方へ歩いて行ったとは言え、十分目に見える範囲にいる。彼等の目にアフィーリアや男性が映らないのは、姿や気配を消す結界を男性が見えないレベルで展開している為。



「ふふ、戻る?」

「……貴方の事を知りたい」

「言ったでしょう。教えないって」

「じゃあ、名前くらい教えて。それも駄目なの?」

「名前ねえ……教えてもいいけど誰にも言っちゃいけないよ?君のパパにも、ママにも、勿論妹や友達にも。誰一人教えてはいけない。守れる?」

「う、うーん」



 心の中で言った言葉をそのまま口にしてしまうアフィーリアがうっかり漏らさない保証はない。それ処、口にする可能性が遥かに高い。考えた後、アフィーリアは妥協案を出した。



「じゃあ、私が貴方の名前を決める!」

「僕の名前を?」

「うん。それなら、知られたって困らないでしょう?」

「そうだね。なら、どんな名前にしてくれるの?」

「そうだなあ……」



 男性を見つめ、顎に手を当てて考える。ある名前を思い付いた。



「フィロメーノ!」

「……何だか、女性のような名前だね」

「駄目?」

「いや、いいよ。君の前に現れる僕はフィロメーノと名乗ろう。だから君も僕の話をしたいならフィロメーノと説明する事。そして、僕の見た目の話をしてはいけないよ?」

「とても綺麗なのに?」

「きっと、特徴を聞いただけで僕の正体を分かる奴は城には何人もいるからね。約束出来る?」

「うん」



 アフィーリアは左手の小指を差し出した。うん?と首を傾げるフィロメーノに指切りをしようと告げた。約束を破ったら針を千本飲まないといけない。面白そうだねと笑うフィロメーノは右の小指を差し出し、小さくて細いアフィーリアの小指と絡めた。これで二人の秘密の約束は交わされた。


 指を離すとフィロメーノは立ち上がった。くるくると回していた“月の涙”をアフィーリアに差し出した。



「あげる」

「ありがとう」



 受け取って初めて知った。薔薇に似た花には刺がない。なので持ちやすい。ベルベットが素手で簡単に採取出来る訳だと納得した。



「じゃあ、お別れだ」

「また会える?」

「ふふ。君に会いたくなったら会いに来るよ。アフィーリア」



 アフィーリアと名乗った覚えはないのにフィロメーノは名前を知っていた。魔王の娘なのだから、顔は知られてなくても名前を知らない者は少なくとも魔界の住民にはいない。よしよしと頭を撫で体を浮かばせた。ゆっくりと上昇していくフィロメーノは最後にこう告げた。



「そうだ。くれぐれも、コーデリアに会ってはいけないよ」

「コーデリア様?コーデリア様は半年前に処刑されたよ?」

「いいや。生きている。ノワール家の秘蔵っ子が遊び場に隠して色々と好き勝手して楽しんでいる。いい?絶対にコーデリアには会ってはいけない」



 真剣な表情で釘を刺すフィロメーノに疑問を抱きながらも頷いた。返答に満足したフィロメーノは柔らかな微笑を浮かべて姿を消した。



「……」



 ――よく分からない人。悪い人じゃないのは感覚だけど分かる



 初対面の筈なのに初めて会った気がしない。また思い出そうとするも最初にフィロメーノに言われた言葉を思い出して止めた。ふとした時に思い出すかもしれない。


 アフィーリアは貰った“月の涙”を見下ろした。以前、ベルベットが特殊な花の蜜を抽出するには特殊な術式が刻まれた道具と錬金術を使用すると言っていた。


 ベルベットはきっとそれが出来る。シルヴァ公爵も出来そうだ。アフィーリアは皆の所へ戻ろうと後ろを向いて驚いた。足下にポンタくんがいつのまにかいた。この子はアフィーリアが嫌いなのか、相変わらず睨むような表情で見上げていた。



「あれ?ポンタくんいたの?」



 そうと気付かないアフィーリアには、単に元からそういう顔なのだと判断される。しゃがんで頭を撫でようと手を伸ばし、手触り抜群の頭を撫でらせてくれた。ポンタくんを撫で撫でしつつ、貰った花を見やった。



「これ、ユーリに城に戻ったらアイリーンに渡してもらおう」

「きゅう?」

「お城に帰るかはまだはっきりと決めてないけど、ちゃんと話したら父様も分かってくれるかな?」

「……」



 ポンタくんは何も言わない。黙ってアフィーリアを見つめている。タヌキに反応を求めていないアフィーリアは立ち上がり、戻ろうとポンタくんを連れてせっせと花を採取している皆の所へ歩き始めた。


 ……時だった。


 突如周囲が暗くなった。雲が満月を覆ったのかと思われたが違う。一斉に空を見上げた一行は言葉を失った。上空にいた存在を目にして。外れルートの主よりも更に異形の魔物が“月の涙”が咲き誇る花畑にいる獲物を唸り声を上げて視界に捕らえそして――。



「うわ!?」



 一気に急下降した。アフィーリアはその場から空間魔術でベルベット達の所へ飛ばされた。ポンタくんも。足元を崩し尻餅をついたアフィーリアは自分がいた場所を見た。禍々しい黒い魔力を発する異形の魔物をシルヴァ公爵が言い当てた。



「ふむ……こいつはワイバーンか。それも、月の魔力にやられているな」






読んでいただきありがとうございます!


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