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32話 家出ライフの危機と母の感は当たる


少しグロい表現がありますので苦手な方はご注意下さい。


 


 昼寝から目覚めた私とベルベットは、夜の酒場のお手伝いに店内を奔走していた。組合(ギルド)からの冒険者や仕事を終えた村人達で店内は大賑わい。リーシャさんから唐揚げ盛合せ二皿を三番テーブルと教えられたと同時に渡された。受け取った私はさっと三番テーブルにそれを持っていって置いた。そのテーブルには組合の屈強な肉体をしたおじさんが四人座ってる。



「おおっ!ありがとうなフィーちゃん!」

「フィーちゃんは何時見ても可愛いな!どうだ、わしの息子の嫁に!」

「馬鹿野郎!お前の息子三百は越えてるだろう!」

「そうだったそうだった!」



 賑やかに笑うおじさん達に釣られて他のお客さんも笑う。熱気とお酒の匂いがすごいけど不思議と嫌と思わない。フィーちゃん、と次は六番テーブルの細くて若いお兄さんに呼ばれた。



「こっちにも唐揚げ盛合せを三つちょうだい」

「はい!女将さーん!唐盛三つですー!」

「あいよ!」



 女将さんから厨房のマスターに伝わるだろう。伝票にさっと書く。で、また出来上がった料理を女将さんから受け取り運んでいく。


 ビールジョッキを二本。一番テーブルの女性二人組の所へ。



「お待たせしました!」

「ありがとう!フィーちゃんは働き者ね。フィーちゃんもベルちゃんも働き者だから助かるって女将さんが言ってたわ」

「えへへ……大した事はしてないですよ」

「大した事よ。子供の内からこんなに動ける子は少ないもの」



 お世辞でも誉められれば嬉しい。お姉さん達に誉められて鼻が伸びてると通りすがったベルベットに指摘されるが事実なので反論はしない。



「フィー!ベル!貴方達休憩しておいで。はい、これ持って」

「ありがとうございます。リーシャさん」



 リーシャさんはベルベットに二人分のオムライスを渡し、行こうとベルベットの後を着いていった。店前のベンチに座った。



「ふう、やっと休憩だねえ」

「疲れた?」

「ちょっとはね。ベルベットは?」

「おれは平気だよ。でも、今日もお客さん増えてるね」



 オムライスを一口食べてベルベットに訊ねた。



「ねえ、皆あの花を探してる訳だけど、簡単に見つかるの?」

「いいや。そもそも、最後に花が見つかったのはもう千年も前の話なんだ」

「そうなの?」

「うん。それからは見つかってない。咲いているのは咲いていると思うんだけど、場所がね」



 本には“エデンの森”の最奥に咲いているとしか書かれていなかった。その最奥というのが曲者らしく、最奥へ続く道は幾つもあり、一つの当たりを除き、他の道は全て凶悪な魔物の巣に直結しているのだとか。



「よっぽど運が良い奴じゃなきゃ生きて花を見つけられないのさ。それにね、仮に花を見つけても咲いていない場合もあるみたい」

「タイミングと運任せかあ」

「そう。だから、商人や貴族は自分で採りに行かずに組合(ギルド)を使うのさ。多額の金を積めばどんな危険な依頼も受けてくれるからね」



 村に来ている冒険者の人達の所属する組合があるのは主に魔王城のある街のみ。馬車を使用する人はいない。皆、組合が所持する特殊な瞬間移動(テレポート)を使用して目的地まで飛ぶのだとか。只、その組合に所属する人が一人でも行っていない場所には飛べないのだとか。そういう場合は自力で行かなければならない。


 大変なんだねえ。と他人事なのでどうでもいい情報は頭の片隅に置き、オムライスを一口パクリと食べた。リーシャさん特製のオムライスは何度食べても飽きない。



「美味しい~」

「そうだね。……うん……美味しい。ん……?」

「どうしたの?」

「何か聞こえない?」



 口を閉じ、耳を研ぎ澄ませば――……狼じゃない、もっと大きくて野太い獣の咆哮が夜に包まれる村に響いた。



「動物?」

「いや……魔物だよ。それも……やばい!」

「!?」



 ベルベットが叫んだのと同時に強い魔力を感じ取った私はオムライスのお皿をベンチに置いて地面に立った。何かが迫り来る音がどんどん近くなる。他の人達も気付いたのか、家や酒場から次々に人が出てきた。



「何々?どうしたの?」

「この足音は……かなりデカイぞ」



 足音……ってことは、ベルベットの言う通り魔物だよね。

「おい!!あれ!!」酒場でよく唐揚げ盛合せを食べてくれる冒険者のおじさんがある方向に向かって叫んだ。そこは、“エデンの森”へ繋がる道だ。私達はそこを注視した。

 すると、暗い影から一人の男性が出てきた。全身血塗れで片腕を無理矢理食い千切られた男性の登場に子供や若い女性達が一斉に悲鳴を上げた。すぐに女子供は建物の中に入れとお達しが回った。私とベルベットも例外じゃない。メグちゃんの面倒を見てもらっているおばさんに「あんた達もおいで!」と促されるも私とベルベットは断った。



「おれはいいよ。こう見えて強いんだよ?」

「私も」



 胸を張って言い放つと「ない胸張っても仕方ないでしょ」とベルベット。ない胸で悪かったわね!これから育つのよ!母様の遺伝子がちゃんと仕事をしてくれたらだけど……って、いや、絶対大きくなる。だって、本物のアフィーリアの胸大きかったもん。アイリーンより大きかったよ。うん。


 ――って、今それ所じゃない!


 行くよと駆け出したベルベットに続いて彼の後を追った。森から出てきた男性は既に息絶えており。彼の知り合いらしき冒険者のお兄さんが泣いている。


 足音が直前迫ってる。もう間もなく魔物が来る。



「へ!?」



 姿を現した魔物の姿に間抜けな声を出した私とは違い、ベルベットは綺麗な顔を険しいものへ変えた。現れたのは、形だけ虎の異形の魔物。白い体毛、背中に生えた二本の長い人の手。大きさは大人のカバの二倍はある。



「何あれ!」

「気持ち悪い……」



 魔物の口にはべっとりと血が付着していた。死んだ男性の片腕を食い千切ったのは奴だ。



「う……うぅ……よくも僕の友人を……!!」



 男性の死に泣いていた若いお兄さんが憤怒の形相を上げて魔物へ向かって行った。「待て!!」と唐揚げ盛合せのおじさんが叫んだ。あの魔物は普通の魔物じゃない。魔術を使用としたお兄さんが目に見えない速さで上半身を千切られた。



「う……嘘……」


 

 魔術を放とうとした男性の上半身が消えた。腰から足だけが残った下半身から夥しい量の血液が噴出し、周囲を赤く染めた。肉を喰らい、骨を喰らう嫌な音がする。異形の魔物が男性を頭から食べていた。美味しそうに……。

 

 女子高生をしてる時でもこんなグロい映像見てないよ……スプラッタ系は苦手なのよ!

 

 顔を青ざめて一歩下がるとベルベットが私を守るように前へ出た。

 


「大丈夫?フィー」

「あ、あんまり……」

「……だろうね。おれも気分が悪い。ねえ、あいつ知ってる人いないの?」

 


 ベルベットの問い掛けに唐揚げ盛合せのおじさんがもしかしたら、と話してくれた。

 


「奴は外れルートの主の一体かもしれん」

「主?」

「“月の涙”へ続く道には、当たりと外れがある。当たりに辿り着ければ“月の涙”とご対面だが、外れに当たるとそこは魔物の巣窟。運が悪ければ魔物の主の住処に足を踏み入れる場合もある。奴の大きさを見たところ、恐らく魔物の主の内の一体だ」

「それが本当なら、魔王城の『魔術師団』か『騎士団』に救援要請を入れないとだね」

「そんな……」

 


 とんでもない魔物が“エデンの森”にいて。……それが、やっと愛着が湧き始めたアンデルの村を襲うなんて。殺された男性に罪はないけど“月の涙”探しはもっと慎重にしてほしかった。組合によっては正しいルートの行き方が記されたメモがあったりするみたいなのだが、如何せんそのメモがあまりにも古くて字が読めなくなっていたり、数百年が過ぎてしまっている為森の形状が変わってしまい、違うルートになっているのも屡。

 魔物の背に生える二本の腕が動き出した。長さに制限はないのか、逃げ惑う人々を捕獲しようと延々に伸び続ける。私はベルベットに抱かれて距離を取った。村人の女性が捕まりそうになった瞬間――酒場でビールを持って行った冒険者の女性が間に入った。

 


「させないよわっ!」


 

 魔物の腕を結界で防ぐ。だが――

 


「ぐっ」


 

 結界を押す腕の力が強く、女性の靴が地面に埋まっていく。歯を食いしばって堪え、村人の女性に逃げるよう促す。腰を抜かした女性は泣いているだけで動けそうにない。

 

 こういう時……効果を発揮するのがあの魔術である。

 

 エドヴィージェ様の茶会から一日が過ぎた日からセリカとまた特訓したのだ。


 

 ~回想:特訓~

 

『物と物を入れ替える成功率は大幅に上昇しましたが、人と入れ替えとなると格段に減少しますね。人と物でも駄目ですし、人と人なら尚更です』

『イメージが弱いのかな?』

『魔力操作は完璧なのでその可能性が高いでしょう。後は練習あるのみです』

『昨日みたいにやり過ぎないようにしないとね。アリス宰相にまた怒られちゃう』

『そうですね。シェリー様にアイリーン様、それにユーリ様やハイネ様を間違えて呼び寄せていますから。終いには、陛下を呼び寄せてしまいそうですね。そうなったら陛下は喜ぶでしょうが』

『どうして?』

『陛下はお嬢様が大好きですから。お嬢様の成長が嬉しいのです。……脱走する手段が増えるだけでも、ね』

 

 ~回想 終了~

 

 入れ替えるのは命の危険にある女性二人。そこへ手を翳した。

 


「ぇええいっ!」

 


 何でも良いから二人と入れ替わって――!

 

 結界が破られ、腕が冒険者の女性を捕えようとした。

 

 ――刹那、女性が消えた。消えた女性のいた場所にビールジョッキが現れた。捕まったビールジョッキは容易く砕かれた。続いて、腰を抜かして動けない女性にも同じ魔術を放った。入れ替わったのは同じくビールジョッキ。ひょっとして冒険者の女性二人組のジョッキかな?

 


「ナイスだ!フィー!」

 


 私を抱き寄せたまま、ベルベットが前方へ左手を翳した。

 


「《光の障壁よ、二重の柱となりて、厄を戒めろ》!」

 


 魔術の詠唱をベルベットが行ったと同時に魔物の周囲を光の柱が囲んだ。天高く昇る柱は『悪魔狩り』対策として、魔界全土に展開中の結界に当たった。結界と衝突して柱は止まった。

 

 すごい……と感嘆の声を漏らしたら頬が鋭い熱を受けた。見るとベルベットは左手を翳したまま、次の魔術の詠唱を唱え始めた。

 


「《暴虐なる炎帝よ、真紅に染め、劫火の力にて滅せよ》」

 


 ベルベットの左手から、凄まじい熱量の炎の方陣が展開された。陣から発せられた炎が柱の結界を包囲。どれもベルベットが編み出した魔術だからか、炎は結界の中へ入り込み、魔物を包んだ。炎に包まれた魔物が発する恐ろしい悲鳴。地獄の番犬でもこんな声は出さないと誰かが口にした。慈悲のない炎が魔物を燃やし、天高く立つ柱に沿って頂上へ走っていった。



「あ……!」



 頂上には魔界全土を覆う結界。当然、炎は頂上へ辿り着き――結界と正面衝突した。炎が結界の内側を滑るように広がっていく。


 魔界の空が瞬く間に炎に染まった。



「……まずくない?」



 私が思わず声にすると「うん……火加減を間違えた」とベルベットも小さく頷いた。本人曰く、威力の高い魔術を使用するのが好きなのだが、威力加減が下手で色々破壊してしまうそうだ。


 今回は『悪魔狩り』対策の結界を……燃やしちゃった?


 私の不安がベルベットにも伝わったのか、空は赤いのにベルベットの顔は少し青い。


 あー……これ、まさかと思うけど私の仕業とか思われないよね?


 母様が誘拐された際、頭に浮かんだ炎の魔術をそのまま使用した経緯があるので疑われる理由は十分にある。


 そうなると、天使を魔界に呼び込み『悪魔狩り』を助長させようとしたとかって難癖つけられて…………指名手配されちゃう!?で、捕獲されたら問答無用で処刑される!?さすがの父様も、天使と手を組んだ私を許しはしないと思う。呼び込んだ覚えはないけど!



「すごいじゃねえかベル坊!」



 唐揚げ盛り合わせのおじさんが興奮したようにベルベットの肩をビシバシ叩く。他の村人や組合の人も安堵に包まれ、凶悪な魔物を圧倒的な炎の魔術で滅したベルベットを大絶賛。



「うん……ありがとう……」



 遠い目をするベルベット。私がベルベットでもそうした。



「……」



 私の家出ライフ、四日目から危険です。折角なら、と“月の涙”を採取しようと考えてたのに、これじゃあ、いつ城の人が来るか分からなくなった。炎の出所を突き止められない『魔術師団』……レオンハルト団長じゃない。例え、結界の維持の為に塔に引き籠ってても。


 私はちょいちょいとベルベットの服の裾を引っ張った。



「アンデルの村から近い村や街ってある?」

「村を出るの?」

「見つかるかもしれない」

「そう。おれの責任だから、おれも付き合うよ」

「いいの?」

「いいよ。此処への道は覚えてるから、戻りたくなったら瞬間移動(テレポート)で移動すればいいだけ。只、おれの我儘聞いてくれる?」

「うん」



 ベルベットの我儘と言うのを聞いて耳を疑った。



「“月の涙”を採りに行こう」

「で、でも場所が分からないんじゃ……」

「一つ、場所を知れる方法がある。まあ、それは二週間後なんだけどね」

「二週間も?大丈夫かな……」

「心配しないで。おれ、こういう裏工作をするの、大得意だから」



 自信満々に言ってのけたベルベットに一抹の不安を抱きつつも、私は頷いた。




 ――因みに、同時刻。結界が謎の炎で覆われた現象により、結界維持の作業を続けていたレオンハルトは魔王に謁見の間へ呼び出された。理由は勿論、謎の炎の出所と炎の魔術の発動者の魔力を調べる事。



「出来るな?」

「我輩を誰だと思っている。但し、少し時間がいる。一日あればいい」

「十分だ」



 魔王城にいる者は皆願ってしまう。あの炎が只今行方不明中のアフィーリアのものであってほしいと。本当にアフィーリアなら、城に仕える者達は救われるのだ。


 不機嫌極まりなくてアフィーリアがいない事実に憔悴している魔王と接するのも無くなる、姉がいなくなり何をしても泣き出してしまうアイリーンと接するのも無くなる、ずっと塞ぎ込んだまま部屋から出てこないユーリが自分のせいだと泣き叫ぶ事も、食堂でネフィを毎回議長とする謎の作戦会議をアシェリーとソラとハイネが開く事も、自分が目を離したせいだと魔界全土に使い魔を送って毎日アフィーリアを探し回ってセリカが疲弊する事も――アフィーリアが戻れば全てなくなる。



「でも……」



 一人、腹を痛めて生んだ我が子の事だから分かるシェリーが一人呟いた。



「皆が困ってるなんて思ってないアフィーリアのことだから、今頃ぐーすかーぴーって寝てる気がするのよね……」



 母の勘は当たっていた。



「ぐ……す……ぴー……」



 凶悪な魔物の退治が終わり、事態も一応落ち着いたというので皆眠りに就いた。ベルベットに抱き枕代わりにされて眠るアフィーリアは心地好い眠りに落ちていたのだった。





読んでいただきありがとうございました!

最後のシェリーの台詞は、元々セリカに言わせる予定でしたが、さすがの彼女もアフィーリアが城からいなくなった事に酷く焦っているのです。ベルベットが書きやすいです。

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