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31話 同居人


新キャラ登場です!


 

 東の果てに位置する村ーアンデル。数百年に一度咲く特殊な花“月の涙(ルナティア)”のある“エデンの森”の入り口と知られるこの村には、この年になると多くの人々が訪れるのだとか。その多くが組合(ギルド)と呼ばれる組織に所属する冒険者達。組合に寄せられた依頼で月の涙を欲しがる人が大勢いるのだとか。その殆どが商人や貴族。


 私に声を掛けてくれた女性はリーシャ=ラングドンさん。アンデルで食堂兼酒場ラングドンをご主人と二人で切り盛りする女将さん。ご主人の名前はウォーリー=ラングドンさん。突然リーシャさんが見知らぬ子供を連れて来たというのに、事情を聞き、家に帰りたくなるまでいればいいと言ってくれた。二人の好意には感謝しかない。家出先の衣食住をたった数時間で確保した私は恵まれている。


 お世話になるのだから何か手伝いがしたいと申し出るとお店を手伝ってほしいと頼まれた。人が多くなってきて、とても二人だけじゃ手が回らなくなってきているのだとか。

 ふふん!ファミレスでのアルバイト経験が活かされる時が来たわね!



「時にあなた名前は?」



 そうだ。まだ名乗ってなかった。馬鹿正直にアフィーリアと答えて魔王の娘だとバレるのもいけないので――



「フィー。ただのフィーです」

「フィーちゃんね。今日から頼むね」

「はい!」



 名前に特に思い入れはない。ただ、リエル叔父様がアフィーリアを略してフィーと呼んでいたから使っただけ。


 働く前にこれに着替えてと質素な黒のワンピースを手渡された。私の着ている服はどう見ても平民の子が着れるドレスじゃないから。最高品質の生地で作られたドレスのデザインは、どれも母様が選んでくれたもの。中には、誕生日プレゼントに父様が贈ってくれたドレスもある。


 父様……母様……アイリーン……。勝手なのは分かってる。でも、将来の為に私は城にいない方がいい。仮に戻ったとしても絶対怒られる。……怒られるで済まされるかは置いといて。


 リーシャさんに渡されたワンピースにさっと着替え、借りたリボンで髪を適当に結った。


 さあ、仕事場という戦場に突入!




 ――――――

 ――――

 ――



 家出ライフ四日目。やはり、高校生活三年間のアルバイトをファミレスにしたのは間違いではなかった。次々に舞い込む注文に、出来上がった品物をお客さんの待つテーブルへ運ぶ肉体労働が懐かしい。父様の部屋に軟禁されている間は時間の流れは遅く感じていたのに、ここでの生活は時間の流れが早い。最初私を見たお客さん達は、女将かマスターの隠し子?どっから連れて来たの?と疑問が一杯だったが、お店のお手伝い、二人の一人娘メグちゃんのお世話をしていると次第に顔と名前を覚えられるようになった。今じゃ、買い物やメグちゃんとのお散歩で声を掛けてくれる人が多くなった。


 メグちゃんはリーシャさん譲りの赤髪にウォーリーさん譲りの黒い瞳が特徴の三歳の女の子。



「フィーちゃん!一番テーブルにAランチとBランチ持って行って!」

「はい!」

「フィーちゃんお代わり!」

「ちょっと待って!」



 リーシャから出来上がった品物を乗せたトレイを受け取ると素早く一番テーブルへ運び、ご飯のお代わりを要求したおじさんの茶碗を受け取って厨房へダッシュ。土鍋で炊かれたご飯を大盛りにして再びおじさんへ手渡した。



「お待たせしました!」

「おっ!早いね!ありがとう」



 さあ、次は――という所で「ふぃーおねえちゃん」と私を呼ぶ幼い女の子の声が。出入り口を向くとうさぎのぬいぐるみを抱えた夫妻の一人娘メグちゃんがいた。



「めぐとあそぼう」

「うーん。ごめんね、まだお客さんがいるから遊べない」

「きょうはあそんでくれるっていった!」



 困った……今朝約束したけど、今日の昼は予想以上に多い。泣き出す寸前のメグちゃんをどうあやそうかあたふたとしていると第三者の声が。



「なら、おれとあそぼうよメグ」

「べるにい!」

「ベルベット!」

「これ、頼まれてた買い物」

「ありがとう」



 癖のある黒髪に紫水晶の瞳の――何故か無駄に色気溢れる――美少年ベルベット。彼から買い物袋を受け取ると泣き出す寸前だったが、今や期待で目を輝かせるメグちゃんを連れて外へ出て行った。


 ベルベットが買ってきた食材を厨房に置いて冷蔵庫に仕舞うもの、常温で保管するものと選別していく。すると、後ろから「フィー!四番テーブルにCランチを持って行って」とリーシャさんの声が飛んで来た。



「はーい!」



 大変だけど毎日が充実している今がとても楽しい――。


 ――約二時間後。


 やっと最後のお客さんが店から出て行き、昼の食堂は終わった。次は、夕方六時からの酒場。それまでには時間があるので二人は休憩と準備を。私はリーシャさんに作ってもらったお弁当を入れたバケットを抱え、村の端にある丘まで歩いた。大きな木の下で二つの人影があった。ベルベットに本を読んでもらっているメグちゃん。まだちゃんと字が読めないメグちゃんの為に、ベルベットはよく絵本を読み聞かせている。


 私に気付いた二人が同時に顔を上げた。



「二人ともー、お昼ご飯だよー」

「わーい!ごはんだー!」



 空腹だったのか、バケットに興味津々なメグちゃん。二人の間にバケットを置き、中からラップで包まれたおにぎりと数種類のおかずを置いていく。おかずは玉子焼き、野菜炒め、焼きウインナー、照り焼きチキンの四種類。おにぎりの味付けは塩だけ。


 一緒に持って来ていたお皿におかずを一つずつ乗せ、フォークと一緒にメグちゃんに渡した。ベルベットにはメグちゃんのより量を多くして。


 私はベルベットの隣に座り直し、今日のお昼ご飯を頂く。炊き立て、握り立てのおにぎりの美味しさって格別!味も塩だけだから余計な味がないぶんおかずも食べやすい。ふと、口元を照り焼きソース一色にしたメグちゃんの顔をハンカチで拭くベルベットを盗み見た。


 ベルベットの食べる仕草は一つ一つがとても綺麗。指先に至るまで所作に一切の無駄がない。それに、だ。私は思うのだが彼はかなり位の高い貴族ではないかと思う。


 というのも、ベルベットも私と同じでリーシャさんに連れてこられた少年なのだ。歳は一つ上。ネフィと同い年になるね。本人曰く、迷子になってこの村に入り込んだだけ。らしく、家柄を聞いても何も答えないのだとか。貴族とは答えたものの、私と同じく家名は名乗ってない。ベルベットが上位貴族だと思う理由の大きな要因は彼の容姿だ。魔界の住民の容姿は生まれ持った魔力容量(キャパシティ)で決まる。上位貴族になる程、力の強い子が生まれる。ベルベットの容姿は非常に見目麗しく、貴族でも下位の貴族とは思えない美貌を持ってる。雰囲気的に誰に似てるかと言われれば……アシェリー?



「……ん?何フィー。おれの顔に何かついてる?」

「うん?ううん。綺麗な顔だなって」



 お世辞でも何でもない。



「ありがとう。フィーもとっても可愛いよ。おれが見るに、フィーはかなり位の高い貴族の令嬢じゃない?そうだな……公爵位の」

「それを言うならベルベットだってそうじゃない。行動の一つ一つに品があり過ぎるよ。それに、魔力も相当強そう」

「さあ?検査は受けてないから実際の所は知らないよ。ただ、普通よりかは強いと思ってる。フィーもそうじゃないの?」

「私も強い方だとは思うよ」



 強力な炎の魔術を何故か扱える程には……。


 メグちゃんのお世話をしつつ、お昼ご飯を終えた私達は後片付けをした。バケットに必要な物全部仕舞うとメグちゃんが大きな欠伸をした。



「お腹一杯になって眠くなったのかな」

「みたいだね。メグ、家まで我慢出来る?」

「ううん……」



 うつらうつらとするメグちゃんが首を振った。なら、もう暫くは此処にいよう。メグちゃんの頭を自分の太股に乗せたベルベットは風邪を引かないように薄い結界を貼った。



「これなら、寒さを感じない」

「便利だね。家で習ったの?」

「おれの親戚に魔術の名家のお坊ちゃんがいてね。そいつに教わった」

「へえ。今度、私にも使い方教えて」

「いいよ」



 ごろんと仰向けに寝転がったら、はしたないよといつぞや聞いた台詞を言われた。母様に言われたんだ。


 雲一つない快晴を見上げる。こんな風に外に出られるのはとても幸せだ。父様の監視生活は私を心配して+私が反省しない為行われていた。勿論、愛情があっての行動だ。でも、息が詰まる。


 自由がいい。


 自由に外へ出て走り回って、遊びたい。アイリーンのように部屋の中で大人しくするタイプだったら、きっと楽だったろうなあ……。


 ……今頃、どうしてるかな皆。まあ、まず間違いなく父様は怒ってると思う。セリカも怒ってる。母様は心配してるだろうな。アイリーンは……ユーリにあんな酷い言葉を吐いてからは距離があったから何とも言えない。そのユーリも、ハイネ。案外、いなくなって清々されてるかも。元々、私はユーリに嫌われてたから。ネフィとソラには阿呆と呼ばれてる気がする。アシェリーは……



『なんでぼくも誘ってくれないの!』的外れな怒り方をしていると思うな。そう思うとクスリと笑ってしまった。



「何か面白い事でもあった?」

「うん。思い出し笑い」

「何を思い出したの?」

「残して来た人達の中に、家出する時誘ってよ!と怒りそうな子が一人いるなって」

「へえ。でも、気持ちは分かるよ」

「どうして?」

「フィーは見ていて飽きないからね。一緒に連れて行ってほしい気持ちは分かるよ」

「ベルベットはどうなの?そんな人いる?」

「どうかな?おれの家、兄弟が多いから、案外誰も気付いてないかもよ」

「何人兄弟?」

「七人」

「七人!?」



 多い!詳しく聞くとお兄さんが三人、お姉さんが三人。で、ベルベットは末っ子の四男なのだとか。これだけでもビックリなのに、更に驚くのは全員親が一緒なとこ。普通これだけの子供がいれば、貴族なら側室の存在があるのだろうがベルベットの家はそうじゃなく、全員同じ親から生まれたのだ。何でも、ベルベットの両親の仲の良さは魔界では大変有名らしい。……それを聞いてもベルベットの家名が分からないのは、私が貴族社会に疎いのもあるが父様がそういったものから私やアイリーンを故意に遠ざけていたから。余計な争いに巻き込まれないように。だから、この間のエドヴィージェ様の茶会の参加も渋っていたのだ。



「でも、おれの家もだけど魔王とその奥方の仲の良さも魔界じゃ有名だよ」



 当然よ。父様は母様に、母様は父様にべた惚れなんだから。コーデリア様という愛人がいたのも、周囲の声で仕方なく。



「娘思いの人っていうのも聞いてる」



 アイリーンに対してはそうだけど、私には娘思いを通り越してる気がする。後、母親の違う王子二人の事も大事にしてると言うベルベットに頷いた。ユーリやハイネがぐれないのは、ある意味父様の存在が大きい。母親であるコーデリア様は、父様と同じ瞳の色のハイネだけを猫可愛がりするのに対し、ユーリとハイネを平等に愛している父様がいるから二人の仲が拗れる事はなかった。父様までユーリに……ううん、抑興味すら抱いてなかったら今の二人はいないと思う。私が二人に悪さをしても当たり前だけど叱られるのは私である。ただ、二人のした悪戯で私が叱られたのは納得出来ない。



「ベルベットはお城に詳しいのね」

「詳しいって言うか、さっき言った親戚が話すんだよ。月一ペースで会ってるから」

「今も会ってるの?」

「そうだよ。今度会うのは二週間後だよ」

「どんな子なのか気になるよ」

「だーめ」

「なにが?」

「会ってみたいって言うつもりでしょ?」

「うん」

「だめ」

「どうして」

「あいつの性格からして、絶対フィーを気に入るから」

「そんなの分からないよ」

「絶対。おれはあいつをよく知ってるから分かるの」



 とにかくだめ!


 拒否続けるベルベットに負けてぶすっと頬を膨らませた。会ってみたいけど、ベルベットがこんなに嫌がってるならしつこく言うつもりはない。……とっても気になるけど!



「夕方からは酒場のお手伝いね。頑張らなきゃ!」

「おれも手伝うよ」

「ベルベットはメグちゃんのお世話があるでしょ」

「おれの専属じゃないよ。おれが来るまでは、夜は隣のおばさんがメグの面倒を見てたらしいし、メグもおばさんに懐いてるから平気さ」

「そう?でも、助かるよ。どんどん人が増えてるから」

「皆欲しいのさ。数百年に一度咲く特別な花が。フィーは、“月の涙”の抽出方法って知ってる?」

「知ってるよ」



 名前の知らない侍女の人に此処へ送られるまで抱いていた本に書いてあった。“月の涙”の蜜を抽出するには特殊な術式が刻まれた道具と錬金術の腕が必要になるのだとか。その道具がないので、仮にエデンの森へ行って花を採取しても蜜を抽出出来ない。



「もし、“月の涙”が欲しいなら言ってね。おれも行く。それに、おれの家ならその道具があるからね」

「そうなの?ベルベットの家って一体……」

「内緒。それを聞くなら、フィーにも答えてもらうよ。フィーがどこの貴族かを」

「そうだね。聞かない」



 いけないいけない。詮索はしちゃいけない。ベルベットの家を気にするなという方が無理な話だけど、私が知りたがるとベルベットだって私の家名を知りたがる。お互い、どこの貴族かを知りたくても自分が知られたくないなら相手にも求めない。


 それが約束――。



「家出生活まだ四日目だけど元気にしてると良いな」

「気になる?」

「ちょっとはね。ベルベットは?」

「うちは基本放任主義だから。家にいる方が少ない。案外、使用人が騒いで気付いた位じゃないかな」

「ご両親の仲は良くても子供には興味がないの?」

「そうじゃないよ。おれの兄さん姉さん達皆成人済みで外に出てるんだ。屋敷から出てない子供はおれだけ」

「そっか。ベルベットは末っ子だもんね」

「うん。父さんも母さんも愛情深い人だけど、外に出るのが好きな人だから基本放任されてる」



 色々な家庭があるのね。


 大きな欠伸をしたらベルベットの手が頭を撫でてきた。



「フィーも眠いなら眠りなよ。朝から働き詰めだったでしょ?」

「そうだねえ……ベルベットも寝ようよ。酒場の手伝いは大変だよ」

「そうするよ」



 紫色の瞳が若干とろんとしてるのも満腹感でベルベットも眠くなっていたんだろう。


 夕方まで寝よう。それから起きて、またお手伝いだ。



「お休み、フィー」

「お休み、ベルベット」



 ほんの一時の睡魔に身を委ねて私とベルベットは眠った。




 ――その頃、城ではアフィーリアがいないと大騒ぎになっていた。夢の世界に旅立ったアフィーリアには知る由もない。






読んでいただきありがとうございました!


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