閑話 成れの果て
大分暈してはいますがもし運営様に警告が来た場合は速やかに修正します。
魔王城の地下には沢山の牢とレオンハルトの作った悪趣味な遊び場が存在する。地下牢の一つに磔の部屋と呼ばれる拷問部屋がある。拷問部屋の中で最も凄惨で苛烈な拷問が行われる部屋である。基本この部屋に入れられるのは重罪を犯した罪人のみ。『魔界』の長い歴史上、ここに入れられて生還した者は一人としていない。魔王の妻を誘拐し、更に天使と手を組み引き渡しを目論んだノワール公爵分家当主アルバーズィオは磔の部屋に送られ、死んだ方がマシだと思える拷問を現在進行形で受けていた。
室内に響く囚人の絶叫。天井から垂れる鎖に吊るされたアルバーズィオの見目は、麗しい面影が消え廃人と同等になってしまった。アルバーズィオを囲うように空中を泳ぐ鯰が肩に乗っただけでけたたましい絶叫を発した。見張り役を務めるのは五大公爵家の一角イグナイト家当主ガルディオス=アラン=イグナイトその人。炎に燃える赤い髪と瞳。騎士団長ティフォーネと同じ屈強な肉体を持ち、野獣の様に光る炎の瞳には、目の前で拷問されている囚人に対し、一種の不信感を抱いていた。鯰がアルバーズィオから退くと荒く呼吸を繰り返す。
「……」
彼の脳に精神汚染の魔法が掛けられた痕跡があった。しかも、とても古い魔法。古代魔術を扱える人物をガルディオスは二人知っている。一人は、現ノワール公爵家当主レオンハルト。もう一人は、名前を言ってはならない人物であり、もう魔界にはいない。正確には、生きているのかさえ不明な人物。現魔王ロゼと補佐役のリエルの父親。始祖の魔王の転生者。ロゼが歴代最強の魔王と恐れられる所以の一つがこの父親の存在もあった。尤も、ロゼは父親の事を酷く毛嫌いしている節がある。下手に名前を出すと魔界の空が荒れる。
アルバーズィオに精神汚染の魔術を掛けた者の痕跡を辿るも綺麗さっぱりと消されており、有力な手掛かりを何一つ手に入れていない。
焦る気持ちを抑え、磔の部屋を出たガルディオスは次に熾天使が囚われているレオンハルトの悪趣味な遊び場へ足を運んだ。
結界も貼られていない分厚い扉を押し開くと男の悲鳴が室内を木霊した。掌に光の球を出し明かり代わりにすれば、中央に魔力封じの鎖で繋がれた熾天使が女に跨られていた。恍惚とした表情で無機質な天井を見上げる女は、すっかりとレオンハルトの人形と化したコーデリアだった。公爵家の令嬢として生まれたばかりに強い魔力と美しい容姿を持ち、叶わない恋心を捨てられず愛に狂った女の末路が快楽を貪るだけの獣と成り果てることだった。二人を囲うように薄汚い囚人が立っていた。顔に布を被せられているので表情は窺えないが、呼吸を大きくしている辺り目の前の行為に興奮しているのだろう。
「哀れだな」
「捕虜の末路とは、大抵こんなものだ」
「陛下」
ぽつりと呟いた声は、いつの間にか隣にいたロゼに確りと拾われていた。
「アルバーズィオの方はどうだ」
「は。何者かによって、精神汚染の魔術を掛けられていた事が判明しました。ただ、誰が掛けたかがまだ……」
「手掛かりになりそうなのは?」
「いえ。何も」
「そうか」
これ以上の捜査は恐らく出来ない。相手の脳に直接干渉する接触感応魔術を行使すればするだけ脳に負担が掛かり、最悪の場合相手を廃人にしてしまう。彼もまた、最終的にはこの遊び場に放り込む予定なので廃人にはしない。
――拷問は打ち切り
暗にそう匂わせるガルディオスを肯定するようにロゼは後は任せると告げた。
そういえば、とガルディオスは切り出した。
「あの熾天使は、百年前にも一度奥方を連れ戻そうとして失敗していましたか」
「あぁ。あれで懲りれば、こんな地獄を体験せずに済んだものを。余程シェリーに御執心らしい。元々、奴はシェリーの婚約者だったんだ」
「そうだったのですか。成る程。彼の奥方に対する執着が理解出来ました」
「肝心のシェリーは奴の顔所か名前すら知らなかったみたいだがな」
顔も名前も知らない婚約者。神の娘であり、特別な力を持ったシェリーは生まれてからずっと頑丈な結界が張られた部屋で生きてきた。当然、外に出してもらえないので顔と名前を知っている相手は世話係と両親だけだったらしい。天使の最高位に君臨する熾天使との婚約も娘を守る為に神が下した決断なのだが、婚礼の儀まで姿を現す事を禁じられていたそうな。ロゼが天界を襲撃し、守られているシェリーを無理矢理魔界に連れ帰った日が婚礼の儀当日だった。神の娘であり、婚約者を奪われた熾天使は当然怒り、すぐさま大軍を率いて魔界へと侵攻した。しかし、行動を読まれていたので天使の大軍はあっという間に壊滅させられた。特に多く葬ったのは、『破壊魔神』の異名を持つセリカと『魔術師団』団長のレオンハルトの二人。この二人が前線で大暴れしたせいで大軍は熾天使を除いて全滅するも、土地にも甚大な被害が被った。前ノワール公爵が人間界へバカンスへ行く前だったので破壊された土地の修復はノワール家とホワイト家が総力を以て行った。
「陛下は彼の名をご存知で?」
「いいや。興味がない。気になるなら、奴の頭の中でも覗いたらどうだ。名前位、すぐに知れる」
「いえ。彼等のお楽しみの邪魔をするのも」
「そうか。なら出るぞ。新たな公爵となるに相応しい貴族を選出しろとアリスに急かされていてな。手伝ってくれないか」
「陛下のお望みのままに」
頭を垂れたガルディオスを一瞥し、性欲に飢えた獣が放置される部屋を出た。
「ろぜ、ねえろぜっ、きもちいでしょお?わたしのからだっ」
――コーデリアが跨る男が熾天使、いや、全ての男が自分として映っていると知りながら……。
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