4話 子供
次回は閑話になります
翌日。
魔王城お抱えの医者のお墨付きも貰い、まだ制限はあるが自由に動き回っていいと父様が許可をくれた。魔王の二週間分の仕事を熟したリエル叔父様は、私の回復を喜んでくれたが端正な顔には似合わない隈が目元に濃くあった。
すいませんでした……。
早速、ある部屋を目指して城内を歩く私の目の前を一人の侍女が塞いだ。
「お嬢様。御歩きになられる場合は一声掛けて下さいと申し上げましたよね?」
「うっ……せ、セリカ」
セリカ=スノー=ホワイト
ホワイト伯爵家の三女で私の専属侍女。ホワイトと言われる通りの髪、肌の白と対を成す黒い瞳の長身美女。肩を過ぎるか過ぎないか程度の白髪に傷みは見られない。肌もシミ一つすらない。ゲームでは確か、あまりの傲慢我儘振りのアフィーリアを内心嫌いながらも、王の命により嫌々ながらも付き従っていた。
制限の一つがセリカの護衛。また何時、何が起きるか分からないので暫くは一人でいない事を義務付けられた。基本セリカが同行し、母様や頼れる大人がいれば不必要。ただ、アイリーンとだけとなるとセリカの同行が必要になる。要は子供の一人、子供同士は駄目、ということなんだろう。
しかし。
「城内を歩くだけなら一人でも平気よ。セリカは自分の仕事をして」
「今の私の仕事は、お嬢様の身の安全を守る事です」
「変な場所には行かない。行ったらすぐに戻る」
「いいえ。お一人では行かせられません」
一人で行くにはどうしたらいい?
城に務める侍女だけあって、戦闘能力も高い。私ではまだ使えない魔法だって、彼女は簡単に使いこなせる。
ふと、セリカの向こう側から騎士二人の姿を捉えた。閃いた私はセリカのスカートを思い切り捲った。
「なっ」
白いレース付の下着が私やセリカ、セリカの向こう側にいた二人の騎士の目にしっかりと入った。慌ててスカートを抑えたセリカの隙を突く形で走り出した私は、見てはいけないものを見て慌てふためく騎士二人の間をすり抜け、目的地へと急いだ。
○●○●○●
「はあ……はあ……はあ……セリカ、ごめん」
いたのが三人とはいえ、他人の前でスカートを捲り上げ下着を見られるという屈辱を味わった彼女の仕返しが怖い。過ぎた事を後悔しても仕方ない。もしもの場合は父様にお願いをしよう。
ある部屋の前で息を整え、ノックをしようと手を上げた。ら、ぽふっと頭に誰かの手が乗った。
「お転婆も程々にしなさいよ。フィーちゃん」
「リエル叔父様!」
父様そっくりのお顔が困った様に眉を八の字に変えていた。漸く魔王の仕事から解放され、ふらふら城内を歩いていると床に座り込み泣いているセリカとどう慰めたらいいのか分からずあたふたとしている二人の騎士と遭遇。訳を聞いて、動けないセリカの代わりに私を探していたのだとか。…ほんと、ごめんなさい。
「彼女も王の命令に従っているだけなんだから、意地悪をしちゃいけない」
「でも、城内を歩くだけなら護衛はいらない。それ以前に、私に専属の人はいらない」
「どうして?アイリーンちゃんにはいるでしょ?」
自分が悪役アフィーリアになったと知った瞬間から決めている。将来、魔界を下り、人間界で暮らすと。その為には、先ずは他人とあまり関わらない事。特に攻略対象となる五人とは。可愛い妹アイリーンは別だ。あんな可愛い子に近寄れないのは悲しいしお姉ちゃん泣く。我儘で自分勝手な振る舞いをしていれば自ずと周りから他人はいなくなる。セリカのスカートを捲り、下着を見せつけたのもその為。
とにかくいらない、欲しくないと頑なな私に困ったねと苦笑するリエル叔父様。ぽんぽんと頭を撫でられても懐柔されないよ!
「やれやれ。所で、ユーリに用事があったのかい?」
私達がいるのはユーリの部屋の前。どんなに聞いても父様は教えてくれなさそうだったし、アイリーンは不真面目な私と違い家庭教師とお勉強中。母様も同席している。正直に目的を話すとリエル叔父様は難しい顔をした。
「魔族といえど、君はまだまだ子供だ。子供が聞いてもね」
「う……そこをなんとか。余計な事しちゃったのは分かってます。でも、あのままユーリが叩かれるのを黙って見過ごすのは…」
「うん。分かってるよ。ユーリを守ったんだよね。皆それは理解してる。ただ、君は魔王の娘なんだ。普通の子供じゃないのは、分かるね?」
「はい……」
平民でも貴族でもない。魔王の血族。謂わば、王族だ。王族の姫君に暴力を加えた。例えそれが実の息子を叩こうとして姫が庇ったとしても、暴力を振るった現実は変わらない。
ほんの一部分だけ教えてあげるとリエル叔父様は小さな声で私に告げた。
”コーデリアは処分された”――と。
予想が現実となっていた。
私はユーリを庇っただけ。
コーデリア様は息子に向けた暴力が私に当たってしまっただけ。
下を向いて、何も言えない私の頭を優しい手はずっと撫でてくれた。
「もう忘れなさい。あの双子ちゃんにしたら、母親が消えたという現実が残るけど、まともに母親らしい事を何一つしていない女だったからね。いなくなっても問題はない」
優しい顔をしていてもこの人も魔族。不必要と判断すれば一切の躊躇もなく切り捨てる。
「ああ、そうだ。ユーリは今部屋にはいないよ。『魔術師団』の休憩所でソラやアシェリー、ネフィといるよ。でも、もうすぐ昼食の時間になるからそれまでは部屋にいなさい。いいね?」
「はい……」
良い子、と最後の一撫でを貰った私は大人しく私室への道を歩き出した。彼の言った三人の名前を聞いた瞬間、早急に部屋に戻って対策を練らばと悟ったからだ。
「ソラ……アシェリー……ネフィ……ああ……そうだ、魔王候補達は全員私やアイリーンとは、子供の頃から会っていたんだった……」
また長い城内の廊下を歩いて自分の部屋へ戻った私は鍵を閉めた。急に誰かが入って来れない様に。
本棚に仕舞ってある無地のノートを取り出すと机に座り、自分が覚えているゲーム情報を羽ペンで走り書きした。
読んでいただきありがとうございました!




