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41話 可愛い二匹

 


 “月の涙(ルナ・ティア)”探し決行の深夜――。


 こっそりと部屋を抜け出したアフィーリアとベルベットは、シルヴァ公爵と予め決めていた待ち合わせ場所へと行った。道中、今日だけの特別な満月にアフィーリアは足を止めた。



「綺麗……」



 黄金に輝く満月が、今日だけは紫色になっていた。“月の花”を咲かせる特別な月。それは、今日この日しか起こらない。



「行こう。フィー」

「うん」



 ベルベットに促されてアフィーリアは走り出した。


 待ち合わせ場所の“エデンの森”の入口。以前、誤って外れルートに入った冒険者が主に喰われ、更にここアンデルの村まで逃げたせいで主が追って騒ぎとなった。付近には、既にシルヴァ公爵がいた。



「時間通り来たな二人とも」

「約束だからね」

「後は、ユーリが来るのを待つだけだね」

「ホントに連れて行くの?」

「え」

「あんな、城で甘やかされて育った坊っちゃんに過酷な“月の涙”探しが出来るの?」

「坊っちゃんはベルベットも同じじゃない」

「おれは慣れてるからいいの。よく、一人で色んなとこに行くから」



 父親が冒険家なだけに息子のベルベットにも、その血は濃く反映されているらしく、四歳位から一人で旅をするようになったのだとか。ただ、過保護なベルベットの母アーデルハイトがそれを快く思わず。最近は、使用人達にベルベットを見張らせていたとか。



「ベティ。アーデルハイトはお前を心配しているだけだ。あまり、悪く思わないであげてくれ」

「子供はおれだけじゃないでしょう?後六人もいるんだよ」

「人数は関係ない。皆、アーデルハイトが産んだ子達。まあ、ベティを溺愛する理由は分からなくもない。ベティは初めてノワールの血を濃く受け継いだ子だからな」



 ベルベットの上の六人は、当然の話シルヴァ公爵とアーデルハイトの子供だが全員がシルヴァ公爵譲りの銀髪だった。最後に生まれたベルベットだけが、ノワール家特有の黒髪を受け継いだのだ。更に、先代ノワール公爵と同じ紫色の瞳に癖のある髪質がファザコン気味でブラコン気味なアーデルハイトの庇護欲を爆発させた。兄姉仲は決して悪くない。ただ、アーデルハイトからの溺愛振りに自由を愛する兄姉達からは些か同情されている。自由を愛する父親譲りの性質は、子供達全員に引き継がれている為に自由気儘なのが多い。次期当主でもある長男も、当主としての心構えを学んでくると何故か人間の学校へ通っている。絶対に当主云々は言い訳でしかなく、単に人間界で人間の生活をエンジョイしたいだけ。他の子供達も皆似た様なもの。末っ子でまだ子供のベルベットだけが、シルヴァ公爵邸で暮らしている。



「大事にされてるね、ベルベットは」

「それはアフィーリア様もです。城の様子が気になって顔を出したら、城内は大変な事だらけでしたよ」

「……」



 城の様子……。今のアフィーリアにしたら、耳の痛い話である。直談判しても頑なに首を縦に振らない魔王(ちちおや)が無理なら、自分でどうにか外へ出ないととずっと考えていた。コーデリアの妹クリスタが手を貸してくれたお陰で夢の外の生活を満喫している。が、城の様子が気にならない訳がない。



「ねえ、おれは城の事は詳しくないからよく知らないけど、どう大変なの?」



 ベルベットがシルヴァ公爵に訊ねた。「そうだな」と数秒間を置いてシルヴァ公爵は話し出した。



「まず、陛下の機嫌が最高潮に悪い」

「うっ」



 愛娘のアフィーリアがいなくなったのだ。親馬鹿で変なスイッチが入ると危険な超愛娘大好きなあの魔王が怒らない筈がない。魔王の娘と言えど、アフィーリアはまだ子供。加えて、一人で遠くへ行く事も出来るとは思われていない。


 なので。



「アフィーリア様は、誰かの力を借りて城から脱走したと思われている」

「誘拐されたとは思ってないの?」

「最初は陛下もそう考えられていたが、バレれば実行犯だけでなく、一族もろとも消滅させる陛下の逆鱗に触れる愚行は誰もやらん。それにだ、アフィーリア様がいなくなれば、城の空気が最悪になると皆知っているからな。その様な不埒な考えを持つ輩は直ぐ様見つかる。後は、アフィーリア様が外に出たがっている事は周知の事実。姫の我儘を聞き入れた協力者がいる事は掴んでいる。と、言っておられたよ」

「……」



 アフィーリアの顔色が真っ青になる。その協力者はクリスタ。バレれば、きっとクリスタはロゼに殺される。アフィーリアが止めてもロゼの怒りに触れたのだから。今更になって、自分の我儘がどれだけ危険な事なのかを痛感させられた。



「フィー?」



 ベルベットが顔色が悪いアフィーリアを心配する。


 何でもないとアフィーリアは顔を逸らすも最悪の予想をしてしまう。アフィーリアの様子を察したシルヴァ公爵は金色の頭に手を置いた。



「まあ、バレなければ良いだけの話だ。魔王に仕える公爵がこう言うのもアレだがね」

「シルヴァ公爵……」

「おや、来たようだね」

「え」



 シルヴァ公爵が後ろを見て声を発したのと同時にアフィーリアも振り返った。見ると、昼間と同じ登場をしたクリスタとユーリがいた。裂けた空間の向こう側は、相変わらずユーリの部屋。昼間の平民の服ではなく、動きやすい服装ながらも魔王の息子に相応しい服装だ。


 ん?とアフィーリアだけでなく、ベルベットやシルヴァ公爵も目を丸くした。クリスタが腕に抱えるある動物二匹を見て。



「ねえ、それなに?」

「見た通りよ」

「分からないから聞いてるの」

「知らないの?タヌキよ」

「タヌキは知ってるよ。おれが聞きたいのは、なんでタヌキを抱えてるのって話」



 そう。何故かクリスタは、腕に二匹のタヌキを抱えていた。二匹とも毛色は金色。青い瞳のタヌキの大きくてふわふわな尻尾には、青いリボンが結ばれている。もう一匹はアフィーリアと同じ瞳の色をしている。



「うわあ!可愛い!ねえ、クリスタが飼ってるの?」



 触りたそうなアフィーリアがそわそわしながらもクリスタを見上げた。すると、青いリボンを尻尾に結んだタヌキが急に暴れ出した。クリスタはあっさりと二匹を地面に下ろした。自由となった青いリボンを尻尾に結んだタヌキがアフィーリアに飛び付いた。慌てて抱き止めたアフィーリアは、嬉しそうに顔を服に擦り付けるタヌキに頬を緩めた。



「人馴れしてるねえ!うわ!?」



 よしよしと頭を撫でてやれば、もう一匹のタヌキもアフィーリアに飛び付いた。但し、表情が険しく見えるのは何故か。



「な、なに怒ってるの?」

「か、構ってって行動よ。この子、攻撃的だから」

「そうなんだ」



 飼い主のクリスタがそう言うのならそうなのだろう。両手が塞がったので手で撫でれない代わりに二匹の頭を頬擦りし始めた。青いリボンを尻尾に結んだタヌキは嬉しそうだが、アフィーリアと同じ瞳のタヌキは若干……否、かなり不満そうだ。それに気付かないアフィーリアは頬擦りを続ける。


「ねえ」とユーリはメイド服のスカートを引っ張った。



「あんなタヌキ飼ってた?」

「あたしの自由でしょ。良いじゃない。可愛いし」

「可愛いけど、なんでタヌキ?ネコやイヌじゃ駄目なの?」

「タヌキの方が好きだからよ。悪い?」

「悪くはないけど……」

「なら、この話はお仕舞い」



 まだ、何か言いたげなユーリの視線をスルー。難しい顔をして二匹のタヌキを見つめるシルヴァ公爵は、可愛いタヌキに頬擦りを続行中のアフィーリアに呆れた視線を投げるクリスタに小声で話し掛けた。



「やれやれ。あれは何かね?」

「タヌキよ」

「見れば分かる。私が聞きたいのは」

「分かってるわよ」



 シルヴァ公爵が何を言いたいかは分かる。だが、仕方なかったのだ。


 最高位の貴族の当主に軽い口を叩けるのもクリスタが魔界の重役達の信頼が大きいから。公爵家の令嬢だからじゃない、一から築いた信頼関係によって生まれたもの。その信頼関係を崩しかねない行為をしたクリスタには、従うしかなかった。


 それに後悔をしているかと問われれば、答えはノー。



「なら、質問を変えよう。タヌキなのは、君の提案か?」

「違うわ。リボンの方よ」

「……だと思った」



 リボンの方とは、青いリボンを尻尾に結んだタヌキを指す。


 番と思われるタヌキは、頬擦りを繰り返すアフィーリアの頬にタヌキパンチを食らわせた。柔らかい肉球が少女の頬に当たった。が、タヌキのパンチなので痛くない。



「構い過ぎるから、嫌がってるんだよ」

「むう。……はあ、しょうがないか。下ろすよ」



 ユーリの言い分に納得し、渋々二匹のタヌキを下ろした。


 地面に立ったタヌキの内、アフィーリアと同じ瞳の色を持つタヌキはシルヴァ公爵の所へ行った。近付くと長身の体を簡単に登り肩に乗った。



「おやおや。私の所へ来てしまったね」

「良かったね。似合ってるよ。父上」

「なに!?本当か?……ううむ。ベティがそう言うなら、この件が終わったらタヌキを飼うのも悪くない」

「親馬鹿」



 何故か、魔界の高位貴族の親は我が子大好き過ぎる親馬鹿しかいない。その頂点が魔界の王でもあるロゼ。彼の愛娘達に対する愛情は計り知れない。脱走しては捕獲されているアフィーリアが一番ロゼの深い愛情に触れている。が、これがシェリーになるとその深さは深海と同然。知れば果てのない愛情に戦慄するだろう。


 何か言いたげな眼差しをクリスタに向けるタヌキ。視線に気付いたクリスタが肩を竦めた。



「言っとくけど、文句はもう一匹に言いなさい。あたしじゃないわ」

「……」

「分かってるって?なら、そんな顔しないでくれる」

「……」

「何度も謝ったじゃない。あたしのせいで混乱させたのは悪かったと思ってるわ。だから、タヌキにしたのよ」

「……」

「ネコやイヌじゃありきたりでしょ」

「……」



 何も喋らないタヌキと話続けるクリスタ。第三者から見たらクリスタが一人で喋っている様に見えるが実際はちゃんと会話をしている。タヌキと。ただ、タヌキの方は思念の方で言葉を発しているので声が聞こえるのはクリスタだけ。シルヴァ公爵には聞こえないが、クリスタの話す内容からしてタヌキとどんな会話をしているかはある程度予想出来る。



「さて、子供達」



 そろそろ時間だとシルヴァ公爵は、鋭い瞳を森の入り口へ向けるのであった――。





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