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39話 再会2

 


 お店のお手伝いもお休みだから決行の夜中まで仕事がない。ベルベットのせいで朝から余計な体力を使って疲れた。朝御飯のフレンチトーストがすごく美味しく感じられた。メグちゃんは今朝から風邪を引いているのが発覚し、村のお医者さんの診察を受けている真っ只中。私とベルベットと遊ぶと言って聞かないメグちゃんを落ち着かせ、具合が良くなったら絶対に遊ぼうと約束して私とベルベットは村の中を行く当てもなく散策する。


 天気は、雲一つない快晴。気持ちの良い青空を見上げた私はベルベットに丘の上へ行こうと提案した。快く了承してくれたベルベットに手を握られ、いざ丘の上を目指した時だった。


 何もない空中が突然縦に裂かれた。一直線に裂かれたかと思いきや、今度は開く様に左右に広がった。咄嗟にベルベットが私を庇うように前へ出た。


 空間の奥の景色に見覚えがあった。そして、更に見覚えのあるのが出てきた。


 青みがかった銀髪に何故か庶民の服を着たユーリが……私が家出をする前に最低な言葉を吐いて傷付けてしまった相手。


 どど、どうして?どうしてユーリが!?


 驚愕のあまり固まった私に追い討ちがかかった。なんと、当時私を城からアンデルの森へ逃がした侍女まで一緒に出てきた。


 ちょ、ちょっと、ほんとどうなってるの!?


 ベルベットの腕を掴む手に力が入ってしまう。


 物珍しげに周囲を見回すユーリに我慢ならず、遂に声が出てしまった。



「な、なな、なんでえ!?なんでいるの!?」

「ああ、やっぱり知り合いなんだ。さっきからずっと凝視してるからそんな気はしてたけど」



 私の声に漸く気付いたユーリが……あれ?ちょっと、痩せてる?最後に会った時より、何故か痩せて見える。アシェリーやベルベットとは違う紫水晶の瞳が大きく瞠目した。



「アフィーリア……」



 呆然と私の名前を呟いたユーリの隣、紫色の髪の侍女は「……やっぱり、どう見ても末っ子じゃない」と額に手を当てて遠い目をする。兄弟の多い末っ子でも、公爵家となると顔が知られているんだね。



「フィー?大丈夫?」

「あ……うん……」



 ツンツン。人差し指で頬を突くベルベットに乾いた笑みを向けた。笑えない。全然笑えない。私を逃がしてくれた侍女がどうしてユーリといるの?ユーリを連れたのは?これって家出生活強制終了って事だよね?


 色々と質問したいし、早く城に戻ってと訴えたいのに衝撃が強くて声が出てくれない。



「ねえ。道のど真ん中で突っ立っているのは邪魔になるから場所を変えようよ」



 ベルベットの提案は一理あった。村人がチラチラとこっちを気にしてる。……メイド服を着た侍女がいたら、明らかに貴族の子供だと丸分かりだもんね。


 当初の予定通り、丘の上へと移動した。大きな木の下で私とベルベットは隣同士、ユーリは目の前、侍女さんは私達の丁度中間に座った。距離を取って。気まずくてベルベットにしがみついたら、物凄い形相をしたユーリに睨まれる。なんで?



「大丈夫だよ、フィー」



 不安を取り除こうとベルベットに頭を撫でられる。不思議と恐怖心がなくなる。ベルベットに頭を撫でられるとこうなるのは変な感じだけど悪い気はしない。



「さて」と侍女さんがこほんと咳払いをした。



「どう?家出ライフは?お姫様の扱いから、いきなり庶民の扱いは中々大変でしょう?」

「そ、そうでもないよ。下宿先の女将さんやご主人はとてもいい人だし、お店のお手伝いもさせてもらって大変だけど充実してるよ」

「お手伝い?」



 ユーリが疑問を挟んだ。



「昼は食堂、夜は酒場なお店だよ。名前はラングドン。村の人だけじゃなくて、組合(ギルド)から来る人もいて毎日大繁盛なんだよ」

「フィーはよく、組合の人にお見合いを勧められてるよね」

「お、お見合い!?」

「私子供だけどね」

「子供の内から婚約をするのは普通だよ。特に貴族になると顕著だ」



 そう言われても、身近な相手で婚約者のいる人がいない。どうしてか、お見合いの話題が出るなり声を上げて顔を引き攣らせるユーリにも婚約者はいない。



「あ、アフィーリア。アフィーリアは、そのお見合いを受けたの?」

「受けないよ。身分を明かそうにも、家出してるから、魔王の娘だなんて言えないし」

「言わなくて正解だよ。…………父上がいなくて良かった」

「?」



 最後、何と言ったか聞こえなかった。うっすらと青いユーリを心配すると「ねえ」と侍女さんが会話に入ってきた。



「あたしも混ざっても良いかしら?」

「あ、はい」

「ありがとう。最初、あたしが何処へ行きたいと聞いたとき、東の果てを選んだじゃない?ずっと、城で生活してたあんたがこの地を選んだのはどうして?」



 きっと、侍女さんはこれが聞きたかったに違いない。私は正直に話した。お城の書庫室にあった本に“月の涙(ルナ・ティア)”という特別な花の存在を知り、どうしても欲しくなったから城から出たかった事を。うんうん頷いた侍女さんにユーリが“月の涙”が何か訊く。



「“月の涙”っていうのは、数百年に一度、月の魔力の力を借りて咲く花よ。普段からも満月の光を浴びて非常にゆっくりと成長する花だけど、その数百月年に一度だけある現象によって花が開くの」

「ある現象?」

「それは今日起きるよ」



 途中、間に割り入ったベルベットが説明役を買って出るのかと思いきや。



「夜中になったらのお楽しみだよ。ね?フィー」

「へ?あ、え、うん……」

「夜中まで待ってられない。アフィーリア。今すぐに城に戻って来い。アフィーリアがいなくなっただけで皆…………あ」

「ユーリ?」

「あー…………。……そもそも、アフィーリアの家出の原因って、手を貸したこの人だった」



 先程までの剣幕はどこへ。


 アンデルの村へ来れたのは、侍女さんのお陰。侍女さんがいなければ私はアンデルの村へ足を踏み入れてない。ベルベットとも出会えなかった。若干非難の色を帯びた紫水晶が侍女さんを見上げる。涼しい顔で私達のやり取りを眺めている彼女が「ふん」と鼻を鳴らした。



「いいじゃない。悪魔も息抜きは必要よ」

「それ以前の問題だよ……!」

「アフィーリアお嬢様が戻るか戻らないかは、その“月の涙”を見つけてからでも遅くはないわ。所で、末っ子に教えてほしいのだけど」

「末っ子じゃない。ベルベット」

「知ってるわよ。嫌がらせよ」



 ……侍女さん。嫌がらせって、そんな堂々と言い放つものだっけ?



「今日の夜中に“月の涙”が咲くって話振りだったけど、これについて、あの放浪当主は知ってるの?」



 放浪当主?誰?


 ユーリも同じ疑問を抱いているのか、じっと侍女さんとベルベットを見守る。



「変な呼び方。間違いではないけどね。侍女さんの質問に答えるのなら、答えはイエス、だよ。“月の涙”は今日の夜中に咲く。魔界を旅してる父上が知らない筈はないよ」

「でしょうね。あの変人」

「そうだね。でも、おれは父上と鉢会わす気はこれっぽっちもないよ。面倒だからね」

「面倒?父親と会うのが面倒なの?」

「そう。面倒。おれ、七人兄弟の末っ子で四男で何の価値もないでしょう?普段は放置してるくせに顔を合わしたら鬱陶しい事この上ないの。貴族の長男以外の男ってそういう物だから仕方ないけどね」

「……」



 ユーリが暗い表情をして俯く。魔王の息子は双子。どちらにも惜しみ無い愛情をくれる父様。私やアイリーンにも。……ううん、私に対してだけ制限ありまくりなのは納得出来ない。自分が無価値だと平然だと語るベルベットの頬を今度は私が突いた。キョトンとして「なに?」と問うベルベット。



「そういう言い方あまり良くないよ」

「事実だよ。実際、おれは父上とは片手で数える程度しか会ってないしね。母上もぶっちゃけ、おれに興味なさげだし」



 父親にも母親にも放置されてるの?


 兄弟が多くても自分が生んだ子なのに?


 そんなのってないよ。


「ベル」ベットと名前を呼びたかったのだけど、視界に入った侍女さんがドン引きした面で私とベルベットを見ていた。正確には、私達の後ろだった。ユーリも釣られて見ると同じ面をした。私とベルベットは顔を見合わせ、同時に後ろを振り向いた。


 侍女さんとユーリがドン引きした理由がよく分かった。



「え……」



 長身で銀髪の男性が右腕で目元を覆って滝のような涙を流していた。簡潔に纏めると大泣きしていた。え?だ、誰?どうして泣いてるの?



「…………何やってんの」



 一人現実に戻ったベルベットが私には決して聞かせない冷めた声を男性へ放った。知り合い?と訊いたら頷かれた。



「べ、ベティ……!!ベティは私やアーデルハイトをその様に思っていたのか!!というか、そう思われていたのか私とアーデルハイトは……!!」



 アーデルハイトは確かベルベットのお母様の名前だ。


 もしかして……



「はあ……ホントにいたよ。父上」

「「!?」」



 父上!?やっぱり?やっぱり、大泣きしてる人ベルベットのお父様なの!?なら、滅多に屋敷に戻らない冒険家のシルヴァ公爵本人!?


 驚く私やユーリの隅。侍女さんがぼそりと……。



「やばい……」





読んでいただきありがとうございました!


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