※22話 茶会の了承と傲慢王女の企み
しょっぱなから吸血シーン入ります。
注:見た目は子供です
「ひ、ああ……っ」
「ん、んう、……ちゅう……はあ……」
何でこんな事に……。
人の首筋に牙を穿ち、自由気ままに血を吸ってくる相手の頭をぺしりと叩いた。お昼ご飯だー!と喜んだのも束の間、突然の来訪者は人の顔を見るなり「もう限界」とソファーに座って本を読んでた私の横に座って、了解も取らずに吸血してきた。吸血鬼の吸血行為は性行為を上回る快楽を得られる。子供の吸血鬼でも然り。以前吸われた時もそうだけど体に力が入らなくなる。読んでいた本が床に落ちた。こんな時に限ってセリカが父様に呼ばれていない。
「ああ……あう……」
「んう、じゅる……ごく……」
子供の内からこんな快楽を覚えたら、大人になった後大丈夫なのだろうか私は。
強く腰を抱いて体が密着する。ソラの体温が伝わり、私の体温もソラに伝わる。ごく、ごく、と私の血を喉に通す音が生々しい。腕に手を置いても力が入らなくて抵抗にもならない。
「ね……え……まだ……?」
「もう……少し……ちょうだい……んう」
「ひいっ……!あっああ……やあ……」
ずじゅっ、と牙が更に深く埋め込まれ瞳が大きく見開く。痛みを感じたのは一瞬。すぐに快楽が上を行って頭が真っ白になり、身体が震える。早く終わらせてほしい――。願いが届いたのか、やっと牙を抜いてくれたソラは開いた穴を舐める。
「くす……ぐったい」
「傷治してるから我慢して」
「んっ……」
吸血された快楽のせいで傷を舐められるだけでも感じてしまう。ソラの愛憎ルートが思い出される……。自分に対してツンとした態度しか取らない主人公に苛立って、八つ当たりのように吸血行為を行うソラは、軈て吸血行為によって齎される快楽に溺れる主人公を快楽で縛り付けて吸血鬼の餌としてしまう。ハッピーエンドが吸血中毒に陥った主人公を永遠に自分専用の餌とし、主人公もまたソラを永遠の主として餌でもいいから隣にいたいと願う…二人だけが幸せなエンド。バッドエンドが…。
「……何をされているのでしょうか。ソラ様」
「げっ」
「!」
地獄の底から響くような低い声に思考を中断させると白いのに黒いオーラを醸し出し、黒い瞳を赤くギラリと光らせたセリカが扉付近で立っていた。誘拐事件の時もアシェリーとソラに挟まれてた事あったからね。怒髪天を突いているセリカから逃げようともせず、私を後ろから抱き締めたままソラが「喉渇いたんだよ」と開き直った。よく破壊魔神と恐れられた魔族の殺気を当てられて平然としていられるもんだわ。すぐ目の前にセリカが来たら更にきつく抱き締めてきた。
「いいだろ。子供同士の戯れだと思えば」
「そうはいきません。子供と言えど、貴方は立派な吸血鬼です。侍女も何人か使い物にならなくしているとか。お嬢様まで吸血中毒にされては困ります」
「そんなん気の持ちようだろう。現に、家の父さんは母さんに何回血吸われても平然としてるし」
「リエル様程の強大な魔力保持者の男性なら、ある程度耐性があるからです。ただ、魔力容量に関わらず女性は吸血行為に弱いのです。男性と女性とでは、身体が拾う快楽は倍以上違います。吸血中毒になりやすいのもその為。ソラ様、お嬢様からいい加減離れないとティファリナ様に言い付けますよ?」
「うっ…分かったよ」
名前的に女性の名前を出されて離れてくれたソラは不貞腐れた顔でそっぽを向いた。
「ティファリナって?」
「ソラ様のお母様の名前です。ティファリナ=アルファ=スティード様。吸血鬼一族の姫君で御座います」
ゲーム通りの設定だね。どんな人なのか二人に訊ねたら、一言で現すと――
「ツンデレだね」
「ツンデレですね」
自他共に厳しい人なのだがリエル叔父様だと態度が軟化するとか。息子であるソラにも厳しく接しているらしいが、優しい一面もある。厳しいだけでは子供は限界を迎えてパンクしてしまう。過度な躾をして、期待を背負わせて、結果は不幸な末路しかない。
「ああ、忘れる所でした。お嬢様、至急執務室の方まで。魔王陛下がお呼びです」
「父様が?何だろう」
「ひょっとしたら、お前も連れて行くんじゃねえの。先代魔王の娘が開く茶会に」
「え?ソラ知ってるの?」
「……父さんと母さん両方に招待状が来てるんだよ。はあ、何か俺も連れて来いって書いてたんだと。アシェリーやネフィもな。二人共、五大公爵家の子だから連れて行かれると思う」
でも可笑しい、と零すとソラはそうだな、と同意した。
「本来、下の者が目上の者を招待する事は出来ない。ナサニエル家は侯爵。俺のとこはともかく、フォレストとノワールは公爵なのにどうしてだかな。先代魔王の娘ってそんなに偉いの?」
疑問をセリカに向けると顎に手を当てて考え込んでおり、先方の意図が読めず首を横に振った。
父様に呼ばれているのを思い出したセリカに促され、私は執務室へと向かう。ソラも何故か付いてくる。先代魔王の娘が開催する茶会か。一度も出たことないからよく知らないけど恐怖を抱く。興味本位で行ってみたいと先走った何時間か前の自分を殴りたい。執務室に入ると執務テーブルに座って書類を睨んでる父様と困ったように眉を八の字に曲げているリエル叔父様がいた。
「来たか」
「おや。ソラもいたの」
書類から顔を上げた父様の腰に抱き付くとよしよしと頭を撫でられ、手にしている書類を盗み見ようとするも上から頭を抑えられた。見なくてもいいと書類は裏向きで執務テーブルに置かれ、私を抱き上げると憂鬱な表情を浮かべた。
「今朝の茶会の件、覚えているか?」
「はい。エドヴィージェ様の開くお茶会ですよね」
「ああ。不本意だがお前も連れて行く。あの女はどうも、『魔界』の王女殿下だった頃の感覚が未だに抜け切れていないらしい。現ナサニエル侯爵は厄介払いされた元王女に同情して、至極丁寧に扱っていたと聞くがそれが仇になったらしい」
気に入らない使用人は全て処刑。しかも、見目が綺麗な女性は娼館に売り飛ばされた挙句大勢の前で凌辱され、更に、同じような男性も男性専門の娼館に売られ見世物にされるとか。高価な宝石や装飾品を強請り、若さを保つ為と主張して高価な化粧品を買い漁り――。例を挙げるとキリがない。厄介者を引き受けてくれた謝礼としてナサニエル侯爵には、エドヴィージェ様の嫁入り費用として非常に高額な持参金を渡している。それに加え、元々ナサニエル侯爵家が治める領地は植物に恵まれており、多種類の花や薬草が咲き誇る。そこでしか手に入らない貴重な植物もある為、此方側としてもナサニエル侯爵家は必要な貴族。
ソラが公爵家を呼べるのは先代魔王の娘だから?と疑問をぶつけた。セリカが持っていなかった答えは、この二人なら持っていると判断して。困った顔のリエル叔父様が答えてくれた。
「半分正解」
「半分?もう半分は?」
「ロゼの言った通り、彼女は王女殿下時代の我儘と贅沢を未だに続けてるお馬鹿さんなんだ。自分の思い通りにならないと癇癪を起こして誰にも手が負えなくなる。そこで、ナサニエル侯爵が僕達に頭を下げに来たのさ。出席してほしい、と」
父様達はナサニエル侯爵とは交流があるらしく、魔王候補時代の時は色々とお世話になり、厄介者のエドヴィージェを受け入れてくれた侯爵の為に今回の茶会に出席する旨を決めた。更に、それぞれの子供を連れてくる事も。
「そうだったのですか。成る程、それでフォレスト家やノワール家にも招待状が」
「面倒極まりないがナサニエル侯爵たっての頼みだ。茶会は六日後。それまでにセリカ。アフィーリアのドレスの用意を。初めての社交場と言えど茶会だ、派手にならない程度で頼む」
「はい」
「アイリーンも行くのですか?」
「いいや。あの子はまだ駄目だ。アイリーンは人の悪意にまだ慣れていない。ユーリとハイネは連れて行くがシェリーが誤魔化してくれるそうだ」
魔王である父様の生誕祭は盛大に行われても私達のは身内だけでひっそりと執り行われるのが通例だった。娘を外に出したくない父様の我儘だ。初めての社交場が茶会でも気を引き締めなくちゃ。一人置いて行かれるアイリーンが退屈しないように沢山のお土産話を持って帰るのがお姉ちゃんである私の使命だ。
話は終わり。執務室を出てドレスの採寸に期待していたら、昼食が先だとソラと共に食堂へ連れて行かれた。中には誰もおらず、適当な席に着くと侍女達が次々に昼食を運んできた。
今日のメニューはミートスパゲッティとコーンスープ、薄く切ったフランスパンにサラダ。いただきます、と両手を合わせてフォークを手にし、ミートスパゲッティへ伸ばした。
「皆はもう食べたのかな」
「どうなの?」
側で水差しを持つ侍女に訊いた。
「はい。アイリーン様、ユーリ様、ハイネ様はお済ませに。アシェリー様とネフィ様はいらっしゃってはおりません」
「アシェリーはレオンハルト団長と帰ったから、屋敷で食べてるんじゃないかな」
「あの人抜けて良いの?」
「一日位どうってことないみたいだよ。ネフィは宰相さんの手伝いで走り回ってるよ」
『騎士団』に『魔術師団』やその他部署に必要な書類を届け回る姿はさながら郵便配達さん。ミートスパゲッティを味わいつつ、六日後に着ていくドレスが今から楽しみでどんなドレスが良いかなと脳内で色々とデザインを思い描くのであった。
――一方、場所は変わってナサニエル侯爵邸エドヴィージェの私室。
黄金の装飾品が贅沢に使用された最高級のソファーに腰掛け、先程執事から受け取った手紙を握り締めエドヴィージェは歓喜に震えていた。やっとあの忌まわしい魔王がエドヴィージェの開く茶会に姿を現す。ずっとこの日を待っていた。何度招待状を送り付けても頑なに出席しない魔王には鬱憤が溜まってばかり。出席の条件にあの天界の姫を連れて来い、アフィーリアやアイリーンが生まれてからは姉妹を連れて来いと態々付け足すからだとはエドヴィージェは気付かない。
「父上の次に魔王になるのはわたくしだった筈。それを…始祖の血を引いているからと…っ」
ロゼが魔王になったのは史上稀に見る強大な魔力の持ち主だった事と他の魔王候補や重役、当時の魔王の強い推薦があったから。魔力不足で魔王候補になれなかったとエドヴィージェは知らない。娘を不憫に思った先代魔王が大事な愛娘に重荷を背負わせる訳にはいかないと嘘をついた。一人っ子だったので大変甘やかされたエドヴィージェはそれを信じ、父の持ってきた縁談を受け入れた。好きでもない男と結婚させられても父の愛情だと信じたから、今まで生活してこられた。幸いにも、ナサニエル侯爵家の資産は公爵にも匹敵する程。エドヴィージェが贅沢をしようとも簡単には揺らがない上、城から持ってきた多額の持参金の力も大きい。
先代魔王と同じ琥珀色の髪を指先にくるくると絡めた。一度たりとも怠らない手入れの成果で傷みのない艶やかな髪がエドヴィージェは大好きだった。自分が魔王になるに相応しかったと信じるエドヴィージェの容姿は、同じ女性であるセリカに劣る。それでも、自分が魔界で最も美しいと疑わない心はある意味敬服する
。
「さあ、誰が良いかしら」
茶会には、魔王だけでなく五大公爵家の内フォレスト家とノワール家も招待している。更に、吸血鬼一族の姫君や魔王の弟も。それぞれの家庭には強大な魔力を有する息子が一人ずついる。皆、親譲りなのもあるが大変見目麗しい。成人すれば魔界の女性を虜にする程の美貌の持ち主ばかり。彼等を自分の娘の婿として迎え入れてやるつもりのエドヴィージェは、子供達の父親が聞いたら勘違いもいい加減しろと青筋を立てられる魂胆を抱いたまま、息子には魔王の娘を宛がうつもりでいる。優秀で非常に男前な息子に求婚されて断る娘はいない。例え魔王の娘だろうと――。
それがどれだけ傲慢で勘違い甚だしいかを…有頂天なエドヴィージェには思考する頭さえなかった。
読んでいただきありがとうございました!
いつも読んで下さる方、ブックマーク、評価をして下さる方本当にありがとうございます。これからも生暖かい目で見守ってやって下さい。




